好きすぎてツライ(18) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

―May FOX GOD be with You―

★今日のベビメタ

本日5月1日は、2011年、初の一日2回となるタワレコ新宿店&渋谷店でのライブが行われた日DEATH。

 

「THE ONE」編

●2015年12月12日、The Final Chapter of Trilogy@横浜アリーナ。1曲目は、当時名前もわからなかった「THE ONE」の初披露だった。

当時ぼくは、仕事仲間の裏切りと、離婚と、次女を児相に奪われたショックで、生きる気力を失い、コンサル案件の仕事に出るほかは、一日中ダラダラとカーテンを閉め切った部屋のベッドの上で過ごしていた。

手持無沙汰に、“引きこもりのオタク”が好むという深夜アニメやアイドル動画を、ネットで見始めた。それまでほとんど興味のなかった分野だった。

最初にこういう世界もあるのか!と瞠目したのは、ももいろクローバーZだった。

代々木競技場の路上ライブからスタートし、川上マネージャーの車で「勝手に全国ツアー」をやり、日本青年館、中野サンプラザと大きくなっていき、早見あかりが脱退し、Zと改称し、目標だったNHK紅白歌合戦出場を勝ち取るまでの経緯を見て、成長していく「アイドル」という存在が、若い男性の疑似恋愛対象だけでなく、女性や中年男性にとっても力を与え、生きる糧になりうる存在なのだということを実感した。

ももクロはテレビへの露出も多く、AKB48グループに対抗するメジャーな存在で、モノノフと呼ばれる熱烈なファンがいて、まぶしかった。太宰府での「男祭り」開催をめぐって地元の「人権団体」から批判され、紅白歌合戦に「落選」するという事件が起こっていたが、その「人権団体」こそ抑圧的で、一度「敵」と定めた者の「人権」には無頓着なのだなあと思った。だが、ぼく自身がももクロのライブに行くことは思いもよらず、相変わらず、暗い部屋で「サラバ愛しき悲しみたちよ」の布袋パートをコピーしてみたり、「コノウタ」のロックバージョンを演奏してみたりしていた。

ネットサーフしていると、“ポストももクロ”という記事があり、そこにBABYMETALという名前があった。検索で最初にヒットしたのは、ヨーロッパのライブで撮影されたと思しき、ブレブレのファンカムだった。「DEATH!DEATH!」と飛び跳ねる彼女たちの姿に、「なんじゃコリャ?」という疑問がふくれあがった。「アイドルとメタルの融合」という言葉には、「アイドル文化もここまで来たか」というあざとさを感じた。

そういうファンカムをいくつか見たあと、たどり着いたのが、Sonisphere2014の「イジメ、ダメ、ゼッタイ」公式MVだった。

それを見たぼくはベッドの上から、ガバッと起き上がった。こんな少女たちが、日本を代表して海外で戦っている。ぼくは、いい年をして、過去にとらわれるばかりで、引きこもって何をやっているんだろう。そう思った。そういえば2014年5月号の『ギターマガジン』に「ヘドバンギャー!!!」のスコアが掲載されていたのを思い出した。

それからBABYMETALのことをネットで調べ、さくら学院以来の年表を作り、12月12日、13日に横浜アリーナでライブがあることを知った。

当時、BABYMETALは10か国を回るワールドツアー2年目を終え、『Metal Hammer』や『Kerrang!』の音楽賞を受賞し、11月26日には『Vogue Japan』の「Women of the year 2015」を受賞していたから、かなり高いポジションに来ていたわけだが、ぼくはももクロと比べれば、まだまだ知名度がなく、知る人ぞ知る「期待の新人」なのだと思っていた。

●巨大な3体のキツネ像が見下ろす中、「紙芝居」に続いて始まったのは、壮大な8分の6拍子のプログレッシブメタルだった。ちなみに当時はタイトルが決まっておらず、「ラララ」と呼ばれていたが、ここでは「THE ONE」としておく。

