融合と抵抗、日本のロック史(10) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ

本日4月10日は、2016年、イギリスの週間アルバムチャートで、「Metal Resistance」が初登場15位となり、日本人最高位となった日DEATH。

 

「イジメ、ダメ、ゼッタイ」には、70年代ハードロック~80年代へヴィメタルのギター奏法のエッセンスが詰まっている。「ド・キ・ド・キ☆モーニング」同様、最初期に作られたので、6弦ギターでも弾ける。作詞作曲のクレジットに名前があるから、原曲はギタリストであったKOBAMETALが作ったのかもしれない。

だが、ぼくはこの曲を弾けるようになるまで、練習を始めてから1か月以上かかった。細かいバッキング、難易度の高いソロのオンパレードで、未だにギターソロのところはいい加減にしか弾けない。

70年代のギター小僧の必修曲「ハイウェイスター」(1972年)のキーはGmで、BPM170前後(一定ではない)。右手の腹でミュートをかけながら、6-5弦でリズムを刻む。「イジメ、ダメ、ゼッタイ」はC#mで、BPM162指定だが、いわゆる2ビートと呼ばれるスピードメタルのリズムなので、「ハイウェイスター」のほぼ2倍のスピード、ほとんどトレモロに近い正確なオルタネートピッキングが要求される。

1番の後の間奏の短いギターソロは、音階を逆にした「ハイウェイスター」のソロを倍速で弾く感じ。ソロの最後にはダブルストップ4連発もある。

2番の「君を守るか~ら~」のあとはピアノが入って、ゆったりしたコード弾きのブレイクダウンとなるが、次からのギターソロは鬼だ。ツインギターが交互にソロをとるのだが、Racer X withポール・ギルバート「Street Lethal」(1986年)あたりを彷彿とさせる速弾きで、しかも各フレーズは単純なメカニカルシークエンスではなくエモーショナルな音が選ばれ、ギターが“歌う”ようになっている。ソロ最後の8連続4連符はツインギターのハモリだから、正確な音程、ピッキングが必要。ここを誤魔化すとソロが台無しになる。

元ギター小僧が、ヘタクソながら深夜これをシコシコ練習していると、神バンドの面々が、いかに練習の虫だったかがよくわかる。彼らはこの難曲を6万人もの大観衆の前で、表情をつけながら、ニコニコと嬉しそうに弾く。本場イギリスのメタルフェスのメインステージで演奏するのは、すべての日本のロックプレイヤーが高校生の頃に夢見た光景だったのだ。

 

Sonisphere 2014の「イジメ、ダメ、ゼッタイ」は公式MVになっている。

SU-のゾクッとするような表情のハミングが終わり、青山神のシンバル4つ打ちで、リフが始まる。SU-が、「アー」とシャウトすると、YUI、MOAが舞台を駆け回る。一瞬アップになるSU-の表情は気迫に満ちている。

イントロのメロディ。藤岡神とLEDA神のツインギターは、見事にかみ合い、美しいハモリのうちにエモーショナルなトーンを響かせる。

「♪傷ついたのは自分自身だけじゃなくて、見つめ続けてくれたあ、な、た」の後のピッキングハーモニクスは、あり得ないほどのボリュームで響き渡る。

「♪負けないで」「♪見つけちゃいやー」「♪いえすたでー」のコミカルなScreamのあと、お立ち台に上ったYUIとMOAの「♪ダメ!ダメ!ダメダメダメダメ!」は真剣なまなざしに変わっている。「No more bullying forever」という世界共通のメッセージ性をもったこの曲の日本語の歌詞の意味を、必死で観客に伝えようとしているのだ。

1番の終わりの「君を守るか~ら~」で、会場から歓声が上がる。

SU-は両手を下に下げて、一瞬得意げな表情を見せる。イギリスのメタルヘッドは、BABYMETALを受け入れてくれた。結成以来、笑われても貶されても、お客さんを笑顔にするために続けてきた「アイドルとメタルの融合」は冗談でも、間違いでもなかった。私たちの音楽は世界に通用する。音楽に国境はない。

短いソロに合わせて、XポーズをしながらYUIとMOAが立ち位置を交換する。ギターのダブルストップ4連発のあと、一瞬の空隙をついてSU-が2番を歌いだす。

「♪涙見せずに泣き出しそうな夜は…」バッキングは1番と同じではない。リズムを変え、ツインのハモリを交えながら、曲の印象を強めようとしている。芸が細かい。

そして、2回目のSU-の「君を守るか~ら~」でバンドは全休符。客席後方、地平線の彼方までSU-の歌声が響き渡ると、6万人の大歓声が起こる。

ゆったりしたブレイクダウン、三人がサムアップしながら舞台中央に集まってくる。声を合わせた「イジメ、ダメ、ゼッタイ。」のセリフから、怒涛のツインギターソロ。

リズム、フレージングにまったく乱れはない。完璧な演奏。たまらずエアギターをする観客。

そのメロディーラインは、偽闘をするYUIとMOAのダンスと完全にシンクロしている。気づくと下手に回ったYUIのチュチュの一部が破れ、天の羽衣のように舞っている。MOAは肩の高さまでジャンプする。割って入るSU-の蹴り上げた足は頭の高さを超えている。

