好きすぎてツライ(12) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

♰THE ONE NEVER FORGET MIKIO FUJIOKA ♰
★今日のベビメタ
本日4月20日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

「No Rain No Rainbow」編

●初披露は、2013年6月30日のLegend“1999”YUMETAL&MOAMETAL聖誕祭@NHKホール。2回目は2014年3月2日の日本武道館黒い夜Legend“ Dooms Day”~召喚の儀だったが、この曲は1stアルバム『BABYMETAL』には収録されず、“お蔵入り”になったかに思えた。
しかし、2016年2月19日に、2ndアルバム『Metal Resistance』に収録されることが発表され、ファンは喜んだ。だがWembley Arenaでも、2016年前半のワールドツアーでも、夏の白ミサでもこの曲は演奏されず、東京ドーム2日目「Black Night」の8曲目にようやく演奏された。
2016年年末から2017年前半までのレッチリ、メタリカ、ガンズ、KORNらとの前座ツアーでも、当然この曲は演奏されず、5大キツネ祭り、巨大キツネ祭りでも演奏されなかった。
そして、ようやく2017年も押し迫った12月のLegend-S-洗礼の儀@広島グリーンアリーナで、ピアノの神とストリングスの神が登場し、初日・2日目とも、この曲が演奏された。
だから、「No Rain No Rainbow」は、メイトさんの中にファンの多い名曲なのに、5年間でたった5回しか演奏されていない希少楽曲なのである。
●「No Rain No Rainbow」という言葉は、ハワイのことわざなのだという。雨が降らなければ虹は出ない。悲しみが人を強くする。真理である。
海外は知らないが、日本では同名の曲が3つある。
大阪のパンクバンドSABOTENが2002年にリリースした2ndアルバムのタイトル曲。
ヒップホップグループHOME MADE 家族の通算14作目のシングルで、2008年『劇場版 NARUTO -ナルト- 疾風伝 絆』の主題歌となった曲。
岡村孝子通算17枚目のアルバム(2013年)のタイトル曲。
BABYMETALの「No Rain No Rainbow」のクレジットは、作詞YUSHIFU-METAL、MK-METAL、NAKAMETAL 作曲YUSHIFU-METALとなっている。
YUSHIFU-METALとは、ビーイング所属の作曲家小内 喜文氏のことで、ゲーム/アニメ「アイカツ」の主題歌作詞、AKB48や乃木坂46の作曲、BOYS AND MENの作曲、アニメ「スマイルプリキュア」の主題歌作曲などを手がけている。
ミュージカル仕立てだった2013年のLegend“1999”では、「巨大勢力アイドル」に拉致され、「マダム・アッソーの館」で蝋人形にされかかったYUIMETALとMOAMETALをSU-METALが救い出すという設定で、美しいツインギターの間奏部に入ると、舞台中央のスッポンから、固まった二人がぴょんと出てきて、SU-の歌の力で呪いの解けた二人が楽しそうにピアノを弾く場面になる。


スタジアムライブ色が強まった2014年の日本武道館「黒い夜」と、2016年東京ドームの「Black Night」では、文字通りSU-の独唱曲となった。
「紅月-アカツキ-」「悪夢のロンド」「Amore-蒼星-」の“動”に対して「No Rain No Rainbow」は、“静”のバラードであり、たった一人の歌声によって大観衆を魅了するSU-の歌手としての実力が、申し分なく発揮される曲である。
特に、サビの「♪絶望さえも光になる」の最初の「ゼ」の音が凄い。ピッチがしっかりしたアイドル、ベルカント唱法のソプラノ歌手、ビブラートを変幻自在に使えるポップス歌手、個性的で魅力的な声のシンガーソングライターは、いくらでもいるだろう。しかし、ツインギターを擁するメタルバンドを従えたバラードで、この「ゼ」の発声ができる歌手は、日本ではひとりしかいない。
この曲で、5万5千人の目と耳がSU-MEATALに集中し、あちこちですすり泣きが聴こえた東京ドームの光景は、忘れることができない。
●この曲は、きわめてシンプルな下降クリシェでできている。

