好きすぎてツライ(6) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

THE ONE NEVER FORGET MIKIO FUJIOKA

★今日のベビメタ

本日4月13日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

 

「Tales of the Destinies」編

●昨年12月14日に行われた最後のインタビューや、大村孝佳、Leda、BOH、前田遊野ら友人たちの証言、55回分のYoung Guitar「TRICBOX SeasonⅢ」の復刻レクチャー、使用楽器・機材などを記録した『99%藤岡幹大(仮)』(シンコー・ミュージック・ムック、¥2,000)が、現在、楽器店などの店頭に並んでいる。

5月2日発行との奥書だが、3月30日に出荷されたらしく、ぼくが購入したときはすでに第二版になっていた。

厳格なカトリック系の幼稚園で、クラシックのピアノを習わされて嫌になった話。子どもの頃ゲームを一切しなかったという話。天体観測に小さいころから興味があった話。

ピアノを習ったおかげで譜面が読めたので、コードを覚えるのではなく、耳コピでメロディをギターのフレットに置き換えていった話。

高校が家から近かったので、毎日昼休みに家に帰ってギターを弾いていた話。夏休みはずっと練習してるか録音するかで、寝た記憶がないという話。

M.I大阪校でその風貌から「天才少年」と言われるまで、自分がめちゃくちゃ上手いことに気づかなかった話。卒業してすぐ電話がかかってきて、講師に採用された話。M.I講師として大村やLedaを教えた話。M.I東京校では、生徒が藤岡の影響を受ける「ブーム」が起こったという話。

子どもが生まれたとき、お金を稼がなきゃと思って、執筆活動に没頭していたという話。

神バンドのオーディションは、Ledaが推薦して実現したという話。

サポートアクトのセトリをもらうと、ライブの2日前に丸1日没頭して覚え、1日寝て、リハーサルに臨むという話。どんな難曲でも「藤岡さんならできますよね」とメールすると「そういうの嫌いじゃない」と返してきたという話。

遠征先でも部屋に引きこもってギターを弾いていたという話。大村孝佳もLedaも、藤岡を「先生」と呼び、ツアーの合間に弾き方を教わっていたという話。

自分がアーティストとして売れようなどとは思わず、どんな大会場でも小さなライブハウスでも、「今日の演奏が何点だったか」しか頭になかったという話。だから、神バンドの一員として世界のひのき舞台に立ったとき、関係者全員わがことのように喜んだという話。

もっともこの本では、神バンドとしての活動は、「メタル系のサポートの仕事」とされ、BABYMETALのべの字も書かれていないし、スタジオワークしたCDもBABYMETAL関連は一切記載されていない。あれは「小神様」だからだ。そこが清々しい。

ちなみに、アニメ「棺姫のチャイカ」のオープニング曲のギターは、藤岡幹大&大村孝佳だそうだ。ぼくは2014年~15年にYouTubeで何度も見ていたのに知らなかった。

とにかく、この本に登場するすべての関係者が、藤岡幹大は信じがたいほどの天才ギタリストだったと証言している。

大村孝佳のインタビューの最後に出てくる「ギターを弾く指が藤岡さんを探すんですよ。」という一言に、ぼくはこらえきれずに電車の中で泣いてしまった。

「Tales of the Destinies」は、『Metal Resistance』の「The One」の前に置かれ、2016年9月20日の東京ドーム初日に、ただ一回だけ生で披露された。

「The One」のイントロを倍速にして継ぎはぎし、変拍子、転調が連続するこの超難曲を生演奏できたのは、神バンドが、楽器演奏そのものを夢中になって楽しむ藤岡幹大のスピリットをコアにした仲間だったからだろう。

●Destineyとは運命ということである。運命は誰にもわからない。あらかじめ決まっているのか、自分で変えられるのかもわからない。出会った瞬間「これが運命の人かもしれない」と思うことはあっても、結局、後になってみないと「あれが運命だったのだ」と確信することはできない。それが悲しい結末に終われば、「あれは間違っていた」と思うことだってある。

―「Tales of the Destinies」(Copyright©2016Toys Factory)より引用―

運がない! ツイてない!答えはいつも

仕方ない! しょうがない!ナイナナイナイナ ナイ!

