BABYMETALと国際情勢(1) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
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★今日のベビメタ

本日、2月18日は、2016年、NHK放送センターにて「BABYMETAL革命 世界と戦う少女たち」の収録が行われた日DEATH。

 

先週末の安倍首相の米国トランプ大統領との会談について、タケさん、マツタクさんからコメントをいただいた。以前、安倍首相のフィリピン共和国ドゥテルテ大統領宅訪問の話を書いたので、このブログに関連がないわけではない。

同時期にグラミー賞でレディ・ガガとメタリカが共演していた。これについても、どやどやさんからコメントをいただいていた。

入国禁止令自体は、連邦裁判所で差し止めとなっているので、もう緊急性はなくなったが、トランプ大統領とグラミー賞とBABYMETAL。

三題話風にまとめてみよう。

まずは、トランプ大統領による中東アフリカ7か国入国禁止令について。

今から数十年前は、ある社会的な問題について考えたり、意見を言ったりするには、図書館へ行って資料となる本を山ほど読んだり、公文書を入手するために自治体通いをしたり、現場へ行っていろんな人の意見を聞かなければなければならなかった。それをち密にやれる時間と熱意が、「正しさ」の担保だった。

それをやれない一般人は、新聞やテレビの報道を信じるしかなかった。

しかし現在は、ネットの発達で、いろんな立場の方の見方を知ることもできるし、何より居ながらにして「原典」をあたれる。つまり、マスコミの一面的な報道で、知らず知らず形成された自分の先入観を疑うことができるようになった。

BABYMETALが広告会社に頼らずに世界へ進出できたのも、こういうインフラがあったからだ。かつては、アーティストは広告費を使って音楽雑誌やMTVで「評判」をとり、消費者はとりあえずレコードやCDを買うしかなかった。しかし、今はYouTubeなどの無料動画サイトで、MVやライブの公式動画を無料で公開でき、消費者もそれらを見聴きして、自分で「いい」かどうかを判断できるようになった。ネット時代はマスコミ情報さえもOne of themの情報として、自分で判断する時代であり、BABYMETALはその勝者なのだ。

今回の問題について考える際も、ぼくはそのマナーにそって、まずは色々なサイトを見てみた。その中で、大統領令の全文を解読して、冷静に書いたものを見つけた。長山燕石さんという方のブログだった。

http://knagayama.net/blog/2017/01/31/trump-executive-order-on-terrorism/

ここでいくつかの重要なポイントに気づかされた。

まず、トランプ大統領が中東アフリカ7か国からの渡航者を入国禁止にする大統領令を出したのは「前代未聞の人権無視だ」というマスコミのとらえ方ないし先入観はちょっと違うということ。

この大統領令はずいぶん前の1952年の移民国籍法第212条(f)項に根拠を持ち、以前にも歴代大統領が特定国からの入国禁止令を出したことがある。最近では、次のようなものがある。

・クリントン大統領令(1993年12月14日)→ナイジェリアの民主化をさまたげる政策を形成あるいは実行、もしくはそれらの政策から利益を得た外国人の入国停止。

・ブッシュ大統領(2007年7月3日)→レバノンの主権と民主主義を脅かした外国人(レバノン政府高官など)の入国停止。

・オバマ大統領(2014年3月19日)→ウクライナの情勢を作り出すことに特定の仕方で貢献した外国人(ロシア連邦政府高官、ロシア軍人など)の入国停止。

つまり、アメリカ大統領には、治安上危険だったり、国策上有害とみなされる外国人を指定し、ビザの発給を制限できる権限があり、民主党=人権派の大統領はこんなことはやらない、ということはない。

ただし、移民国籍法の1965年の追加条項には、「何人も、人種、性別、国籍、出生地、また住居地によって移民ビザの発行に関する優遇、優先、または差別を受けることはできない。」(長山さんの訳)とあり、「単に国籍だけで制限するのは違法だ」という議論は成り立つ。

そこで、「単に国籍だけで制限」しているのかどうか、大統領令をぼく自身でちゃんと読んでみることにする。

引用元はこちら。

EXECUTIVE ORDER: PROTECTING THE NATION FROM FOREIGN TERRORIST ENTRY INTO THE UNITED STATES

(The White House Office of the Press Secretary January 27, 2017)

https://www.whitehouse.gov/the-press-office/2017/01/27/executive-order-protecting-nation-foreign-terrorist-entry-united-states

 

―――引用―――

Sec. 1. Purpose

(20行目から)In order to protect Americans, the United States must ensure that those admitted to this country do not bear hostile attitudes toward it and its founding principles.  The United States cannot, and should not, admit those who do not support the Constitution, or those who would place violent ideologies over American law.  In addition, the United States should not admit those who engage in acts of bigotry or hatred (including "honor" killings, other forms of violence against women, or the persecution of those who practice religions different from their own) or those who would oppress Americans of any race, gender, or sexual orientation.