原曲キーはギターの基本であるC。歌詞とコードを書いてみる。

「♪(C)どうし(ConB)て眠れ(Am)ないの(Am on G)?(F)どうし(FonE)て夜は(Dm)

終わるの(E7)?」のところ、onコードが多いので一見難しそうだが、要はベースとなるルート音を、C(5弦3F)→B(5弦2F)→A(5弦0F)→G(6弦3F)→F(6弦1F)→E(6弦0F)→D(4弦0F)→E(6弦0F)と下げていけばよい。

こういう、ルート音を少しずつ下げていく進行を下降クリシェ進行という。

「♪いら(Am)ない何も(AmM7)あし(Am on G)たさえも(Am on F#)君が(F)い(G7)ない未来。(Am)→(G7)」のところは、ルート音をA(5弦0F)にしたまま、Amの3弦2Fを1Fに下げ、そのあとルートをG(6弦3F)→F#(6弦2F)と下げていったん止まり、F(6弦1F)→G(6弦3F)→A(5弦0F)→G(6弦3F)と少し戻すクリシェ構造になっている。

Aメロ2回目の「♪そばに(F)いて(G7)ほしかった(Csus4)→(C)」に続くサビの「♪(E7)絶(Am)望さえ(G)も光(F)にな(Em)る。(Dm)止まないあ(C)めが降り(Bm7-5)続いて(E7)も。」のところも、ルート音はA(5弦0F)→G(6弦3F)→F(6弦1F)→E(6弦0F)→D(4弦0F)→C(5弦3F)→Bm7-5(5弦2F)→E(6弦0F)と、前半は下降してEに達し、後半はさらに高いDから下降していってもう一度Eに下がるという進行である。この部分の2回目は「♪いつま(Asusu4)ーでも(A)」と一瞬だけ長調化する。

Bメロは、「♪(F)二度と会えな(Em)いけど忘(E7)れないで(Am)いたいよ。(G)(F)夢が続(C#dim)くなら覚め(G)ない(E7)で」は、F(6弦1F)→E(6弦0F)→G#(6弦4F)→A(5弦0F)→G(6弦3F)までは下降クリシェで、ここからF(6弦1F)→F#(6弦2F)→G(6弦3F)と半音ずつ上昇し、もう一度E(6弦0F)に戻ってしまう。

「イジメ、ダメ、ゼッタイ」が下降から上昇へ転じ、絶望から希望へと大転換するのに対して、「No Rain No Rainbow」は下降クリシェの連続で、劇的に上昇するわけではない。

しかし、下降クリシェ進行の連続でも、この曲では絶望が強まるというより、悲しみや寂しさを抱えながらも強く生きようとする意志が立ち現われてくるような気がする。

それは、「イジメ、ダメ、ゼッタイ」と違って長調を基調にしていることと、ゆっくりとしたテンポの中に、ときおり、上昇コード進行が踏まれているからである。

ひとつは、サビの「♪光になる」のF→Cの進行。

C(ハ長調)は同じ長調の中でも、もっとも端正で落ち着いた感じを与える。悲しみが降りやまぬ雨のように継続していても、主人公は穏やかで規則正しい生活を送っているという感じ。

もうひとつは、一瞬の長調化がいくつかあること。

Aメロの最後「♪心(Bm7-5)みたす(E7)よいつ(Asus4)まーでも(A)」や、Bメロの「♪(Em)忘(E7)れないで(Am)いたいよ」のEm→E7の進行である。後者は2012年度さくら学院中元すず香卒業曲「My Generation Toss」(Key=D)の「♪いつ(Em)でも思(E7)い出せる」と同じで、短調で表現される悲しみや寂しさが、長調に変わって「思い出せる」と思うことによって、明るさに転じる。

さらに、「♪(F)夢が続(C#dim)くなら覚め(G)ない(E7)で」のところ。

ギターコードでは、Fの次のC#dimは「4弦4F3弦5F2弦4F1弦5F」の形が一番音源に近いが、ベースラインは6弦1F→2F→3F→0Fという半音ずつの進行となる。この胸に迫ってくるような上昇感は、やや現実離れした願望を表現している。

