ロス・ハルフィンの視点 | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ

オリンピックイヤーだった2016年は、2月29日にウェンブリー・アリーナ公演のライブビューイングを全国のZepp(札幌、お台場、名古屋、難波、福岡。のちに東京も追加)で開催すると発表されました。

そして、本日3月1日は、2014年、日本武道館でLegend“巨大コルセット祭り”赤い夜が開催された日DEATH。平均年齢14.7歳の女性単独公演は最年少記録。YUIが花道で落下したアクシデントがあり、最後にコルセットを投げ捨て、「修行の終わり」が告げられました。

 

BABYMETALにとって、“ロック写真バカ一代”(メタル季刊誌『ヘドバン』Vol.13より)イギリス人カメラマン、ロス・ハルフィンは、いうまでもなく大恩人である。

サマーソニック2013。

METALLICAに帯同して来日したロス・ハルフィンは、初日・幕張で、“メタル・マスター”をオマージュしたTシャツを見かけてBABYMETALに興味を持った。軽い気持ちでステージを見て驚愕した彼は、翌日、大阪・舞洲のステージに、大親友(同誌によると“ボーイフレンド”)のMETALLICAのドラマー、ラーズ・ウルリッヒとギタリストのカーク・ハメットを引っ張って行った。ライブ終了後、高名なロックカメラマンであるロス・ハルフィンは、自ら申し出てMETALLICAとBABYMETALの「ずっ友」写真を撮ってくれ、「日本で凄いバンドを見つけた」とSNSに書いてくれた。ロック写真バカ一代の「推し」情報は、またたくまに世界中のメタル関係者に広がり、「ギミチョコ!」のMV再生回数などのデータにも勇気づけられたロンドンの興行会社は、2014年7月、BABYMETALのロンドン初単独ライブ会場を、小さなライブハウスから収容2,000人のThe Forumに変更し、ソニスフィア2014でのメインステージ昇格を決めた。

そしてメインステージに上がったBABYMETALは、大人たちの思惑や予想をはるかに上回るインパクトで、初見の7万人(公式)のイギリス人メタラーをノックアウトしたのだった。

BABYMETAL海外進出の成功は、ロス・ハルフィンなくしてはあり得なかった。

ぼくは今までそのお姿を見たことがなかった。カメラマンだから盲点だったのだ。なんとなく、長髪でヒゲもじゃの、人の好さそうな大男を想像していた。

ところが『ヘドバン』Vol.13の単独インタビューに答えている彼のポートレートを見ると、細身で、短髪で、おしゃれなメガネをかけた知的な大学教授タイプではないか。

梅沢編集長によるインタビューでわかったことは、元々「Sounds」誌に投稿していたHR少年だったこと。「Sounds」誌の付録メタル年鑑として「Kerrang!」(これも初めて知ったが、ギターを“じゃらん”と鳴らした音を英語の擬音でKerrang!というところから来たのだそうだ。)が創刊されたとき、AC/DCのアンガス・ヤング(G)を撮影したカラー写真がその表紙を飾ったこと。

当時のNWOBHMのバンドはみんな「冗談みたいに下手クソ」だったが、アイアン・メイデンとデフ・レパードはまだマシだったこと。パンクではセックス・ピストルズとクラッシュ以外は全部ダメで、スラッシュメタルの雄、メタリカも最初は「キッズがやってるバンド」で「たいして演奏もできなかった」とのこと。

今でもメタリカはあまり好きではなく、好みの音楽はグランドファンク・レイルロード、モット・ザ・フープル、フリー、バッド・カンパニーなど1969年~1975年までだそうだ。

ただラーズ・ウルリッヒが、アイアン・メイデンの公式カメラマンとなった新進気鋭のロック写真家ロス・ハルフィンにオファーしたことで、バンドの公式カメラマンとなり、途中他のカメラマンに浮気されたが、現在では継続的にバンドに帯同している。

「5回も6回も結婚しても、彼(ラーズ・ウルリッヒ)が本当に愛しているのは俺なんだ(笑)」とのことで、業界では、ラーズはロス・ハルフィンの“ボーイフレンド”だと認識されているという。

