好きすぎてツライ(8) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

THE ONE NEVER FORGET MIKIO FUJIOKA

★今日のベビメタ

本日4月16日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

 

「Catch me if you can」編

●ライブ映像を見ると「BABYMETAL DEATH」が終わる瞬間、下手からローディが出てきて、BOH神に新しいベースを手渡しているのにお気づきだろうか。

BOH神が使っている6弦ベースは、6弦ギターと同じくノーマルチューニングでは6弦からE-A-D-G-B-Eである。「BMD」はKey=B♭mなので、この曲だけドロップチューニングしたベースで弾き、次の曲ではノーマルチューニングしたものと交換しているのだ。

しかし、藤岡神と大村神はそんなことはせず、同じギターのまま次の曲、例えばKey=Emの「あわだまフィーバー」とかKey=Gの「YAVA!」とかに入る。

両神が使う7弦ギターのノーマルチューニングは、7弦からB-E-A-D-G-B-Eとなるが、やはり低いB♭は出ない。7弦だけ音を下げておいて、ワンタッチで元に戻す装置もあるが、両神のギターにはフロイドローズのトレモロアームがついており、1本の弦のチューニングを変えるとスプリングの張力のバランスが変わってしまうので、全弦チューニングし直さなくてはならない。

なぜ、半音下げの「BMD」のあと、同じギターでノーマルチューニングの別の曲が弾けるのか?

この謎が、『99%藤岡幹大』(シンコー・ミュージック・ムック)で判明した。

結論から言うと、ギターのチューニングではなく、アンプ側で電子的に半音下げしていた。Bを弾いた音が、アンプからB♭として出てきていたのである。

藤岡神、大村神のアンプは、ドイツ製のプロファイリング・アンプ、Kemperである。

アンプのプロファイリングとは、自分好みのアンプとスピーカーキャビネット、さらに各種エフェクトをかけた音を、事前にマイクで録音して精密に解析し、デジタルデータ化することである。Kemperを現場に持ち込み、実際に使用するスピーカーキャビネットの音をマイクで拾ってデータと照合し、自動調整することで、録音した原音そっくりの音を出す。

このデータを「リグ」といい、Kemperでは、5つのスロットに「リグ」をセットし、それを「パフォーマンス」と呼んで100種類以上保管でき、足元のスイッチで切り替えられる。「リグ」は数十KBのサイズだからネット上で交換もできる。

これによって、ある曲では歪んだマーシャル、ある曲ではクリーンなフェンダーというように、ギターの音色を瞬時に変えることができるわけだ。要するに超精密なマルチエフェクターみたいなものだが、実際の出音を自動的に解析して再現するところが全く違う。

藤岡幹大が通常使っていたのは、「Regular」と名づけられた「パフォーマンス」セットで、その構成は次のようになっている。

<Regular>

スロット①リグ名:Rhythm

プロファイル内容:Noise Gate2:1+アンプPeavey社の5150MKⅡ+キャビネットHesu19(12インチ×4)

用途:歪んだバッキング用

スロット②リグ名:Solo Pong

プロファイル内容:Noise Gate2:1+アンプENGL社のRBTK03S E650(リッチー・ブラックモアモデル)+キャビネットE412(12インチ×4)+Legacy Delay+Hall Reverb

用途:歪んだリードギター用

スロット③リグ名:Clean

プロファイル内容:Compressor→アンプHughes & Kettner社のGrandmeister36→キャビネットTwo Notes CSG EV+Graphic Equalizer+Legacy Delay+Hall Reverb

用途:クリーンなアルペジオ用

スロット④リグ名:Rhythm

プロファイル内容:Transpose(Pitch-1)+Noise Gate2:1+アンプPeavey社の5150MKⅡ+Hesu19(12インチ×4)キャビネット

用途:半音下げ。歪んだバッキング用

スロット⑤リグ名:Solo Pong

プロファイル内容:Noise Gate2:1+Transpose(Pitch-1)+アンプENGL社のRBTK03S E650+キャビネットE412+Legacy Delay+Hall Reverb

