「アイドルとメタルの融合」の有効性 | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

(「UKツアーでの煽りの進化」、承前)

レッチリツアーに先立つ12月3日に放送されたWOWOW「ぷらすと 2016年総決算SP」で、おなじみのロック評論家田中宗一郎、PMCでBABYMETALにインタビューしていた柴那典、音楽ジャーナリスト宇野維正という「rockin’ on」出身の音楽評論家と、ミュージシャン兼音楽プロデューサーの西寺郷太(ノーナ・リーヴス)の4人が、2016年の音楽界を振り返る3時間を超える対談をやっていた。

その中で、ごく短い時間だったがレッチリとBABYMETALに触れた部分があった。(36分過ぎ)

BABYMETALをちゃんと評価している田中宗一郎が、「今年のフジロックのトリは3日間とも、もうすでにアメリカでは大きいフェスの一番大きなステージのトリは取れない(=集客力がない)アーティストだった」「レッチリはぎりぎりだが、UKツアーのサポートアクトとしてBABYMETALを呼んだのは、それなしにはもう客が集まらないからだ」というようなことを言った。この主張には、世界で“今”人気のあるバンド、アーティストが、日本では知られていない、聴かれていないという現状とその原因、すなわち日本での洋楽の「売り方」に対する批判がバックグラウンドにある。ぼくの文章は適当に解釈しているので、できれば直接映像を確認していただきたい。

https://www.youtube.com/watch?v=Y_USZ_afTEY

 

この長時間にわたる対談は、4人の議論がスリリングにかみ合っていて、音楽の“今”を考えるうえで、いろいろな示唆に富むものであったが、一番ぼくの印象に残ったのは、今年2016年は音楽を取り巻く様々な枠組みが、あらゆる意味で変わったということ。評論家たちが言っているいくつかの要素をぼくなりにまとめて挙げてみる。

1.CDというメディア、CDショップというシステムが機能しなくなり、CDを「売らない」アーティストがグラミー賞候補に取りざたされたこと。

2.配信の世界でも、アーティストを囲い込もうとしていた既存の有料配信システムに反対して、Spotifyはベテランも新人も並列に並べ、ファンが自分の耳で試してアーティストを選べるようにし、オープンな立ち位置で音楽界の新しいインフラを提供していること。つまり、CD会社のプロモーションだけではファンが踊らなくなったこと。(日本ではCDショップに宣伝費を出したアーティストが売り場のいい位置を占めるので、何が本当に売れているのかわからなくなっているというタナソー氏の批判もあった)

3.音楽のジャンルがクロスオーバー化し、さかんに「コラボ」が行われている。つまり、メインストリームでは、ジャンルの壁が強固だったアメリカでさえ、その壁が溶解しつつあること。

4.日本を含めどの国でも「国内アーティストの影響を受けて始めたドメスティック・アーティスト」と、「海外の音楽を直接聴いて世界に出ていこうとするインターナショナル・アーティスト」の2階建て構造が生まれていること。そういうインターナショナル・アーティストのコミュニティでは、「Tokyo, Japan」も、一つの発信地になっていること。

5.ビートルズの影響で自作自演の「バンド」という形態が50年間支配的だったが、これもプロデューサー、作曲家、アレンジャー、演奏家、録音技術者その他大勢が関わってアーティストを支えるという、かつての楽曲制作システムに回帰しつつあること。(これには、西寺氏が、バンドっていいものだと反論していた)

BABYMETALは、この5つの「変容」の2.を除いて、すべて関わっていると思う。2.では、BABYMETALはレコード会社・メジャーエージェント側にいるような気がするからだが、「Burrn!」にタイアップ広告費を出さないことで有名なのだから、タワレコは嶺脇社長の好意で、ほかの雑誌は単純にBABYMETAL特集を組むと「売れるから」ということでこれだけの露出をしてくれているのかもしれない。TVに露出しないのは、「広告宣伝費をかけていない」という証かもしれないし。

いずれにせよ、「アイドルとメタルの融合」は、世界的な「ジャンルの溶解」の流れに沿ったものであり、BABYMETALはKOBAMETALが直接海外の音楽に学んで作り出した、「Tokyo, Japan」発の「インターナショナル・アーティスト」であり、「バンド」ではなく、プロデューサーシステムを取り、CDの販売に重きを置かず、ライブとネットが命綱(YouTube動画、Spotify、iTunesとファンカムでの拡散、ネット会員による通販)という意味では、評論家たちが言っているほとんどの「音楽界の変容」の要素を先取りしたクレバーなプロダクトだということになる。

