BABYMETALの夢 | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

新年明けましておめでとうございます。

今年も、BABYMETALの味方として、その活躍と成長を見守り、ベビメタ現象を通して見えてくる2017年のヨノナカの動きを考察していきたいと思います。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

さて、新春一発目のお題は、今、日本には「BABYMETAL世代」といったものがあるのではないかということ。

BABYMETALは、昨年、ウェンブリーを皮切りに東京ドームまで45万人を動員し、レッチリサポートアクトでも感動の輪を広げた。しかしAKBグループ、ももクロ、乃木坂、欅坂などのアイドルグループに比べて、実はBABYMETALの平均年齢は低い。

今年、SU-METALは19歳になったばかり、YUIMETALは6月20日、MOAMETALは7月4日に18歳になる高校生に過ぎない。

実は今、日本のサブカルチャー(“サブカル”ではなく、広く大衆文化)界は、10代、高校生の若い才能がどんどん出てきている大転換期にあたる。

映像の世界では、3月いっぱいまでまだ現役高校生の安藤勇作君が主催する「ヤンユチュ」(Young YouTube)映画祭が2014年から始まり、高校生や高校を卒業したばかりの映像監督・クリエイターが大量に生まれつつある。

また、初音ミクをはじめとしたボカロのソングライターとして、紗繭さんやしほり(旧瀬名)さんら、やはり高校生または高校を卒業したばかりの作曲家が大活躍している。

彼らは、生まれたときにすでにインターネットがあった世代。ウィンドウズ95の発表が1995年(ローリングストーンズの「Start me up」のCMが懐かしい)で、それから10年ほどかかって高速インターネットが普及し、動画が上り下りとも自由に使えるようになった頃に高校生になったのがこの世代だ。

彼らは例外なく、YouTubeやニコニコ動画をメディアとして、PC上のソフト(画像編集、DTM、ボカロ)を使って制作している。作品の制作だけでなく、映画や楽曲を作るうえでの製作費の捻出も、クラウドファンディングを活用するなど、ネットがインフラとなっている。

現在現役で商業的成功を収めている漫画家やアニメ作家、作曲家は、彼らよりひと世代~ふた世代上になるが、制作現場でPCを使って様々な利点を得ているのは同様だが、基本は手書きだったり、実際の楽器演奏やバンド活動だったりして、最終的に商業映画やCDのリリース、利益の獲得という構造を目標にしている。

だが、高校生クリエイターたちは、いきなりパソコン上で作業をはじめ、ネットにアップして、一定数のPVを獲得することを目標にしている。それを商業作品にするかどうかは、「大人の決めること」であって、自分たちの世代の中で「ウケる」かどうかが、最大の関心事のような印象がある。(誤解だったらごめんね)

ただし、その場合のPVの「顧客」対象は、日本を飛び越して、全世界に広がっている。インターネットなのだから、日本と世界は“地続き”なのだ。映像や音楽は、日本語がベースだが、英語だろうが、何語だろうが、面白いものは面白いという判定が下る。彼らは軽々と国境を超えるのだ。

ほんの一つ上の世代は、基本的に国内の市場を前提に作品を作るし、海外向けをターゲットとする人は、相当構えて作っているはずだ。もちろんアラサーのクリエイターたちは、売れなければ食えなくて、やりたいことが続けられなくなる怖さを知っているので、ある程度市場を意識して作品を作るわけで、家庭にいて「売る」必要のない高校生クリエイターたちとは、立場が異なるということがまずあるだろうが、たぶん、まったく価値観が違うのだと思う。一言でいえば「シミュレーション感覚」とでも言おうか。パソコンとインターネットの中に没入してしまうと、そこは現実世界とは異なるルールで動く別世界であり、自分が作った作品に評価がつくので、面白くて次から次へと創作をしていくことで、どんどん才能が開花していくという感じか。

実は、BABYMETALの三人にも、こんな感覚があるのではないだろうか。

中学校1年生と小学校5年生だった三人は、歌手・アイドルになりたくてさくら学院に入った。しかし、プロデューサーにやらされたのは「重音部」BABYMETALであった。中元すず香はSU-METAL、水野由結はYUIMETAL、菊地最愛はMOAMETALという“芸名”で行うそのライブは、メタル少女歌劇であって、肉体的な負担はもちろんあるにせよ、やっていることは「演技」に近かった。インタビューでは、聴いたこともなかった「メタリカさんを尊敬しています」「カンニバルコープスが好きです」「(スレイヤーの)ケリー・キングさんが禿げ頭でヘドバンするのがカッコいいと思います」などと言わなければならなかった。ところが、観客は本当にそれを信じてライブでは熱狂するし、DVDやCDもそこそこ売れる。2014年のファーストアルバムもビルボード200に入るし、さすがに知っていたレディガガの前座も務めることになった。さくら学院の重要イベントTIFがあったのに。

