ロッククイーンの系譜(4) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ

本日5月7日は、2016年、BABYMETALワールドツアー2016、フィラデルフィア公演(米国フィラデルフィア、Electric Factory)が行われた日DEATH。

 

男性ファン獲得のために「セクシーさ」を強調するのではなく、また女性ファン獲得のためにポップな曲作りを志向するのでもなく、ただただ自分たちの“今”を表現したい、演奏を聴かせたいという動機から、つまり、男子と同じようにライブ活動を続けているバンドが続々と誕生しているのが、現在の日本のガールズロックシーンである。

2000年代には、ピンで自作曲を弾き語りする女性シンガー・ソングライターも台頭してくる。音楽大学出身の平原綾香が2003年に「Jupiter」でデビュー。SU-が尊敬するYUIのデビューは2005年、アンジェラ・アキも2005年にデビュー。YUIと同じ博多の音楽塾に通った絢香のデビューが2006年。2014年まで音楽事務所と契約せず、インディーズで活動していた大森靖子(せいこ)も2006年くらいからバックバンドを率いたアンダーグランド活動を始めている。2008年には西野カナがデビュー。

2010年代に入ると、以前書いたギターを弾き語りする「ギター女子」と呼ばれるアーティストたちが浮上。MIWAは2010年。吉澤嘉代子は2014年。そのほかにも家入レオ、新山詩織、大原櫻子、西内まりや、阿部真央、藤原さくら、山崎あおい、井上苑子など、多くの女性シンガー・ソングライターがメジャーシーンで活躍している。

こうしたガールズメタルバンド、ギター女子のような自作自演アーティストの台頭という歴史とBABYMETALは、ある意味断絶している。

三人は楽器も弾けず、「アイドル」出身で、しかもデビュー時は小中学生だった。

そのBABYMETALが、KOBAMETALのコンセプトのもと、神バンドという卓越したバックバンドを得て、ロックフェス席捲-日本武道館-海外進出-Billboad39位-東京ドーム-世界的大物バンドの前座という実績を上げている。

海外ロック誌の表紙を何度も飾り、SU-METALは、ジャパニーズロッククイーンとして「Kerrang!」では、最も偉大なロックスター50人の中に2年連続で選出されているのだ。(2016年度13位、2017年度39位)

ロッククイーンとは何か。

それはロック楽曲を歌うボーカリストというだけではない。大ヒット曲に恵まれた有名歌手というだけでもない。存在そのものが“衝撃”的で、観る者の日常性を覆すほどの“危険”なオーラを放っていること。

ぼくが夢中になった1970年代のスージー・クアトロの前に、その原像を作った女性ボーカリストがいた。

ジャニス・ジョプリン(1943-1970年)がその人である。

アメリカ、テキサス州の田舎町で、石油会社に勤める中流家庭に生まれ、聖歌隊に属しながらブルースを聴いて育つ。テキサス大学に入学した1960年ごろからフォークロックに親しみはじめ、酒や麻薬を常用するようになる。1963年に大学をドロップアウトしてサンフランシスコへ向かい、フォーク・シンガーとして生計を立てる。

1966年に、ビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニーというバンドに参加し、出演した「モントレー・ポップ・フェスティバル」で、ビッグ・ママ・ソーントンの「ボール・アンド・チェイン」を、あの独特のしゃがれ声で歌って注目される。

1968年のアルバム「チープ・スリル」には、ジョプリンの代名詞ともいうべき「サマータイム」が収録された。

1969年には、ビッグ・ブラザーから離れ、自分のバンドであるコズミック・ブルース・バンドを結成し、8月15日のウッドストック・フェスティバルに出演。

1970年6月29日から7月3日、ジャニス・ジョプリンは、ザ・バンドやグレイトフル・デッド、バディ・ガイらとともに列車を貸し切り、カナダツアーを行った。この模様はのちに映画「フェスティバル・エクスプレス」として公開される。

1970年10月4日、新しいバックバンドとアルバムのレコーディングのために滞在していたロサンゼルス・ハリウッドのランドマーク・モーター・ホテル105号室で、ベッド横の床に倒れ死亡しているのが発見された。享年27歳。死因はヘロインの過剰摂取とされている。

