好きすぎてツライ(7) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

THE ONE NEVER FORGET MIKIO FUJIOKA

★今日のベビメタ

本日4月15日は、2017年、Red Hot Chili PeppersのUSAツアーSpecial Guestとして、ローリー(NC)PNC Arenaに出演した日DEATH。

 

「メギツネ」編

●「さくらさくら」は、江戸末期に作られたお琴の練習曲で、「咲いた桜」という歌詞がついていたのが、明治時代に現在の歌詞となり、唱歌として広まった。

NHKワールド・ラジオでは1日4回、周波数案内のBGMとして流れている。

改まった席では、宮城道雄の箏曲「さくら変奏曲」として演奏されることが多いが、ジャコモ・プッチーニのオペラ「蝶々夫人」(初演1904年)の曲中に用いられているほか、ソ連公認作曲家ドミトリー・カバレフスキー「日本民謡による変奏曲」作品87の3などにも用いられている。

つまり、「さくらさくら」は日本の歌曲として、世界で最も広く知られている曲であり、メロディを聴けば、世界中の誰もが「日本」をイメージする。

2013年にメジャーデビューした「アイドルとメタルの融合」BABYMETALの2ndシングルは、世界で最もよく知られたこの曲「さくらさくら」をモチーフとしていた。

確かに、お正月に出演したTV番組で「今年の抱負」として「世界征服」の書初めを掲げていたが、さくら学院を卒業したばかりの高校1年生のSU-と、中学2年生のYUI、MOAからなるBABYMETALが、アイドルらしく短い間隔で出したセカンドシングル曲が、海外のメタルライブで観客を熱狂させるキラーチューンだったとは、誰も思いつかなかった。

というより、「イジメ、ダメ、ゼッタイ」でオリコン6位までいったBABYMETALをユニークな「メタルアイドル」だと思っていたファンにとっては、「和風」「お祭り」「演歌っぽい歌詞」というあまりのダサさにびっくりしたはずだ。

AKB48の公式ライバル乃木坂46は、2012年のデビュー曲「ぐるぐるカーテン」がオリコン2位だったが、セカンドシングル曲「おいでシャンプー」でオリコン1位となり、以降3~4か月おきに出すシングルは、すべてオリコン1位を記録する。

ももクロは2012年にメタル色を強め、マーティ・フリードマンがギターを担当した「猛烈宇宙交響曲・第七楽章無限の愛」を7月にリリースして5位、9月には布袋寅泰が作曲・ギターを担当した「サラバ愛しき悲しみたちよ」をリリースして2位となっていた。

2012年にLegend“I、D、Z”のライブを行い、満を持して「イジメ、ダメ、ゼッタイ」を世に問うたBABYMETALのセカンドシングルが「メギツネ」とは…。

キツネはわかるけど、キモノ風コスチュームと、「さくらさくら」のメロディ。「ソレソレソレソレ」とか「女は女優」とか、ありえない。Kawaii「アイドル」がエクストリームなデスメタルやパワーメタルをやるから、BABYMETALはスゴイと思っていたのに、和風かよ…。

「メギツネ」は「イジメ、ダメ、ゼッタイ」より低いオリコン7位にとどまり、CDとしてリリースされるシングルとしては、BABYMETAL最後のものとなった。

なぜなら、国内向け「アイドル」として、数か月おきにシングルをリリースするというビジネスモデルそのものが、すでに海外での活動を視野に入れていたBABYMETALには無用だったからだ。だから、世界でもっとも有名な「さくらさくら」をへヴィメタル化したのだ。

しかし、もう一度書くが、そんなことは当時誰も気づかなかった。

●冒頭SU-のアカペラで「♪さくらさくら、弥生の空に、見渡す限り」のメロディが、「きつねきつね、私はメギツネ、女は女優よ」に歌い替えられる。

ライブでは、「ズンズンズズズズ、ズズズンズンズズ」というリズムで「C#G#」(7弦2F6弦4F)のパワーコード(C#)の上に「♪さくらさくら弥生の」(Fm)のメロディが奏でられる。

この部分は厳密には調和していないが、続く「♪空に」の部分は「FC・GD・FC・C#G#」(6弦1F5弦3F・6弦3F5弦5F・6弦1F5弦3F・7弦2F6弦4F)とパワーコードのままメロディをなぞるので終止感が出る。その瞬間、「きゅーん」という電子音が重なり、赤いサーチライトが会場を照らす。

この部分を初めて聴いたとき、ぼくは、「さくらさくら」が重厚なへヴィメタルのリフになっていることに仰天した。カッコよかった。すぐにギターで真似してみた。7弦じゃないとあの重さは出なかったが、藤岡幹大神と同じE-ⅡHorizon FR7を近所のハードオフで発見し、入手して調整して弾いてみたら、あの音が出た。

