好きすぎてツライ(9) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

THE ONE NEVER FORGET MIKIO FUJIOKA

★今日のベビメタ

本日4月17日は、2017年、Red Hot Chili PeppersのUSAツアーSpecial Guestとして、シャーロット(NC)Spectrum Arenaに出演した日DEATH。

 

「Catch Me If You Can」編のつづき

●「かくれんぼ」と「鬼ごっこ」は違う。

かくれんぼ」は英語でHide and Seek、鬼ごっこは英語でTagという。

「Catch Me If You Can」は、鬼ごっこ=Tagを始めるときの掛け声だから、邦題の「かくれんぼ」にはそぐわない。

だが、SE「もういいかい」「♪まあだだよ」はかくれんぼの掛け声だし、「♪絶対に見つからないとっておきの場所を発見!」も、「♪見いつけた!」もかくれんぼである。

「♪鬼さんこちら手のなる方へ」は鬼ごっこ、正確には目隠し鬼の掛け声である。

要するにこの曲は、かくれんぼと鬼ごっこをごっちゃにした子どもの遊びの曲なのである。

さて問題は、1番と2番の最後に出てくる「♪赤い靴、履いちゃダメ、デンジャラスだもん」である。

これはどういう意味だろうか。

なぜ、かくれんぼ、または鬼ごっこに「赤い靴」が出てくるのか。

この「赤い靴」の原典は2つある。野口雨情の作詞による、ちょっと不気味な童謡「赤い靴」と、非常に怖いアンデルセンの童話「赤い靴」の2つである。

童謡「赤い靴」は、1922年(大正11年)野口雨情作詞・本居長世作曲で発表された。

―引用―

1.赤い靴 はいてた 女の子

異人さんに つれられて 行っちゃった

2.横浜の 埠頭(はとば)から 汽船(ふね)に乗って

異人さんに つれられて 行っちゃった

3.今では 青い目に なっちゃって

異人さんの お国に いるんだろう

4.赤い靴 見るたび 考える

異人さんに 逢うたび 考える

―引用終わり―

どうしてこの詩ができたかには論争がある。

1970年代に、北海道テレビ記者の菊地寛という人が、1907年ごろ北海道にいた野口雨情が友人の妻から聞いた実話をもとにした詩であるという説を発表する。

雨情の友人だった鈴木志郎の妻「かよ」は、北海道の社会主義農場に入植するが、厳しい環境に挫折して鈴木と結婚し子どもができるが、前夫との間にできた連れ子「きみ」がいた。彼女は「きみ」を北海道にいたアメリカ人宣教師ヒューエット師に託し、アメリカへ渡ったと信じていたが、結核を患っていた「きみ」は渡米できず、東京の孤児院に預けられ、9歳で亡くなったというものだ。

しかし1980年代になって、これは菊地寛のねつ造だという説が作家の阿井渉介によって提唱された。「きみ」が孤児院に預けられたのは、「かよ」が北海道に渡る前であり、北海道で宣教していたヒューエット師とはまったく接点がなかった。北海道の新聞記者をしていた雨情と鈴木志郎は面識こそあったが、鈴木の妻「かよ」とは交流がなかった。だから「きみ」の話を聞いたはずがなく、「赤い靴」が実話だということはありえない。

むしろ、「赤い靴」とは、雨情がシンパシーを感じていた大正時代のユートピア社会主義運動が挫折したことの比喩なのではないか、というのだ。

いずれにしても、「赤い靴」はなんとなく不気味で、女の子にとっては、可愛い赤い靴を履かされたまま、見知らぬところへ連れて行かれる恐怖を感じさせる。実母に捨てられ、不幸な運命をたどった幼い女の子がいたとすればなおさらである。

アンデルセン作の童話「赤い靴」の方はもっと怖い。

貧しい母子家庭に生まれた少女カーレンは靴を持っていなかったが、足にけがをしたところを靴屋のおかみさんに助けられ、赤い靴を作ってもらう。だが、お母さんは死んでしまい、カーレンは葬儀に赤い靴を履いて出た。