1971年1月、遺作となったアルバム「パール」に収録された「ミー・アンド・ボビー・マギー」(クリス・クリストファーソンのカバー曲)は、ビルボードシングル・チャート1位となり、ビートニク詩人マイケル・マクルーアの作詞とジョプリン作曲の「ベンツが欲しい」もヒットした。

ジャニス・ジョプリンの生涯を描いた映画は、ベット・ミドラー主演の「ローズ」(1979年)、「歌え!ジャニス★ジョプリンのように」(2003年)、「ジャニス:リトル・ガール・ブルー」(2015年)などがある。

ジャニス・ジョプリンの何が、ロッククイーンたるゆえんなのか。

彼女は、豪快な歌い方からはうかがい知れぬほど繊細な性格の持ち主だった。出演したテレビ番組で、高校時代には友達になじめず、非常に疎外感を感じていて、有名になってから出席した同窓会でも孤独だったと言っている。酒や麻薬に溺れたのもその孤独感からだろう。そして、何よりもブルースを歌うこと、表現することが、彼女にとって「生きること」だったのだろう。そんな生き様を賭けた情念やエネルギーが、価値観の転換、フラワームーブメントのアメリカ社会にあって、観る者、聴く者の心を揺さぶったのだと思う。

ロックギターの開祖ジミ・ヘンドリックスと、ロッククイーンの原像ジャニス・ジョプリンはともに1960年代後半から1970年代前半にかけて、その短い生涯によって、音楽史に名を遺す存在となった。

だがしかし。

そんなふうに、短く燃え尽きる伝説のアーティストに、BABYMETALはなってほしくない。

夭逝したロック・アーティスト、例えばニルヴァーナのカート・コバーン、X-JAPANのHIDE、女性ではプラズマティックスのウェンディ・Oらのようには、決してなってほしくない。

メンバーの離合集散、紆余曲折、浮き沈みの時期があったとしても、メタリカやガンズやレッチリやLOUDNESSやX-JAPANのように、年をとっても、息の長い活躍をしてほしいと願う。

“衝撃”的で“危険”なロッククイーンといっても、破滅的である必要はどこにもないのだ。

SU-METAL、YUIMETAL、MOAMETALが“衝撃”的であることは論を俟たない。

というか、BABYMETALは従来のロッククイーン像の真逆の意味で“衝撃”的なのだ。

2010年の「ド・キ・ド・キ☆モーニング」では中学校2年生&小学校5年生。

2012年の「ヘドバンギャー!!!」、Legend“I”では全員中学生。

2014年のソニスフィア「イジメ、ダメ、ゼッタイ」や「Live in London」、2015年の新春キツネ祭りの「Road of Resistance」でも高校2年生と中学3年生である。

DVDや公式動画や当時のファンカムに記録されているように、その「幼いメタルの魂」がホンモノであるということに、まず“衝撃”を受ける。

神バンドの演奏の卓越性はもちろんだが、大観衆にも物おじせず、「お客さんを笑顔にするために」というアイドル根性のもと、過酷なライブのステージでメタルファンを煽りまくるSU-や、全力で踊り倒すYUI、MOAの姿には、唖然とさせられ、胸が熱くなり、最終的には感動の涙が込み上げてくる。恥ずかしいけど。

その“衝撃”度は、2015年の高地メキシコシティを皮切りにしたワールドツアーから最終戦の横アリ「Final Chapter of Trilogy」でも、2016年ウェンブリーアリーナからの夏の4大ロックフェス~東京ドームでも、2016年12月のレッチリUKツアー、2017年1月のMETALLICAソウル公演、ガンズアンドローゼズ日本ツアー4公演、4月のレッチリUSツアーを見終わっても揺らぐことはない。日本であれ海外であれ、数万人の観客を煽り、熱狂させてしまう世界屈指のライブバンドだというのに、現在でもSU-METALは19歳、YUIMETAL、MOAMETALは現役高校3年生なのである。

それでは、ロッククイーンのもう一つの条件、“危険”さはどうか。

1970年代の欧米のロッククイーンは、好むと好まざるとにかかわらず「セクシー」さや「ビッチ感」を前面に出していた。それが不良っぽさ、“危険”な匂いを醸し出していたのだ。

日本ではそういう方向には進まず、大観衆を集めて野外ライブをやる渡辺美里や大黒摩季は、ロック楽曲ではあっても、若者の共感を呼ぶ健康でポジティブな歌詞を持つ「青春応援ソング」が多かった。危険な香りを発する戸川純や椎名林檎は、ノレるHR/HMではなく、やや暗いオルタナティブな音楽に特化した。

