好きすぎてツライ(3) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

THE ONE NEVER FORGET MIKIO FUJIOKA

★今日のベビメタ

本日、4月10日は、2016年、イギリスの週間アルバムチャートで、「Metal Resistance」が初登場15位となり、日本人最高位となった日DEATH。

 

「ヘドバンギャー!!!」編

●シアトリカルな構成の単独ライブでは、この曲の導入部で雷鳴が轟き、重厚なオルガンとメロトロンによるコーラスが運命を告げるかのように響く。まずこれが好き。

ハープシコードの伴奏に合わせて「♪伝説の黒髪を華麗に乱し…」とSU-が歌いだすと、後半、ギターが3連符×4×2小節で上昇メロディを弾き、一瞬ハープシコードのみを聴かせ、「♪(Dm)ジャジャジャッ、ジャ、(C)ジャッジャッ」と下がってから、「♪ヘドバン、ヘドバン、ヘドバン、ヘドバン…」と曲に入る。この一連のイントロが好き。

ハープシコードは、アニメ「キャンディキャンディ」のイントロに使われた音色と同じであり、両親の慈しみのうちに、大切に育てられた幼い少女時代の象徴である。

●「♪ヘドバン、ヘドバン、ヘドバン、ヘドバン…」のところ、三人は腰に両手を当てて、舞台前面にせり出してくる。「♪バンバンババン」では、上げた左手を右手で斜めになぞるような動き。体の成長を確かめているのか?それはわからないが、バックにはSEでサイレンの音。この「緊急事態!」を告げる感じが、幼い自分への決別と新しい自我の誕生という、思春期のドラマを暗示している。これが好きだなあ。

●「♪さあ時は来たもう迷わない握りしめたの18きっぷ」という歌詞が好き。

青春18きっぷは、一律11,850円で、JR全線を5回(5人分)乗り放題の切符である。新幹線や特急には乗れない、春休み、夏休み、冬休みの限られた利用期間内だけ、乗った当日中なら途中下車できるが、日付をまたいで下車したら1回とみなす、といったいくつかのルールを満たせば、きわめて安上がりに旅行できる。青春18という名前がついているが、購入者の年齢制限はない。

仮に夏休みの18きっぷ利用期間に、広島でBABYMETALのライブがあったとする。

18きっぷは未使用なら一人1回とみなして複数人で使えるので、例えば友達5人で一緒に東京から広島まで行けば一人片道2,370円で済む。普通に新幹線を使えば、自由席でも大人一人片道で18,000円前後だから、とんでもなく安上がりだ。その代り18きっぷでは新幹線や特急が使えず、当日中に着かなければならないので、4:50の山手線始発で東京駅を出発し、品川、小田原、熱海、浜松、豊橋、大垣、米原、姫路、相生、糸崎と乗り換え、広島着は19:48となる。

始発で出発しても当日のライブには間に合わない。だから前日着の予定を組み、寝袋や折りたたみ椅子を持ちこみ、会場入り口で夜明かし。エリア指定のないオールスタンディングならドセンを狙える。

Legend-S-の金キツネ世代チケットは2,000円だったので、往復4,740円の18きっぷ代と食費その他を含めても、合計1万円未満で、広島でのライブを満喫できる。高校生でも数日バイトすればなんとかなる金額だ。もちろん、若者には、大人の車に乗せてってもらうとか、深夜バスを乗り継いでいくとか、広島の友達を見つけて泊まり込むとか、さまざまな安上がりの道があるだろう。

いい大人は仕事に追われて時間がないし、長時間電車に乗る気力・体力もないし、第一、新幹線とか飛行機とか便利なものがあるのに利用しないのは、お金がないと思われて見栄えが悪いからできない。しかし、若者がお金を持たず、創意工夫して安くあげるのは、とってもCleverでカッコいいことだ。この歌詞を書いた人は、そのことをよくわかっている。