膝を打ったのは、NWOBHMのバンドやハードコア・パンクバンド、初期のスラッシュバンドが「下手クソ」だったということ。実はぼくもそう思っていたのだ。

第三期パープルやレインボウと比べると、楽曲は単調で、ギターのリフもリードも易しい。ただ音がでかく、オンマイクで歪んだボーカルをがなり立てるように歌う。うるさいだけのコケオドシ、ファッション。それがパンクやNWOBHMの印象だった。

同じ『ヘドバン』Vol.13には、川嶋未来(SIGH)による「エクストリーム・メタルの歴史」が連載されている。ここでも1983年頃の初期スラッシュメタルバンドやハードコア・パンクバンドは、「ただめちゃくちゃやっているだけ」「ギターを買ったその日に演奏できてしまう(ヘルハマー)」「全ての楽器が全くバラバラ(ソドム)」だったと述べられている。

しかし、川嶋未来は、ものすごいBPMで「サタンがー」と叫んでいるだけのこの頃のバンドには「初期衝動」があり、バンドが成熟するにつれ、「誰が一番速いか」「誰が一番イーブル(Evil=悪)か」という過激化の方向と音楽的な発展・洗練の方向へと進んでいったという。その果てに、1986年にリリースされたメタリカの「マスター・オブ・パペッツ」はスラッシュメタルの頂点としてメインストリームに受け入れられたが、それはスラッシュメタルが普通の音楽に「退化」したことに他ならないのだという。

川嶋未来は、メタリカ、スレイヤーが高い演奏力と作曲力を有しているといっているが、それはロス・ハルフィンの評価とは違う。

おそらくスラッシュメタルやハードコア・パンクバンドの中では相対的に演奏できた方だという意味なのだろうが、当時バリバリ弾いていたリッチー・ブラックモアやヴァン・ヘイレンやジェフ・ベックに比べれば、ぐっと落ちるはずなのだ。

ぼくが見たソウルのメタリカは最高だったが、それは演奏技術云々ではなく、観客を熱狂させるライブバンドとして素晴らしかったということだ。35年間第一線のライブバンドとして世界中を巡業し続けてきたのだから演奏力は磨きがかかっているが、それはジェフ・ベックみたいに技巧を聴かせるというのとは違う。カーク・ハメットが、ジミヘンやリッチーばりにパフォーマンスし、韓国人ファンがキャー!とウケるのは、違和感があった。

映画「メタリカ:真実の瞬間」で、ラーズとジェームズの喧嘩の間に入ってオロオロし、まあまあといって収めるお人好しキャラで、個性を前面に出すタイプじゃないハズなのに…。

ロブ・トゥルージロは、間違いなく現代ロック界の至宝といってよい技巧派ベーシスト。それでもメタリカではスラップ奏法を抑え、メタリカらしさに徹している。

つまり、メタリカの35年の重みとは、技巧に走らず、歌詞のメッセージ性や、重い音作りや、ライブで観客の感情を爆発させる“メタリカ節”といえる表現力を試行錯誤しながら身につけていったところにあるとぼくは思う。だから今が最高なのだ。

メタルが「超絶技巧音楽」として認知されるのは、ギターでいえば、メガデス全盛期のマーティ・フリードマン、クラシカルメタルのイングウェイ・マルムスティーンやクリス・インぺリテリ、パワーメタルのサム・トットマン、ハーマン・リ(ドラゴンフォース)、キコ・ルーレイロ(アングラ)、プログレメタルのジョン・ペトルーシ(ドリーム・シアター)らが輩出した1990年代、メタルの多様化、拡散期以降だと思う。

だが、そういうバンドとしての個性の獲得や、表現技巧を身につけることは「退化」であり、「初期衝動」に満ちた初期スラッシュメタルこそメタルの本質だというのが、どうやら川嶋未来の主張らしいのだが…。

BABYMETALには、そんな「初期衝動」なんかゼンゼンない。

ずいぶん前に書いたが、アンディ・ウォーホルは、評論家が「作家の内面」やら「制作の背景となる個人史」やらによって作品に意味づけようとするのを拒否し、「作品の表面だけを見てください」と言った。つまり、芸術作品は一方的な“解釈”によって意味づけられるものではなく、鑑賞者がそれを自由に解釈し、消費する権利を持っているということである。

