好きすぎてツライ(5) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

THE ONE NEVER FORGET MIKIO FUJIOKA

★今日のベビメタ

本日、4月12日は、2016年、米Billboard 200で「Metal Resistance」が39位となり、日本人として坂本九以来53年ぶりにTOP40に入った日DEATH。

2017年には、「Live at Tokyo Dome」DVD/BD(通常盤)が発売され、フィルムフェスツアー大阪@なんばパークスシネマがスタートするとともに、本人たちは、Red Hot Chili Peppers USAツアーのSpecial Guestとして、ワシントン D.C. / Verizon Centerに出演した日DEATH。

 

月曜日にBABYMETAL World Tour2018のSpecial Guest=前座となるバンド2つが発表された。

US Tourの単独ライブでは、Skyharborというバンドが前座となる。インド・ムンバイ出身の5人組プログレッシブメタルバンドで、男性ボーカリスト+7弦ギター2人+ベース+ドラムスという構成。代表曲「Evolution」の曲調はディストーションのかかったへヴィなパワーコードと、ディレイや空間系エフェクターを多用したアルペジオにSFっぽい歌詞が重なるというもの。抒情的だがテクはない。ベビメタと同じ2010年10月の結成。

EU Tourの単独ライブでは、DREAM STATEというバンドが前座を務める。イギリス出身の5人組オルタナティブ・メタルバンドで、結成は2014年。ボーカリストは女性のCharlotte-Jayne Gilpin。ネットを検索したら、バンドを組む前の18歳のとき書かれた「Starnow」というサイトの写真付き自己紹介文を発見した。

それによると、身長157㎝で瞳はグリーン、専門学校でピアノとドラマを学び、KARATEの4Kyuを取得。KARATEは音楽界で活躍するための自己研鑽に役立ったとのこと。

これに男性4人=6弦ギター2人+ベース+ドラムスという構成。Charlotteのボーカルはハイトーンではなく、ハスキーでエモーショナル。最新曲「In This Hell」の曲調は、ちょっとONE OK ROCKの「We are」に似ている。歌詞は全然違うけど。

 

「KARATE」編

●歌詞が好き。

この曲が初披露されたのは、2015年12月12日Final Chapter of Trilogy@横浜アリーナだった。曲前の「紙芝居」には、炎に包まれた松岡修造らしき人物が描かれ、正拳突きの振付や「セイヤソイヤ」という合いの手がこれまでのBABYMETALにはない味わいだった。

「Metal Resistance」の曲名リストが発表されるまでは曲名がわからなかったため、ファンの間では「修造」とか、「カンフーソング」とか呼ばれていた。

ぼくは、この曲が初披露されたとき、直感的に、これは体育会系の中高生にも支持される歌詞ではないかと思った。

秋元康作詞による「アイドル」曲は、すべて引っ込み思案の少年の独白体で書かれている。

また、いわゆるギター女子の曲は若い女性の「等身大」の生活感覚で書かれていて、共感を得やすい。さくら学院の「Friends」や「夢に向かって」や「See you」や「マシュマロ色の君に」や「My Graduation Toss」「顔笑れ!」だって、ちゃんと青春の歌になっている。

ところが「BABYMETAL」収録の楽曲の歌詞は、「ド・キ・ド・キ☆モーニング」「いいね!」「おねだり大作戦」「4の歌」「ウ・キ・ウ・キ★ミッドナイト」など、女子小中学生が激しいメタルをやるところに重点が置かれた「Kawaii Metal」だし、「BABYMETAL DEATH」は「DEATH=です」という駄洒落だし、「紅月-アカツキ-」「悪夢のロンド」「ギミチョコ!!」などは、何を歌っているのか、さっぱり意味が分からない。

「イジメ、ダメ、ゼッタイ」はメッセージソングなのだが、あまりにもストレートでちょっと気恥ずかしい。「メギツネ」は高1のくせに「ああ、そうよいつでも女は女優よ」である。