ようやく、近年になってガールズメタルバンドが、女性版ヴィジュアルバンドのような「セクシーさ」を出しているように思える。

ところが、BABYMETALの楽曲はデスメタルからハードコア、パワーメタル、バイキングメタルまで多様だが、少なくとも「セクシー」ではない。小悪魔的ではあるが「ビッチ感」は皆無である。

では“危険”ではないのか。

いやいや、とんでもない。“危険”きわまりないのである。

2017年5月という現時点でも、日本ではBABYMETALの知名度は低い。

仕事の打ち合わせが一段落し、雑談で趣味の話題からBABYMETALの話を振るとしよう。

さすがに、「なにそれ?」という反応ではなく「あ、名前は聞いたことある」という方が多くなったものの、それにハマっているというぼくへの反応は微妙である。

「まだ10代のアイドル出身の女の子三人組なのに、へヴィメタルを演奏するバンドで、世界中でウケていて…」

説明すればするほど、空気は微妙になってくる。

「昨年の東京ドームには11万人が集まったんです」

「へえ、たいしたもんだね」

「レッドホットチリペッパーズって知ってます?」

「名前くらいは聞いたことあるかなあ」

「メタリカとか、ガンズアンドローゼズは?」

「なんか、聞いたことはあるよ」

「レディガガは知ってますよね」

「レディガガなら知ってるよ」

「その全部、BABYMETALがサポートアクトして、海外を回ってるんですよ」

「ふうん…」(あんまり感動してない)

「去年出たセカンドアルバムは、坂本九以来53年ぶりにビルボードのトップ40に入って」

「ああ、なんかそのニュースは見たなあ」

「ぼくはそのブログをやっていて、毎日1万件くらいのPVがあって…」というと「へえ、そりゃすごいね」とはなるのだが、相手の顔には、明らかに「10代のアイドルのブログをやってるって、こいつ変態か」的な表情が立ち現われてくる。

「で、ぼくは1月にソウル、大阪、4月にはアメリカのシャーロットに行ってきたんですよ」なんて言おうものなら、「こいつ仕事してねえな」という軽蔑というか、憐憫というか、とにかく「×」な雰囲気を醸し出されてしまうのであります。

つまりですね、BABYMETALは、1970年代のザ・ランナウェイズと同様(というか正反対の意味で)、社会的には“危険”な存在なのである。

海外では「金髪セクシー」がそうであろうが、日本では「ロリコンオタク」と見られることは、社会的には命取りになりかねない。

もちろんBABYMETALは、ロリコンアイドルではなく、不世出のアーティストである。

しかし、それを力説すればするほど、疑念を持たれてしまうのがこの日本なのである。

人生を棒に振らせてしまう、ファム・ファタル。危険なロッククイーン。

40代~50代の働きざかりのオッサンにとって、まさにBABYMETALがそうではないか。

実は、「アイドル」は、すでにひとつの“趣味”として、社会的に認知された。その意味で、50過ぎて好きになったのがテレビによく出るただのアイドルだったら、おそらくぼくもここまでのめりこむことはなかっただろうし、その“趣味”を話すときには、「エヘヘ、実は」的な薄ら笑いで済まし、「仕事に影響はありませんよ」的な開き直りをすることもできたであろう。

しかし、BABYMETALはそうはいかない。業界ではそこそこ名前を知られたオッサンが、「ギミチョコ!」ガー、広島ガー、日米文化交流史ガー、フォーンライト煽りガー、レッチリガー、レディガガガーと、口角泡を飛ばして全面展開してしまうのである。

ま、なつパパさんのいう通り、そういうぼくの性格に問題があるんだろうけどね。(^^♪

結論。

BABYMETALは1970年代から連綿と続く、衝撃的で危険なロッククイーンの系譜の最新アップデート版である。現代日本で、ここまでオッサンを虜にするアーティストは、BABYMETALを措いて他にはいない。のめり込んだらオシマイである。

身も心も奪われないうちに、距離を置いた方がいいかもよ。

ちなみに6月16日のロサンゼルス・ハリウッドPalladiumのSpecial Headlinerライブのチケットが入手できることとなったため、またも仕事のやりくりをして弾丸参戦致します。

あーもう。