未来の音楽(1) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ

本日5月20日は、2017年、フィルムフェスツアー福岡@ユナイテッドシネマ・キャナルシティ13がスタートし、2018年、オハイオ州コロンバスでの「Rock On The Range」@MAPFRE STADIUMに出演した日DEATH。

 

「I think it’s just great these wonderful Heavy Metal Monster Ladies, appreciating recognizes the roots of Heavy Metal (中略) and…here’s the future.」

(jaytc訳:この素晴らしいヘヴィメタルモンスターレディーたちが、ヘヴィメタルのルーツを認識していてくれることに感謝しているよ。(中略)そしてここに未来がある。)

これは、2016年7月18日にオハイオ州コロンバスのSchottenstein Centerで行われたAPMA’sで共演したメタル・ゴッド、ロブ・ハルフォードが、セッション後にBABYMETALとともに受けたインタビューで語った言葉である。

インタビュアーが、ジューダス・プリーストと出会ったのはいつごろかと質問したのに対して、SU-が「夢がかないました」と言ったのを受け、「Painkiller」と「Breaking the Law」の2曲をやった経緯や神バンドを絶賛した後に出たものだったが、メタル・ゴッドがヘヴィメタルの未来をBABYMETALに託したともいえる発言で、これが「BABYMETALはメタルじゃない」というメタルエリートたちの懐疑をはねのける効果を発揮したことはご存じのとおりである。

あれから3年。

BABYMETALは、2016年から、レッチリ、メタリカ、GNR、KOЯN、Judas Priestといった大物バンドのツアーに帯同し、逆に単独ライブにおいてHELLYEAH(2017年7月ハリウッド公演)、Skyharbor(2018年5月USツアー)、Dream State(2018年6月ヨーロッパツアー)、GALACTIC EMPIRE、SABATON(2018年10月日本ツアー)など、年齢・キャリア・実力はともかく、BABYMETALに比べて集客力の弱いバンドをサポートに起用している。

2019年も、9月4日~10月4日まではAVATAR、10月15日、16日はモンゴル・ウランバートル出身高砂部屋、じゃなかった、匈奴をモチーフとしたフォークメタルバンドThe HUがサポートを担当する。なお10月11日のロサンゼルスThe Forum公演はサポートなし、After Shockはフェスのためサポートはない。

新人あるいは集客力の低いバンドを前座に起用するのは、大物ロックバンドの「Nobles Oblige」(高貴な者の義務)である。

前座バンドは、人気の高いバンドのライブ前にパフォーマンスを観てもらうことで、そのバンドのファンに知られ、気に入られれば、それを契機としてYouTubeで見たり、CDを購入したり、ライブに足を運んでもらえたりするかもしれない。そのチャンスを与え、業界全体を活性化するのが、業界リーダーの役割である。

BABYMETALは欧米メタル業界において、すでにその域に達しているのである。

海外の大規模フェスに出演したり、大物バンドの前座に起用されたりした日本のロックバンドは数多い。

だが、これほど長期間コンスタントにワールドツアーを続けているバンド自体少なく、海外バンドを前座に起用したのは、1986年の米西海岸ツアーでCinderellaとPoisonを帯同したLOUDNESSや、2011年のロンドン公演でJAPANESE VOYEURSを起用したX-Japanくらいしかない。

要するにBABYMETALはすでにして日本の「アイドル」枠などはるか超え、日本のロックバンド史をも塗り替えたアーティストなのだということだ。

さて、そんなBABYMETALに託された「未来のヘヴィメタル」とは、どんな音楽だろうか。

日本のアニメ・特撮ドラマの主題歌の歴史をたどった「ヘヴィメタルへの道」で、書ききれなかったのが、2000年代に入ると、LAメタル/ヴァン・ヘイレン風の曲が多かったメタル主題歌が、ひとつの典型に収まるものではなく、様々なバリエーションに展開していったということだ。

1小節を16分音符に区切り、1、5、9、13拍目にアクセントが来る16ビート表拍ないし、5拍目、13拍目を強調した「偽8ビート裏拍」の音楽は、R&B~ソウル~ディスコ~フュージョン~ユーロ~小室~シティポップ~K-POP~トランスというふうにさまざまなバリエーションがある。

だが、1小節を8分音符に区切り、3、7拍目にアクセントが来る8ビート裏拍を基調とするメタルも、NWOBHMからLAメタル、スラッシュメタル、デスメタル、メロスピ、パワメタ、ネオクラ、ブラックメタル、メロデス、インダストリアル、ヴァイキングメタル、シンフォニックなど、幅広いバリエーションを持ち、パンク由来のハードコアやメロコア、ストリート系のラップとも融合してニューメタル、ラウドロック、モダンヘヴィネスなどと呼ばれるようになった。

16ビート、8ビートとも多様性があるから、「音楽の2大陣営」になる。ダンスしやすい表拍の16ビートが好きか、ヘドバンしやすい8ビート裏拍がいいかは、好みの問題だ。

BABYMETALは当然メタル陣営に属するわけだが、バンド形式ではないので、音楽性が一つの枠にはまることなく、メタルというジャンル自体の豊饒性を体現している。

例えば、「いいね!」や「ウ・キ・ウ・キ★ミッドナイト」は一部16ビートであり、「ギミチョコ!!」はハードコア、「イジメ、ダメ、ゼッタイ」や「Road of Resistance」はメロスピ、パワーメタルである。「いいね!」の一部、「4の歌」「おねだり大作戦」「Sis. Anger」はラップが含まれているし、「悪夢の輪舞」は5拍子/6拍子、「THE ONE」は3拍子だ。

