ブルースとの向き合い方(2) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ

本日2月2日は、2014年、台湾・台北にて、完全櫻樂團2バンライブ「BABYMETAL×ChthoniC 」が行われた日DEATH!

 

ブリティッシュ・ロック、アメリカン・ロックの伝統には、ブルースの血が流れている。

ブルーノートはジャズの代名詞でもあるし、ブラックミュージックであるヒップホップやEDMにも入っている。

だから、アメリカ人は、ブルーノートが入っていない楽曲には、カッコよさや「味」を感じない。クラシックっぽく聴こえるのだ。ブルース臭さから離れようとして、バッハ音階を超絶な速弾きで表現するイングウェイ・マルムスティーンも、ヨーロッパで人気のあるシンフォニック・メタルやジャーマン・メロスピも、アメリカではパッとしない。刺さらないのだろう。

ここが、BABYMETALが「本物のメタル」としてヨーロッパでは認知されても、アメリカでは「ロックじゃないよね、ポップだよね」と思われる根本的原因ではないか。

という問題意識から、前回、ブルースという音楽の形式を説明し、3コードとペンタトニックという音階、チョーキングというテクニックをご紹介した。

今回もその続き。

ブルースで用いられる3コードの中で、ドミナントコードに7という数字がついていた(Key=GならD7)。

この7というのは、コードの基音から数えて7番目の音(Key=Cならシ)のこと。これを半音下げた♭シ(短七度)を普通の3和音(ドミソ、トライアド)に加えると、より「次のコードに移行する感じ」が強くなるとともに、ブルース/ロックっぽい感じになるのでポップス系ではよく使われる。

しかし、BABYMETALの楽曲では、前に「シンコペーション」の記事で書いたように、ブルース臭さを排除するためか、徹底してこの音を避けてきた。

Key=Dmの「ヘドバンギャー!!!」の「即座に~消え失せろ~」のあとのドミナントコードも、A7ではなく、ただのA。

だからKey=Amの「シンコペーション」の曲中、2分14秒にドミナントコードとしてE7#9のいわゆる「ジミヘンコード」が出てきたとき、衝撃的だったのである。

#9はコードの基音から数えて9番目の音(Key=Cなら1オクターブ上のレの#=短三度=♭ミ)だが、この音をコードの中に7th(シ♭)と一緒に入れると不協和音っぽく響き、ディープな黒さ、曲によってはオシャレに聴こえたりもする。

このように、楽理上、コードの基音、例えばKey=Cならドから数えて三番目、五番目、七番目の音をそれぞれ半音下げた♭ミ、♭ソ、♭シを「ブルーノート」という。

前回ご説明したペンタトニックは、確かにブルースのソロが弾けるのだけど、正式名称はマイナーペンタトニックというもので、短調の曲に合う音階である。これだけだと、なんとなく演歌風というか、寺内タケシのじょんがら節というか、ダサい感じになってしまう。それに今あげたブルーノートを加えたのが実際にブルースマンが使う、洒落乙なブルーススケールである。

なんでこんな小難しいことを書いてきたかというと、楽曲のコード進行上、これまで避けてきた7や#9といったブルーノートをもっと入れた曲を作れば、アメリカ人は「おっ、BABYETALの曲には味があるな」って感じると思ったからだ。アメリカ人はブルーノート中毒なのである。

海外では生演奏されていない「シンコペ」はブルースコードを使っているし、キーボードもギターもソロはペンタトニック。ぜひアメリカツアーでトライしてみてほしい。

コード進行だけでなく、演奏面では、半音~2音くらいまでアナログに音を上げていくチョーキング(ベンドともいう)は、西洋音階的には「雑音」みたいだが、やっぱりこれがないとブルースにならない。

ボーカルやギター、ブルースハープ(ハモニカ)では、譜面に書いてなくても、プレイヤーが自在にこのテクニックを使ってブルーノートを表現する。

前座でBABYMETALを堪能した後、レッチリを聴くと、そのリズムの緩さとともに、いたるところにペンタトニックのフレーズ、ブルーノートが入った歌唱法が続き、いなたい感じ、退廃的な感じを抱く。

メタリカもいわゆる速い・重い・暗いスラッシュメタルだが、ギターのリフやソロは8割がたマイナーペンタトニックの手癖だし、ジェームスのボーカルもブルーノートが多用されている。

最も新しいところでいえば、例えばガンズの「Paradise City」(Key=F#)の出だし、アクセルは「Take me down to the Paradise City…」の「Down」をいったん4分の1音階くらい下げてからF#(一度)に戻り、「City」はE♭(♭三度)からE(三度)に上げている。見事なブルーノート唱法。イントロのバッキングは、「サボテンの花」みたいなのに、アクセルがこう歌うことで、アメリカの大地が広がる感じになる。続いて重いドラムが入り、歪んだレスポールが「ジャガジャーン」とくると、もう「Yeah!」という感じになる。

ボーカルがナチュラルなブルーノート唱法の節回しを表現し、ギターがブルーススケール=ペンタ+ブルーノートを多用することで、ブルースの血脈を受け継ぐ正統ロックらしさ、泥臭さ、カッコよさ、ひいてはアメリカ人が大好きな「味」となる。

BABYMETALでは、神バンドのソロ、それも「CMIYC」や「Mischief of Metal Gods」、最新では「あわ玉」のアドリブで、少しだけペンタを使ったソロが聴かれる。あくまでもぼくのイメージだが、藤岡神はほとんどペンタを使わず、“アウト”なソロに徹する。大村神も、国歌を織り込んだりしたあとはバッハ音階のソロをやる。しかしLEDA神は、後に控えるバンドの楽曲フレーズを入れてもくるが、結構な割合でハイフレットチョーキングを使ったペンタ、ブルーノートを入れてくる。京セラドームで壁越しにリハを聴いただけで、「今日はLEDAと藤岡だな」と言い当てられた(ちゃんと開演前にブログにアップしてるよ、エヘン)のもこのためである。瀧田→BOH神は外してるけどね(^^♪

SU-はほとんどブルーノートを使わない。使う楽曲もないし、どう入れたらよいか教わっていないだろう。ほとんどのブルース/ロック歌手は、小さいころからそういう歌い方を見よう見まねで身につけただけだから、楽理など知らない。いわば育ち方の問題で、中元すず香という歌手は、そういう育ち方をしていないというだけのこと。お父さんがボーカリストだったらまた違ったはずだ。

ただ、「KARATE」のハミングは、2016年5月のアメリカ東海岸で初披露されてから、東京ドームまではメロディ上の変化だけだったが、レッチリ以降は明らかに変わった。8分の1音階ほどもないが、細かいビブラートを入れて、アンソニーやアクセルのブルースフィーリングを取り入れようとしているように感じる。だが、まだ「味」にはなっていない。

(つづく)