それを見とがめた優しい老婦人が、事情を聞いて養女にして育ててくれ、カーレンは町一番の美しい娘に成長する。

しかし、ある日、赤い靴を履いてはいけないという老婦人の教えに背き、カーレンは靴屋で奇麗な赤い靴を見つけて買ってしまい、華美な服装の許されない教会にも履いていく。それを叱った老婦人は病気になってしまうが、カーレンは赤い靴を履いて舞踏会に行ってしまう。

舞踏会の会場で、カーレンの足は意志とは関係なく勝手に踊り続け、靴を脱ぐこともできなくなってしまう。一日中踊り続けているため、くたくたに疲れるがどうしようもない。カーレンが看病しなかったため老婦人はとうとう亡くなってしまう。

絶望したカーレンは呪いを断とうとして、首切り役人に頼んで、両足首を切断してもらう。

カーレンがこのあとどうなるか、各自調べてほしいが、恐ろしい物語である。

童話だから、「赤い靴」とは何かの比喩だろう。

「虚栄心」とか「誘惑」と考えればまだいいが、「第二次性徴」や「自立」や「恋愛」といった「女性が大人になることの象徴」と考えると、それが禁忌とされることはジェンダー的には大問題だ。いずれにせよ、奇麗な「赤い靴」は女の子にとって魅力的だが、それに溺れると大変なことになるよ、という恐怖の教訓というわけだ。

「Catch Me If You Can」は、かくれんぼと鬼ごっこをミックスした子どもの遊びの曲だが、その中に「♪赤い靴、履いちゃダメ、デンジャラスだもん」という歌詞が含まれているのは、野口雨情の「赤い靴」とアンデルセンの「赤い靴」に共通する、幼い女の子にとって未知の「成長」というものに対する「恐怖心」の象徴だからではないか。

YUIMETALこと水野由結は、さくら学院時代のインタビューで、「Catch Me If You Can」のイントロ部分で、「コツコツコツ…」という靴音が響くSEが怖くて、レコーディングの時、「その部分を聞かせないで」と懇願したという。当時YUIは黒い髑髏のTシャツを好んで着ていたのに。

ちなみに、乃木坂46で一番の童顔で、おっとりした性格の星野みなみも、黒いTシャツや髑髏が好きだった時期があったという。YUIより2学年年上(1998年2月生まれ)の彼女によれば、もともとピンクが好きだったが、一時期、黒が好きになり、今は再びピンクが好きになったらしい。それをバナナマンの設楽統は、「反抗期」だったんじゃないかと言っていた。

黒を好んだり、髑髏を好んだりする時期は、いわば背伸びしていた時期なのであり、だからこそ未知のものに対しても敏感になり、結果として恐怖心が強くなるのではないか。

「Catch Me If You Can」は、そういう一時期の少女にとっての「未知への恐怖心」をテーマにしているのではないか。だからメタルなのであり、必死で逃げる彼女たちをデス声で追いかけてくる「鬼」とは「時間」のことなのだ。

そう考えると、「Catch Me If You Can」には、神バンドとBABYMETALによる唯一無二のメタル・パフォーマンスであるという以外に、もうひとつの意味が出てくる。

ぼくの考えでは、神バンドのソロがそうであるように、この曲はBABYMETALの三人が、成長中の生身の女の子たちであることを再認識する曲である。

神バンドソロが終わり、「ハイ!ハイ!ハイ!」と入って来た三人は、観客を煽り、「1、2、1234!」と叫び、走るしぐさで踊り出す。

SEの「もういいかい、もういいかい」に対しては、「♪まあだだよ!」と叫ぶ。

「鬼」を、大人になってしまう「時間」の象徴とすれば、ここではまだ大人になる準備ができていない「かくれんぼ」段階であることを示す。

隠れ場所とは、つまり、独り立ちするための自分らしさ=アイデンティティであり、三人の少女たちは「時間」から逃げながら、それを探しているのだ。

「♪あっちかな、こっちかな」と迷い、「♪さて鬼さんどこでしょう」「♪絶対に見つからないとっておきの場所を発見!」したと思ったMOAにとって、それはSU-の股下であり、そこでどや顔でMOAたんビーム!してみるが、肝心のSU-やYUIはすでにほかの場所に走り出している。