用途:半音下げ。歪んだリードギター用

基本的には、歪んだバッキングでは①Peavy 5150Ⅱの音、ソロパートでは②ENGLのリッチー・ブラックモアモデルE650の音を使い、「ギミチョコ!!」の煽り、「KARATE」、「シンコペーション」などのクリーンでは③ヒュース&ケトナーのMeister36の音を使っていた。

そして、「BMD」では、バッキング、リードともすべての出音を電子的に半音下げることができるピッチシフターをかませた④と⑤を使っていたということだ。そしてこのセットが、藤岡神にとって「Regular」だったのだ。

『99%藤岡幹大』P.134で、ライターの坂東健太氏はこの不思議な構成について、「曲順の関係で、即座にチューニングを切り替えたい場合に使ったのか、もしくは1曲の中で異なるチューニングを切り替える必要があったのか…詳細は不明だ」と書いているが、ぼくは、「BMD」対策だとみる。

細かいところでは、①④Peavy5150Ⅱはアンプそのままの音だが、リードの②⑤ENGLE リッチー・ブラックモアモデルとクリーンの③ヒュース&ケトナーMeister 36ではディレイとリバーブが使われているといった違いや、④半音下げPeavyでは、ノイズゲートがピッチシフターの前段に置かれ、⑤半音下げENGLではピッチシフターがノイズゲートの前段に置かれているという違いがある。

また、このほかに「ギミチョコ!!」のソロで使われるワーミーが足元にあったと思われるし、リバーブや音色の微調整は、PA側でやっているのだろう。

しかしいずれにしても、プロファイリング・アンプKemperを中核にしたシステムが、BABYMETALのギター神の音を作っていた。「BMD」でチューニングを変更しなくて済むのは、Kemperのおかげだった。

かつて、有名ロックバンドは、へヴィな音を出すために、スピーカーキャビネットとアンプヘッドを縦置きにした巨大なスタックアンプ群を自家用ジェット機に積み込んでワールドツアーをしていた。

Kemperがあれば、そんなことをしなくても、ギターと最小限のエフェクター類を持ち込めば済む。BABYMETALが世界中を飛び回れるのは、機材の進化のおかげでもあるのだ。

●ギターアンプは、オーディオアンプと全く違って、全音域を歪みなくフラットに出すことを目的としていない。ギターの音を出すための楽器なので、温かみや歪みの質、コンプレッション感、倍音といった要素が重視される。真空管を使っているのもそのためで、メーカーや製品によって音が違う。

藤岡神が「Regular」セットの①④にプロファイルしていたPeavy 5150Ⅱというアンプは、1970年代後半に、Van Halenのエディと共同開発された、アメリカのハイゲインアンプ5150の改良版である。「Jump!」「Panama」の音を想起されたい。

高校2年のときだから1977年だと思うが、ぼくのバンドがある野外ライブに出ることになった。そのステージには主催者がレンタルしたPeavy のスタックアンプがあって、出演バンドはいくらか払えば使えることになっていた。

当時ぼくはPeavyというブランドを知らず、あのロゴも、キャビネットの左右が白いそのデザインも初めて見たのだが、その音の良さにほれ込んでしまった。今思えば、あれは5150の前身機種(VTM120か)だったのだと思う。

最初からマーシャルが白熱したような強烈な歪み。カラッとしているのに緻密な音像で、サステインがかかったように倍音が豊かで、タッピングやピッキングハーモニクスが出しやすい。にもかかわらず荒々しくはないところがPeavyの最大の特徴かもしれない。

藤岡神は、それを選び、BABYMETALのほぼ全曲のバッキングで使用していたのだ。

藤岡神は、ソロ、リードのパートでは、②⑤ENGLリッチー・ブラックモアモデルを使用していた。

リッチー・ブラックモアといえばディープパープル~レインボーを経て、クラシカルメタルへとつながるHR/HM史上最重要ギタリストであり、高校時代のぼくのアイドルだった。

そしてリッチーといえばマーシャルのスタックアンプ。

その気品に満ちた美しいロゴとシンプルだがゴージャスなデザインは、ジミヘン、レッドツェッペリン、ディープパープルをはじめとする60-70年代ハードロックの象徴だった。

