好きすぎてツライ(17) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

―May FOX GOD be with You―

★今日のベビメタ

本日4月28日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

 

「おねだり大作戦」編

●YUI、MOAの二人によるBLACK BABYMETALの曲で、ぼくはこの曲が一番好きである。といっても、カワイイYUI、MOAが「♪結婚するならやっぱりパパ!」とか「♪あたし、パパのお嫁さんになるんだ!」とか叫ぶ部分に反応しているわけでは全然ない。

この曲は、ファンの内なる理性をカワイさによって麻痺させ、時間とお金を使わせる日本の「アイドル」の暗部を告発した、過激なブラック“ジョーク”メタルである。

証拠その1

曲調はまんまリンプビズキットの「My Generation」だが、なぜかイントロ部分は三味線で「♪セイヤ!セイヤ!」という掛け声が入る。

和風テイストをわざわざ入れているのは、日本の風土=日本特有のアイドル文化のことを歌っているのだ。三味線は、「口三味線」という言葉があるように、「口先だけ」「おべっか」という意味である。

証拠2

2012年~2013年のLegend “I、D、Z”の頃、三人はさくら学院に所属しており、さくら学院ではファンのことを「父兄」と称する。「♪好きなタイプはもちろんパパ!」「パパ大好き!」「♪結婚するならやっぱりパパ!」「♪あたし、パパのお嫁さんになるんだ!」の「パパ」とは「父兄」、つまりファンのことである。「♪お疲れさま神様!」の「神様」とは三波春夫が言った、「お客様は神様です」を含意している。

「パパ大好き!」と言って「父兄」=ファンを喜ばせ、使用価値ではなく、ほぼ付加価値しかない商品を買わせる。

それが「アイドル」だということなのだろう。

証拠3

「♪ママに内緒でゲットしちゃおう」の「ママ」とは、ファンの金銭感覚=内なる理性のことである。

「♪ウソでもいい (遠慮は無用) ホメまくれ (ゴマスリゴマスリ) アレも欲しい (もう少しカマセ) コレも欲しい」というSU-による囁き声は、SU-もまたYUI、MOAに加担して、ファンの理性を狂わせるようにし向けているということだ。

証拠4

これに続く、「♪天使の顔した悪魔のささやき 説教するならカネをくれ 天使の顔した 悪魔のささやき」は、ドラマ「家なき子」(1994年)の安達祐実のセリフのパロディだが、自分から正体をバラシてしまっている。YUIもMOAもSU-も、2010年~2011年にはドコモの光WIFIサービスのCMでは「光の天使」を演じていたのだから。

証拠5

MOA「♪だって女の子だもん」YUI「♪キラキラしたもの、だーい好き」MOA「♪おいしいもの、だーい好き」からの「♪One for the money, Two for the money, Three for the money, money money money money…」「♪買って買って買って買って…ちょうだいちょうだいちょうだいちょうだい…」への畳みかけは、もはや親に対するおねだりではありえない。

宝石、豪華な食事、金、金、金、金。サディスティックな響きすら感じられる、ファンへの貢ぎ物強要だ。

証拠6

この曲の「アイドルのうさん臭さ」への批判という意味は、欧米のメタルヘッズたちに、すぐに理解された。2015年のヨーロッパツアーでは、海外ファンが、YUI、MOA、SU-の写真を使った「偽札」を大量に作り、この曲が始まるとライブ会場にばらまいていた。

証拠7

骸骨柄のフードジャケットを被り、タオルを首に巻いて登場するYUI、MOAの表情は非常に暗く、ふてくされたような感じに見える。カワイさを「売る」確信犯を演じているのだ。

だから、ぼくは、「GJ!」や「Sis. Anger」よりも「おねだり大作戦」の方がデモーニッシュだと感じる。ただし、これがブラックメタルかというと、そうではない。北欧のブラックメタルはマジで教会を燃やしたり、仲間を殺しちゃったりする反キリスト思想の表現である。

悪魔を信じる者は神の実在を前提としている。キリスト教の土壌のない日本では、それほど強い悪魔崇拝は存在しない。

BABYMETALのキツネ様は、キリスト教徒から見て異教的ではあっても、あくまでアーティストの「設定」の範囲内であり、“ブラックジョーク”でしかないと思う。

●ぼくがいうカッコつきの「アイドル」とは、1980年代までの歌謡曲アイドルとは違って、1990年代後半から2000年代にかけて誕生した、モーニング娘。、AKB48グループ、アイドリング!!!、ももいろクローバーZを代表とする、歌唱やパフォーマンスの質は未熟だが、「成長を見守り、応援する」ことをファンに期待する女性グループを指す。

学校生活を模した乃木坂46や私立恵比寿中学、「成長期限定ユニット」さくら学院は「アイドル」の典型である。

現在、日本には4000組、1万人以上の「アイドル」を名乗る女の子たちがいるらしい。

TVに毎日出て、年末には紅白歌合戦に出るグループから、地下アイドル、ローカルアイドルまでステータスは様々だし、握手会やチェキ会などの接触イベントの有無、水着になるかならないか、メディアミックス、タイアップの有無など、形態も多様である。