下降クリシェの連続は、「イジメ、ダメ、ゼッタイ」のように、短調で、速く激しければ、追い立てられるような絶望感が強まっていくように感じられるが、長調のゆったりとしたテンポだと、静かに雨が降り続いているような印象になる。

そんな中、「♪光(F)にな(C)る」とか「♪(Em)忘(E7)れないで(Am)いたいよ。(G)(F)夢が続(C#dim)くなら覚め(G)ない(E7)で」の部分は、まるで黒い雨雲の合間から光が差し込むような感じになるのだ。

雨の中に光が差し込むことによって虹ができる。

歌詞の世界が、見事にコード進行によって表現されている。やはり「No Rain No Rainbow」は、珠玉のバラードなのである。

●これまでに生演奏されたこの曲のツインギターは、2013年6月30日のLegend “1999”、2014年3月2日の日本武道館「黒い夜」、2016年9月20日東京ドーム「Black Night」まですべて、Leda&大村孝佳のコンビで演奏され、2017年12月2日、3日Legend-S-で、初めて藤岡幹大&大村孝佳となった。「BMD」「ヘドバンギャー」「イジメ、ダメ、ゼッタイ」「紅月-アカツキ-」などと同様、ソロパートはアドリブではなく、おそらくLedaによると思われる、美しく、完成度の高い“書き譜”である。
「♪夢が続(C#dim)くなら覚め(G)ない(E7)で」から間奏部に入る。
転調してAから始まるが、コード進行は、A→E→F#m→C#m→D→C#m→Bm→Eで、パッヘルベルのカノンの変形である。カノンでは後半D→A→D→Eとなるが、それがD→C#m→Bm→E となっているだけだ。つまり、「人生山あり谷あり、悲しいこともあるけれど、希望はあるんだ、希望はあるんだ」という人類普遍のメッセージが放たれる。原キーのままでは陳腐になっちゃうので、転調してAにしているわけだ。
ソロ後半は再度転調してF→G→Am→F→G→Amとなり、また転調してG#→A#→C→F→FonE→Cm→B♭→G#→A#→G7sus4→Gと原キーに戻る。やや複雑だが、美しいメロディで上昇し、下降し、また上昇して原キーに戻るという構成になっている。
SU-の歌パートでは、下降クリシェに長調化でやや光が差す程度だが、ツインギターのソロパートでは、それを補って、ドラマチックなメロディとコード進行で、観客の心を揺り動かす。
つまりツインギターソロは、この曲のもう一つの「歌」なのだ。
SU-の歌が「少女」のものだとすると、ツインギターによる「歌」は、彼女を見つめる「神」あるいは「大人」の温かいまなざしだ。

転調するのは、「ちょっと視点を変えてごらん。人生は山あり谷あり。希望はいつだってある。すべては君次第なんだよ」というメッセージなのだ。
このパートを書いたLedaはおそらくそんなことをいちいち考えてはいまい。だが、無意識のうちにそうなっている。それが人の心を動かし、動かされる、音楽というものの不思議な力なのだとしみじみ思う。
●2017年12月のLegend-S-では、この「雨」が、原爆投下後に降った「黒い雨」であったと示唆された。

また、それ以前には、この曲は、東日本大震災で家や家族を失った人々のために書かれた歌だとも解釈されていた。
親しい人との別離や死、すべてを失う災害、戦争。
人生には、自分の力ではどうすることもできない不幸が起こることがある。
それを悔やんで呪って生きるのか、それとも次世代につなげるメッセージと希望に変えて生きていくのか。
不幸や絶望に直面したときこそ、人間の力が量られる。
―引用―
絶望さえも光になる。
止まない雨が降り続いても。
絶望さえも光になる。
悲しい雨が虹をかけるよ
今も。
止まない雨が心満たすよ
いつまでも。
―引用終わり―
「No Rain No Rainbow」という言葉は、ハワイのことわざだという。
雨が降らなければ、虹は出ない。
悲しみが人を強くする。
絶望さえも光になる。
メタルらしくない、とか、歌謡曲みたいだという人もいる。
だが、絶望は希望、死は再生、終わりは始まりだというメッセージこそ、BABYMETALのテーマではないか。この曲がBABYMETALのレパートリーにあって、本当によかった。
(つづく)