とりあえずの中間総括(3) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

―May the FOX GOD be with You―

★今日のベビメタ

本日5月24日は、2015年、METROCK東京@新木場・若洲公園に出演した日DEATH。

 

●MOA

YUI不在の負担を最も大きく被ったのがMOAであることは論を俟たない。

急きょYUI欠場が決まった広島では、「イジメ、ダメ、ゼッタイ」の全力疾走に始まり、一人でBBMの「GJ!」や「4の歌」を歌い踊り、最後までセトリを貫徹して感動を呼んだ。そして、2日目には決然としたオーラが漂い、彼女が一夜で「化けた」ことが分かった。

今回はあらかじめYUIの欠場がわかっていたから、ScreamパートはすべてMOAが一人でやることも、ダンスの女神2人が加わり、全曲フォーメーションが変わることも、すべて受け入れなければならなかった。

真面目で、責任感が強く、礼儀正しく、学校ではクラスの中心的存在だったMOA。

この数か月間、誰にも言えずに、葛藤と戦いながら、すさまじい練習をこなしてきたのだろう。体が去年より引き締まり、全身バネのようになっていた。一つ一つの振りがダイナミックで、ジャンプ、キックが高い。笑顔の時も、厳しい顔つきの時も、目線が強くなった。

長身、年上のMINAKO神、MINAMI神が両脇にいても、立ち上るオーラで、MOAが2人を従えているように見えた。

そして歌。

2013年2月に中元すず香、水野由結とともに出演したTVKの「SAKUSAKU」で、お団子頭の菊地最愛は「ソロで歌いたい」と言っていた。

今回、「GJ!」は、はからずもMOAMETALのソロ曲となったが、「ギミチョコ!!」や「KARATE」や「メギツネ」のScreamパートでも、たったひとりなのによく声が出ていた。Rock on the Rangeの「Road of Resistance」のシンガロングの最後の部分は、中央ステージに戻るSU-に代わって、MOAが一人で数万人を煽って歌い、終演後、アメリカ人ファンによる書き込みには感動の声があふれていた。

このブログではたびたび言及しているが、MOAの声はSU-ほどの太さや声量はなくとも、ピッチは正確で、バックバンドに負けない透き通った声質、爆音の中でも聞き分けることができるシグネチャーボイスである。

武藤彩未、中元すず香、堀内まり菜、菊地最愛と、さくら学院の歴代生徒会長は、在籍期間や性格だけでなく、中等部三年生の中で最も歌唱力がある生徒が選ばれた。

その意味で、四代目生徒会長MOAが二代目生徒会長SU-と同等のシンガーの才能を持っているのは不思議ではない。

Dark Side物語において、YUIが今後どういう形で復帰してくるのかわからないが、MOAがSU-と並ぶ世界的ソロシンガーとなり、BABYMETALがグループとして表現力の幅を広げていくのは大賛成である。MOAにはそれだけの可能性とガッツのあることが、今回のツアーではっきりと示されたと思う。

このUSツアー、ぼくはMOAの顔笑る姿を見て、何度も鳥肌が立った。感動をありがとう、MOAMETAL。

 

●SU-

広島で歌の女神、救世主となったSU-の歌唱力は、今回また大きく成長していた。

今回のUSツアーでは、これまでになく低い男の声でナレーションされる「紙芝居」に続いて、Overtureと呼ぶべきインストゥルメンタルの「In the Name of」となり、観客はエキゾチックな狂騒と4人の異様なコスチュームと錫杖パフォーマンスを見せられる。

正直、これが長い。最初の熱狂が、徐々に「?」へと変わっていく。

それがようやく終わって暗転すると、不穏なハウリング音とドラムス、ギターのリフが響く。

やがて「♪Wow Wow Wow Wow」というさわやかなコーラスが流れると、客席は大歓声を上げる。何かが始まる予感。

そして「Distortion」のイントロで、MINAKO神、MINAMI神、MOAMETAL、SU-METALの順にスポットライトが当たり、「Can’t stop the power」「Stop the Power」「Caught in a Bad Dream」というオートチューンに続いて、舞台前面にいるSU-が「♪歪んだカラダ叫び出す…」と歌い出し、MOAが「♪Wow Wow Wow Wow」とScreamした瞬間、会場の雰囲気がガラリと変わる。