また、メンバーの才能もまちまちで、ろくにトークもできない“塩対応”の「アイドル」から、歌唱やダンス、楽器演奏まで、飛びぬけた才能を持つ子までいる。

例えば、昨日4月27日のMステが、初代センター生駒里奈の最後の出演となった乃木坂46所属の生田絵梨花。

父の仕事の関係でドイツ、デュッセルドルフ生まれ。SU-の1歳上で、中元日芽香と「中3組」(乃木坂に入ったとき中3だった)というプライベートチームを組むほど仲がよかった生田は、「怪物」と呼ばれるほどの才能の持ち主である。

歌唱力は抜群で、オーケストラをバックに、完璧なピッチで、ディズニーアニメの挿入歌やミュージカル曲を歌い上げる。

クラシックピアノは全国コンクールの東京都代表で、現在音楽大学に通う腕前。地下鉄千代田線乃木坂駅の発車ジングルは、生田が弾いた「君の名は希望」である。乃木坂駅の乗降客数は1日平均42,394人なので、365日、これだけの人が生田のピアノを聴いていることになる。

それだけではない。毎年、乃木坂46は、46時間耐久の配信番組をやるのだが、その中で生田は「演し物」として、ある年はフィンランド民謡「イエバンポルカ」を原語で完コピして披露し、フィンランド大使館から絶賛された。

またある年はスイスのヨーデルをやりたいと思いたち、たった2回レッスンに通っただけで、ライブツアーの合間に発声法を習得し、完璧なピッチと安定感で、ヨーデルを2曲披露した。そのうち1曲は先生に教わってもいない独学である。70年代アメリカのテレビなら、チェット・アトキンスと共演し、一夜にして大スターになる器である。

「乃木Bingo」や「乃木坂ってどこ」「乃木坂工事中」の中では、ウクレレ、沖縄の蛇皮線なども短期間に習得して披露した。「アイドル」としても、バナナマンのボケに対する天然リアクションや「重ね」で笑いを取るトークテクニック、爆笑コメディ演技などもこなす。

その才能は「アイドル」離れしたマルチタレントといってよい。「画伯」と呼ばれるほどドヘタな絵や、ダンスの不器用さ、ライブ終わりにハイテンションになったときの常軌を逸した言動もタレントのひとつだろう。才能が渋滞しているのだ。

ちなみに、昨年11月の東京ドームで引退した中元日芽香は、妹の「世界的歌姫」と同僚の「怪物」に囲まれていたわけだ。ひめたんだって、歌唱力、アイドルらしさ、トークでの言葉のチョイス、ラジオ番組での仕切り、そして卓越した演技力など、並みの「アイドル」より恵まれた才能を持っていたと思う。だが、2014年から三年間、病魔と闘いながらスケジュールをこなさなければならなかった。その過酷さは想像を絶する。

乃木坂46は、2015年、メンバー15人が出演する舞台「じょしらく」を上演。2017年にも「あさひなぐ」の舞台公演を行っている。ももクロは2016年「幕があがる」の映画と舞台公演を行い、さくら学院も舞台「秋桜学園合唱部」を上演した。

1980年代までのアイドルはテレビの中だけにいた。AKB48は会いに行ける常設小屋を作ったが、アイドリング!!!や乃木坂46は常設小屋を持たなかった。だから「アイドル」にとってもテレビ出演が人気のカギを握ってきたが、ここへきて、ライブツアーと舞台へと主戦場が移ってきている。

生田絵梨花は、そもそもミュージカル女優を目指して乃木坂へ入ったという。彼女がコゼット(のひとり)を演じる帝劇『レ・ミゼラブル』は2018年度の続演が決定した。

欧米では、夜に出かけてオペラ、ミュージカル、演劇、コンサートを生で見るのが王道のエンターテインメントであり、テレビというものは無料で見られるその「ダイジェスト」あるいは「劣化版」に過ぎなかった。

しかし日本では、テレビこそエンターテインメントの王者であり、アーティストや俳優やタレントの主戦場だった。だがネットの普及によって、テレビ視聴率が低下し、予算の削減による番組の質の低下やあからさまなタイアップの横行、低予算のバラエティ番組や外部委託による偏向報道などの問題が起き、一方で動画配信サービスの充実により、地上波テレビの独占的地位は大きく変わりつつある。

まだまだ不確定な要素は多いが、「アイドル」の中から、本当に才能をもったアーティストが、ライブや舞台で輝き、未熟さではなく才能をこそ愛するファンがそれに喝采を送ることが、日本のエンターテインメントの質をも変えていくのではないだろうか。

だが、それにしても「アイドル」業界には、テレビでの告知とCD、物販の仕組みで食っている業界人が多すぎる。

その犠牲になっているのが、“未熟さ”を失うと使い捨てにされる「アイドル」本人であり、「アイドル」の成長を見守るためにお金も時間も使ってカモられるファンなのだ。

「おねだり大作戦」は、2012年の段階で、早くもこうした構図を見抜き、告発した楽曲である。Dark Sideに堕ちてしまったというストーリー仕立てながら、それを、おそらくアイドルファンの中で一番優しいさくら学院の「父兄」さんに向かってやる。これが“ブラックジョーク”メタルでなくて何であろうか。「アイドルとメタルの融合」BABYMETALの奥深さを示しているのが、「おねだり大作戦」なのである。

(つづく)