BABYMETALのLegendシリーズの「紙芝居」や「ヘドバンギャー」の頃の宣材写真にも、巨大なマーシャルのスタックアンプが城壁のように並ぶ光景が使われていた。

今は、アマチュアバンドの練習用の貸しスタジオにも、ほぼ必ず置かれているが、ぼくが高校生だったころは、マーシャルを置いてある貸しスタジオは少なく、時たま使える機会があっても、使いこなすのは難しかった。

ギター小僧は、ギター雑誌などに掲載された機材解説やセッティング分析を参考に、著名ギタリストの音を再現しようとするものだが、マーシャルアンプは、スイッチを入れればいいというものではない。

機種によっても違うが、傾向としてはどうしても高音域が強調されたシャラシャラした音になってしまう。デカい音で長時間演奏し、真空管が白熱しないと、レコードやCDで聴くような、荒々しくも、中音域にドライブがかかったような「リッチー・ブラックモアの音」にはなってくれないのだ。

高校生にとっては、リッチーが使っている高価なマーシャルは憧れではあるが、現実には、安価なトランジスタアンプに、ちっちゃな電池式のディストーションやコンプレッサーをつないでそれっぽい音を作り、満足するしかなかった。

だから、最初から簡単に歪み、倍音が豊かなPeavyを鳴らしたとき、「すげえ!」と思ったわけだ。

リッチー・ブラックモアは、ディープパープル時代には、1967年製のマーシャルMajor(200W)の2つのボリュームをカスケード接続し、トレブルブースターをかませて「あの音」を出していたといわれるが、今、ディープパープル時代の音を聴くと、どうしてもドンシャリのスカスカに聴こえてしまう。

80年代以降は、マーシャル自体もJCM800、900など、ハイゲイン化が進み、アメリカではメサブギーやPeavyがメタル/ラウド系の御用達となり、ドイツのENGLはジューダス・プリーストのグレン・ティプトン、マーティ・フリードマン、クリス・インペリテリなど、メタル系テクニカルギタリストの定番となった。リッチー・ブラックモアも1994年のレインボー再結成以降は、より現代的で4チャンネル仕様のシグネチャーモデルを使用している。

マーシャル、ENGLの音は、エッジがくっきりしていて荒々しい。藤岡神はこの音を選んでソロ、リードのパートで使っていた。

高校生の時にほれ込んだPeavyと、憧れだったリッチー・ブラックモアのENGLシグネチャーモデルをプロファイルした藤岡神の音を、ぼくが好きになるのは必然だったのだ。

●「Catch Me If You Can」は、神バンドのインプロヴィゼーションとセットでこそ魅力的だとぼくは思う。CD音源ではギターのスクラッチ音と、SEのデスボイス「もういいかい、もういいかい」「♪まあだだよ」から始まる。このSEはどうしても「赤鬼さん鬼さん」に聴こえてしまうのだが、それはいい。

注目したいのは、藤岡神のギターが、青山神のドラムスに続く「♪ダダッ、ダダダ、ダダッ」(CmBm、CmCmCm、CmBm)というギターリフの時は端正な①Peavy 5150Ⅱの音で、インプロヴィゼーションになると耳をつんざくような②のENGLリッチー・ブラックモアモデルの音になるということ、さらに三人が「ハイ!ハイ!」と入って来たときの音域が、インプロヴィゼーションの音域とほぼ重なるということである。

男性ボーカリストをフロントマンとするメタルバンドでは、バッキングのギターは、単体として聴くとドンシャリ(高音域と低音域)でスカスカなくらいがちょうどよい。中音域を担当するボーカルが際立ち、バンド演奏全体としてバランスが取れるからだ。ソロパートのところでは、ギタリストがピックアップを変えたり、ブースターをかませたりして、音の密度を上げ、より目立つ音にするのが普通だ。