「♪右左きょろきょり」「♪ヤダドキドキとまんなーい」とYUIとMOAは一緒に育った姉妹のように仲良くほほをくっつけ、ついには、勇気を出して「♪いいよ、見つけられるもんなら見つけてみなさい、みなさいな(エコー)」と腹をくくってみせる。

そして、三人は「♪まあだだよ」「♪まあだだよ」といいながら「♪鬼さんこちら手のなる方へ」と「鬼」を誘う。そして「♪もういいよ!」で、「鬼」が追いかけてくることになる。

つまり大人になる決意をしたということだ。本当の勝負はここからだ。

「Woo Woo Wooぐるぐるかくれんぼ、赤鬼さん(ヴォイ)青鬼さん(ヴォイ)足元ご注意ほら捕まえて」「Woo Woo Wooぐるぐるかくれんぼ、赤い靴(ヴォイ)、履いちゃダメ(ノン)デンジャラスだもん」

ここで初めてデンジャラスなものとして「赤い靴」が出てくる。

間奏部のジャンプ、その他のしぐさは、少女にとって「成長」が、未知の世界に飛び込む恐怖だという心情を表現している。

2016年のオランダForta Rockでは、ここで初めて「CMIYC煽り」が登場した。

お立ち台に立ったSU-は、「Let’s make Hide and Seek!」と叫ぶ。「Hide and Seek」は冒頭で述べた通り、「かくれんぼ」ですね。だが、SU-が要求したのは「I want to see a big circle!」「Make a big circle pit! Bigger bigger!」だった。サークルモッシュは鬼ごっこだ。それなら「Let’ Play Tag!」というべきだった。ここはオランダ語をしゃべる人が多いし、WODは知っていても、モッシュッシュ=サークルモッシュは一般的ではなく、「かくれんぼしよう」といっているのに「鬼ごっこ」を要求したので、観客はあんまりぐるぐる回らなかった。

それはともかく、ブレイク後の「♪鬼さんこちら 手のなる方へ」と二度目の誘い掛けで、SE「見いつけた」(海外ではYUI、MOAの「I found you!」)が流れ、アイデンティティ探しのかくれんぼは、本格的に世間との戦い、すなわち鬼ごっこになる。

「♪Woo Woo Woo ぐるぐるかくれんぼ 赤鬼さん(ヴォイ)青鬼さん(ヴォイ)ステップステップ1212」「♪Woo Woo Woo ぐるぐるかくれんぼ 転んでも(ヴォイ)泣いちゃダメ(ノン)強い子さんだもん」

「♪まだまだ行くよ!」

といったあたりは、「KARATE」に通じる日々の戦いを示している。

もちろん戦いといったって、自分のアイデンティティを、クラスメイトや同僚に受け入れてもらうとか、自分の意見をしっかり主張するといった、大人から見ればちっぽけなことなのだが、子ども時代を脱して大人になっていく過程の少年少女にとっては大きなことだ。

転ぶこともあるだろう。失敗することもあるだろう。でも「泣いちゃダメ、私は強い子なんだ」と自分に言い聞かせ、「まだまだ行くよ!」とはっぱをかける。

「Woo Woo Wooぐるぐるかくれんぼ」

「Woo Woo Woo ぐるぐるかくれんぼ 赤い靴 履いちゃダメデンジャラスだもん」

もうおわかりだろう。

こうやってアイデンティティを確立し、自分らしく、大人になっていく毎日の生活の中で、溺れちゃうと自分を見失う「赤い靴」だけには気をつけて、という意味だ。

「Catch Me If You Can」は、BABYMETALを構成する生身の三人が、「時間」に追い立てられながら、右往左往し、あちこちぶつかりながら成長していく葛藤を表現しているのだ。

そして、ここからもう一度「♪まあだだよ!」「♪まあだだよ!」が続く。

それは、「とっておきの隠れ場所」探し、すなわち自分らしさを確立する戦いは、いつまでたっても終わらないということを示している。

人は一生、自分探しの「かくれんぼ」と、時間との「鬼ごっこ」をしながら生きていくのだから。

(つづく)