Metal Resistance(6)シンコペ | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

2分14秒のE7# 9がすべてだ。

このコードは、3コードのブルース進行のⅠ(トニック)→Ⅳ(サブドミナント)→Ⅴ7(ドミナント)(例:A→D→E7)のⅤ7の代替コードとして使われ、通常のセブンスコードより「黒い」印象を与える。別名ジミヘンコードともいう。

元々ブルースギターから入ったぼくは、セッションのとき、Ⅴ7のところでこのコードを入れると、「おっ」という雰囲気になるのをよく知っている。

これまでBABYMETALの楽曲では、ブルーノートが徹底して避けられ、たとえ3コードに近いメロディでもⅤコードは7thの音が使われてこなかった。例えば、マイナーの「ヘドバンギャー!!」の「邪魔をする奴は即座に消え失せろー」のあとの「ジャジャジャジャジャ」のコードは、Ⅴであっても7thの音は含まれていない。

ところが、「シンコペーション」では、冒頭、タッピングのメタル風イントロが流れた直後から、ヴィジュアル系パンクロックっぽいリズム(だからシンコペーション)が楽曲を支配し、と同時に、コード進行にはサブドミナントでも7th、ドミナントでも7thが多用される。1番の終わりに速弾きされるリードギターのソロも、2分50秒過ぎのキーボードのソロも、マイナーペンタトニックだし、とどめとばかりに、2分14秒から15秒にかけてL→RとパンしながらⅤ7#9が使われるのだ。これが使われると、もうこれまでのBABYMETALではなく、へヴィメタルですらなくなってしまう。だからかもしれないが、US盤、EU盤にはこの曲の代わりに、エヴァネッセンスをほうふつとさせる抒情的な「From the dusk to the dawn」が収録されている。

SU-METAL自身も、ヤングギター5月号のインタビューで、この曲の「違和感」について、

「一番難しかったのは「シンコペーション」ですね。私の場合、どちらかというと少し後ノリのタイプなんですけど、なのでレコーディングで「もっと速く!」って指示されると、だんだん混乱してきちゃって(笑)。シンコペのクセを身体に入れるのに少し時間がかかりましたね。歌詞も丁寧に言おうとしてしまうタイプなので、それをスピード感のある音楽に乗せるということが…メタルの音楽をやってきてこんな風に言うのもアレなんですけど、難しかったですね。」

と答えている。

主にリズムの面から語っているが、ぼくの見るところ、リズムだけでなく、マイナーのメロディを歌っていると、喰い気味にブルース系の7thコードや、ペンタトニックのギター、キーボードのソロが入ってくるという、まさに「R&B文法」の曲なので、「メタルの音楽をやってき」たSU-だからこそ、とまどってしまったと思える。ブルースの歌唱法は、「表現」としての伸びやかな歌唱法とは異なり、感情をぶつけるような歌い方をしなければならない。それが逆に「難しかった」のではないか。

普通のロックバンドは、まず簡単な3コードのブルースから練習を始める。ギターソロはペンタトニック(ブルーノートを入れた5音階)だ。多くのギタリストはペンタが手癖になっている。バッキングのコードとベースラインはキーが変わってもフレットを移動するだけだ。だから初めて会った者同士でも、キーを決めればすぐにセッションができる。リズムはスローブルース、はねるブギ、ロックンロールと様々だが、実は全部同じ。そして歌は、できるだけ馬鹿っぽく、感情をぶつけるように叫べばよい。ここでおとなしく歌ったら「ダサい」といわれてしまう。

しかし、実は全部同じコード進行なので、いわゆる「涸れた味」が出てこないと飽きられてしまう。ぼくの中学時代のブルースバンドは、よく「もっと違う曲をやれ」と怒られていた。

マンネリを脱するにはいくつかの選択肢がある。

BBキング風にメジャーペンタを多用して「味」にこだわるとR&Bになる。

ジャズのコードやモード奏法を勉強すると、ジャズギタリストになる。難しくてたいてい挫折するけど。

リッチー風にスパニッシュを入れるか、ジミーペイジ風に中東風味を入れてマーシャルを鳴らせばハードロックの出来上がり。

テクニックに走らず、馬鹿っぽく、あるいはヴィジュアル系の化粧をして単純なコード進行に鋭い歌詞を乗せて暴力的に演奏すれば、パンクになる。

意識的にペンタトニックを使わず、クラシック系の音階で、超速弾き、タッピングを多用すると、メタルになる。7弦ならもっとよい。悪魔風なら聖飢魔Ⅱだ。

つまりメタルは、もっともブルースから遠いのだ。

BABYMETALは、小学校5年生、中学1年生でいきなりメタルを学んだ。しかもJ-POPとメタルの融合だから、ブルースは通ってきていない。プロミュージシャンにとっては「原点」である7thコード、ペンタの洗礼を受けていない。BABYMETALがメタルであるのは、ブルース臭さがないからだ。また、BABYMETALがロックっぽくないのは、つまりバラカン!!が嫌いなのは、ブルース臭さがないからだ。

つまり、この曲はBABYMETALらしくない。

「GJ!」や「Sis. Anger」がBABYMETAL流のBlack Metalで「挑戦」だというが、ぼくにいわせれば、この「シンコペーション」の方が、これまでのBABYMETALの楽曲から大きく冒険しており、パンクもできるぜ、という越境的な挑戦に思える。

構造的に、この曲に最も近いのは「君とアニメが見たい」ではないか。

あの曲の場合は、YUIとMOAが、部屋に来た女の子に扮し、妄想に浸るアニメオタクの男をからかうようなキュートかつ辛辣な合いの手に入るというBABYMETALの原型的構造をもっている。

「シンコペーション」の場合は、「熱い鼓動高まった衝動」「怖いくらいあふれる妄想」「未来予想図をちょっと創造」とあるように、恋に恋する女子、しかも「ああ月夜が照らしたメタルの翼で」とあるから、メタル少女の妄想に、「スキキライスキ」というYUIとMOAの合いの手が入る。

つまり、構造的にはしっかりBABYMETAL的だ。

だが、ケッテイテキに違うのは、シンコペーションのリズム、7thコード、ペンタのソロ、そして2分14秒のE7#9だ。

個人的には、この路線はあんまり広げないでほしい。ヴィジュアル系パンクって、日本にいくらでもいるじゃないですか。もっとも日本的なロックって感じがして、歌謡曲に近づいてしまう。何も、世界のBABYMETALが、よく考えると非常にダサくて、世界で相手にされない日本風HR、パンクをやらなくてもいいんじゃないでしょうか。US盤、EU盤に入っていないのは、このあたり、KOBAMETALがよくわかっているからじゃないでしょうか。

まあ、それでもしっかりBABYMETAL風味はあるし、限界点を示すためにアルバムの中に入れる、というのはアリかな、と。そんな感じです。