ソロ終わりの4連符8連発で、BOHが気持ちよさそうに天を仰ぐ。

「♪いとしくて、切なくて、心強くて…」は、1994年のダブルミリオンby篠原涼子with t.komuro。メタルがマイナーになっていった小室時代も、この曲にはちゃんとオマージュされている。

そこから3回目のサビ。「♪イジメ、ダメ!」「♪キツネ、飛べ!」に6万人の観客がジャンプしている。バックのギターは歌っている。

ダブルバスドラを刻み続ける青山神。このライブの翌日、ホテルで疲れてウトウトしたとき、夢に亡くなったお父さんが出てきたという。「何故だか…めっちゃ笑ってた。昨日のステージにでも見に来て楽しんでくれたのだろうか。」と青山神は、2014年7月7日のTwitterに書いている。

ロックやメタルという音楽に惚れ、誰にも見えないところで練習し、バンドや楽曲を構想し、挫折し、夢を見てきた無数の人々の思いが、KOBAMETALのコンセプトに反映され、BABYMETALという生身の少女たちと神バンドの演奏によって体現されているのだ。

C#mから転調して、C→A→Eと裏アタマを強調しながら刻まれるビートを聴いていると、BABYMETALが、戦後の焼け跡から今まで歩んできた日本のロックの歴史、歌謡曲の歴史、サブカルチャーの歴史を集大成したものだということが実感される。

「♪イジメ、ダ~メ~絶対」「♪イジメ、ダメ~Forever!」

「♪イジメ、ダ~メ~絶対」「♪イジメ、ダメ、ダ~メ~」で、Esus4からEの終止形で、ツインギターのダブルストップ。

一瞬のタメのあと、ドラムのフィルインから、「ジャーン」とファイナルコードが響く。

ギタリストもベーシストも思い思いにEコード内の上昇下降を繰り返す。

SU-が「We are?」と問いかけると、大観衆は「BABYMETAL!」と答える。

YUI、MOAは全身で大舞台を終えた喜びを表現する。

最後に「We…are…?」と叫んだあと、「BABYMETAL!」と応える観客に、SU-は嬉しそうに右手をひらひらさせて「もっと来い!」というような表情を見せる。

そして、YUI、MOAと目線を合わせながら「3」、神バンドを振り返って「2」、そしてみんなで「1!」と叫んでお立ち台からジャンプ。

曲が終わり、大歓声と拍手が上がる。

YUIとMOAはユニオンジャック入りのBABYMETALフラッグを纏う。

「One more song!」と繰り返す観客に、誇らしげに「See You!」と叫び、三人はステージをあとにした。

この日、日本のメタルファンがそうだったように、イギリスのメタルヘッドたちも、東方から降臨したメタル復権の使徒、BABYMETALの味方となったのだった。

4か月後の2014年11月、BABYMETAL Back in the UK、ロンドンBrixton Academyで、「Road of Resistance」が初披露されたとき、「紙芝居」には、「Today rather than yesterday. Tomorrow rather than today.」という臭い言葉が出てきた。

80年代のメタル黄金時代はもう帰ってこない。デロリアン号でもなければ過去は変えられない。しかし、未来は変えられる。今日弾けなかった曲が、ひたすら練習することで、いつか弾けるようになる。臭いけれどもそれは真実である。

BABYMETALが結成されたとき、「世界征服」を掲げたとき、誰もが冗談だと思った。

しかし、冗談ではなかった。メンバーも、バックバンドも、プロデューサーも本気で、閉塞したメタルというジャンルを変えるため、世界を目指した。

その結果、2016年、セカンドアルバム「Metal Resistance」は、へヴィメタルバンドとしては日本人最高位のBillboard 200の39位となった。

9月には11万人ものファンが東京ドームを埋めた。

酒場でメタルを語るサラリーマンも増えた。

先行していた日本のロックバンド、メタルバンド、ガールズバンドは奮い立っている。

RADWIMPS、Alexandorosなど、2016年にブレイクしたバンドもある。

アイドルの中にも、ピコリーモの楽曲を生演奏のバンドと激しいダンスでパフォーマンスするPassCodeなど、音楽性で勝負する「アイドル離れ」したユニットが登場してきた。

BABYMETALは、「アイドルとメタルの融合」をコンセプトにして、2010年に結成されたアイドルグループさくら学院出身のメタル・ダンス・ユニットである。

だが、その楽曲、歌唱、ダンス、演奏は、戦後70年のロック史、歌謡史、サブカルチャー史を集大成したものであり、その重みと厚みは圧倒的な強さで日本の音楽史を更新しつつある。

BABYMETALは、日本のロック史上最強のメタルバンドではないかもしれない。日本の歌謡曲史上最高の女性グループではないかもしれない。

だが、今、その両方に一番近いアーティストだとぼくは信じている。だから、ぼくはBABYMETALの味方であり続ける。

レッチリUSツアーサポート初日がいよいよ迫ってきた。

アメリカ東部標準時間(EST)4月12日(水)18:00(日本時間4月13日(木)7:00)、会場はワシントンD.C. / Verizon Center。

2017年、Metal Resistance第5章“米国死闘篇”の開幕である。

(この項終わり)