BABYMETALのそれまでの楽曲とは大きく異なる曲調で、イントロのツインギターのフレーズから、6連符の連続となるメインのリフを聴いた瞬間、これは「アイドル」どころか、最高水準のプログレッシブロックバンドだと思った。12月12日は、大村神が欠席し、藤岡神、ISAO神、BOH神、青山神という神バンドの布陣だった。

こんな楽曲はどんな「アイドル」にもなかったし、どんな日本のロックバンドにもなかった。「ド・キ・ド・キ☆モーニング」や「ギミチョコ!!」や「ヘドバンギャー!!!」には、どこかコミカルなKawaii Metalの雰囲気があった。「BABYMETAL DEATH」や「メギツネ」は、「企画物」の匂いさえした。

だが、「THE ONE」はシリアスで、一点の曇りもない「確信」に満ちたメタルチューンだった。しかも8分の6拍子である。

3拍子系の楽曲は、R&Bのバラードではよくあるが、ダンサブルな「ドンツクドンツク」が主流の日本のポップスでは非常に少なくなってしまった。近年では河村隆一の「Love is…」やMr.Childrenの「NOT FOUND」が8分の6拍子である。

だが、「THE ONE」は、そういうR&Bバラードの雰囲気とはまったく違い、どうやって弾いているのかわからない6連符のリフも、コード進行も、今ここで起こっている「奇跡」を表しているようで、心が震えた。

そして、澄み切ったSU-METALの歌は、誰とも似ていないのに、昔からよく知っている懐かしい声のような不思議な気がした。

●「THE ONE」のコード進行は、「ギミチョコ!!」や、「イジメ、ダメ、ゼッタイ」「META!メタ太郎」のフィニッシュコードであるEのイントロから始まる。

高らかに響くギターのイントロフレーズのコード進行はE→Edim(4弦2F3弦3F2弦2F1弦3F)→A→B→C#→E→A→Bである。

だが6連符のリフに入ると、主調はC#に移り、C#→E→A→B→C#→E→A→Bを循環するコード進行になる。

歌に入るとまた少し変わり、「♪(C#)No reason (A)why I can’t under(B)stand it」という循環になる。このAがミソで、C#からAに変わった瞬間、不思議な幻想空間のような雰囲気を醸し出し、それはBに移行するまでの間、持続する。

それが次のサビでまた転調し、キーはEに戻る。「♪(E)時を(B)超えて(D)ぼくらは(A)行く(C)まばゆ(G)い光(Asus4)の中(A)で」

ごらんのとおり、ギター初心者でも弾ける単純なコードばっかりである。それが、転調の繰り返しで感動的なメロディラインと歌詞を支えている。こんなコード進行見たことない!

それがそのまま「♪(E)ぼくら(B)の声(D)ぼくら(A)の夢(C)ぼくら(G)のあの場(A)所(B)へ」とEのⅤコードになったにもかかわらず、またC#に転調し、

「♪(C#)We are THE (E)ONE to(A)gether (B)we’re the ONLY(C#)ONE」

「♪(C#)You are THE(E) ONE re(A)member (B)you’re the ONLY (C#)ONE」

というサビになる。そのバックには、6連符のギターリフ。

さらに転調は続く。

ブラスが入る間奏部。Wembleyではガウンを着た三人が島舞台へ向かって歩き出すところ、広島洗礼の儀では、MOAが合流するところ。

「♪チャララ、チャララ、チャッチャラッチャラーラチャー…」のバックのコードはC→D→E、C→D→Eを繰り返す。そして最後はC→D→G→A→Bと高まり、

「♪(C)We stand in a (DonC)circlepit (Cm7)side by side (F)hand in hand(C)」へとつながる。このCからのDonC(5弦3F4弦×3弦2F2弦3F1弦2F)からCm7(3Fセーハ;6弦3F5弦3F4弦5F3弦3F2弦4F1弦3F)が不思議な気持ちの高まりを表現している。

