ブルースとの向き合い方(4) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ

2015年、ファーストアルバム「BABYMETAL」が、「第7回CDショップ大賞2015」にノミネートされた日DEATH!(2015年3月9日、見事大賞を獲得。)

 

実はもうひとつ、アメリカ人のブルース偏愛への対処法の、いわば王道がある。

それは、これまでもBABYMETALの武器となってきた「ジャパニーズスケール」である。

マイナーペンタトニックは、ドレミソラの5つの音を指す。

ドレミファソラシドはイタリア語、英語やドイツ語ではCDEFGAB(H)C、日本語ではハニホヘトイロハとなる。だからKey=Cはハ長調、トニックはド=Cということになる。

ペンタトニックは、このうち、ファとシが抜けている。4番目と7番目が抜けているので、ヨナ抜き音階ともいう。実はこのヨナ抜き音階というのは、演歌の定番であり、いわば「ジャパニーズスケール」といえる。

前回書いたように、マイナー(短調)の曲はペンタトニックで構成できる。演歌や日本の童謡の多くが短調だから、このヨナ抜き音階で構成されていることが多い。

演歌=日本のブルースというのは、単に恨みや悲しみを歌った唄というだけではなく、音階的にもあながち間違いではない。

「メギツネ」(Key=Fm)のメロディ、「いにしーえーのお(と)めたちよ、かりそーめーのゆ(め)にう(た)う」のカッコに入れた2つの音以外は、すべてマイナーペンタトニックである。

マイナーペンタトニックの運指(Key=Fm=1フレット)に、この2つの音「と・め」=3弦開放、「た」=2弦2フレットを加えただけで、「メギツネ」の全メロディが弾ける。

「ソレソレソレソレ!」とか和風衣装とかキツネ面とかで、和風に仕上げてはいるが、アメリカ人はあれをマイナーペンタトニック、つまりジャパニーズ・ブルース・ファンクだと思っているフシがある。

だから、ウケる。

しかしここにはブルーノートが入っていない。

入れるとすれば「おとめたちよ」の「た」をいったんシャープさせてから戻す、とか「かりそーめーのー」の「の」を4分の1音下げてから戻すとか、「ゆめにうたう」の「う」をいったん半音階上げてから戻すとか、なんのことはない、藤あや子なら自然にやっている感じ、すなわちコブシを効かせると、これがブルーノートになる。

「KARATE」もそうだ。「なみだーこぼーれーても」の「も」の部分だけでも、半音階上げてから戻すと、これがブルーノート。半音階-戻す-半音階―戻す、「もうおうおう」てな感じでやると、アメリカ人にはオリエンタル・ブルースに聴こえる。

マーティ・フリードマン以外のアメリカ人は日本の演歌歌手の歌唱法をほとんど知らない。

だから、「SU-METALは日本の伝統的なブルーノート唱法を身につけており、へヴィメタルという文脈の中でそれを表現している」という情報を流すと、アメリカ人音楽評論家は飛びつくだろう。

なにせ、これまで日本人かつ日本語のロックで、ここまで世界中から注目されるアーティストはいなかったのだ。そして、SU-の歌唱のすばらしさは認めつつも、それを何と名づけたらいいのかわからなかったのだ。演歌的なコブシを、アメリカ伝統のブルース唱法ではないものの、「オリエンタル・ブルース」と定義すれば、その歌唱技術を身につけたロック・シンガーとして認知されるかもしれない。

実は、今、アメリカの市場で活躍している日本人アーティストといえば、宇多田ヒカルとOne OK RockのTAKA。二人には、高名な演歌歌手のジュニアだという共通点がある。

宇多田ヒカルはブラックミュージック、ワンオクはオルタナティブ・ロック(エモ)とジャンルは違うが、「和風」を打ち出してはいない。「日本のブルース」である演歌の「血」をひいていることを進んで訴求してもいない。

しかし、BABYMETALは、あえて「メギツネ」とか「KARATE」とか、和風の楽曲をへヴィメタル化し、それが「ジャパニーズ・ブルース・ファンク」としてウケている。

だったら、それを拡大し、J-POPではない、トラディショナルな「日本のブルースの血」が、アメリカ音楽の「血」であるブルースと共鳴するという“物語”を訴求したらどうか。

宇多田、ワンオク、BABYMETAL。

それが音楽史における1960年代のBritish Invasionならぬ2010年代のJapanese Invasionの本質なのだ、という物語。

 

アイドルから演歌歌手になったのは、元おニャン子クラブの城之内早苗がいる。いや、なにもSU-に演歌歌手になれといっているのではなく、ブルーノートのことだ。

現役アイドルでは、2010年、「月刊MELODIX」で、ゆいちゃんと「胸キュンセリフ対決」をした私立恵比寿中学の廣田あいか(あいあい)が、見事なブルーノート唱法を披露したことがある。

坂崎幸之助のフォーク村で、アコースティックギターの伴奏にのせて、井上陽水の「傘がない」を歌ったときのこと。この曲の原曲は、前座でレッドツェッペリンを食ったグランド・ファンク・レイルロード(GFR)の「Heart Breaker」。ほらつながってきたでしょ。

廣田あいかは、そんなことは知らなかっただろうし、ブルーノート唱法を研究したわけでもなかろう。普段のアニメ声で登場し、いきなり「都会ではー↑」がもうブルーノート。「自殺するー」にいたっては、「う↓う↑」てな感じで、ブルースフィーリングの上げ下げを本能的にやっている。ブルーノートといっても、完全な半音ではなく、譜面には表せない4分の1音とか、微妙な音階の上げ下げで「味」が出る。

廣田あいかはモノマネに近い感覚で、この「味」を出そうとしたんだと思う。しかし、観客は驚愕し、「カッコええ!!」とウケる。ブルースは魔法の一種であり、一度ウケると病みつきになる。そして何十年も経って初めて、その真髄に達する。つまり、その節回しの微妙さに現れる「味」とは、その人が歩んできた人生そのものの年輪なんだということに。

SU-やYUIやMOAが、年輪を感じさせるブルースを歌う日は来るだろうか。