好きすぎてツライ(16) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

―May FOX GOD be with You―

★今日のベビメタ

本日4月27日は、2011年、「ド・キ・ド・キ☆モーニング」が収録された、さくら学院1stアルバムが発売され、2017年には、Red Hot Chili PeppersのUSAツアーSpecial Guestとして、デスメタルの聖地、フロリダ州タンパのAmalie Arenaに出演した日DEATH。

 

「ギミチョコ!!」編つづき

●今年2月に上梓された島田裕已の『ジョン・レノンはなぜ神を信じなかったのか ロックとキリスト教』(イースト新書)によると、日本でクリスチャンというとキリスト教を信じる西欧かぶれの心優しい人というだけの意味だが、ほとんどがキリスト教徒のアメリカでは、敢えてChristianというと、南部バプテスト連盟や福音派(エヴァンジェリカル)など、聖書を字義どおりに解釈するキリスト教原理主義者を指すのだという。

今年BABYMETALが5月のUSツアーで回るカンサス州(Uptown Theaterはミズーリ州側)、テキサス州、ジョージア州、ノースカロライナ州、テネシー州は、この人たちが数多く居住している南部の”バイブル・ベルト“地域だ。

島田裕已によれば、彼ら熱心なキリスト教原理主義者たちにウケているのが、Contemporary Christian Music、略してCCMだという。

エルビス・プレスリー、リトル・リチャード、ボブ・ディラン(ユダヤ教→キリスト教→ユダヤ教)ら、アメリカの音楽家の多くが、子どもの頃教会に通った経験があり、アーティストとして成功し、多忙の中で酒やドラッグや不道徳に溺れ、自分を見失うと、幼い頃教わったキリスト教を思い出し、ゴスペルや神の愛について歌う楽曲が多くなる。ロックは「反体制」で売っているのでレコード会社はそれを嫌うが、CCMには一定の需要があり、メガチャーチを主戦場とするCCM専門のロックミュージシャンも多いという。

へヴィメタルバンドでCCMに分類されるのが、現在発売中の『ヘドバン』Vol.18P.148に出ているストライパーというバンドである。モトリークルーやラットと同時期にデビューし、プラチナディスク、ゴールドディスクを連発し、解散―再結成と経て、現在も現役である。

バンドのロゴには、旧約聖書のイザヤ書53章5項が明記されている。

この部分を読んでみると

―引用―

But He has wounded for our transgressions, He was bruised for our iniquities; The chastisement for our peace was upon Him; And with His stripes we are.(Bible Gateway)

しかし彼はわれわれのとがのために傷つけられ、われわれの不義のために砕かれたのだ。彼はみずから懲らしめを受けて、われわれに平安を与え、その打たれた傷によって、われわれはいやされたのだ。(新共同訳)

―引用終わり―

He、Hisが文中なのに大文字になっていることに注意されたい。このように人称代名詞単数が大文字で書かれた場合、それは神のことである。

この部分は、イエス生誕のはるか前に書かれた旧約聖書の中で、イエスが十字架につけられて死ぬことを予言した箇所といわれるが、この中の「打たれた傷」がStripesである。

ストライパーは、イエスが人類の罪をあがなうために負ったこのstripesを記念して、縞々のコスチュームを着て、ステージ上から観客に聖書を投げ入れるのである。一昨年来日したという。知らなかったよー。

ストライパーもスゴイが、ぼくが昨年行ったノースカロライナ州シャーロットのメガチャーチもすごかった。

8,000人収容の教会で、ステージにはロックバンドとストリングスのブースがあり、「♪ジャジャーン」とロックの演奏に乗って大人数のコーラスが歌い始めるところから日曜礼拝がスタートする。牧師はMCみたいな役割で、いきなり1945年のミズーリ号の甲板で日本が降伏文書にサインする写真が映り、弾道ミサイルを発射した北朝鮮に対して「悪い王が栄華を極めていても、神の正義の前に必ず滅びる」という彼の説教も、演目の一つという位置づけのようだった。もちろん、この“日曜日の礼拝ショー”は、教会に来られない家庭にも配信され、莫大な寄付金が集まる。

ぼくは日本と北朝鮮が同一視されていることにショックを受けたが、これもアメリカの一部なのだ。

もっともこういう光景は、キリスト教至上主義の“バイブル・ベルト”だからこそ見られるものであり、NYなどの東部や、LAのある西海岸、メディアの主流を占めるリベラル派や大卒エリートは、少なくともキリスト教の常識や倫理観を知っているが、基本的にはそれほど教会活動に熱心ではない。島田裕已の用語でいえばChristianではない。

