キツネ様考 | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★本日のベビメタ

本日3月7日は、2012年、「BABYMETAL×キバオブアキバ」が発売された日DEATH。

「君とアニメが見たい」は、まだCDショップ、Amazon等で販売されており、5年の歳月を経て、2017年1月30日付オリコン・ウィークリーで18位となりました。(^^♪

 

さくら学院重音部としての結成、メジャーデビュー、海外進出、そして東京ドームまで、BABYMETALの成功は、すべてメタルの神キツネ様のお導きによるものであるという「設定」なわけだが、そうなると、現在のベビメタロスもまたキツネ様のご意志ということになる。

キツネ様とはいったい何者か?

神の正体を暴くなどとんでもない愚挙。天罰があたるやもしれぬ。

でも知りたいのよね。

 

脳科学者の中野信子氏は、BABYMETALの魅力について、次のように語っている。

―――引用―――

「西洋のキリスト教文化圏に、突如舞い降りた謎の巫女たち。その異質性が魅力だと思います」「東洋から来たミステリアスなメタルで、しかも男性じゃなくて若い女性。いわば異教徒みたいな感覚ですね。ネガティブなものではない、未知のものです。」

「メタル好きは社会に不安や痛みを感じやすく阻害(引用者註:「疎外」の誤植だと思われる)された存在だと意識しやすいタイプ」

「海外でkawaii文化というのは、キッチュでストレンジなものとして受け取られているんですよね」

「いわば“魔女っ子”。キュートな女の子たちだけど、魔法使いであるその不思議な怖さも評価されていると思います。」(別冊カドカワDirect 04)

――引用終わり――

脳科学というより、比較文化論ですな。

BABYMETALには西欧キリスト教文化とは相いれない「キツネ様」というギミックが付与されているのは周知のとおり。それを中野氏はBABYMETALが海外で人気となったひとつの理由だとする。

メタルバンドには多かれ少なかれ、ギミックがつきものである。デスメタルのコープスペイントやホラー/スプラッター、ブラックメタルの反キリストや悪魔崇拝、フォークメタル・パワーメタルの北欧・ケルト神話もまた、ギミックである。

中野氏によれば、メタル好きには社会的な疎外を感じやすい、繊細なタイプが多いとのこと。大音量の攻撃的な音楽と非日常的なギミックこそ、そんな性格のメタルファンにドハマりするということなのだろう。

BABYMETALのギミック=守護神はキツネ様である。キツネ様とは、稲荷神のことだ。

2013年、メジャー2ndシングル「メギツネ」のMV撮影は、東京・阿佐ヶ谷神明社で行われ、タワーレコードでの嶺脇社長発案によるヒット祈願ライブは、愛知県の豊川稲荷から人力車で「おいなりさん」を運んできて、ゆるキャラ「いなりん」と共に奉納する、というものだった。

日本三大稲荷、五大稲荷というくくりには諸説あるようだが、稲荷信仰の総本社が京都の伏見稲荷大社であることは間違いない。山城の国平安京を開発した渡来人豪族、秦(はた)氏の氏神である。

伏見稲荷の主祭神である稲荷大明神は、食糧をつかさどる日本古来の宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)、別名御饌津之神(みけつのかみ)。素戔嗚(スサノオ)尊の娘、女神である。

ネズミなどの害獣を退治することから農業の守り神とされる狐の古い読みは「けつ」で、「みけつ」が、「三狐」(!)と転訛し、神社の鳥居を守る狛犬が、稲荷社では狐となる。

稲荷大明神は、仏教と習合した際、宝玉、稲束、鎌などを持ち、白狐に騎乗する吒枳尼天(だきにてん)と同一視された。そのため、稲荷社の鳥居を守る狐の一体は宝玉を咥えた姿に造られることが多い。

豊川稲荷は、正しくは神社ではなく曹洞宗のお寺(円福山豊川閣妙厳寺)だが、境内にある鎮守の稲荷社の主祭神は、開祖の難を救った吒枳尼天である。ヒンズー教では人間の心臓を食らう恐ろしい女神ダーキニー。メタルだねえ。

ご利益は、五穀豊穣、商売繁盛、家内安全、交通安全、芸能上達(!)で、江戸時代に大流行し、いつのまにか稲荷神=キツネとされて広まった。

さらに、江戸時代には、中国の山海経に由来する九尾の狐=玉藻の前伝説とも混交して、野狐(悪いやつ)、白狐(御先稲荷)、黒狐(平和をもたらす王者の象徴)、金狐・銀狐(金胎両部曼荼羅、陰陽・日月の象徴で、天皇の即位灌頂の際、左右に設置された)、仙狐(1000歳)、天狐(1000歳以上)、空狐(3000歳以上)などの“狐界”の序列も明らかになった。

オカルトでいえば、秦=ユダヤ、平安京=エル・シャローム=エルサレム、狛犬はエルサレムの神殿の正門を守る獅子像の写しだというから、キツネ様の霊力は、人類が普遍的に持つ神秘的な霊獣の古い記憶が現代に蘇ったのだということになる。

ここまで大上段に構えなくても、放課後の教室で「こっくりさん」をやったことのある人は大勢いるだろう。ちょっとエッチな「かのこん」なんていうアニメもある。

キツネ様は、汎アジア的な広がりを持つ霊獣であるとともに、日本の思春期の少年少女にとっては身近な存在なのだ。

中野氏はそこまでは言ってないが、どうせギミックなら、西欧人メタルファンにはなじみ深い反キリスト思想や北欧・ケルト神話より、もっと魔術的で神秘的なジャパニーズオカルトの方が、ウケる/受け入れられやすいということなのか。