メタルの女戦士SU-METALが、副将MOAMEAL、頼もしい助っ人戦士2人とともにDark Side物語を駆け抜けようとしていることがはっきりとわかる。

あの「In the Name of」の錫杖にも、4人が歌い踊るコスチュームにも、ちゃんと意味があった。あれは荒野を彷徨う巡礼の姿、そして身につけたコスチュームは理不尽な現実=Bad Dreamと戦うための戦闘服である。今からこのショーは、いや、会場そのものが、BABYMETALのBad Dream=Dark Side物語の時空へと入っていくのだ。

「♪ひずんだ キズナ 終わるなら」

「♪ひずんだ チカイ 忘れない」

「♪このセカイが壊れーてもー」のハイトーンで、藤岡神の逝去、YUI不在という現実の悲劇が、Dark Sideを旅するBABYMETALという聖なるリアリティに変わる。

SU-の声はまた一段と太くなり、声量が増していた。

Djentな曲調は複雑なギターリフを伴うので、ヴォーカルはピッチが正確でないと汚く聴こえてしまう。「Distortion」では「♪汚い世界だった」のところ。

DとBの2コードしかないハードコア・ポップ「Elevator Girl」だと「♪閉まるドアにお気を付けください」のところ、Cmのブルージィな「TATOO」だと、ギターとのユニゾン「♪どうかしてる」のところも、ピッチやリズム感が不安定だとキマらない。

並みの歌手は、生でこれを歌うのは怖い。しかしSU-にとっては全く問題ではない。正確なピッチとリズム感で、ビシッとキメてしまうのだ。

いや、もうピッチや声量や声質をどうこういう段階はとうに超え、歌手SU-METALは歌によって一つの世界を創ってしまう、神の領域に達している。

聴きなれた「紅月-アカツキ-」の絶唱。

Legend“1997”で見せた「Unfinished Ver.」のような繊細な表現力から、ダンスの女神による殺陣の後のすさまじく伸びのあるハイトーンまで、1曲が、まるでアニメや映画のようにドラマチックな映像世界になった。

「メギツネ」では、海外ツアーでいつも喉の調子のバロメーターとなる「♪あーあーそうよいつでも女は女優よー」の部分もピッチが揺らぐことはなく、高音域を無理にしゃくりあげず、ストレートに突き刺すような歌い方をしていた。もはやKawaii乙女キツネではなく、傷ついても不屈に生きるメギツネだ。

「KARATE」の最後、「♪走れーエェーエェーエェー」のところは、月に届くほどの声量で、情感(Vibration)がほとばしっていた。

荒唐無稽なギミック=「設定」が、超絶的な歌声と存在感によって、真実の物語になる。これがSU-METALというヴォーカリストである。

SU-はVocal & Danceだから、4人のフォーメーションとなったダンスのレッスンも相当積んできたのだろう。ダンサーとしてのSU-も、今回如実に表現力を増したと思う。

一つ一つの振りが大きく、速く、静止もビシッと決まっていた。

腹筋、腹側筋が鍛えられたことで、声量が大きくなったのかもしれない。

要するに、MOAもSU-も、藤岡神の急逝、YUIの欠場というBABYMETAL史上初めての危機に直面し、この数か月間、すさまじい努力をしてツアーに臨んだのだ。胸が締めつけられる。

ヨーロッパツアーに向けては、一点だけ懸念材料がある。

声量が増した分、声帯への負担も大きくなった。連続2日目のライブで、声がかすれ、裏返ったように聴こえるところがあった。8割の力で歌えばいいのだが、SU-はライブに入るとリミッターが外れてしまう。声帯を休めるために最低中1日は欲しいのだが、ヨーロッパツアーでは、6月4日のインスブルックから5日-6日のユトレヒトまで3日連続がある。現在のところ、それが唯一の心配である。

ともあれ、このUSツアーの期間、ぼくはSU-の歌に何度泣いたかわからない。感動をありがとう、SU-METAL。

(この項終わり)