ファンク・ラップバンドであるレッチリも、遅れてきたLAメタルであるガンズ・アンド・ローゼスも、日本ではビッグネームではあるが、世界的には「フェスのトリが取れない」(タナソー氏)バンドなのかもしれない。少なくとも今年BANYMETALが出演した欧米の大型ロックフェスでは、メインステージのトリは、これらのバンドではなかった。もちろん、フェス主催者からすれば費用対効果を考えるだろうから、「大物」バンドは呼べないということかもしれない。ただ、そう考えると、メインステージ3、4番手の位置まで登ってきたBABYMETALの方が、費用対効果=集客力という点では「上」なのかもしれず、これら「大物」バンドがBABYMETALを使いたがるのもうなずける。

だとすると、ますます来年のポジショニングが重要になる。

日本ではもちろん、今回のレッチリサポートツアーではっきりわかったのは、イギリスといえども、BABYMETALは、まだメインストリームで話題騒然というほどではなく、ジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデのような知名度はまだないということ。

だから海外での大規模単独ライブはリスクが大きいし、フェスとの組み合わせで行くしかない。ただ、メタルファンベースでは前述したように集客力が高いことが2015-16年で証明されたので、来年はメインステージの2番手くらいのポジションを要求してもいいだろう。少なくとも今年のシャーロット(Carolina Rebellion)やシカゴ(Northern Invasion)のようなセカンドステージはあり得ない。

また、来年はBABYMETALのアニメが全米ネットワークで放映されるから、メタルではないロック/ポップフェスに挑戦してもいいだろう。ただ、日本のフジロックのような、欧米では集客力の落ちたビッグネームをありがたがるオールドロックファン中心のフェスはもう無視してよいと思う。ぼくだけじゃなくて、タナソー氏がそう言っているんだからね。つまり、スロット(フェスの出演者ラインナップ)を見て、出るべきフェスを選びたいということだ。

で、「大物」バンドの単独ライブのサポートアクトについては、戦略的に、需要がある限りやったほうがいいと思う。まず非常に効率的に、これら「大物」バンドをありがたがるファン層に、BABYMETALの音楽とパフォーマンスを訴求できること。旅費、滞在費、広告費などは主催者持ちで、ギャランティが保証されつつ、ライブ「修行」ができ、ニュース等で取り上げられることで認知度が上がること。そして何よりも肝心なのは、レッチリツアーでチャドがメタルネームを得て神バンドの一員になったように、また、ロブ・ハルフォードが共演してくれたように、音楽界の世代交代の「バトン」が渡される、象徴的な意味合いが強いことだ。

METALLICAは、本国ではほとんどフェスには出ず、単独ライブ、アジアツアーを積極的にやっている。だから、評論家的には、さっき言った「大物」バンドのひとつなのかもしれない。そこは正直専門家ではないぼくにはわからない。だが、メタル界において、METALLICAという名前はやはり重い。

そのメンバーと共演があるとしたら、それはある意味「戴冠式」になる。2014年からメタルヘッドに言われ続けてきた、メタルを世間に知らしめる「入口」ないし「広告塔」としてのBABYMETALから、メタル界そのものを継承するバンドとしての重みが出てくる。KOBAMETALにとっては最高の名誉だろう。だから韓国でも行くのだ。

だが、これは正直まだまだBABYMETALにとっては荷が重いと思う。

何せ、本来「アイドルとメタルの融合」なのであって、目標はメタル界の重鎮になることではなく、世界のポップ界のメインストリームに躍り出ることなのだから。

メタルバンドとしては1枚でもいい。シリアスなテーマ性をもったコンセプトアルバム、ないしドラマティックな大曲を作るべきなのだ。そうしておいて、アイドル=メインストリームな楽曲・活動と、シリアスなメタルバンドとしての楽曲・主張を並行して行い、どこまでいっても「アイドルとメタルの融合」なのだな、という認知を受ける。それこそBABYMETALが進むべきOnly Oneの道である。要するにアリアナ・グランデ的なアイドル性と、METALLICA的なメタル性の両方をもう一段、二段、シフトアップしていくということだ。具体的には英語による当意即妙の受け答えや、KawaiiからSexyにシフトしていくこと、さらにSU-やMOAが、英語による深みを持った歌詞やメタルに学んだメロディー(の原型でいい)を書くことである。

こう考えると、ね、もうちょっと時間がかかるでしょ。

(この項終わり)