念願だった欧米ツアーも大人気になり、NHKの単独取材があり、中高年のおっさんファンが急増。客にウケるので楽しいのだが、なんとなく「夢の中」にいるような気分だったのではないか。

そして体が急に大きくなって過酷だった2015年のワールドツアーを経て、2016年は、それまで聞いたこともなかったがどうもすごく有名らしいウェンブリー・アリーナで日本人初のライブをやった。

世を忍ぶ仮の姿の時は普通の高校生なのだが、海外で、英語だが「紙芝居」であのイントロが流れるとLegend“I”以来の「ベビメタ歌劇」の感覚が蘇り、本当になりきってしまう。自分たちでも本気でメタルが好きになりつつあるのか、メタルバンドを演じているのか、わからなくなっている。セカンドアルバムはなんと坂本九以来53年ぶりのビルボード200のトップ40に入った。そして東京ドーム公演では2日間11万人の人が集まってくれた。

BABYMETALにとって、自分たちが与えられた楽曲、振付を全力でこなし、「お客さんを笑顔にする」ことと、キツネ様のお告げに従うKOBAMETALのプランによって、世界的に「売れる」こととは、主観的には、実は関係ないのではないか。東京ドーム後のインタビューで、SU-は「ここがゴールではない」と言ったし、MOAは世界に70億人いるなら、11万人はほんのわずかでしかない」と言ったという。つまり夢の世界においてBABYMETALは最強のゴールシーカーである。

しかし、もう虚実皮膜になっているとはいえ、三人は生身の19歳、18歳の少女たちである。自我もどんどん大きくなっているだろう。今年の課題は、生身の自分たちとBABYMETALをどう統合していくか、にあるのではないか。

高校生クリエイターたちも、今は「シミュレーション感覚」で作品を作り続けているが、それが現実の世界で注目され、評価され、「値段」がつくようになっていくと、早晩「職業」にするのかどうかという選択を迫られることになる。

大事なことは、歴史上「芸術家」「アーティスト」(どっちでも同じだが)は、「職業」ではない、金儲けではないと自己規定しつつ、売れたり、世間から忘れられたりしながら、どうしようもない衝動に駆られて作品を作り続けてきた人たちなのだ。

YUI、MOAは今年高校3年生。大学進学という難題があるが、BABYMETALも、少なくとも商業アイドルであることはやめて、アーティストの道を進みつつあるとするならば、迷いつつ、でいいと思う。おじさんはそう思う。

 

お正月も仕事をしている人たちがいる。いろいろな事情で祝えない人たちもいる。

それどころか、食うにも困る人たちがいる。戦火の中にいる子どもたちだっている。

ネットで流通する映像作品や音楽作品を享受できる人たちは、実は相当に恵まれている。

このブログを読んでくださる方も、これを書けるぼく自身もやはり恵まれている。

芸術作品であれ、商業作品であれ、映画やアニメや歌で腹が膨れるわけではない。だが、一面それは、食べ物を配ることよりも大切なことなのかもしれないのだ。

迷いつつ、どうしようもない衝動に駆られて作り上げた作品だからこそ、そこに経済活動や政治行動とは、次元の違う感動が生まれる。それが、ぼくら自身を変えていく。

歴史の大きな流れの中で、BABYMETALに意味があるとすれば、2017年現在、日本人で、世界中をライブして回り、全力でパフォーマンスすることによって、見る人、聴く人を勇気づけ、立ち上がらせ、少しでもいい世界を作るための「空気を入れる」ことができる貴重な立場に立っているということだろう。

だから、ぼくら自身も試されているのだ。ただ単に「カワイイ」「カッコいい」「凄い」で終わらせ、BDを見終わった後、涙を拭いて鼻をかむだけなのか、それともそこに何らかのメッセージや意味を見出して、自分の仕事や生きざまに反映していくのか。

2017年。

BABYMETALの味方であり続けるために、とりあえず、背筋を伸ばそう。