ご長寿バンドへの道(7) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ

本日4月5日は、2016年、米CBS「The Late Show with Stephen Colbert」に出演し、生演奏で「ギミチョコ!」を披露した日DEATH。

 

メタリカは、BABYMETALがもっとも尊敬する「メタルの帝王」であり、映画「メタリカ-スルー・ザ・ネバー」の宣伝を務めたり、「五月革命」でオマージュを捧げたりもした。

2013年のサマソニ大阪での「ずっ友写真」が世界中に拡散されたことにより、BABYMETALの知名度が上がったので、大恩人でもある。

「BABYMETAL DEATH」のイントロは、メタリカの「ONE」の間奏部に酷似しているし、メタリカが日曜日のヘッドライナーを務めた2014年のソニスフィアの土曜日一番手に出演した際、「紙芝居」で、カーク・ハメット(G)とのツーショットが「ロン毛のお兄さん」として紹介されたりもした。

日本のバンドで唯一、メタリカの前座(韓国・ソウル公演)を務めたのはBABYMETALである。

メタリカもまた、38年におよぶ歴史を持つご長寿バンドである。

バンドは、御多分にもれず何度かの解散の危機に見舞われた。

だが結果としてそれは回避され、現在に至るまで旺盛なライブ活動とCDセールスを続けている。

ぼくの考えを先に言ってしまうと、メタリカはただのバンドではなく、ロックバンド史上、レッドツェッペリンと並ぶ、極めてしっかりしたプロモーションシステムを持つ「企業体」である。

メタリカは、バンドを「ファンとの共同体」と考えているという。

ぼくも登録しているメタリカのファンクラブThe Metallica Club、通称Met Clubが、メンバーを「Fifth Member of Metallica」と呼ぶのはその表れだろう。

1993年にスタートしたこのファンクラブは、2015年に無料登録制となった。

移行に際して、それまで年会費(5000円~6000円)を払って、会員証と年4回の会報「So What!」、チケット先行販売、グッズ割引などの特典を手にしていた既存会員に向けてMet Clubから長文のメールが届いた。メールには、無料化によってより広範なファンを集めたいこと、BABYMETALと同じように、年会費を払うとついてくるTシャツではなく、オンラインの「メットストア」でデザインを自由に選んで買えること、オフィシャルサイトでは、従来通りスタッフライターによる充実した記事や、オーディオ/ビデオクリップが提供されること、メタリカがLegacyと呼ぶ長期会員にはチケット一次先行販売を行い、Meet & Greetを行うこと(抽選)、2年以上のメンバーにはグッズの割引が適用されることなどがQ&A形式で説明されていた。

これによって、世代を超えて、メタリカの音楽に惹かれた世界中のファンが気軽に登録できるようになった。

メールアドレスを登録しておけば、世界のどこで公演があっても、ライブスケジュールが決まればそのお知らせが届く。

2019年は5月ポルトガルを皮切りに、8月のドイツまで南欧、西欧、北欧、東欧までくまなく回る「World Wired Tour 2019」が予定されている。

ライブの際にはMeet & Greetに応募できるし、オフィシャルHPに新しい楽曲動画がアップされるとちゃんと告知が届く。

いまどき、無料メール会員制度なんて、どこの企業だってやっている。

その目的は、顧客へのダイレクトなプロモーションと、消費社会における帰属性=選択可能性を高めることにある。年会費どころか、日本ではポイントカードと連動して、お得なサービスが受けられるようになっているのはそのためだ。販売促進=プロモーションの効果を高めるためのプロモーション=メタ・プロモーションである。

だが、ロックバンドに限らず、アーティストのファンクラブは年会費があるのが普通だ。

わがBABYMETALのTHE ONEもしかり。

メタリカが、世界規模で、スタッフを確保し、膨大なデータベースを管理し、無料なのに、ファンクラブそのものにお金をかけるのは、思想的に言えばバンド=「ファンとの共同体」ということになるのだろうが、ビジネスの観点から言えば、オープンなマーケティングとメタ・プロモーションを行って、音楽商品のプロモーションの効率を上げ、収益を上げ続ける効果を狙ったものだろう。

音楽性や表現の質はもちろんバンドのコア・コンピタンスである。だが、それをちゃんと採算ベースに乗せ、メンバーやスタッフの報酬や生活基盤を確保し、次作の制作費、広告費をまかなうのはそれと同じように重要である。資本主義における経営の基本ともいうべき拡大再生産のしくみをしっかりとっているわけだ。

本項の最初に戻ってしまうが、バンドが長続きするためには、「売れる」ことが第一条件である。だが、初期衝動でつくられた楽曲が時代の流れに乗って大ヒットし、「売れた」あと、消えていくバンド/アーティストは数多い。いわゆる一発屋である。

楽曲がヒットするということの価値は、「売れて」大金をつかむことにあるのではない。

人生は長い。ヒット曲によって世に知られ、その音楽性に共鳴してくれるコアなファンをつかむチャンスを得られることこそ、バンド/アーティストにとっての財産である。

そのファンを離さず、メンバーの交代、音楽性の変化など様々なことがあっても、何十年もの間、がっちりとファンをつなぎ留めておくこと―過去の作品も含めて商品価値を保持し、「売る」体制を作ること―こそ、ご長寿バンドの最重要な条件だと思う。そしてそれは、楽曲制作にあたるバンド/アーティストの役割ではなく、マネージメントスタッフの役割だろう。

メタリカは北カリフォルニアにオフィスを構え、有能なスタッフが常勤しているが、マネージメントは、ソニー系の大手プロモーション会社Qプライムが担当している。

2016年の『Hardwired…to Self-Destruct』以降、メタリカのスタジオアルバムは出ていないが、その間、『...And Justice For All』リマスター盤BOXSET3枚組(2018年)や、収録曲「Blackend」を樽熟成時に聴かせ、その周波数がデザインされたBlackendウイスキー、Nixonとのコラボ時計などが発売された。その価格は、通常盤のアルバムより高い。

誤解を恐れずに言えば、メタリカが「メタルの帝王」の座に君臨し続けているのは、音楽性もさることながら、「ファンとの共同体」を標榜しつつ、しっかりした企業体制をとっているからだと思う。

(つづく)