要するにベビメタの曲は「なんじゃこりゃ」感が強すぎて、それを面白がるにはオーディエンスの側に音楽的素養や文学的蘊蓄が要求された。

しかし「KARATE」は、「♪涙こぼれても」「♪心折られても」「♪立ち向かっていこうぜ」「♪ひたすらセイヤソイヤ戦うんだ」という歌詞が、世界で戦うBABYMETALの根性を表すとともに、キツイ状況に置かれた観客の心に響く歌になるだろうと思ったのだ。

2ndアルバム「Metal Resistance」のシングルカット曲はこの曲になり、2016年2月に先行配信されて、iTunesの各国メタル/ロックチャートの上位にランクされた。3月には凝ったMVも公開された。

今や「KARATE」は、海外で「ギミチョコ!!」に次ぐ、BABYMETALの代名詞となった。だがそこに至るには、2016年度の地道なライブ活動があった。

●煽りパートの進化が好き。

2016年のワールドツアーは、4月2日のWembley Arenaを皮切りに、5月4日NYからのアメリカ東海岸、6月2日スイス・プラッテルンからのヨーロッパ、7月12日シアトルからのアメリカ西海岸という3部構成で、最後は7月18日のAPMAsで、ロブ・ハルフォードと共演して終わるというシリーズ構成になっていた。

ぼくは5月8日のノースカロライナ州シャーロットのCarolina Rebellionに参戦した。

横アリおよびMVでは、曲中に観客とC&Rする「煽り」はなかった。

だが、初日5月4日のNY公演のペリスコープ映像を見ていたら、この曲の途中で「SU-が変なことやってる!」という衝撃が走った。

2番が終わって三人が倒れるシーン。NY公演では、SU-は二人を助け起こさず、客席に向かって「How you feeling tonight?」とスラングっぽい英語で問いかける。文法的には「How do you feel?」か「How is your feeling?」だろうが、一応意味は通じる。観客が「ウォー」とか「イエーイ」とか答えると、SU-は「Let us hear your voice」と丁寧に言い、観客はまたも「ウォー」とか「イエーイ」とか答える。さらにSU-は、「Could you hands in air!」と叫ぶ。Handは他動詞「手渡す」だが、handsと複数形なので名詞。そう考えると、やっぱりこれも文法的には?である。「Hands up」で「手を挙げる」なので、「Put your hands up」か「Rise your hands up in the air」が正しいと思うのだが、ライブ会場でアーティストが叫ぶ言葉だから、まあ不正確でもいいし、三人が自ら手を高くあげるので、意味は通じる。

ものすごい歓声があがる中、SU-はこれまでやったことのないアドリブハミングを聴かせる。

「♪Woo~」と最初にまず長くのばし、「♪Woo Woo Woo~oo~oo…」以降、4小節が完全にアドリブになる。

当初ぎこちなかったこのメロディは、ボストン、フィラデルフィア、シャーロット、ワシントン、デトロイト、シカゴと進むにつれて洗練されていった。

実は2016年ワールドツアーで新たに試みられた英語での煽りやC&Rは、「KARATE」だけではなく、「ギミチョコ!!」(進駐軍煽り)、「Catch me if you can」(I wanna see a big circle!)でも見られた。観客とのコミュニケーションこそ、東京ドームに向けた「成長」のテーマだったのだ。

●「Everybody Jump!」の高揚感が好き。

ぼくが見たシャーロットのCarolina Rebellion 2016はMonster Energy提供のメタルフェスだった。郊外にあるNASカーサーキット周辺の丘に大小いくつかのステージが組まれており、小さいものは高校の文化祭規模、一番大きいものでもひたちなか公園のレイクステージほどの大きさ。ベビメタが出演した日曜日のトリはアリス・クーパーだった。

BABYMETALが出るセカンドステージは、メインステージが500メートルほど離れた奥に見える広いスペースの3時の位置にあった。出演時間は、メインがサウンドチェックしている午後の早い時間で、めっちゃ暑かった。

前のバンドが終わった段階でステージ前に駆け込み、センターの6列目くらいを確保したが、開演直前に後方を振り返るとメイン会場に向かうスペースがすべて観客で埋まっており、「BMD」が始まるとすさまじい圧縮となった。それどころか頭上を大男、大女がサーフしてきて、何度も頭を蹴られた。

