BABYMETALと国際情勢(2) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
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★今日のベビメタ

本日2月19日は、2016年、「Metal Resistance」の曲目とアートワークが発表された日DEATH。

 

トランプとグラミー賞とBABYMETALの三題話のつづき。

前回、中東・アフリカ7カ国からの一時的入国停止を命じるトランプ大統領令は、異教を信じる自由、人種や性別による抑圧をする勢力からアメリカ社会を守るために出された、と書いた。

しかしそれは建前で、キリスト教右派的な「公序良俗」を乱すもの、政府に逆らうものすべてを取り締まるのがトランプの本音なのではないか…。

こういう疑念は根強いだろう。

日本でも、信教の自由や表現の自由が憲法上保障されているが、宗教組織を「カルト」に、政治団体を「破壊活動団体」に指定する権限は政府が持っているのだから、例えば今国会で審議されている国際組織犯罪防止条約(TOC条約)のための「テロ等準備罪(共謀罪)」法案に関しても与野党間で、侃々諤々の議論が行われている。

これに関してはあまり深入りせず、BABYMETALの巡業を控えたアメリカのことだけに絞ろう。

BABYMETALは海外のインタビューで、キツネ様を信じていることを公言している。Legend“1997”では、聖母マリア様の首を落とした。キリスト教右派から見たら、間違いなく異教の悪魔崇拝である。

現にアメリカの掲示板RedditのBABYMETALチャンネルには、「ダリウス神父」という方が「BABYMETAL is Satanic」というスレッドを立て、たびたび聖書を引用しながら「BABYMETALなど信じてはいけない、ジーザスはいつもあなたとともにある…」と説教している。三人のライブでの振る舞いやセリフ、さくら学院時代のことにも言及しているので、相当マニアックにBABYMETALを知り尽くしているのが笑える。冗談なのか本気なのかよくわからない。

しかし、少なくともアメリカに関しては、日本のマスコミや「常識」とは決定的に違うことがある。それは、アメリカの保守派というもののことだ。

大雑把に言えば保守派とは「古き良き時代」を守ろうとする考え方だろう。しかし、ヨーロッパや日本の保守派と、アメリカの保守派は全く違う。

ヨーロッパや日本の「古き良き時代」とは王や貴族が力を持っていた「伝統的な秩序ある時代」のことだが、アメリカは200年前にイギリスから独立した新しい国だから伝統などない。アメリカの「古き良き時代」とは、建国の理想に燃えていた頃のことを指す。

したがってアメリカの保守派が求めるのは、まずもって信教の自由と民主主義、すなわち圧政には武器をとって戦う権利を守ることである。個人が自由に生きる権利を保障するのが国家だという考え方だから、政府は治安の維持と安全保障以外、国民にできるだけ関与してほしくない。税金は安くしろ、自由市場経済には介入するな。年金や保険は個人の責任。貧しい人は努力が足りないだけだという考えである。

その中でもWASPと呼ばれる社会の中核に位置する人々は、白人優越主義で、異教や、乱れた生活習慣を非難し、日曜日の礼拝を欠かさず、“正しい”家庭像を守る敬虔かつ頑迷なキリスト教徒だ。

しかし、だからといって異教や表現の自由を権力で弾圧するのは、建国の精神にもとる。信教の自由、表現の自由、個人が自由に生きる権利を保障するのがアメリカだからだ。

自分がいくら“正しい”と思っていても、それを権力で押しつければ、それは全体主義になってしまう。アメリカに旅行をしたことがある人ならわかると思うが、入国審査用紙には、「ナチス」「共産主義」に「関わったことがある」という項目があり、それにNoとチェックしないと入国できない。

第二次世界大戦で、ナチスドイツ、ファシストイタリア、大日本帝国と戦ったアメリカは、個人を抑圧する全体主義に反対するのが国是であり、こういう“やせ我慢”をしているのが、誇り高き保守派アメリカ人なのだ。

だからアメリカは、表現大国になった。

複製芸術、とりわけ音楽と映画は、20世紀のアメリカで大発展した。グラミー賞は、蓄音機(Gramophone)からとって名づけられた。

2017年2月13日、第59回グラミー賞授賞式。イギリス人歌手のアデルが最優秀アルバムほか5冠を受賞。ノミネートされていたPPAP、じゃなかったジャスティン・ビーバーはソフトバンクCM撮影のため欠席。(ホントか?)

授賞式のパフォーマンスは、なんとレディ・ガガとメタリカのコラボ。レディ・ガガはイタリア系移民の娘、メタリカのジェームズ・ヘットフィールドはイングランド、アイルランド、ドイツの血を引き、ラーズ・ウルリッヒは結成時デンマーク国籍、カーク・ハメットの母親はフィリピン人で、彼自身カトリックの学校に通っていたし、ロブ・トゥルージロはメキシコ系だ。

レディ・ガガは破天荒な表現者だし、メタリカは社会批判、反戦を歌詞に盛り込んでいる。

曲紹介は、トランスジェンダー(性転換)女優ラヴァーン・コックスだった。「レディース・アンド・ジェントルメン、そして性別を決めつけない私の仲間たち!」と呼びかけ、第三の性をアピールした。

ここまではよかったのだが、彼(女)が、「それではお送りします。8つのグラミー賞受賞者と6つの受賞者、レディ・ガガです!」と叫び、メタリカを抜かしてしまった。

コラボ曲は、ぼくがソウルで見た新アルバムからの「Moth into the Flame」だったが、ジェームズのマイクが入っていない。しかたなくガガのマイクに口を寄せて歌ったジェームズは、曲の終了後、マイクを投げつけ、怒りの表情を見せた。

うがって考えれば、※メタリカには「Smear the Queer」という「差別用語」をはもともと子供の遊びだと答えたインタビューがあるし(Queerは同性愛者をからかう隠語)、メタリカ嫌いのスタッフが本番でわざとジェームズの音声を落としたという可能性もないではない。

しかしまあ、おそらく2つのアクシデントは文字通り偶然だと思うよ。

ちなみに、最優秀クラシック・ソロ・ボーカル・アルバム賞の「シューマン:リーダークライス、女の愛と生涯/ベルク:初期の7つの歌」には、日本人ピアニストの内田光子さんが参加しており、2度目のグラミー賞受賞となった。

昨年、人種やジェンダーの問題を訴え続けてきたビヨンセが敗れたことや、アルバム売上枚数が基準になったのではないか、とかグラミー賞の偏向・変質を指摘する向きもあるが、最優秀新人賞に輝いたチャンス・ザ・ラッパーはネット上の無料音源しか公開しておらず、ラヴァーン・コックスをコーナー司会に起用したことを考えると、やはり、アメリカには表現の自由があり、音楽や芸術の評価基準は、エスタブリッシュメントのキリスト教的道徳観からは独立していることがはっきりとわかる。

そして、なぜか音楽的には正反対といえるメタリカとレディ・ガガがコラボする。この両者に共通するのはただ一点。BABYMETALが前座を務めたということだけである。

今回、BABYMETALは惜しくもノミネートにさえ至らなかったが、キツネ様、畏るべし。

(つづく)

 

※部分は、Nancyさんのご指摘により、2017年6月15日に修正しました。(jaytc)