女性ロックスターBABYMETAL(3) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ

本日3月15日は、2016年、オーストリアのフェス「ROCK IN VIENNA」(6月3日)に2年連続で出演すると発表された日DEATH。

 

トピックスをいくつか。

3月13日、第22回AMDアワード(Digital Contents of the Year 2016)の授賞式があった。「君の名は」、「シン・ゴジラ」、ポケモン Go、「逃げるは恥だが役に立つ」など、2016年に話題となった12作品が選ばれ、BABYMETALは優秀賞を受賞した。三人は「スケジュールの都合」で出席せず、KOBAMETALが骨衣装にスーツ姿で登壇して、モノリスを受け取った。

リオ五輪閉会式の演出ほか、Perfume、BABYMETAL、「逃げ恥」の振り付けで、2016年は八面六臂の大活躍だったMIKIKO師は審査員特別賞を受賞。理事長賞はPPAP、大賞・総務大臣賞は初音ミクと中村獅童が共演した「「超歌舞伎 今昔饗宴千本桜」。

もうひとつ。

「BURRN!」(シンコーミュージック・エンタテインメント)4月号は、ガンズアンドローゼス特集で、巻頭のライブレポートは大阪ドームであるが、P8-9の見開きで、ちゃんとBABYMETALがレポートされていた。

かたくなにベビメタを拒否してきたメタル専門誌が2か月連続の見開きカラーグラビア。大物バンドのサポートアクトにはこういう効果もあるのだ。とはいえ、通常は前座バンドを大きく取り上げたりはしない。まったくの周回遅れだが「BURRN!」もBABYMETALを無視できなくなったのだろう。

めでたい。

 

女性ロックスターとしてのBABYMEALを考える話のつづきです。

では、未来のアーティスト=括弧付きの「アイドル」とはどのようなものなのか。

YMOを継いで、現代におけるテクノオリエンタリズムを表象するアーティストが、BABYMETALの事務所の先輩であるPerfumeだというのが、慶應義塾大学法学部教授の大和田俊之氏(アメリカ文学、ポピュラー音楽研究、以下敬称略)である。大和田は、

「<切なさ>と<かわいさ>の政治学-PerfumeとBABYMETALにみるオリエンタリズム」(慶應義塾大学アート・センターBooklet23「アイドル♡ヒロインを探せ」、2015年3月31日発行)において、次のように述べている。

――引用――

「かつてイギリス人ライターがYMOにみた日本的「精度」は演奏以外の領域にも浸透し、コレオグラファーのMIKIKOによる精緻な振り付けがPerfumeのシンクロニシティ(同期)というコンセプトを具現化する。彼女たちは声までも加工され(ロボ声)-それはオートチューンと呼ばれる音程補正用ソフトウェアで操作される-その<人間性>をあからさまに剥奪されている。三人がステージ上で醸し出す無機質で人工的なイメージは、まるでアニメかマンガのキャラクターのように二次元化されたものである。

そしてそれは、西洋が「テクノオリエンタリズム」という概念を通して現代日本文化を想像するときのステレオタイプである。

(前掲書、P33)

-引用終わり―

そして、大和田は、Perfumeがメジャーデビューした2005年にアメリカで解散した三人組R&Bグループ、デスティニー・チャイルド(ビヨンセ、ケリー・ロジャース、ミシェル・ウイリアムズ、以下、デスチャと表記)とPerfumeとを比較対照する。

同じようにローティーンで活動を始め、国を代表する三人編成のガールズユニットとなった二組だが、デスチャが野生的/動物的なイメージを押し出したのに対して、Perfumeはその「ネガ」もしくは「アンサー・ユニット」(大和田)であるかのように、人間性を喪失させ、ロボット化、二次元化していったとする。

日本ではオートチューンや口パクが許容されている。Perfumeは「アイドル」であり、多用されるオートチューン(ロボ声)は、近未来型テクノポップ・ユニットとしての魅力の一つである。しかし、アメリカでは、アーティストに生身の人間、本物の歌唱力を求める。

Perfumeが「ポリリズム」でブレイクした2007年、同じくロボ声で一世を風靡したアメリカのR&Bシンガー、T-ペインは、2009年に起こった「オートチューンはアスリートのドーピングと同じだ」というアーティストの反対運動の矢面に立たされてしまった。2013年のオバマ大統領就任式で歌った国歌が口パクだとして非難され、謝罪したのは、ほかならぬデスチャ出身のビヨンセであった。

ところが、2014年11月15日、NYのハマースタイン・ボールルームで、初めてのアメリカ単独ライブを行ったPerfumeは、アメリカの音楽評論誌で「卓越した近未来のパフォーマンス」として絶賛された。ちなみに、この10日前、11月4日にはBABYMETALが同所でライブを行っている。

なぜ、Perfumeはオートチューンが許され、デスチャ=ビヨンセは許されないのか。

それはアメリカ人から見て、Perfumeが日本人=テクノオリエンタリズムの表象であり、表現されているのが「近未来のジャパノロイド」=人間ならざるものだからではないか。

大和田はそうしたPerfumeの楽曲やパフォーマンスに「80年代に想定されていた懐かしいフューチャー」「すでに喪われ、手の届かない未来」の<切なさ>を見、そこが彼女たちの魅力の本質だというのだが、それは正直ぼくにはよくわからない。

続いて、BABYMETALについては、「メギツネ」の和楽器や「ヘドバンギャー!!!」の貞子的MV、進駐軍を想起させる「ギミチョコ!」などに、アーティストのイメージを喚起するうえで「環太平洋文化交流的な想像力が深くかかわっている」としながらも、BABYMETALでは(テクノ)オリエンタリズムは重要ではなく、へヴィメタルというフォーマットに、日本のアイドル的な<かわいさ>を注入し、ジャンルそのものの転覆をはかっている点が斬新だ、とする。

