ご長寿バンドへの道(8) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ

本日4月6日は、2012年、初単独ライブ、タワレコ渋谷店「15分一本勝負」に出演した日DEATH。

 

メタリカは長いバンド史の中で幾たびか、音楽性を変化させてきた。

1983年の1stアルバム『Kill 'em All(邦題:血染めの鉄槌)』は、シンプルなパワーコードのリフと重いドラムスで、豪快かつ疾走感のある楽曲が展開する。

ヨハネの黙示録に出てくる四人の騎士をモチーフにしているものの、煽るような歌詞を持つ「The Four Horsemen」は、デビュー前に解雇され、のちにメガデスを結成するデイヴ・ムステイン在籍時に作られたものだが、同様に生き急ぐような歌詞の「Motorbreath」「Whiplash」「Metal Militia」などの楽曲では、現在に至るまでメタリカの音楽の骨格を形成しているジェームズ・ヘットフィールド(G、V)のオルタネートピッキング(ダウン/アップを連続で繰り返す)による豪快なリフと、母音がiで終わるときの「♪イーーャッ」という独特の歌唱法が堪能できる。

当時の米西海岸でメタルといえば、モトリー・クルー、ラットなどが人気バンドだったが、メタリカはファッショナブルなLAメタルを拒否し、「メタルとハードコアの融合」=スラッシュメタルというジャンルを切り拓いた。

だが、メタリカは単純な歌詞と、ぶっ速く、豪快にガンガン攻めるだけのスタイルからすぐに脱却する。

1984年の2ndアルバム『Ride the Lightningライド・ザ・ライトニング』は、ラーズ・ウルリッヒ(B)の故郷であるデンマーク・コペンハーゲンのスタジオで録音されたもので、タイトルは、カーク・ハメット(G)が読んでいたスティーブン・キングの小説『ザ・スタンド』で、電気椅子にかけられた死刑囚が「稲妻に乗る(ride the lightning)」と口走ったことに由来する。

このように、メタリカのメンバーは読書家であり、このアルバムには、イラン・イラク戦争やアフガン戦争を扱った「Fight Fire with Fire」や、スペイン戦争を扱ったヘミングウェイの小説に由来する「For Whom the Bell Tolls(誰がために鐘は鳴る)」旧約聖書の出エジプト記を題材にした「Creeping Death」、ラヴクラフトのクトゥルフ神話に由来する「The Call of Ktulu」(インスト)など、文学趣味が頻出する。

メタリカは、演奏テクニック上、いわゆる超絶技巧ではない。

Slayerはケリー・キングとジェフ・ハンネマンのツインギター体制だし、Megadeathにはマーティ・フリードマン→キロ・ルーレイロといった超絶速弾きギタリストが在籍する。

メタリカのカーク・ハメットは、ライブではかなり激しいパフォーマンスを行うが、テクニック的にはペンタトニックの手癖的なフレーズが主であり、超絶とまではいかない。

一方、文学志向はロックバンドには稀有のもので、メタリカの楽曲に深みを与え、「Fire on Fire」のイントロでのアコースティックギターのアルペジオなど、抒情と激情の対比によるドラマチックな構成につながっている。

その傾向は1986年の3rd アルバム『Master of Puppets(邦題:メタル・マスター)』で完成する。

このジャケットの絵が、2017年のBABYMETAL「巨大狐祭り」のステージでオマージュされていることは記憶に新しい。

前作に続き、コペンハーゲンで録音されたこのアルバムは、文学志向と社会への問題意識が、豪快なリフと、美しいアルペジオとのコンビネーションによって表現された傑作である。

現在もライブの終盤で演奏される「Battery」は、バンドとファンの関係を、野球のバッテリーに例え、勝手なことを言う音楽評論家をあてこすった曲。

2曲目は表題曲「Master of Puppets」で、薬物(=Master)に依存し、操られる人間(Puppets)の心理を描いた曲。邦題の「メタル・マスター」というのは、まるでメタリカがメタルのマスターとして人間を操っているようなイメージで、誤解を招く。

このほか、前作に続いてクトゥルー神話を扱った「The Thing That Should Not Be 」、映画『カッコーの巣の上で』を題材にして、隔離病棟の患者を描いた「Welcome Home (Sanitarium)」、ベトナム戦争で負傷し、廃人同様となった元兵士を描き、次作の「ONE」の原型となった「Disposable Heroes」、1978年にガイアナで、ジム・ジョーンズに率いられた人民寺院というカルト教団が集団自殺した事件を扱った「Leper Messiah」など、1980年代初頭の社会問題や人間の生きざまに焦点を当て、深い感動を呼んだ。

『Master of Puppets』 は、メタリカ初となるビルボード200の29位・UKチャート41位を記録した。

ところが好事魔多し。

1986年9月27日、スウェーデンツアー中に、移動に使っていたバスが横転し、ベースのクリフ・バートンが亡くなってしまう。

クリフ・バートンは、“ベースのジミヘン”と異名をとったほどの演奏技術の持ち主であり、音楽学校で専門教育を受けた、メタリカの音楽的なリーダーだった。

バスに同乗しており、たまたま交換した座席に座っていたクリフだけが帰らぬ人となったため、メンバーのショックは大きく、しばらくは活動を休止。1987年にクリフのソロやプライベートを収録した「Cliff'Em All(クリフに捧ぐ)」というビデオをリリースしたりした。

だが、止まったままではいられない。バンドは続く。ニューアルバムの制作にとりかからねばならない。

新ベーシストのオーディションが行われ、元フロットサム・アンド・ジェットサムのジェイソン・ニューステッドが加入する。

ジェイソンは、メタリカの正式メンバーになれたことを喜び、レコーディングの際に、クリフを失った悲しみがぬぐえないメンバーの前で、はしゃいでいるように見えてしまった。

そのため、1988年の4thアルバム『...And Justice for Allメタル・ジャスティス』のオリジナル盤は、ジェイソンが弾いているベース音が極端に小さくされている。これは正義どころか、「イジメ」ではないか。

収録曲としては、グラミー賞に輝き、間奏部が「BABYMETAL DEATH」のモチーフになった「ONE」をはじめ、核戦争後の世界を描いた「Blackened」、映画『ジャスティス』(1979年)に題材をとり、司法制度の矛盾を描いた表題曲「...And Justice for All」、映画『シャイニング』(1980年)にインスパイアされた「Harvester of Sorrow」、ジェームス・ヘットフィールドが、新興宗教の教育を受けさせた両親を断罪する「Dyers Eve」など、前作同様、社会的なテーマを扱った楽曲ばかりである。

その深みはわかるのだが、あまりにもスカスカの音で、最初に聴いたとき、ぼくは正直言ってそんなにすごいとは思わなかった。

ベーシストの交代、スカスカの音にもかかわらず、『...And Justice for All』は高く評価され、ビルボード200では6位、UKチャートでも4位を記録し、「ONE」はグラミー賞のベストメタルパフォーマンス賞を受賞した。

昨年、ベースのバランスを調整したリマスター盤が発売され、ようやく本来の楽曲が聴けるようになったのは、ファンにとって喜ばしいことである。

なお、『...And Justice for All』もまた、2013年サマソニの「紙芝居」の「メタルは正義、カワイイも正義・・・」でオマージュされている。

(つづく)