しかし、BABYMETALはSU-がボーカリストだから、ギターが高音域に偏っているとぶつかってしまい、バランスがとれない。そこでバッキングにはキンキンしない重厚な音が必要になる。ただし、ときおり狐火のようなピッキングハーモニクスも出さねばならないのがBABYMETALだ。そこでPeavy 5150Ⅱなのだ。カラッとしていて緻密なのに、時々「きゅいーん」という音を出すのが、まさにEddie Van Halen流ではないか。

そして、ソロの時には、荒々しいENGL=リッチーの音。

このインプロヴィゼーションで使われる音域は、SU-が声を張ったとき、YUI、MOAがScreamする音域と同じである。

BABYMETALにあっては、ギターソロは、SU-のボーカルと同じバランスで奏でられるのだ。ついでにいえば、ソロ時のBOHのベースもハイが強調されていて、いわば男性ボーカルと同じように「歌う」し、全体を正確なリズムキープで支えるドラムスも、「CMIYC」の神バンドソロでは、起承転結のあるドラマチックなソロを聴かせる。

通常のバンドは、フロントマンのボーカルとバックバンドという関係になりがちである。

だが、BABYMETALでは、SU-のボーカルとメロディアスなツインギターが同じバランスで奏でられ、YUI、MOAのMIKIKO師仕込みの“表現”としてのダンスと合いの手、ソロでの「歌う」ベースとドラムスというように、観客に曲のイメージを伝えるフロントパートがいくつもあるという構造になっている。

それがはっきりとわかるのが、神バンドソロから三人が登場してくる「Catch Me If You Can」なのである。

●Sonisphere 2014は、当時のBABYMETALにとって、最多のオーディエンスを前にしたライブだったし、しかも本場イギリスのメタルフェスのメインステージだった。

英語版の「紙芝居」が始まったとき、すでに大観衆で埋まっていたが、J-POPアイドルが、メインステージに上がることが、必ずしもメタルヘッズに歓迎されていたわけではなかったことは、現在さまざまなサイトで確認できる。

METALLICAの「ONE」の中盤のような「ダダダダダダダ、ダダダダダダダ」で始まる「BMD」で三人が下手から入って来たときは、「おっ、なんじゃコリャ?」といった驚きがあり、超絶技巧のギターソロやへヴィなデスメタルの曲調には、たんなるJ-POPではないことはわかっただろう。続く「ギミチョコ!!」はYouTubeで話題の曲であり、それがちゃんと生演奏されることに「なるほど、これがBABYMETALか」と納得するものはあったと思う。

しかし、いきなり「Are you ready?」から「C!I!O!チョコレートチョコレートチョチョチョ、Say!」とはじまるSU-の煽りへの反応は、現在残っているファンカムで見る限り、あまりヒートアップしていない。現在でもアウェーなライブで見られるように、ステージ前のドセン付近の数百人の集団が盛り上がっているだけだ。

その空気が一変したのが、続く神バンドのインプロヴィゼーションだった。

先手をとったのは藤岡神。

日常生活では変人だったリッチー・ブラックモアのギターソロは、うっとりするほどクラシカルでメロディアスだったが、その反対に、日常生活では優しく、ギターの求道者だった藤岡幹大のソロは、変拍子や転調の連続で、アヴァンギャルドなフレージングに特徴があった。

Leda神のソロは、レガートを多用して流麗でロマンチックなメロディを紡いでいく感じ。

ちなみに大村神は、クロマチックなフレーズも、藤岡流の変則スケールも、フルピッキングで奏でるのが特徴。

Sonisphereの舞台では、2人の異なるタイプのギタリストが、いずれも並々ならぬテクニシャンであることを知って、大観衆はステージに惹きつけられていく。続くBOH神のビリー・シーン(Mr. Big)ばりのベースソロ、青山神の卓越したドラムソロに、メタルヘッズたちは舌を巻いた。

そこへ「ハイ!ハイ!ハイ!」と三人が入ってきて、踊る踊る。

超絶テクニシャンのバンドと、Kawaiiくて歌も踊りも卓越した技量を持つ女の子たち。

このコンビネーションは、唯一無二である。

要するに、BABYMETALとは何かを、最もはっきり示しているのが「Catch Me If You Can」なのである。

(つづく)