「普通の人々」が、何かを考えたり批評したりする場合は、一般常識としてのキリスト教的倫理観と「多様性」を重んじるポリティカル・コレクトネスとのせめぎあいとなる。

だから巨大なマリア像の前で歌い踊る「ギミチョコ!!」のMVを見たとき、衝撃が走ったのである。そしてBABYMETALを、テクノ・オリエンタリズムをまとった「良識の破壊者」として称揚した。YouTubeも含め、アメリカのメディアは、リベラル色が強いので、BABYMETALは、どちらかといえばCCMに対するカウンターと考えられている可能性がある。

BABYMETALの“第二の故郷”、イギリスではどうか。

島田裕已によれば、聖公会を国教とするイギリスでは、日曜日に教会に通う信徒の数は減少しており、国民はアメリカほど宗教に関心を持たない。

ビートルズやストーンズなど著名バンドのメンバーも、あからさまに神を礼賛するような楽曲は作っていない。「Let it be」の歌詞に出てくる「Mother Mary comes to me」も、単にポール・マッカートニーの母親メアリーが夢に出てきたというだけだそうだ。それにしてはパイプオルガン風の編曲はどうなんだという気もするが。

島田裕已いわく、イギリス出身のロックミュージシャンでは唯一、エリック・クラプトンが、麻薬とアルコールからの立ち直りの過程でキリスト教に回心し、息子を失うに至って、神への祈りを前面に出した音楽活動を展開しだしたとのこと。

要するにイギリスは、無神論者または神道的なアミニズムや先祖霊、仏教的なご縁を信奉している日本と、教会活動に熱心な大勢の人がいるアメリカの中間だということだ。

BABYMETALがSonisphere UK 2014のフィニッシュでウケたのが「イジメ、ダメ、ゼッタイ」だったのに対して、アメリカでは自らも「良識の破壊者」であるレディ・ガガがステージ下で踊り狂い、「The Late Show with Stephen Colbert」やRHCPの前座ツアーのフィニッシュに選ばれたのは「ギミチョコ!!」だった。

面白いことに「イジメ、ダメ、ゼッタイ」はC#mで始まるが、3回の転調を経て最後は平行調のEで終わる。「ギミチョコ!!」もEである。

イギリス向けには「Kill the King」(レインボー)とほぼ同じビート、リッチー・ブラックモアそっくりのギタートーン(KemperのENGLアンププロファイリング)で奏でられる魔法のパワーメタル「イジメ、ダメ、ゼッタイ」。

アメリカの一般人向けには、巨大マリア像の前で踊り回る“良識破壊者”としてのBABYMETALをアピールする「ギミチョコ!!」というナンセンスソング。

2014年の時点で、国情に合わせてキラーチューンを作り分けていたとすれば、KOBAMETALはとんでもない天才である。

もしそうでなく、偶然そうなったのだとすれば、それこそ人知を超えたキツネ様のお導きによるものと考えるより他はない。

●それでは、日本では「ギミチョコ!!」はどのように評価されているのだろうか。結論的に言えば、評価以前に、ぼくらメイトが思っているより、日本の一般人はこの曲を知らない。

この曲は、「イジメ、ダメ、ゼッタイ」や「メギツネ」のように、CDシングルとしてリリースされなかった。BABYMETALを代表する曲でありながら、この曲が単体で日本のTVの歌番組で披露されたのは、2015年12月25日のMステSUPER LIVEだけで、生演奏の映像は、WOWOWのBABYMETALライブ放映を除けば、2016年4月4日のNHK「MJ Presents BABYMETAL革命」のミニライブだけ。

TBSの番組の中で、加山雄三氏によって「ギミチョコ、最高だね」と言われたことや、東京ドームなどのニュース映像のバックに一瞬流れることはあったが、国内ではこれだけだ。

海外では2016年4月5日全米ネットワークCBSの「The Late Show with Stephen Colbert」で生演奏された。

2016年以降、BABYMETALはTVに露出していないので、一般人が「ギミチョコ!!」に触れるには、自らYouTubeのMVを見るか、デロリアンを買うしかない。

「アイドル」の新曲や、CM、ドラマとタイアップしたアーティストの楽曲は、TVをダラダラ見ていれば流れてくる。しかし、BABYMETALに全く関心のない人がBABYMETALの楽曲に触れるチャンスはほとんどない。いや、バラエティ番組のBGMに「ヤバッ!」とか「おねだり大作戦」とかがかかることは増えているのだが、知っていてナンボである。

