UKロック事情(2) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

―May the FOX GOD be with You―
★今日のベビメタ
本日6月14日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

Montagu PykeでのRichardとのベビメタ談義、といってもニコニコしながらお互いの意見を言っているだけだったが、酔っぱらってくるとRichardは早口になるので、聴き取りが厳しくなる。9時を回ったのでとりあえず地下鉄に乗って、途中で家に帰るRichardと別れ、ホテルにかえった。
6月7日。Richardは一足先にDownload フェスが行われるDonington Parkから、車で20分ほどの、Ashby National Forestキャンプサイトに行き、お兄さんたちとテントを設営する。その間ぼくは、ロンドン市内を一人で観光し、16:03にLondon-Euston駅から出る列車に乗ってキャンプサイトのあるBurton on Trent駅へ行く。
だから、観光時間は朝から15:00くらいまで。分刻みだが、地下鉄は日本と同じく正確かつ便利なので、ぎゅうぎゅうづめのプランを立てた。
7:00。ホテルの朝食が7:30~なので、散歩がてらハイドパークへ。

やっぱり走っている人が多い。ホテルに戻って朝食をとり、8:30、パディントン駅へ。
地下鉄Bakerloo線北行きに乗って2駅のMaida Vale駅まで10分で着く。
駅出口を右折し、横断歩道を渡って坂道を10分くらい上る。突き当りの道がAbby Roadで、そこから右に300メートルくらい、道の右側にAbby Roadスタジオがあり、その前に例の横断歩道がある。

ビートルズ時代とBABYMETAL時代では木の高さが違うが、両脇はまごうかたなきAbby Roadだ。
BABYMETALの三人が、かつてサインをし、公認カメラマンのダナ・ディストーションと一緒に撮影したあたりは、白く上塗りされていて痕跡はわからなかった。

Maida Vale駅に戻り、再び地下鉄Bakerloo線南行きに乗り、パディントンを通り越して、Baker St.駅で、Metropolitan線の北行きに乗り換える。Semi- Exp. Train (準急)が来ていたので、2駅でWembley Park駅へ着いたのが9:45。
駅出口正面からは巨大なWembley Stadiumしか見えないが、スタジアムの直前で右折すると、Arenaが見えてくる。『Live at Wembley』のデロリアンでおなじみの建物。

現在、Wembley Park周辺では、ホテル、大学、マンションの建設ラッシュである。ロンドン中心部まで準急で15分というロケーションだから、近未来的なデザイン、カラフルなビルが立ち並ぶ公園型居住地区として再開発が進んでいるのだ。
9万人収容の「サッカーの聖地」Wembleyスタジアムでは、エド・シーランが6月15日、16日の両日コンサートを開くことが告知されていた。
2015年にWembleyスタジアム3日間で24万人をSold Outしたシーランが、5月からのヨーロッパツアーのメルクマールとして、もう一度Wembleyスタジアム2日間をやるのである。
赤毛の四角い顔に髭を生やし、もっさりとした体形、冴えないチェック柄のネルシャツを着て、アコースティックギター一本で弾き語るエド・シーランが、なぜこれほどまでに国民的大スターになったのか。
7日間英語漬けになって、イギリス人の生の感情生活や、フェスでの若者たちの様子を見たあと、Richardの車の中で、アルバム『Perfect』を聴いたら、それがすごくよく分かった。
彼の歌は、イギリス人に典型的な、繊細で内省的な若者の日常生活や心境を、まるで映画のワンシーンのように描写する「音楽詩」なのである。
初めて“君”と出会った夜のこと。些細な態度に傷つき、行き違い、真夜中に眠れなくて何度も“君”の言葉を思い出すこと。友だちと語り合い大言壮語した後、自己嫌悪に陥ったこと。
誰にも、どこにでもあるシーンの数々が、ジャスティン・ビーバーにも似た「あの声」で歌われる。
歌詞の中には、散らかった部屋、スマホやゲームやガジェットが頻繁に登場する。ありふれた若者の日常生活の中の様々なモノたち。コーヒーとベーコンの匂いや、ギターの錆びた弦の軋み。別れた“君”が残していった口紅の色や残り香。かつてお父さんに言われた「ポジティブに生きろ」という声、19歳の誕生日に幼い頃を思い出していた自分をもう一度振り返っている今の自分。何もかもうまくいかない毎日。「ぼくはイギリス人だから今日もビールを飲んでグデングデンに酔っぱらう権利がある」という自虐的なセリフなどが、韻を踏んで次から次へと語られる。ひとつひとつのフレーズや言葉が、短編映画のように映像を浮かび上がらせる。
傷つきやすい男子の日常生活の描写や感情表現を、あの声で歌われると女子にはグッとくるだろうし、男子が聴くと「これは俺のことを言ってるんじゃないか」と思わせる。
極私的でありながら普遍的な感情表現。どこにでもあるアコースティックギターのボディをパーカッションのように叩きながら弾き語るエド・シーランは、いわば現代の若者の世界を描く吟遊詩人なのだ。
反体制的な鋭い言葉で社会批判をするヒップホップではない。破滅的で暴力的でカッコいい曲調や、黒づくめのコスチュームや退廃的なメイクで売るメタルコアあるいはエモバンドとは真逆だ。
確かに、そういうバンドには熱狂的なファンがいるから需要はあるのだろう。だが、Downloadの会場では、GNRやオジー・オズボーンなど往年のメタルバンドでさえ、ヒット曲のサビを観衆が大合唱していた。イギリス人にとって、音楽とは「歌」なのだ。
だからこそ、私小説的な「歌」を唄うエド・シーランがたった一人で24万人の観衆を集めてしまう現在のUK音楽シーンのチャンピオンになったのだと思う。
Wembley Park駅から、今度は各駅停車のJubilee線南行きに乗って、ロンドン市内のWestminster駅まで行く。
一応ぼくはキリスト教徒なので、お目当てはウエストミンスター寺院である。
周囲には、テムズ川、ビッグベン(改修工事中)、イギリス議会(同)などが立ち並ぶ絵はがきのような場所である。