「メギツネ」は和風お祭りメタルだし、2018年の「Distortion」「Starlight」は、Djentのリフが多用されている。

どうしても特定のサブジャンルに固定されざるを得ないバンドという形式にとらわれている信奉者からは違和感を覚えられるほど、あらゆるサブジャンルの要素が「融合」しているところがBABYMETALらしさである。つまり、BABYMETALのユニークネス=「アイドルでもなくメタルでもない、Only Oneの音楽」とは、「メタルの集大成」のことなのである。

それでは、ロブ・ハルフォードにBABYMETALが託された「未来のヘヴィメタル」は、これからどうなっていくのだろう。

「未来の音楽」をインターネットで検索してみると、多くのサイトが表示されるが、多くの論者が共通して言っていたのは、音楽を単に耳で聴くだけでなく、様々な端末を使って、映像ないし五感で体験するアプリケーションとして楽しむようになるということだった。

例えばVR技術と5G環境によって、部屋に居ながらにしてライブを楽しめるようになるということである。

まずはこれについて考えてみる。

確かにKawaiiメタル=BABYMETALが、海外でウケたのにはインターネットで映像が拡散されたからだ。メタルなのにフォーメーション・ダンスをやるユニークネスは、高速回線によって映像が共有されなければ、これほど広がらなかった。

聖母像をバックにしたSU-METAL聖誕祭の幕張メッセで撮影された「ギミチョコ!!」の頭指差しヘンテコ踊りのコケティッシュさと、観客を煽りステージを駆け回る三人の雄姿は、Kawaii METALの何たるかを海外のオーディエンスに訴求し、一瞬にして魅了した。

映像がストレスなく見られる家庭用ネット回線というものは、20世紀にはなかった。

21世紀に入って数年、2007年ごろ家庭用FTTH(光)回線が普及し、現在と同じような環境になったが、それが2010年結成のBABYMETALが世界的に知られる基盤となった。

ただし、BABYMETALと同時期あるいは、それ以降にデビューしたアーティストすべてが世界的に活躍できているのではない。

BABYMETALのみがこれほどのビッグネームに成長したのだから、ネット環境は単なるツールに過ぎず、大切なのはコンテンツなのだ。

それに、未来の音楽がVR環境で楽しめるアプリケーションであるという予測も、ぼくの考えでは相当怪しい。

なぜなら、CDやBDで、数十年前に比べれば、非常に再生音源や映像のクオリティが上がり、スマホのストリーミングで、音楽や映像を持ち運べるのに、ライブに足を運ぶオーディエンスは減るどころか、どんどん増えているからだ。

さまざまな端末で、アプリケーションとしての音楽を楽しめるようになるのは結構なことだが、人々が音楽に求めるものはヴァーチャルではなく、リアルである。

歴史は、暮らしやすい社会を求める人間の営みによって積み重なっていくが、その理想は常に「人間らしく」あることだった。その鉄則から外れた未来予測は、必ず外れる。

例えば、食べ物が柔らかくなり、激しい労働の必要がなくなっても、人間の運動能力は退化していない。近代以降、平均身長や体重は増え、スポーツのワールドレコードは、はるかに向上している。仮に地球より重力の軽い星に移住したとしても、人間は地球上の重力を再現し、スポーツや筋トレによって、地球にいた時の自然状態=体力、体格の維持に努めるだろう。それが人間だ。未来の人間が、消化器官や手足が矮小化したグレイタイプの宇宙人になることはない。

音楽をBGMとしか考えない人は別だが、特定のアーティストが好きなオーディエンスにとって、ライブは至上の価値を持つ。ライブは自分が疎外された「もの」ではなく、自分が参加できる「こと」だからだ。

VRがいくらリアリティを持つようになっても、それが「生」でないことは本人が一番よくわかっている。VRに価値が出るとすれば、Wembley公演時のLVのように、他のファンと場を共有する体験ができるときだろう。

あるいはライブ会場で、全員VR装置を付け、アーティストとともに、みんなで一緒に空を飛ぶというようなイベントが発生するときだろう。もはやアトラクションだが。

技術が発達しても、人間から「生」の体験を求める欲求が消えることはないのだ。

将来、交通機関の発達によって、自宅からライブ会場までの時間が、想像以上に短縮される。明治時代には、船で15日かかった東京-サンフランシスコは、今や8時間である。8年後、リニア中央新幹線が開通すれば、品川-名古屋間が約40分、品川-大阪間が67分となる。

チケット購買と認証システムは、現在でもネットとクレジットカードがあれば、海外も含めて、ほぼすべてのチケットが購入できるが、将来はより簡便化されるだろう。

また、これはいまだ先が見えないが、労働の社会的効率向上によって、レジャーに費やせる余暇も増えるはずだ。1992年まで、土曜日は休みではなかったし、国民の祝日も少なかった。営業活動や契約交渉や企画プレゼン、あるいは対面接客や管理業務がなくなるわけではないが、それらも部分的にはA.I.に代替され、あるいは、ネット上のヴァーチャルワークスペースでできるようになるだろう。

結果、リアル世界では、ひとつのライブに集まる/集まれる人の数が増える。

そして、そこは「生」の演奏やダンスが楽しめ、ファン同士がリアルに交流する場となる。

それこそ、現在も未来も、アーティストを愛するファンが求めるものだからだ。

「ギミチョコ!!」の最後に「See You in the Mosh’sh Pit」(モッシュッシュピット=ライブで会いましょう)とあったのは、BABYMETALがそのことをよくわかっている証拠だ。

BABYMETALは、将来にわたって生演奏、生歌、生ダンスを提供するバンドであり続けるだろう。

未来のヘヴィメタルとは、何よりもライブバンドでなければならない。

自宅で楽しむVRは、あくまでもその二次使用物なのだ。

(つづく)