「KARATE」は5曲中4曲目。煽りのところは「How you feeling tonight?」「Let us hear your voice」「Could you hands in air!」から「♪Woo~WooWooWoo~Woo~oo~oo…」とアドリブハミングした後、合いの手のメロディで、「♪Woo Woo Woo」と歌い、観客に「Singin!」とシンガロングを促す。YUI、MOAもこぶしをあげて観客と一緒に歌う。これが8小節続き、SU-が「セイヤソイヤ戦うんだ」と歌い、YUI、MOAがこぶしを掲げながら「♪Woo Woo Woo~」と歌い、「♪全部全部研ぎ澄まして」と歌うと、YUI、MOAは「♪Woo Woo Woo⤴」と最後をあげる。バンドの音が高まってくる。そして、もう一度、「セイヤソイヤ戦うんだ」「♪Woo Woo Woo~」を繰り返したあと、SU-は「♪全部全部研ぎ澄まして」から「Everybody, Jump!」と叫ぶ。この「ジャンプ!」の声が、高い。観客はこのSU-の声の高さに、本能的にジャンプしてしまう。これが、「KARATE」煽りの2016年版だった。

●2016年ワールドツアーの締めくくりは、Alternative Press Music Awards 2016の舞台だった。ここでBABYMETALは、メタルゴッドと呼ばれるジューダス・プリーストのボーカル、ロブ・ハルフォードと共演する。だが、その前に披露されたのがオカマの司会者が「Metal Resistanceからの1曲、きゃらーり!」という発音で紹介した「KARATE」だった。

煽りパートは5月の段階から微修正されていた。

「How you feeling tonight?」「Let us hear your voice」「Could you hands in air!」で手をあげ、「♪Woo~WooWooWoo~Woo~oo~oo…」とアドリブハミングしてから「♪Woo Woo Woo」と歌い、観客に「Singin!」とシンガロングを促し、YUI、MOAもこぶしをあげて観客と一緒に歌うところまでは同じ。

ここから先、SU-は歌詞を歌わずに、「♪Woo Woo Woo」を続ける。時には「I can’t hear you!」と言ってもっと大声で歌うように促す。そして自ら「♪Woo Woo Woo ⤴」と上げ、観客が同じように歌い、もう一度「♪Woo Woo Woo」に戻して観客が歌ったところで、「セイヤソイヤ戦うんだ、Everybody Jump!」に持っていく。SU-の歌った通りにシンガロングすればよい「♪Woo Woo Woo」の部分を増やしたということなのだろう。この映像がAmazon Musicを通じて、全世界に配信された。

これによって、「ギミチョコ!!」で有名になったBABYMETALの“新曲”としての「KARATE」が広く知られるようになった。

●だが、まだ進化は止まらない。2017年4月、レッド・ホット・チリ・ペッパーズUSツアーの前座としてパフォーマンスしたBABYMETAL。レッチリのライブ会場はNBAやNHLで使われる2万人前後収容の屋内会場だった。

「KARATE」の三人が倒れるシークエンスで、照明が暗い青に染まる中、SU-「How you feeling?」観客「Yeah!」のC&R後、「Take your phone out!」と言って客にスマホを取り出させる。そして「Turn on your light.」と言ってスマホのライトを点灯させ、会場に幻想的な光景を出現させたのだ。

2016年9月の東京ドームでは、観客に配布されたコルセットにライトが仕込まれ、「THE ONE」で点灯した。5万5千の星のような光は、東京ドーム公演のクライマックスだった。

2017年4月のレッチリUSツアーでは、30分の前座でありながらそれに近い光景が見られたのである。BABYMETALファンはもちろん、レッチリファンの間にも、BABYMETALは面白いという評判が高まり、ぼくが2017年にシャーロットのThe Spectrumで見たときには、前座なのにベビメタ開演時には9割がた客席が埋まっているという状況だった。

そして、さらに2か月後の2017年6月のKORNとのアメリカ西海岸ツアーでは、ハミングが省略され、「How your feeling tonight?」と「Let us hear your voice.」から、「We are so happy to come here!」と客席とのコミュニケーションの時間となり、6月20日のCHULAVISTAでは、「Today is really special day for us. Happy birthday YUIMETAL!」とバースデーサプライズをするまでになった。