この曲は、速弾きリードのパートがなく、パワーコードとトレモロ奏法だけでいけちゃうので、初心者でもちょっと練習すればほぼ譜面通り弾ける。

ブレイクの時、2015年までは、「♪女は女優よ~」と歌ったSU-がキツネ面を投げるとすぐに、YUI、MOAが「ソイヤソイヤソイヤソイヤ」「ソレソレソレソレ」と踊り出し、後半に入っていた。

だが、2016年のRock In Japan@ひたちなか公園以降は、SU-がキツネ面を持ったまま「On the count of Three、Let’s Jump up with the Fox God…」と煽るところで、バックのギターが「Fm→D#→E→Fm」(7弦6F6弦8F→7弦4F6弦6F→7弦5F6弦7F→7弦6F6弦8F)と盛り上げるようになった。

そして、「1、2、123、Jump!」では、「C#→E#」(7弦2F6弦4F→7弦4F6弦6F)→3弦3Fピッキングハーモニクス“きゅいーん”とやる。

6弦ギターだと、ダウンチューニングするか、5弦4弦でやるかだが、いずれにしても「メギツネ」のリフはほとんど2本の弦だけで再現できる。

日本を代表する名曲「さくらさくら」が、見事にへヴィメタル化し、海外のメタルヘッズを熱狂させることになったわけだが、それはほぼ2本の弦によるパワーコードだけでできているのだ。

「イジメ、ダメ、ゼッタイ」が、下降→上昇のせめぎあい、短調→長調化→半音転調→原キーの平行調の長調という魔法のようなコード進行と2ビートのドラムス、超絶技巧のツインギターでできた極め付きのパワーメタルだったのに対して、「メギツネ」は極めてシンプルな楽曲構造からなる和風メタルである。

これを思いついた人は天才だと思う。

●何につけ「和風」が嫌いな人がいる。日本の伝統や日本文化を大切にしようというと、すぐに日の丸、君が代、愛国心、右翼的だと言い募る人たち。きっとこういう人は日本に居ながら、日本そのものが気に入らないのだろう。

4月4日にリリースされた、ゆずの『BIG YELL』に収録された「ガイコクジンノトモダチ」という曲の中に、「国歌はこっそり唄わなくちゃね」とか「君と見た靖国の桜はキレイでした」とか「国旗はタンスの中」というフレーズが含まれていることが、こういう人たちにとって大問題だったらしく、掲示板やツイッターが炎上しているという。

ぼくも何度か経験があるが、「日本では日本が好きと素直に言えない風潮がある」ということを、日本好きな外国人に簡潔に説明するのは難しい。そのこと自体を「おかしいよな」と思っていても、よほど腹をくくらないと口に出せない。北川悠仁は、ただその「事実」を言っているだけだ。

それを「政治的」だとか「愛国心を扇動している」とか「変節した」とか決めつけるのは、言う方が政治的だからだろう。

そもそも、ゆず、というデュオ名がモロ和風じゃないですか。彼らはずっと日本のどこにでもあるセンチメントな情景を歌ってきたわけで、この曲もそのひとつだと思う。

2000年代に入って、経済力やハイテクだけでなく、日本や日本の文化そのものが世界的に人気になった。千鳥ヶ淵の緑道から日本武道館、靖国神社の周辺は桜が満開になり、連日大勢の外国人観光客が訪れているし、遊就館の中では「歴女」というのか、若い日本人の女性が若い戦死者たちの写真や遺書の前で涙ぐんでいるのを行くたびに見た。

未だに靖国神社や国歌や国旗のことを歌ったらイカンという人たちは、自分の目で見て判断しているのではなく、日本を「敗戦国」のままに縮こまらせておこうとする政治勢力に習ったことを繰り返しているとしか思えない。

これはぼくの勝手な思い込みだが、「さくらさくら」をへヴィメタルのリフにし、伏見稲荷のキツネ様を守護神として海外へ打って出たキラーチューン「メギツネ」は、こんなくだらない政治的イデオロギーの対極にある。

日本と世界は対立概念ではない。そもそも日本は世界の主要国のひとつであり、日本文化は世界の発展に寄与する普遍性を持っている。

BABYMETALの成功は、そのひとつの証左なのだ。

●戦後間もないアメリカ西海岸エリアで、グレート東郷やハロルド坂田といった日系プロレスラーが活躍していた。プロレスは勝敗を決めるスポーツではなく、大衆を楽しませる娯楽だから、善玉であるベビーフェースが悪玉であるヒールをやっつけるのが決まりである。

アメリカと戦争した日系レスラーは当然悪役であり、最後にはベビーフェースに退治される役割だが、ドラマツルギーの鉄則として、憎たらしければ憎たらしいほど、プロモーターには重宝され、ギャラも上がったという。

