とりあえずの中間総括(1) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

―May the FOX GOD be with You―
★今日のベビメタ
本日5月22日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

オハイオ州コロンバスのRock on the Range 2018のZippo Encore Stageのヘッドライナーを務めたBABYMETALは、2018年ワールドツアーの第一段階であるUSツアーを終えました。メンバー、神バンドとダンスの女神、スタッフの方々、お疲れ様でした。

6月1日から始まるヨーロッパツアーに備えて、束の間ですが、ゆっくりと体と心を休めていただきたいと思います。
今回ぼくは日本から毎日ファンカムや現地参戦のメイトさんがたのSNSを見て声援するしかありませんでしたが、その間に感じたこと、考えたことを書いてみたいと思います。

●Dark SideのApocryphaという物語性
今回のUSツアーは、広島以来のYUIの不在、藤岡神の急逝という致命的な状況に、Dark Side のApocrypha=外典という物語性を対置し、ダンスの女神を投入したところに最大のポイントがある。結果的にそれは大成功し、BABYMETALの“世界征服”に新たな段階をもたらしたと思う。


しかし、ネットの一部に「今年のBABYMETALは、YUI欠場で“正典”のストーリーから外れ、臨時的な“外典(外伝)”のストーリーを展開しているが、いずれ元の“正典”に戻る」という論調があるのはちょっと違うと思う。
Apocryphaという言葉は、これまでも事実上のファンクラブであるTHE ONE限定の小箱ライブ(黒ミサ、赤ミサ、白ミサ、Only The Fox God Knowsなど)の名称として使われきており、BABYMETALにとって、今回初めて、特別に使われたものではない。
BABYMETAL神話は、宗教的な装いをとるギミックである。

THE ONEの前身であるBABYMETALの公式ファンサイトは、APOCALIPSE WEBといった。APOCALIPSEとは、新約聖書でこの世の終わりを預言した『ヨハネの黙示録』のことで、Apocrypha=外典とは似て非なるものだが、聖なる秘密がRevealされるという雰囲気を醸し出す上で共通している。

