日本文化は滅んだか(4) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ

本日5月21日は、過去にBABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

 

3回で完結する予定だったが、ついつい長くなってしまった。

長澤寛行氏の『日本文化が滅んでBABYMETALが生まれた』の書評。今回で終わる。

BABYMETALについて、長澤氏は絶賛しているのだが、立論のしかたは同じように危うい。

-引用-

こうして古来の大人文化としての日本文化は消滅した。そして本来日本文化にはなかった子供文化のみが新たに生成し、そして残ったのである。(P.110)

(中略)退化は人間的な芸能の分野に顕著である。そして進化は子供文化の分野において顕著である。アニメ・漫画・コミックであり、ゲーム・SF等の映像である。それは生身の人間が介在しない、仮想空間である。またアイドルであり、コスプレ等である。(P.110)

(中略)戦後に発生し変遷してきたサブカルチャーが現代日本文化としてもて囃され、世界に喧伝されている。これが勘違いによる日本文化の実態である。これは本来日本国内に収まるはずのものである。だがそうはならなかった。そして世界に出られるはずのない日本の音楽界のバンドが一気に世界の音楽シーンに登場し、あらゆる場面でまたたくまにこれを席巻し、その地を占領しているのである。それがベビーメタルである。(P.111)

だが先に述べたとおり、これは本来有り得べき筈もない事柄である。本来有り得べき筈もない事は受け入れられない。だが逆説的に正にその本来有り得べき筈もない理由によってこそ、世界進出が成ったのである。つまり子供だから、子供文化だからである。もし子供でなければ世界進出はならなかったということである。(P.112)

(中略)ベビーメタルの成功の理由は、究極的に言えば、過去・現在にわたる文化の轍(わだち)に乗っている現代日本の文化状況にある。すなわち大人文化と子供文化の融合によるものである。消滅した伝統的な大人文化の形骸という培地の上に、子供文化の精華が花開いたというものである。(P.118)

(中略)ベビーメタルが世界進出することが出来たもうひとつ別の理由がある。それは米国文化の日本における蔓延である。子供文化が日本に生じたのは、敗戦後に日本人が腑抜けになったがためだけではなかった。戦い敗れて後、日本は米国の属国となって現在に至っている。そして日本文化は米国文化に制せられた。また国民が喜んでこれを受け入れた。

その故に子供文化が助長され、数十年を費やしてアイドル文化が発生し、そして予想外の現象としてベビーメタルが誕生したのである。(P.121)

(中略)ベビーメタルが世界進出することが出来た更にもう一つ別の理由がある。それは米国文化の世界における浸透である。これが科学技術の進化とあいまって物欲の世界的拡大を後押しし、大衆文化を世界に拡散し、イデオロギーの退潮をもたらしたのである。そして大衆文化の世界的蔓延と映像の世紀の定着が、子供文化的な社会様式の発生と受容の下地となり、ベビーメタルの世界進出の培地となったのである。(P.124)

―引用終わり―

 

長澤氏は、戦後70年にして日本の「大人文化」が消滅し、米国の影響による「子供文化」に覆い尽された「から」BABYMETALが生まれ、世界中でウケたのは、同じく世界中が米国の影響で「子供文化」になったからだという。

しかし「大人文化」「子供文化」という括りは、氏が作った概念であり、いわば仮定である。

その過程をBABYMETAL成功の「理由」にしてしまうのは、論述上の基本原則を逸脱している。つまり、“思いつき”に過ぎない。にもかかわらず細かいことは無視して突っ走ってしまう。

BABYMETALは確かに今、世界中で活躍している。しかし、それは日本の歴史や社会(のダメさ加減)に原因があるわけではない。ちょっと考えればわかるはずだが、もしそうなら、他のアーティスト、アイドルも同じ日本社会、同じ時代を生きているのだから、同じように世界で活躍しても不思議ではないではないか。

また、長澤氏は、「BABYMETAL現象」を、「日本の女性アイドルグループによる歴史上初めての本格的な海外進出」と言っているが、ピンクレディや松田聖子、AKB48、きゃりーぱみゅぱみゅといったアイドルや、西城秀樹、沢田研二、郷ひろみといった歌手、YMOやLOUDNESS、EZOを初めとするロックバンドが1970年代以降、海外に挑戦してきた歴史を知らないか、故意に無視している。

もし知っていてBABYMETAL「だけ」がこれほどの成功をおさめたことを、「子供文化が日本全国を覆い尽し、世界に浸透するには、1970~80年代までの25~35年では不十分で、2014年まで70年の歳月を要したからだ」と言うなら、それは強弁というものだろう。

YMOは欧米で一大ブームを起こしたし、LOUDNESSやEZOはビルボード200にランクインした。沢田研二や西城秀樹はフランスやカナダでベストテンを獲得したのだ。

長澤氏自身、2006年の著書では、敗戦後の日本人が米国に「依存」して「未成年」となり、顔つきが「幼児化」したとは言っているが、世界的に米国の影響で「子供文化」化が進行しているなどとは言っていなかったではないか。

もちろん、BABYMETALが日本の文化的土壌の中から生まれ、それを色濃く継承していることは間違いない。

しかし、BABYMETALの凄さの本質は、アイドル出身で、日本語の楽曲でありながら、その文化的土壌をも乗り越えてしまうほどの世界性を持っていたということにある。多くのロカビリーバンドが乱立していた60年代イギリスに、突如ビートルズが生まれてしまったようなものだ。

