魔法陣の秘密 | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
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★今日のベビメタ

本日3月28日は、過去、BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

 

BABYMETALのネットファン組織であるThe Oneのロゴ、日本武道館や東京ドームをはじめとしたライブ会場のステージに描かれる赤い魔法陣。

いかにもカバラやグノーシス主義、ゴシックといった西洋中世の悪魔崇拝、召喚の儀式のイメージだが、実は日本で、戦後に創られたものである。

1961年に、平凡社の「世界教養全集第20巻」として『魔法、その歴史と正体』という本が出版された。著者は、スイス系アメリカ人画家、クルト・セリグマン(Kurt Seligmann)。

この本は、ぼくは直接読んでいないのだが、ネット上の内容紹介によると、古代メソポタミア、エジプト、ゾロアスター教から始まって、カバラ、グノーシス主義、中世のパラケルスス、ロジャー・ベーコン、ノストラダムス、薔薇十字会、カリオストロ、サンジェルマン伯爵、フリーメーソンまで、古今東西のオカルトを集めた魔法事典のような本である。

これが、ぼくが一時のめりこんだ渋澤龍彦、種村季弘らのオカルティックなエッセイ群の“種本”であり、日本におけるオカルト文化の原点でもある。

しかし、この本には悪魔の召喚呪文は書いてあるが「魔法陣」については書かれていないという。

そもそも「魔法陣」という言葉もなかった。

この本で紹介されていたのは、カバラの例としての「魔“方”陣」(3×3の方陣で、1から9までの数字を並べ、縦横斜めの3マスの合計がすべて15になる)であり、また、悪魔を召喚したときに召喚者が悪魔の魔力を防ぐための結界、すなわち「魔法“円”」であった。

その中から悪魔が出現するという、地面に円と三角を組み合わせた図形を描くモチーフは、水木しげるの「悪魔くん千年王国」の「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム、われは求め訴えたり」というあれが世界初である。呪文自体は前掲書『魔法』を参考にしているが、「魔法陣」は水木しげるオリジナルなのだ。

だから、欧米のオカルト本でも、悪魔が召喚される「魔法陣」という記述はない。ハリーポッターはマジックワンドで魔法を使うが、魔物を呼び出す方法としての「魔法陣」は出てこない。

しかし、日本では、水木しげるによる悪魔召喚の場所としての「魔法陣」のイメージが、TV番組「悪魔くん」(1966年。実写版)で、子どもたちに広く流布され、「常識」となった。

「鉄腕アトム」「ウルトラマン」など男の子向けのヒーローが「原子力」によるパワーを利用していたとすると、女の子向けのヒロインは「魔法」とそのアイテムが超能力の源だった。

「魔法使いサリー」(1966年。ハリーさんじゃなくて(^^♪)、「ひみつのアッコちゃん」(1969年)から、「魔女っ娘メグちゃん」(1974年)、「花の子ルンルン」(1979年)、「魔法の天使クリーミィマミ」(1983年)などを代表として、ほぼ毎年魔法少女のアニメが作られ、「美少女戦士セーラームーン」(1992年)からは「リボンの騎士」(1967年)「キューティハニー」(1975年)に始まる少女アニメのもうひとつの流れ、「戦闘美少女」の系譜と合体し、「ふたりはプリキュア」(2004年~)では、コンタクト系の格闘技の要素も入った。

「魔法少女」の流れは現在までも続いており、最新版は2016年10月-12月に東京MX他で放映された「魔法少女養成計画」である。16人の魔法少女候補者が選抜戦を戦うというプロットで、「魔法少女」「戦闘美少女」「アイドル選抜」の要素がすべて入っている。ここまで来たかという感じ。

男の子向け、あるいは深夜アニメでも「ゼロの使い魔」(2006年)、「伝説の勇者の伝説」(2010年)、「絶園のテンペスト」(2012年)、「魔法科高校の劣等生」(2014年)、「GATE 自衛隊彼の地にてかく戦えり」(2015年-2016年)など、魔法とRPG、学園もの、ミリタリーまで融合した作品が次から次へと現れている。