ハロルド坂田は、ロンドンオリンピックの銀メダリストでありながら、刈り上げたごま塩頭に細い目、チョビ髭を生やし、でっぷりした胴長短足の体形にキモノ風のガウンをまとい、下駄をはき、従者を従えて登場する。

観客をイライラさせるために、コーナーに盛り塩をし、わざとゆっくりとキモノの帯を解き、脱ぐと見せてそのまま座り、葉巻に火をつけ、従者に持たせた茶をすすり、肩を揉ませ、葉巻を消して、準備体操をして、また座って茶をすすり…といった具合に、観客と対戦者の怒りを徐々にヒートアップさせ、嘲笑させて油断させたのち、ゴングが鳴るのを待たずに、いきなり突進し、下駄で殴って、目に塩をすり込むという卑怯な攻撃で襲い掛かる。

これは、史実はともかく、真珠湾攻撃という奇襲作戦をとった「卑怯な日本人」の大衆受けするカリカチュアだった。

観客は卑怯な攻撃で善玉を痛めつける日系人レスラーを罵倒し、最後に善玉がやっつける姿に快哉を叫ぶ。これが、戦後のアメリカのプロレスだった。

それを日本に輸入し、逆に進駐軍のGI然としたシャープ兄弟のずるいタッチワークにさんざん痛めつけられ、我慢に我慢を重ねたあと、「空手チョップ」でやっつける試合を、始まったばかりのテレビで見せ、日本中にプロレスブームを起こしたのが力道山だった。

その後継者ジャイアント馬場と、脱ショー=ストロングスタイルを掲げた“闘魂”アントニオ猪木とその弟子たち、長州力、藤波辰巳、前田日明らによって日本のプロレスは進化していくが、それはまた別の話。

2014年夏、レディ・ガガの前座として登場したBABYMETALの1曲目は、「メギツネ」だった。「さくらさくら」のメロディが流れ、へヴィなリフが繰り返され、赤い照明が会場を照らす中、三人が黒いキモノ風ガウンをまとい、キツネのお面を顔の前に掲げて登場してくる。しゃなりしゃなりと歩き、客席に深々とお辞儀をし、キモノの肩をはだけ、じらすようなしぐさでくるりと回転し、キモノを脱いで放り投げ、向き直ったところで曲が始まる。

現れたのは、三白眼の日系レスラーではなく、まだ子どものようなKwaii女の子たちだったが、この一連の動作は、忠実に「日本人」のカリカチュアをなぞっていた。

イギリスやアイルランドやドイツやイタリアの移民の子孫であるアメリカ人たちには、ヨーロッパの様々な文化には触れていても、アジア大陸の東端で発達した「敵国」日本の文化は「異質」で「神秘的」に見えただろう。

だが、70年の歳月を経て、またインターネットによって、日本や日本文化はアメリカ人にとっても身近なものとなった。現在アメリカのコンビニで醤油やカップヌードルを売っていないところはないし、スーパーには必ず寿司コーナーがある。街を走る車の半分は日本のメーカーだし、BABYMETALのアメリカでのレーベルRALが所属するSMEは3大メジャーレコード会社である。

今や日本を敵国だと考えるアメリカ人は、ほとんどいない。GHQが作った憲法上、一緒に戦えないから、同盟国とも思われていないけど。

「さくらさくら」で始まる「メギツネ」は、日本人にとっては、日本文化を世界に問う、という意味合いを持っているが、欧米人にとっては、その素晴らしさをわかっていながら、どこか「異質」だと思われていた日本文化が、へヴィメタルという装いをとって、欧米に溶け込もうとしている驚きであったと思う。

70年前には、プロレスという舞台で、日系レスラーによる「キモノの儀式」は、「異質」なものへの恐怖をベースにした嘲笑、罵倒の対象だった。

それがBABYMETALのステージでは、わくわくするようなライブ・パフォーマンスとなり、観客の熱狂を呼んでいる。

その構造は、実は日本でも同じだ。

かつて日本の伝統文化や神道は、WGIPに規定された前近代的な「嫌悪」の対象だった。

それが今や、古い神社仏閣はパワースポットとして観光名所になっている。

「メギツネ」は和解の象徴であり、日本文化と欧米、現代社会との懸け橋なのかもしれない。だから「新春キツネ祭り」の舞台には、大きな赤い橋が架けられたのだろう。

(つづく)

 

P.S.

最初文章には「当時最も権威のあったNWA世界チャンピオン、ルー・テーズの決め技は、相撲でいう居反り投げ、バックドロップだったが、それを日本では「原爆落とし」と呼んだ。」

という記述がありましたが、ルーテーズのバックドロップは「岩石落とし」であり、「原爆固め」は、カール・ゴッチのジャーマン・スープレックス・ホールドでした。文意と関係ないので、4月19日に削除いたしました。