そしてPerfumeの「テクノオリエンタリズム」も、BABYMETALの「かわいさ」も、「西洋近代化を象徴する直線的な時間に対して異質な時間軸を挿入」することであり、それは「時間を堰き止め、歪ませ、凍結させる」「過去は理想化され、未来と混同され、虚構のもとに再構築」することであり、そこが世界中の若者を魅了しているのだと結論する。

Perfumeに「時間の歪み」や<切なさ>を感じるかどうか、またBABYMETALの<かわいさ>が「時間を凍結させる」かどうかは、大和田の個人的感覚に過ぎず、現象の説明としては大いに怪しい。第一、PerfumeとBABYMETALの欧米の受容のされ方はかなり差がある。一緒くたにはできないのだ。

このことは大和田も認めているが、ASHおよびアミューズの先輩であり、より長期にわたって、YMO以来のテクノオリエンタリズムを引き継いだPerfumeは、きゃりーぱみゅぱみゅと並んで、欧米各国のジャパノファイル(Japanophile、日本文化愛好家)には好評だが、海外ファンベースの広がりは、同じMIKIKOの振り付け、演出を受けつつも、メタルという保守的な市場を主戦場にしたBABYMETALの方が圧倒的に大きい。

問題は、なぜBABYMETALが、ジャパノファイルを超えて、メタルという市場に進出、受容され得たかということではないか。大和田論文が掲載された1年後、BABYMETALはビルボード200で日本人として53年ぶりに39位となり、ウェンブリーアリーナを皮切りに3度目のワールドツアーを成功させ、東京ドームに11万人を集めた。

ひとつの答えは、BABYMETALがPerfumeとは真逆に、生歌、生ダンス、生演奏の卓越したパフォーマンスを行うライブバンドだったからではないか。欧米人から見れば、大和田の言うようにPerfumeはテクノオリエンタリズムの受け皿であり、近未来的なオートチューン、無表情なダンス、ち密な演出が絶賛された。

しかしBABYMETALは同じ日本、同じ事務所、同じ振付師によりながらも、その「生=ライブ」性を前面に打ち出している。単独ライブの演出は凝っているが、ステージに白い紗幕を張っただけのライブハウス(The Forum)でも、小さな野外フェスのステージ(Carolina Rebellion)でも、その存在感、降臨感、演奏力は圧倒的である。屈折したアート志向のテクノオリエンタリズムへの憧れなど不要な、すなわちジャパノファイルでなくても十分に楽しめるライブバンドであるところが、BABYMETALがPerfumeよりも大きなファンベースを勝ち得た最大の理由だと思う。

そして、もう一つの理由は、このブログでもさんざん書いてきたことだが、仮説の有効性を検証するために、この文脈でも援用してみる。

デスチャ、Perfume、BABYMETALに共通するのは、女性三人組ユニットであり、男性プロデューサーに主導されたポップグループだということだ。(デスチャの指導者は、ビヨンセの父マシュー・ノウルズ氏、Perfumeは中田ヤスタカ氏。)

マクレアリを敷衍すれば、いずれも男性中心の音楽業界で、反発を食らうことなく売れる要素を持っていたことになる。

しかし、デビューからブレイクまで、実はこの三組には大きな差がある。

デスチャの結成はビヨンセが9歳だった1990年、前身の6人組ガールズタイムとしてだが、コロンビアからメジャーデビューしたのは1997年、「No,No,No Pt.2」でブレイクしたのは結成から8年後の1998年である。

Perfumeの結成は西脇綾香と樫野有香が12歳だったASH時代の2000年。中田ヤスタカを迎えてメジャーデビューしたのが2005年、「ポリリズム」でブレイクしたのが2007年。やはり7年かかっている。

BABYMETALは、SU-が13歳、YUI、MOAが11歳だったさくら学院重音部としての結成が2010年11月、メジャーデビューが2013年1月、翌年の2014年2月にリリースした1stアルバムがビルボード200の187位となり、7月には欧米ツアーを敢行、世界的にブレイクした。メジャーデビューしてからはほぼ同じだが、結成から考えるとデスチャ、Perfumeの半分以下である。

これはいったいなぜか?

答えはシンプルだ。BABYMETALは結成時から、さくら学院重音部としてプロのマネージメントを受けられ、かつ「親目線」で「成長」を追えるネット高速化、YouTube時代にデビューし、それを大いに活用できたからである。

男臭い欧米のメタルファンの間で、「アイドル」が「ダンス」をするというメタルの常識を覆すことが受容されたのは、マクレアリのいうように、KOBAMETALという男性プロデューサーが企画・構成・演出をしていることが安心材料となったからではない。そのいわば「資源」を活用できたことが大きいのだ。

日本のアイドル特有の「成長過程を見守る」というファンの参加のしかたは、YouTube時代には無料で、かつ世界的な規模で可能になった。そして「ギミチョコ!」MVで欧米市場に「なんじゃこりゃ?」と話題になった日本のKawaiiメタルバンドは、実際にツアーにやってきた。

日本や欧米でのライブのファンカムを見るとそのパフォーマンスは圧倒的である。しかも、数年前のほんの子どもの頃、つまりさくら学院時代の成長過程も、YouTubeもしくはRedditなどのサイトを追うことで追体験できる。いったんその来し方を知ってしまえば、BABYMETALというプロダクトへの愛着が生まれる。

このことが、男女問わず、ジャパノファイル(つまり海外のドルオタ)もメタルヘッドもひっくるめて、BABYMETALが「愛すべき才能ある子ども」「メタルの本場に挑戦する日本人の女の子」として受容された大きな要因ではないか。

本当の「Destiny Children」は、BABYMETALだったのだ。

(つづく)