毎年、各局手を変え品を変え、アニメ作品で魔法が描かれる国は、世界中、日本しかない。日本は魔法大国なのである。

さて、その魔法陣であるが、「悪魔くん千年王国」では、円の内部に三角形と逆三角形の組み合わせでカバラの象徴である「ダビデの星」を描く。

しかし、BABYMETALの魔法陣では、黒字に赤く円と三角の組み合わせの図形が書かれるが、「ダビデの星」になることは意外に少なく、四角のモチーフも多い。魔法陣には装飾的な図形が多く描き込まれ、円の外周、三角の外周にルーン文字で、BABYMETALという名前やライブの名称が書かれている。

ルーン文字とは古代ゲルマン人(ゴート人~ノルマン人)の文字で、2-3世紀にラテン文字に取って代わられたので、ヘブライ文字で書かれるユダヤのカバラとは全然関係ない。

おそらくデザイナーがドイツの髭文字と同じく「ゴシック」表現として用いたのだろう。

ゴシックとは建築様式のひとつで、素朴でシンプルなローマ時代のロマネスク様式に対して、12世紀のフランス(ゲルマン人によるフランク王国)で発祥した、装飾的な建築様式のことである。MOA聖誕祭が行われたドイツ・ケルンの大聖堂を想起していただければわかるのだが、細かい彫刻のひだひだがいっぱいついた「ゲルマンの森」を思わせるつくりが特徴。

ここから、日本ではレースの装飾がいっぱいついたヒラヒラのドレスを、「ゴシック・ドレス」と称するのだが、それらを製作していたデザイナーは、18世紀フランスのロココ調や19世紀イギリスのヴィクトリア朝の衣装を模倣したものなので、時代が全然違う。しかもそれを、少女のファッションに適用したのがゴスロリ(ゴシック・ロリータ)である。もちろん日本の原宿が発祥の地であり、欧米では日本独自のKawaiiファッションとみなされている。

つまり、BABYMETALの「魔法陣」や「ゴシック・ファッション」のイメージは、一見、西洋中世の黒魔術の伝統から「引用」されたように錯覚するが、実は何から何まで国産なのである。

だから、ゴスロリ+戦闘少女のコスチュームを着て、魔法陣の中に降臨するBABYMETALは、西洋人にとっても「異教的」に見える。「ド・キ・ド・キ☆モーニング」のMVでは、CGで、地面の魔法陣の中から「アー」と言って幼い三人が出現する。

2014年の日本武道館でも、ニューヨーク・ハマースタインボールルームでも、ロンドン・アカデミーブリクストンでも、2016年のウェンブリーでも、「BABYMETAL DEATH」の冒頭、観客の予想しない場所のスッポンから、三人が「びよーん」と登場し、その降臨感で、観客は興奮のルツボに叩き込まれた。

「魔法使いサリー」や「魔女の宅急便」に描かれる空飛ぶ魔法の箒の方は、古代ケルト人の風習として、農民女性が豊作祈願のため、箒にまたがって踊るのを見たキリスト教の聖職者が、「あれは魔女の風習だ」と思い込んだのが始まりだという。したがってこちらは由緒正しいヨーロッパ文化からの「引用」。もちろんフィクションだが。

「ヘドバンギャー!!!」でSU-が持つマイクスタンドは、ロックシンガーへのオマージュかもしれないが、「15の夜」に魔女に変身するワルプルギスの集会、魔法の箒の可能性もある。

吉澤嘉代子は、小学生の頃、「魔女の宅急便」を見て、空を飛びたくて箒にまたがり、おばあちゃんの黒い長いスカートを穿いて「魔女修行」をしていたが、中学校ではなじめず不登校になった。そしてサンボマスターを見て、箒をギターに持ち替え、ついに音楽という魔法を習得した。

BABYMETALと吉澤嘉代子に共通するのは、「魔法」である。

そしてフィクションであるはずの「魔法」は、人の心を揺さぶり、感動を与える本物の魔力を持っている。