まして評論家が、ある作品や作家を勝手に「○○派」と名づけ、分類し、系譜に位置づけるなどということは、商業的なキャッチフレーズ以外の何者でもない。

NWOBHMやハードコア・パンクやスラッシュメタルに属することになっているバンドだって、何かグループとしての実体があるのではなく、評論家やレコード会社が売り出しコピーを考案し、ひとくくりにしたに過ぎない。

♪「私たち似た者同士だなんて一緒くたにしたがるけど 本当はそれぞれアンテナ立ててちっちゃなハートみがいてる」(さくら学院「Friends」Copyright©トイズファクトリー)みたいな?

ここからは個人的意見というか、好みの問題だが、バブル期の新サヨク文化人が好きそうな、その実バブリーな商品に過ぎなかったこういう「初期衝動」とか「プリミティブな情念」とか「ポストモダン」とか「脱構築」とかを、ぼくはあまり信用していない。

一見滅茶苦茶に見える前衛絵画でも、技術の洗練、表現の鍛錬を経たうえでのそれと、子どもが描いたものとはおのずから異なる。

今も昔も芸事の本質は、「感性」を表現技術の鍛錬によって大人の鑑賞に堪える「芸」に高めていくことだと思う。バブル期に「プリミティブ」とか「ポストモダンの情念」として売られた芸術家のうち、現在まで活動しているのは、ちゃんと技術を持っていた方々だけだ。

ぼくが秋元康を嫌いなのは、バブリーな業界人感覚で、プリミティブ=素人をきちんと育成せず、その場限りの商品に仕立てて儲けるという仕組みがミエミエだからだ。

ものすごい表現技術の修練を経た者が、あえてシンプルでプログレッシブな表現を求めたのなら凄いことだが、NWOBHMとか初期スラッシュメタルに属するとみなされた下手クソな半素人バンドが、技術的に上達し、表現の幅を増していくことは「退化」ではなく、単なる正常進化であるに決まっているではないか。

そこからスタートして、ステレオタイプな「ありきたりの商品」として成長が止まってしまうか、すぐれた個性を持って輝き続ける唯一無二の「存在=キラーコンテンツ」に成長するかが本当の勝負で、メタリカは間違いなく後者なのである。

未完成な「初期衝動」のインパクトが有効なのはデビュー時だけだ。マニアックに「これが好きだ!」と叫ぶのはいいが、「商品」になり得たバブル期ならともかく、今、そこだけを「評価」したって青少年を迷わせるだけだ。バンド人生は長いのだ。

BABYMETALは、デビュー曲の「ド・キ・ド・キ☆モーニング」からして完成度は極めて高い。確かに日本人の女子小中学生が「アイドルとメタルの融合」をやっており、「なんじゃこりゃ?」であるが、よく調べていくと、幼い頃から鍛え上げられた歌唱、ダンス、日本の最高水準のミュージシャンによる演奏、メタルとJ-POPへのオマージュに満ちた楽曲の構成力など、幾重にも仕組まれたプロダクトだ。

そこには「初期衝動」など何もない。

サマソニ2012公式HPの出演者LINE UPにBABYMETALの名前はない。Marine StageにはOne Ok Rockが出演しており、RainbowStageにはももクロが出演していた。

BABYMETALは、ATTRACTIONSのSide Showの8月19日タイムテーブルの、朝から始まるお笑いライブの、あかつ、ニッチェ、ななめ45°、どぶろっくの次、18:10から18:20までの10分間だけが出番だった。

骨バンドすらも出演していないカラオケライブ。だが、メタリカを評価せず、ライブで見ているからと言ってニューアルバムを聴きもせず、70年代HRの方が好きと公言するロス・ハルフィンが、そこで見出したのが、このBABYMETALなのである。

「こいつらは凄いと感じる基準は何ですか」という梅沢編集長の質問に、ロス・ハルフィンは、「んー。ただ感じるんだよ」と答えている。

びっくりが止まらない。