ここから、またサビの

「♪(E)ぼくら(B)の声(D)ぼくら(A)の夢(C)ぼくら(G)のあの場(A)所、彼方(B)へ」となり、さらに、

「♪(C#)We are THE (E)ONE to(A)gether (B)we’re the ONLY(C#)ONE」の繰り返し、「♪ララララー…」の大合唱となる。

転調に次ぐ転調は、「イジメ、ダメ、ゼッタイ」や「META!メタ太郎」で見てきた通り、BABYMETALの楽曲のキモであるが、「THE ONE」はその究極の姿である。

主キーがEなのか、C#なのかもわからない。

だが、最後のキーは、C#。「イジメ、ダメ、ゼッタイ」のC#mが長調化したコードである。

コード分析をしていて、ぼくはこの事実に震えた。

SU-の最高声が出しやすい音程がC#からDだということもあるだろうが、暗く、絶望的な短調のC#mから転調して平行調長調のEにしたり、EとC#mを長調化したC#を行き来したりするというのは、やはり意図してつくられたのだと思う。それによって、ぼくらは感情をわしづかみにされる。言葉ではなく、音楽そのものが持つチカラがダイレクトに伝わる。

要するに、BABYMETALの楽曲は魔法で出来ているのだ。

●2016年4月2日のWembley Arena。

オランダのメイトさんの発案によるといわれるが、「THE ONE」の曲中で、世界各国から集まったメイトさんたちが、自分の国の国旗を振る光景が見られた。

その後、「後ろの観客が見えなくなる」という理由で、大きな旗の持ち込みは禁じられたが、巨大キツネ祭り以降、開場前に、会場周辺で万国旗をもって写真撮影するほほえましい風習につながっている。

BABYMETALが、他の「アイドル」やロックバンドと大きく異なるのは、ファンベースが世界中に広がり、ライブのたびごとに各国からファンが集まるという点だろう。

それも、BABYMETALの音楽が持つ不思議な魔法のチカラのゆえだとぼくは思う。

イギリスのEU離脱、「アメリカ・ファースト」を標榜するトランプ大統領の登場など、昨今、グローバリズムは評判が悪い。ぼくとて、秒単位で利ザヤを稼ぐ国際ファンドとか、ネット世界を牛耳る多国籍企業とかが、国内産業を圧迫する状況は気持ち悪い。

しかし、経済も情報も国際化が進むのは、人類史の必然だとぼくは思う。日本という国が誕生した過程では、いろいろなところからたどり着いた民族や文化が融合したのだと思うし、未来には、「国」という枠組みが解体されていくのだろうと思う。

だが、現在の世界では、独裁者が、外の世界を知らせないように目や耳をふさいで民衆を支配していたり、特定の教義に従わない者を虐殺したりする「国」があったりするし、一方、無国籍な資本の論理によって世界中の富を独占する企業があったりもする。

したがって、民衆が安心して暮らせる政治のしくみを保証し、かつ投票によってそのしくみを変更しうる「国」という枠組みは、必要なものだと思う。

だが、「民族」を「国」と混同したり、「政治」を「正義」と取り違えたりするのは間違いだと思う。「国」は様々な背景を持つ国民が共有するものであり、「政治」は利害調整の技術だからだ。そして、文化や芸術は、そうした政治的な枠組みである「国」を超えて、人類普遍の感情に働きかけるものだ。

国際政治の中では、国同士の対立や戦争もある。

だが、そんな状況でも政治的立場の違いを超えて、人の心を動かし、世界を一つにする。それが音楽であり、BABYMETALは、真っ正直にそれを目指しているのだと思う。

「THE ONE」は、まさに音楽のチカラをテーマにした究極の楽曲である。だからBABYMETALを好きにならずにはいられないのだ。

(この項終わり)