しかし「東洋的」「異教徒」「巫女」「魔女っ子」といった要素を持つギミックだからこそ、BABYMETALが西欧人メタルファンにウケたという実証データがあるわけではない。

むしろ「キッチュでストレンジ」というKawaii文化への評価は、メタルではなくきゃりーぱみゅぱみゅのようなJ-POPがアートとして語られる際に引用される文脈だ。

この分析は、実は、日本の女性メタルファンである中野氏自身の実感なのではないか。

「疎外を感じやすいタイプ」の自分が、なぜBABYMETALを好きになったのかと自問する中で、メタルという男臭いカルチャーにあって、BABYMETALは「東洋から来た若い女性」「巫女」「魔女っ子」という従来にない、かつ身近な少女趣味的オカルトだからこそ強烈に惹かれてしまったという告白に近いように思われる。

 

ビジネスライター/編集者の宮内健氏は、BABYMETALについてこう語っている。

――引用――

「BABYMETALがなぜ幅広い人気を得たのかを考えるには、三人を中心とした歴史をきちんとたどっていくしかないのだろう。で、BABYMETAL発足から現在までを見ていくと、英雄神話構造、もしくは「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅路)」構造の物語が形成されていることに気付かされる。」

「BABYMETALのヒロインズ・ジャーニーはフィクションではなく、生身の三人の女の子が主人公。まだ中学生や高校生の子供には過酷過ぎる旅路で、よく一人も振り落とされなかったものだと思う。それはなぜかと考えると、二つの要因が思い浮かぶ。一つは、ソロではなく三人組で、強固な信頼関係を構築したこと。」

「もう一つは、三人の言葉の端々に表れる個々の意識の高さ。それはプロ意識というか、自分のやっている芸能という職業への理解と洞察といったらよいだろうか。」

(仕事にゅうす「BABYMETALの歴史と「ヒロインズ・ジャーニー」の物語」)

http://shigotonews.com/archives/5114539.html

――引用終わり――

確かに、BABYMETALは物語性を帯びている。ビジネスや仕事についてのサイトだが、ここでは力を入れてBABYMETALを分析している。

ぼくの言葉でいいかえれば、BABYMETALの物語性は二重になっている。

一つは、「紙芝居」の設定による、「キツネ様に召喚された少女たちが、メタルで世界をひとつにする」という嘘臭い物語。だが、後述するように、不思議なことに、これがリアリティを持ってくる。

もうひとつは、実際にメンバー三人は、リアルなさくら学院の仲間であり、子どもの頃から一緒に「成長」してきたということ。メタルを聞いたこともなかった三人が、さくら学院で鍛えられた「アイドル倫理」にのっとってメタル楽曲に取り組み、生バンドを従えて欧米進出、世界征服という大冒険をしているという、リアルなロールプレイング・ゲームのような物語性である。

だが、その過程では、単にスポーツ根性もののような“友情・努力・勝利”だけではなく、「キツネ様」の神秘的な力に導かれているとしか思えないような偶然が度々起こる。

例えば、2015年12月の横浜アリーナ「Final Chapter of Trilogy」で初披露された「KARATE」の前にかかる「紙芝居」のBGM。これは2016年7月、APMAsで、ジューダス・プリ―ストのロブ・ハルフォードと共演した際にも「Metal God and Fox God. Their meeting is not coincidence…」という「紙芝居」のバックでかかっていた。そしてこのBGMの後半のメロディは、その時共演した「Breaking the Law」のギターリフと瓜二つなのだ。7か月前には、アメリカツアーのスケジュールさえ決まっていなかったのに。

また例えば、2016年、BABYMETALが豪雨のDownloadフェスに出演したドニントンパークはLeicester州にあるが、その州都はレスターシティ。サッカー日本代表の岡崎慎司が加入した万年最下位のレスターシティFCは、2015-2016年シーズン、5000倍のオッズにもかかわらず奇跡のプレミアリーグ優勝を遂げた。レスターシティFCのロゴは「キツネ様」であり、ファンはFoxesと呼ばれる。岡崎慎司の得意技は、地を這うようなダイビングヘッド。前述したように稲荷神社の白狐は、サッカーボールのような宝玉を咥えているのだ。

さらに、日本代表で岡崎慎司の僚友である長友佑都は、同じ夏、平愛梨との交際を発表。その時のフレーズが、「Amore」(「Metal Resistance」所収の「-蒼星-」)だった。

なぜこのような偶然の一致や奇跡のような符合が現れるのか。

お前のコジツケ?いやいや、それはキツネ様がすべてを支配しているから。Downloadフェスの豪雨は、キツネ様の通り雨だったのだ。

つまり、どちらが上でどちらが下なのかはわからないが、「設定」と「リアル」の2つの「物語」が、不可分に絡み合いながら、今、ここにいるファンに提示されているのがBABYMETALなのである。

デビューから6年。

素戔嗚の娘、御饌津之神=「三狐」の神。芸能上達・商売繁盛の女神=吒枳尼天=メギツネこそ、実在するメタルの神。召喚された三人の少女が今、世界征服の狼煙を上げる。

信じるか信じないかはアナタ次第DEATH。