ウエストミンスター寺院は、一言でいえば、イギリスという国の王家をはじめとする歴代有名人や、国に尽くした無名戦士のお墓である。
日本でいえば、各地にある古墳と、日光東照宮と戦没者記念墓苑が一緒になったようなもの?かもしれない。高い入場料には各国語のヘッドフォンガイダンス機器も含まれており、その場に行くと解説が聴ける。最初のうちは「へー」「あーそうなんだ」と感心していたが、すぐに飽きた。確かに数々の彫刻はすごいのだが、お墓を観光地にしてしまうなんて、ちょっと悪趣味ではないか。まあ、エジプトのピラミッドだって、兵馬俑だってお墓なわけだが。
ウエストミンスター寺院で1時間半も使ってしまったので、橋を渡って対岸のロンドンアイに着いたのは13:30になっていた。お腹が減ったので、何か食べようと思って探していたら、テムズ川沿いのアトラクションエリアに、「Katsudon」の看板を掲げる屋台を見かけた。イギリス滞在2日目だが、なんとなく懐かしい気がして、注文してみた。経営者は若い日本人女性で、数か月前にオープンしたばかりだという。
実はイギリスでは一昔前の牛丼、すし屋、ラーメンショップに代わって、「IT’SMO」、「WAGAMAMA」「WASABI」など、日本料理を気軽にテイクアウトできるファストフード化したチェーン店が大流行している。
「Katsudon」も、鶏肉のカツをごはんの上に乗せ、テイクアウトできるようにしたもので、ロンドンアイの目の前という絶好のロケーションで、若いイギリス人客が途切れることなく訪れていた。
ロンドンアイの入場券売り場は少し離れたビルの中にあり、その入り口近くには同じくカレーライスやマーボ豆腐や寿司弁当をテイクアウト化した「WASABI」があった。こっちの方は、すでにチェーン化されており、黒人と白人が売り子になっていた。「Katsudon」を食べたあとなのに、「WASABI」で、YAKISOBAを見て注文してしまった。
だがまあ、「Katsudon」のチキンカツwith ライスも「WASABI」のYAKISOBAも、イギリス人向けに、“旨味”というものを排除した味付けになっており、日本でなら「ナニコレ?」なクオリティだった。

ロンドンアイは、コカ・コーラの協賛の元、1999年末にできたもので、BABYMETALも2016年4月のウェンブリーアリーナ公演の際に、ここで写真を撮っている。
ぼくは40歳を超えたころから高所恐怖症になってしまったのだが、今回は勇気をふりしぼってそれを再現するのが目的である。
約1時間待っていよいよ観覧車の中へ。
雑誌『QJ』に三人がコスチュームを着たまま写っている角度は、観覧車内の一番奥の左手、車軸部分の構造物が写らず、YUIの顔の高さにビッグベンと議会が写り込むところなので、最高度に達したあと2分後くらいの位置である。中国人と韓国人の家族が、なかなかそのポジションをどいてくれないので苦労した。それがこちら。

ロンドンアイ最高到達点付近での撮影を終えたぼくは、インド、タイ、アラブ、中国、韓国、日本など移民のための屋台が多いWaterloo駅まで歩き、Bakerloo線に乗ってパディントン駅へ戻った。この時点で15:30になっていた。
(つづく)