天才(天災)は忘れた頃にやってくる。

天才は状況の中から生まれるが、その状況を超越し、変えてしまう。

ぼくらが「BABYMETAL現象」を目撃できているのは、たまたま、幸運にも、天才が降誕した国と時代に生まれ合わせたということなのだ。

ただし、その天才は一夜にして生まれたのではない。

サラリーマンプロデューサーだったKOBAMETALの鬱屈したメタル愛、幼い日に突如メタルをやらされることになったSU-、YUI、MOAの戸惑いや、BABYMETAL継続か否かの葛藤があり、それを乗り越える「成長」があり、観客の熱狂を力に変えた「覚醒」があり、演奏に己を賭けたサポートミュージシャンだった神バンドのメンバーたちの気概、過酷な練習とライブの日々があり、体と心のバランスを崩した時期があり、海外でも熱狂する観客を見て「音楽に国境はない」と確信した、そういったすべてのプロセスを経て、BABYMETALの“今”がある。

BABYMETALの凄さに感動するのはいいのだが、それを、極論といえる自説に結びつけて、日本の現状を批判しようとするから無理が生じる。

長澤氏の主張の最大の矛盾は、「子供文化」になった日本で生まれたBABYMETALがウケたのは、アメリカや世界が「子供文化」になったからだというのだが、なぜ「子供文化」のはずの日本では未だに鬼っ子なのかという矛盾だ。

その矛盾にうすうす気づいているのか、長澤氏は、「BABYMETAL現象」そのものを「起こるはずのないこと、有り得ないこと」だと力説している。

まあこれも、氏の「純粋恋愛論」(『鎖国の精神』)と同じく、自分で勝手に「日本文化は戦後70年で子供文化になってしまった」(第一段階)、「子供文化であるアイドルがへヴィメタルの本場でウケるはずがない」(第二段階)、「ウケたということは実は世界中が子供文化になっているからだ」(第三段階)という、無理くりの三段論法だから、「起こり得ない、有り得ない」を強調せざるを得なくなっただけのことだ。

世界でウケているのは、ライブバンドとしてのパフォーマンスが素晴らしいからである。

日本でトップになれないのは、テレビに出ず、聖飢魔Ⅱなら「蝋人形の館」、X-Japanなら「Forever Love」のような誰でも知っている大ヒット曲がないからに過ぎない。

以上、BABYMETALを日本文化で説明しようとする部分の違和感を覚えるところだけ、論評を加えた。

『日本文化が滅んでBABYMETALが生まれた』における長澤氏のBABYMETAL愛はホンモノであり、楽曲やライブのようす、三人の立ち振る舞い、「キツネ神殿(常設小屋)を建てろ」という提言など、行間からその熱気が迸ってくる。

それは微笑ましく、頼もしい。その文体から察するに、おそらく、ぼくより一回り年長のメイトさんであると思われる。

しかし、ここにあえて正面切って批判したように、氏の持論、「日本人は鎖国精神に支配されている」とか「戦後70年、日本は大人文化が滅んで子供文化になった」とか、そこから発して、「BABYMETALはあり得ない、起こり得ない現象」で、「世界でBABYMETALがウケているのは子供文化が浸透したからだ」だとかいう主張は、ほとんど間違いである。

言いたいことや、気持ちはわからないでもないが、批判する相手の境遇や顔を思いやる深みがないから、文章の射程距離が短い。すぐ反感を買い、論破されてしまう。

これでは、高学歴の方にままある、他者の感情や思いが理解できず、自分の「論理」が分からない人間は「馬鹿」だと口に出して言ってしまう性格の典型ではないか。

まあ、ぼくの文体も相当な高飛車だが、これは、駆け出しの頃、業界の大先輩に「文章は断定調に書け。そうすれば、いやでも自分の言いたいことが本当に正しいかどうか、相手に伝わるかどうか、自己点検することになる」と教わったからである。

日本人が有史以来鎖国を志向しているなどということはない。ある種の傾向であるかもしれないが、それが日本文化の本質だというのは言い過ぎだし、いつの間にか「大人文化」が「子供文化」に変わったなどということもできない。近代化やグローバル化による表層文化の変容はどの国にもあり、それを善悪で論じれば、独りよがりの宗教になってしまう。問題があるなら、事実に即し、個別具体的に批判なり提言なりすればよい。

日本人は、国民も、国家政策としても、時代の必要に応じて海外に市場を求めてきたし、一方、戦後のアメリカナイズ、グローバル化の中でも、先人が営々と独自の技術やものの考え方を伝承してきたことが、今、かえって世界の注目を集めている。

音楽業界でも同じだ。国内でも高い志をもって活動しているバンドは多いし、実際に海外進出を目指したアーティストも多い。

その中でBABYMETALが2014年以降世界に進出し、今までの誰よりも成功しているのは、何よりもコンセプト、ヴィジュアル、歌唱、ダンス、演奏、アーティスト根性、謙虚な態度など、すべてのクオリティが高いからであり、それを維持するために、メンバーもスタッフも、知恵を絞り、日々すさまじい努力をしているからである。

決して最近になって「日本文化が滅んだ」からではなく「世界が子供文化に染まったから」でもない。

長澤寛行さん。

もしこのブログを読んで、反論したいなら、ぜひしてほしい。「思いつき」が、万人に理解される「理論」になるためには、検証、批判―反批判といった過程が必要だからである。

それは「BABYMETAL現象」を目の当たりにして、やむに已まれぬ思いから文章を書かざるを得なかった者として、ぼくがあなたに共感しているからでもある。

思想が変わらないことより、今、正しいことの方がより大切DEATH。