今回のChosen Sevenという言葉も新約聖書のイエス亡き後の教団で、12使徒に次ぐ高弟を選んだ故事に由来する。
しかし、BABYMETAL神話で、小箱のApocryphaに対置されているのは、大会場で実施されるライブにつけられるLegend=伝説という言葉であり、正典=Cannonではない。
ではBABYMETALにとって、正典=Cannonとはなにか。
それは欧米のメタルアーティストたちが依拠するキリスト教文化である。だからこそ、日本の稲荷神=キツネ様を守護神とするBABYMETALの「紙芝居」、ギミックストーリーはすべて、“もうひとつの神の物語”=Apocrypha=外典と呼ばれてきたのだ。
キリスト教の福音書は、正典ではマタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの4つと決まっている。
だが、外典、偽典とされる書物の中には、12使徒のひとり「ヤコブの福音書」や、イエスの妻だったともいわれる「マグダラのマリアの福音書」、イエスを売った「ユダの福音書」なども存在する。
ユダヤ教の外典にも、現在の世界を造ったヤルダバオトという神は、邪悪な存在であるというオカルト的な解釈をするものがある。
畢竟、正典=Cannonとは、ローマ・カトリック教会や東方正教会など、人間の組織が定めたものに過ぎず、外典や偽典や悪魔の思想にこそ真実=“もう一つの神の物語”があると考える人は世界中にいる。信じるか信じないかは、あなた次第なのだ。
だが、はっきり言えるのは、BABYMETAL神話は少なくとも正典ではなく、“もう一つの神の物語”である以上、これまでも、そしてこれからも外典=Apocryphaであるということだ。
もし、BABYMETALが正典=西欧キリスト教文化をそのまま体現しようとすれば、クリスチャンメタルバンド=Striperになってしまう。
すべてはKOBAMETALが考えた「紙芝居」=西欧キリスト教文化から見れば異端の思想=外典=Apocryphaなのであり、Dark SideからLight Sideに変わることがあっても、それを単純に正典=Cannonとは呼ばない。
BABYMETAL神話においては、「光は影、影は光」、「CannonはApocrypha、ApocryphaはCannon」という幻惑的な言い方が正しいのだ。
だが、厳然たる正典があるからこそ、外典=異端に意味が生まれる。
デスメタルは、死や流血をモチーフとして、社会の良識に対する呪詛のような価値観を対置する。
ブラックメタルは、より直截的に、キリスト教を否定し、Anti-Christ=悪魔崇拝をコアとする。
それが衝撃的なものとして受け取られるのは、イエス=キリストへの信仰を持ち、「良き人」であろうとすることが、西欧人の世界観や人生観のデフォルトだからだ。
ブラックメタルバンドが行う死者を象徴するコープスペイント(白塗り)、黒いゴシック風コスチュームは外見的な意匠だけでなく、ちゃんと意味がある。
日本人はキリスト教の教義に慣れていないから、ブラックメタルの衝撃がわからない。
正典的キリスト教においては、死者は蘇らない。
仏教でいう輪廻という概念もない。
現世で死から復活するのは神であるイエス・キリストだけであって、死んだ人間は、この世の終わり=『ヨハネの黙示録』に描かれたイエスによる最後の審判によって、天国で永遠の命と体を得て神と共に憩う人と、地獄に落ちる人に選別される。死者はその日を待ちつつ、安らかに眠っていなければならない。
したがってキリスト教国の習慣では、体を生前の状態に保つために、棺の中に入れてそのまま地中に埋める。土葬である。体を焼いてしまう仏教的な火葬は、神の国に行けないようにする罪人への死刑=火あぶりと同じだ。
土葬だからこそ、ゾンビは墓場から蘇ってしまうのだが、それは悪魔のしわざに他ならない。本来、イエスが将来選別すべき死者たちの体と魂を、悪魔が盗み出し、命を与えたものだからだ。
つまり、墓場から蘇った死者=ゾンビ=コープスペイントは、悪魔に体と魂を奪われたしるしなのだ。だからブラックメタルではバンドマンが白塗りするわけだ。
ぼくらは、神道の国にいるので、八百万の神の一人としてキツネ様=音楽と商業の神アメノウズメの娘=ウカノミタマをメタルの神に「設定」することに違和感を覚えない。
しかし、まじめな欧米人にとって、キツネ様とは神以外の超常的存在=もう一人の神=悪魔以外の何物でもない。
神バンドの白塗りも、キツネ様≒悪魔という欧米のキリスト教文化の文脈の中で、初めて意味を持つ。
もちろん、KOBAMETALは単なるブラックメタルへの“オマージュ”として採用しているに過ぎず、日本人メイトのほとんども、自分たちがやるくらいだから、面白がっているに過ぎないだろう。
だが、キリスト教文化の染みついた欧米のメタルヘッズが、FOX GOD=キツネ様≒悪魔に召喚されたBABYMETALとコープスペイントの神バンドを支持しているのは、デスメタルやブラックメタルを支持するのと同じ心情、つまり、正典=キリスト教文化に対する外典=異端の戦慄こそ、メタルに相応しいからである。
悪魔を信奉する人々は、人間を支配する神こそ邪悪であり、悪魔こそ、人間を抑圧的な神から解放する存在だと考えている。
悪魔ルシファーは、天使として造られた被造物でありながら、神に反逆して堕天使となった。
しかしその来歴は、被造物でありながら、神の言いつけを聞かず「知恵の実」を食べてエデンから追放されたアダムとイブも同じではないか。
ミルトン「失楽園」は極めて人間的な葛藤に悩む悪魔の独白録であり、ゲーテ「ファウスト」は、美しい悪魔と契約する博士の物語である。
ローリング・ストーンズの「悪魔を憐れむ歌」(Sympathy for the Devil)は、人類史上の凄惨な事件はすべて自分が起こしたものだと自慢し、「警官は犯罪者、聖人は悪人」「俺の名前を知っているか?」と常識を覆し、人間を誘惑する悪魔の自己紹介みたいな歌だ。
欧米のキリスト教文化において、悪魔は恐ろしい存在であるとともに、人間的な一面があり、魅力にあふれた存在なのだ。
神=イエス・キリストが、小汚いおっさんの姿であるのに対して、悪魔ルシファーは巨大な角を持った醜悪な山羊の姿をとることもあれば、美しい女性または男性に変身することもある。
全知全能の神を、苦境にあえぐ人間の願望が生み出した存在だとすれば、良識に縛られない悪魔もまた、人間の潜在的願望を形にした存在だといえる。
だから、2014年にLand of Rising Sun=日本から飛来した少女三人組のBABYMETALが、FOX GOD≒悪魔の使いであり、美しい外見と素晴らしい歌唱やダンスを見せるのはちっとも不思議ではない。いや、もちろんギミックだとわかっているからこそ、完璧な演奏とパフォーマンスが、リアリティをもって悪魔的=魅力的に見えたのだ。
BABYMETALを知った欧米人が、ネットで調べてみるとBABYMETALの日本におけるファンクラブのライブにはすべてApocryphaという名前がついていた。これぞまさしく西欧キリスト教文化=正典=Cannonに対する外典=異端である証だ。
BABYMETALの“世界征服”とは、イエス・キリストによる救済の約束ではなく、キツネ様≒悪魔に召喚されて、現世に降臨した女神=SU-METALを救世主として崇める、西欧人にとっては異端の物語だ。
もちろん、それはギミックに過ぎないことは、欧米人もよくわかっている。
だが、今回のUSツアーで明らかになったのは、藤岡神の帰天、YUIの不在という事態が、判官びいきのようなベクトルで、その物語のリアリティを強化する方向へ働いたということである。コスチューム、ステージのデザイン、演出、そして演奏と歌唱、ダンスのクオリティの高さと相まって、少なくともライブに集まったアメリカ人観客は、虚実皮膜のBABYMETAL神話=Dark Side物語を受け入れたように見えた。
10月にはBABYMETAL神話のテキストとなるコミックスも全世界同時発売される。
これまでLive Bandとして評価を高めてきたBABYMETALが、いよいよ日本同様、BABYMETAL神話=異端の奇跡の物語で世界を飲み込もうとしている。
YUIが復帰し、3rdアルバムがリリースされたとき、その仕掛けは大爆発するだろう。
ツアー直前に発表された「BABYMETAL RECORDS」の設立もその一環であることを考え合わせれば、KOBAMETALとBABYMETALが、どんな逆境にあっても、メジャーデビュー時に宣言した“世界征服”を、全然諦めていないことがはっきりとわかる。
「We have no road to turn back to(我々に戻るべき道はない)」という「Road of Resistance」の「紙芝居」は、マジだった。
藤岡幹大神の遺志を継承するということは、涙と悲嘆にくれることではない。前進すること、それしかないのだ。
その気迫が共有されたメンバー、ダンサー、神バンドのパフォーマンスに、今回のUSツアー期間、遠く離れた日本で、スマホやPCの画面を眺めつつ、ぼくは何度戦慄し、何度涙を流したことか。
今回の衝撃的なUSツアーの大成功は、間違いなく“世界征服”への新たな段階を切り拓いたのである。
(つづく)