第1条「目的」

(20行目から)アメリカ人を守るため、合衆国は、(入国申請を:jaytc訳注)承認される者が、決してこの国とその建国精神に対して敵対的な態度をとらないことを確認する必要がある。合衆国は、憲法を支持しない者、あるいはアメリカの法律の上位に暴力的イデオロギーを置く者を承認することはできないし、すべきでもない。さらに、合衆国は、暴力や憎しみに関わる者(「名誉」の殺人、その他、女性に対する暴力、または自分と異なる宗教を信じる人々の迫害を含む)や、人種、性別、性的指向に基づく抑圧を行う者を承認するべきではない。(翻訳:jaytc)

――引用終わり――

第1条目的の項の20行目からだが、非常に良いことが書かれていると思いませんか。

法令にこういう「理念」が書かれるところが実にアメリカらしい。

アメリカという国は、イギリス国教会の教義と強権に従わないという理由で抑圧され、逃がれてきた清教徒たちによって建国された。そして、彼ら建国の父たちが偉いのは「清教徒の国」ではなく、「信教の自由を保障する国」を作ったことだ。リンカーン大統領による奴隷解放と60年代の公民権運動で、そこに人種による差別や、性別や性的指向(ゲイやレスビアン)による差別も、法的に禁止された。

ぼくはいい加減なカトリックだが、「宗教改革によって、中世の闇から人間が解放され、自由にものを考えられるようになり、科学が発達した」というプロテスタント的歴史観は頭から信用していない。確かに近代社会は、教会と信仰、信仰と哲学、真理と科学を分離する近代思想から生まれた。それによって人類は豊かになった反面、様々な問題も生じたのだとぼくは考えている。キリスト教には「皇帝のものは皇帝に、神のものは神に」(イエス)という考え方があるから、世俗的に人々が「食えるようになる」ためには、科学技術や経済理論や社会政策は有効だと認めるが、「生きる意味や目的」を考えるときには、未だに「哲学は神学の婢」(トマス・アクィナス)であって、神と教会と人間は切り離せないと思っている。

わかりにくいね。つまり前近代にとどまっているのだ。

それから見ると、この文章に記されたアメリカの「建国の精神」は実に近代的で、わかりやすい。個人の自由に属する神の教えや主義主張を社会の決まりに持ち込まない、という政教分離の近代的思想だ。これなら、いろんな人が一緒に暮らしやすい。だからアメリカは繁栄したのだ。

しかし、ISISなどの一部ムスリム過激派や、狂信的な共産主義者はそうではない。

「自分たちの信じる考えは神から与えられた、あるいは唯物史観的に、絶対に正しいものであり、神あるいは党に従わない者は悪魔なのだから、殺してもいい」と考える人々にとって、アメリカのような「他の宗教を認める」「神の教えに反したジェンダー観、性的指向も容認する」という法律を持つ国が繁栄し、世界の主導権を握ることは、我慢ならないだろう。

決定的に相容れないのだ。だったら、そういう人たちは国に入れない方がいい。それがこの文章の趣旨だろう。

これとBABYMETALが何の関係があるのか。

BABYMETALは4月からまたしてもレッド・ホット・チリ・ペッパーズの前座として、アメリカ東部から南部、キリスト教右派の多い、いわゆる“バイブルベルト”を巡業する。

これについて、一部のサイトでは「トランプ大統領は人種差別主義者で、WASP以外の外国人を締め出そうとしている。キツネ様を崇拝するBABYMETALは、ひどい目に合うかもしれない」などという憶測が流れている。

全然違うのではないか。

この大統領令は、少なくともその目的においては、キツネ様みたいな異教を信じる自由、人種や性別による抑圧をする勢力からアメリカ社会を守るために出されたということは間違いないのだ。ここで想定されているのは、「イスラム教徒」や「中東7カ国の全国民」ではなく、現にキリスト教の聖職者を殺し、少女たちを拉致し、戦闘状態になっているISISなどの過激派なのである。

無関係の同盟国から来た女性三人組が、アメリカン・バンドの要請を受け、正規のビザで前座として興業するのを禁じるわけがない。

(つづく)