心優しきメタルヘッド | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

2011年封切の「メタルヘッド」(原題「Hesher」)という映画をご存じだろうか。

もう5年前だから、ネタバレしてもいいだろう。

舞台はアメリカの田舎町。普通の家庭に突然、不幸が訪れる。お母さんが交通事故で死んでしまったのだ。亡き母を慕って、街で廃車にされた母の車を探し続ける息子TJ。父ポールは妻の死にショックを受けて仕事を辞めてしまい、認知症気味の母(息子にとっては祖母)のいる実家に引きこもってしまう。

そこへ、街でTJが投げた石が当たって怒るヒッピー風のヘッシャー(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)という男が登場する。ヘッシャーは長髪に顎鬚にタトゥーの典型的なメタルヘッド(メタルファン)で、話し相手がほしい祖母に気に入られて、家に住み着いてしまう。大音量でヘヴィメタルを流し、めちゃくちゃな言動で、TJをいじめている悪ガキを懲らしめたり、人生を見失っている冴えないスーパーのレジ係ニコール(ナタリー・ポートマン)を助けたりして、徐々に周囲の人の心を癒していく。最後、祖母が亡くなり、墓地でヘッシャーが珍妙な「説教」をして去っていくと、父ポールはひげを剃って立ち直り、TJも母の死を受け入れていく、というハートウォーミングな“いい映画”である。

METALLICAが楽曲の使用を許可したので、いい場面で曲がかかるのだが、ストーリー自体にメタル色は全くない。ヘッシャーのモデルは、1986年に24歳で亡くなったMETALLICAのベーシスト、クリフ・バートンだそうだ。

METALLICAの「Through the Never」のようなシュールさはもちろんないのだが、このヘッシャーという男、典型的なメタルヘッドとして描かれているにもかかわらず、よく考えると、その素性は一切明らかにされないところが謎めいている。

ラストシーンから見れば、その風貌からしてキリストっぽくて、親子の精神的危機を救いに来た天使(「ベルリン、天使の詩」みたいな)とも見えるし、悪ガキにいじめられている成長期の少年を救う迷惑ギャグヒーローとなれば、日本のアニメ「ど根性ガエル」や「ドラえもん」と同じ構造である。それがアメリカのコメディ映画だから、メタルヘッドおじさんになっているに過ぎない。

まだレンタルショップにはDVDがあるかもしれない。観てみたい人はどうぞ。ヘッシャーとニコールのセックスシーンがあるのでR指定ですが、普通に泣けます。

しかしまあ、この映画の紹介がしたいのではなく、この映画に描かれた「典型的なメタルヘッド」というのが、パトカーにダイナマイトを投げたり、ぶつけた相手の車の運転手に喧嘩を売ったり、粗暴でめちゃくちゃな性格である反面、実は、心優しく、賢く、苦しんでいる人のために行動する「ナイスガイ」である、と考えられているのだなあということだ。

さっき、「ど根性ガエル」「ドラえもん」と書いたが、「暴力的で原始人的だが、実は心優しきヒーロー」というのは、数多くの映画の主人公のキャラクターではないか。「ターザン」「クロコダイル・ダンディ」「フーテンの寅さん」…。

このブログでも何度か書いているが、メタルという音楽は、大音量で、歪んだギターのリフとドラムのブラストビートで、暴力的な衝動とか、社会風刺的な歌詞を絶叫する音楽で、長髪、髭、革ジャン、タトゥーがデフォルトだから下品で粗暴だと思われているが、メタルファン=メタルヘッドは、歌詞の意味に共感し、爆音でフラストレーションを解消するのだから、実は政治や社会の状況に敏感な、高学歴のインテリが多い。それに加えて、日常生活では一見変人だが、心優しい人というのが、アメリカ人のとらえ方なのだろう。

もちろんヤクにハマって、手当たり次第にモノをブチ壊したり、女を漁りまくったり、大酒飲みだったりして、生活が破たんしている奴も大量にいるだろう。

だが、少なくとも、日常生活をまともに送っていて、なおかつメタルヘッドという人には、インテリが多いと思う。30年以上続いているメタルの王者、METALLICAのストイックなメンバーやファンを思い起こしてみればわかる。

10年前に妹の結婚式にシャーロットに行ったとき、LAでメタルバンドをやっているという旦那の弟というのが来ていて、又吉に似た風貌の、いかにもというメタルヘッドだった。

その頃、ぼくは教会でギターを弾いてはいたが、リッチーフリークを卒業したつもりになっていて、HR/HMとは縁遠かった。彼はBABYMETALをどう思っているのか。7月のライブには行っただろうか。もう一度会いたいなあ。

アメリカの2チャンネルと呼べるRedditにはBABYMETAL板があって、毎日いろいろな方がスレを立てて論争している。韓国のMETALLICAサポートアクトで、どのようなセトリにすべきか、というようなことも、ぼくがこのブログに書いたのとほぼ同時にスレが上がった。スレ主Komebitzさんの案は、韓国メタルファンにBABYMETALの演奏力やメタル性をアピールしてほしいということから、1.BABYMETAL DEATH、2.Mischief of Metal Gods、3.悪夢のロンド、4.Sis. Anger(METALLICAの「St. Anger」から)、5.ギミチョコ!!というものだった。「Mischief of Metal Gods」からの「悪夢」という展開など、なかなかスルドい。

これについて、ソロとBBMは無理やろとか、IDZを入れろとか、RORはどうしたとか、KARATEは必須でしょうとか、いろいろな方が書き込みをしていた。

Komebitzさんも書き込みをしている方も、察するにみな30代~50代で、仕事を持ち、奥さんがいて、子どもの世話に時間を取られる、アスマートはダメだとか、東京ドームは行ったが、オープニング・アクトだけの韓国はキツいといった悩みを打ち明けている。ま、日本と同じですな。

こういうのを見ていると、やっぱり、アメリカもイギリスも日本も、メタルファン、BABYMETALファンはみな同じだなあ、という気がする。

韓国のメタルファンも同じだと信じたい。