一般人にとって、BABYMETALの名前や、「ギミチョコ!!」という曲名、あるいはそれがYouTubeで8680万回も視聴されていることは知識として知っていても、曲をしっかり聴いたことがない。一般的な知名度は「イジメ、ダメ、ゼッタイ」や「KARATE」の方が上なのではないか。少なくとも、「♪イジメ!ダメ!」は口ずさめても、「♪C!I!Oチョコレートチョコレート」は歌えない人が多いのではないか。

それはもう、Mステ出演回数に比例するのだ。

AKB48と共演した2014年2月と初ヨーロッパツアーを終えた12月は「イジメ、ダメ、ゼッタイ」。2015年12月のMステスーパーライブは、「ギミチョコ!!」。欅坂46と共演した2016年4月は「KARATE」だった。

出演回数自体が少ないわけだが、演奏回数と新しさで、「イジメ、ダメ、ゼッタイ」>「KARATE」>「ギミチョコ!!」ということになる。

だから、極端な話、日本では、BABYMETALといえば「イジメ、ダメ、ゼッタイ」なのであり、「ギミチョコ!!」は、自分から視聴ボタンを押した人しか知らない。それを見ても、アメリカ人のように、マリア像の前で骨バンドと共に歌い踊っている姿にセンセーションを感じる人は、まず日本人にはいない。YUI、MOAの可愛さやSU-の歌声が気に入ればファンになるし、そうでなければ二度と見ない。

そこから先輩がPerfumeであることを知り、モチーフとして「チョコレートディスコ」が援用され、そのメタルコア版というべきナンセンスソングなのだ、といった蘊蓄にたどり着く人は極めてまれだ。つまり、メイト以外の一般人にとって「ギミチョコ!!」の凄さとか、良さは理解されていない。

だから。

「ギミチョコ!!」を一般日本人に語ることこそ、BABYMETALを布教する大命題となる。

●今のところ、ぼくが一般人に「ギミチョコ!!」の魅力を語る論点は以下のとおり。

・幕張メッセに1万人の観客を集めた2013年12月21日Legend”1997”SU-METAL聖誕祭で生収録された。

・当時高1と中2だった三人がとにかくカワイイ。その子たちがメタルコアの曲で、ヘンテコなダンスをやっているのが画期的だった。

・Perfumeは、ASHおよびアミューズの先輩で、「チョコレートディスコ」のモチーフを援用している。振り付けは同じくMIKIKO師。ホラ、あのリオオリンピック閉会式の演出や「恋ダンス」の振付で有名な。

・この曲の作者は、2005年のDownload UKにも出演したハードコア/メタルコアバンドTHE MAD CAPSULE MARKETSのベーシスト上田剛士(現AA=)。E単音を繰り返す、暴力的なまでのシンプルな構成で出来ている。

・単純なリフに、わざとチューニングをはずしたキーボードが絡み、不穏な雰囲気。

・MOA、YUIのScream「あたたたたーた」「わたたたたーた」はアニメ「北斗の拳」の、「ずきゅん」「どきゅん」は小泉今日子の「渚のハイカラ人魚」のオマージュ。

・それに続く美しい和音上昇のパート(E→Eug→F#m7→B)は、ジョン・レノンの「Starting Over」を彷彿させる。

・2014年2月にアップされてから現在まで、YouTubeの視聴回数は8680万回を超えた。この曲が欧米で大人気になったことで、BABYMETALは世界進出できた。

・巨大なマリア像の前で骨バンドとともに歌い踊る「尋常ならざる者」の姿が、アメリカ人の「良識」をぶちこわし、ホームランとなった。

・加山雄三のお気に入り。

・レディ・ガガは2014年に前座に起用したBABYMETALのこの曲の最中、ステージ下で踊り狂い、ライブ後「I’m a fan」とツイートした。

・以降、アメリカではBABYMETALの曲で一番人気があり、2016年CBSテレビで生演奏され、2017年のレッチリやKORNのツアーではフィニッシュソングとなった。

・2016年アメリカ中西部のライブでは、YUI、MOAがチョコレートのオブジェを持って、アメリカ人観客を下がらせ、座らせ「ギブミー!ギブミー!」と言わせてチョコレートを投げるふりをした。これは敗戦後焼け跡の進駐軍の光景の再現。アメリカ人YouTuberも観客も、この曲にこういう皮肉が仕込まれていることに気づかない。

・もちろん、こんな蘊蓄は、楽曲自体の魅力とは関係ない。カワイイ三人と超絶テクの神バンドがハードなメタルコアを演奏するこの曲を好きになれるかが、君の音楽センスの試金石だと思うよ。

(つづく)