「デロリアン」発言から4年。かつて、観客とコミュニケーションをとる曲は、「いいね!」の「Yo!Yo!」のあとの会場名と、「ド・キ・ド・キ☆モーニング」の「今何時!」と、「ギミチョコ!!」の「C!I!O!チョコレート、チョコレート、チョチョチョ、Say!」くらいだったが、SU-の英語力、コミュニケーション力はここまで進化したのである。

●握りこぶしをキツネサインに変えて掲げる最後の振付が好き。

もう何度も書いてきたが、BABYMEALは、インディーズデビューの2012年(SU-中3、YUI・MOA中1)から、メジャーデビューしてテレビにちょこちょこ出ていた2013年(SU-高1、YUI・MOA中2)の頃は、話題性優先の「色物アイドル」だった。

2010年に「成長期限定ユニット」さくら学院重音部として結成されたとき、KOBAMETALに教わったメロイックサインを、幼かった三人が「わあ、キツネさんだ」と勘違いしたのが、メタルの神=キツネ様の始まりである。

「キツネ様のお告げ」、「メロイックサインじゃなくて、キツネサイン」、「私たち、BABYMETAL DEATH!」、「神が降臨しているのでライブ中の記憶がない」、「ヘドバン養成コルセット」、「土下座ヘドバン」、「Xジャンプじゃなくてダメジャンプ」(X-Japan)、「We are?」「BABYMETAL!」(X-Japan)、「世を忍ぶ仮の姿は中学生」(聖飢魔Ⅱ)。2012年10月のLegend“I”に初めて「降臨」した「神バンド」だって、名前を見ればわかる通り「設定」に過ぎなかった。

これら各種の「設定」は、世間一般から見れば、「アイドル戦国時代」に、なんとか目立つためにメタルをやらされてる可愛くておバカな「色物アイドル」以外の何物でもなかった。

しかし、世の中がそう思っていても、メタル狂のアミューズ社員プロデューサーKOBAMETALは、崖っぷちの一か八か、「アイドルとメタルの融合」で勝負しようと考えていたし、SU-もYUIもMOAも、与えられた設定や楽曲に真剣に取り組み、本当にお客さんの心を動かすパフォーマンスをしようと思っていた。何より大事なことは、この三人が大舞台になればなるほど、期待以上の実力を発揮する真の天才だったということだ。

2013年、BABYMETALはさくら学院から切り離されて、神バンドとともに全国のロックフェスを転戦し、たぐいまれなSU-の歌唱力とYUI、MOAのダンス力と神バンドの演奏力で、「色物アイドル」だと思っていたロックファンやメタルヘッズをねじ伏せ、ファンベースに引き込んでいった。

サマソニ2013やLOUDPARK13で、「色物アイドル」だと思っていた観客も、一度BABYMETALのライブを見てしまえば、その実力を認めないわけにはいかなかった。

その結果が、2014年3月の史上最年少武道館であり、海外進出であり、ビルボード39位であり、東京ドームであり、大物バンドとの帯同ツアーである。

だが、2016年4月25日、ピーター・バラカンはTOKYO MXの番組でBABYMETALをクサし、さらに同日夜、「あんなまがい物によって日本が評価されるなら本当に世も末だと思います」とツイートした。以降、現在に至るまで、発言の修正も謝罪も行われていない。

ロブ・ハルフォードが「メタルの未来」と称え、レッチリやMETALLICAやガンズやKORNやコリィ・テイラーがツアーに帯同したBABYMETALを「まがい物」と断じたバラカンにとって、「本物」とはいったい何なのか。

BABYMEALの「KARATE」の最後の振付は、握りしめた拳を、キツネサインに変えて高く掲げ、それをすっと胸に秘める動作である。

「色物アイドル」として嘲笑されてきた過去の悔しさをバネに変え、「♪涙こぼれても」「♪心折られても」立ち向かい、理不尽な世間をねじ伏せてきた。

それがBABYMETALであり、その象徴がキツネサインである。

だからぼくらも、BABYMETALとともに、拳を拳として振るうのではなく、キツネサインに変えて、高く掲げるのだ。

(つづく)