あれじゃない! これじゃない!答えはどこに

ない!ない!ない!ない!ナイナナイナイナナイナイナ ナイ!

Don't worry さあ 生まれ変わる

Count down始めていこうよSet me free!

止まらない 終わらない限りないメロディー

僕らは 振り向かないNow and Forever

永遠のメモリーTHE ONE will be with you我らが The Destinies

ダメじゃない? ダメじゃない!ナイナイナイナイ!

無理じゃない? 無理じゃない!夢じゃない? 夢じゃない!ナイナイナイナイ!

今じゃない? 今じゃない!

Can't stop me now 今始まる

The big chance狙っていこうよGet ready!

止まらない 終わらない果てしない ジャーニー

僕らはひとりじゃないNow and Forever

それがデスティニーTHE ONE will be with you我らが The Destinies

―引用終わり―

「Tales of the Destinies」というタイトルのこの曲の歌詞の中には「ない」という形容詞あるいは助動詞が44回出てくる。しかも語尾で韻を踏んでいる。

つまりこの歌詞は、運命など「ない」と言っているのだ。

しかし「ない」にもいろいろなニュアンスがある。

日本語は膠着語なので、語尾によって意味が確定する。だからその文がネガティブであるのかポジティブであるかは、「ない」の前の語によって決まる。

「運がない」「ついてない」はネガティブだが、「止まらない」「終わらない」「限りない」はポジティブだ。

「あれじゃない」「これじゃない」はネガティブだが、「振り向かない」「ひとりじゃない」はポジティブだ。

さらに、日本語は語尾を上げることによって疑問文にもなりうるから、一文だけでなく、前後の文脈によっても意味が変わってくる。

「無理じゃない?」は「impossible」だが、「無理じゃない!」は「possible」だ。

「今じゃない!」は「Not now」だが、「今じゃない?」は「Is it now?」である。

運命など、「ない」。だが、「ない」とは虚無だということではない。取りようによって、「ない」はポジティブにもネガティブにも変わりうる。ここに、BABYMETALらしさがあふれている。絶望の中に希望があり、死は再生である。運命など「ない」。だが取りようによって、希望に満ちた未来が拓ける。すべては君次第なのだ。

●SU-が歌うこの歌詞や、YUI、MOAが入れる合いの手のバックや合間には、すべて藤岡幹大、大村孝佳、BOH、青山秀樹が弾いた音がある。

これほど緻密で変化に富んだ編曲、まるで織物のような展開の曲にしたのはなぜか。

それは、人が一生のうちに出会う運命が、様々な登場人物や出来事、思いもよらぬ展開の連続で編み上げられた織物のような構造になっているからだ。

時には「The One」の3拍子系のアルペジオが走馬灯のように駆け巡り、時には「♪スリーツーワンゼロ、スリーツーワンゼロ」のような運命が開けるカウントダウンのような瞬間に立ち会うこともあるだろう。

「♪止まらない終わらない限りないジャーニー」のように、運命が、流れる大河のように見通せることもあるだろう。ディキシーピアノをバックに、YUIとMOAが天使みたいに可愛く踊るような、まったく思ってもみなかった幸せな場面が訪れるときも来るだろう。

思ってもみなかった不幸が突然起こり、すべてが「♪ない!ない!ない!ない!」と思えて、パニックに陥ってしまうこともあるだろう。

この曲の「結論」は、「♪僕らはひとりじゃないNow and Forever それがデスティニー THE ONE will be with you 我らが The Destinies」となっている。

Wembley ArenaでSU-は言った。

「Remember, we are always on your side.」

忘れないで。私たちはいつもあなたのそばにいる。

「On your side」には君の側にいる、つまり味方だという意味もある。

そして、この曲では、それがBABYMEALの運命だと言い切っているのだ。

運命など、後から人が思うものであって、実際には「ない」。

だが、人が生きる意味はある。

自分が幸せになるためではなく、誰かのために、何かのために生きると決意したとき、初めて人生が始まる。それが君の運命になる。「ない」ということがポジティブな意味を帯びて立ち上がってくる。

それがこの曲、「運命のお話」なのだ。

これが「本物」じゃないって?

どうかしてるぜ。

(つづく)