長期休暇に、安上がりの18きっぷをフルに使い「♪東へ西へ、南へ北へ、今日もドセンに突撃!」というのは、きわめて正しいロックファンの若者の姿だ。そこに、オジサンは若かりし頃の自分を思い、今の若者にその気概を継承してほしいと願うのだ。

●「♪いーちごのよーるをわすれはしない」のところの「いちご」には、15歳、イチゴ世代、一期一会という3つの意味がある。要するに「いちごの夜」とは、思春期の真っただ中、一人の少女が幼い自分の殻を打ち破って、大人になっていく瞬間を表現していると思う。

歌詞は、これに続いて「♪泣き虫な奴はここから消え失せろ~」となるが、これはライブ通いを諫める誰かのことをいっているのではなく、ちょっと前まで、デカい音を怖がり、激しいメタルの曲調やライブの雰囲気を恐ろしく感じていた、“いい子ちゃん”の自分のことを指している。

ギターソロの後、SU-はまず、少女時代の象徴であるハープシコードの伴奏にのって、幼くカワイイ声で「♪いーちごのよーるをわすれはしない、泣き虫な奴はここから~」と歌う。すると観客は「キ・エ・ロ!」と叫ぶ。ここでは観客自身が、自分の中にある臆病な自分に対して叫ぶのだ。

すると、SU-の声質が一変する。強く、厳しい大人の声で「♪いーちごのよーるをわすれはしーなーいー、邪魔をする奴は即座に消え失せろ~」と歌い、鼻をつまんで見せるのだ。

「邪魔をする奴」も、特定の誰かのことではなく、ぼくら自身のことである。ただ「泣き虫な奴」とは少しニュアンスが変わる。「この期に及んで、まだちっぽけな殻にこもり、自分を捨ててノレない奴がいるなら、そいつは、このライブ会場=このバンドを愛する共同体の仲間じゃない。だからとっとと出ていけ!」という強いメッセージが、この部分には感じられるのだ。SU-の幼い少女からドSクイーンへの変身の瞬間こそ、この曲の鳥肌もののポイントだと思う。

●2017年12月2日、3日の「Legend-S-洗礼の儀」では、「♪いーちごのよーるを…」が「♪はーたちのよーるを…」に歌い替えられた。会場から「ウォー」という大歓声が沸き、ぼくは涙で鼻が詰まった。このために、2017年は5大キツネ祭り以降、この曲が必ずセトリに入っていたのだ。

2014年7月1日パリでは、ギターソロ以降、YUIがボーカルをとった。7月3日のケルンではMOAがボーカルをとった。これが3月3日の日本武道館「黒い夜」で予告された、「YUIMETAL&MOAMETAL聖誕祭in Europe」だった。

この曲がインディーズリリースされた2012年6月、SU-は中三だったが、誕生日まであと半年あった。2014年の欧米ツアーでは、YUIは6月20日生まれなので、15歳になったばかりだったが、MOAは誕生日の2日前だった。まあ、そんなことはどうでもよい。この曲は、バンドに触発されて大人になっていく少女の歌であり、「成長」をテーマにした普遍性を持つ名曲だが、それは生身の中元すず香、水野由結、菊地最愛の人生をリアルに反映している。

来年2019年6月20日と7月5日の前後には、きっとYUIMETAL聖誕祭、MOAMETAL聖誕祭が行われるであろう。そのとき、「♪はーたちーのよーるを…」と二人が歌えば、ぼくはやっぱり泣いちゃうのだろう。

●YUI、MOAのヘドバン煽りが好き。

1番の終わり、SU-が「♪ヘドバンギャー!!!」と叫ぶと、YUI、MOAは土下座してSU-への崇拝をはじめ、やがて立ち上がって、観客の煽りに入る。大会場ではCO2を噴射することもあるし、場内を走り回って「行くよ~」「聴こえないよ~」「もっと声出せるでしょ~」「まだまだ全然足りないッ」「もっともっと~」と客席を煽る。まず、声がカワイイ。ブルータルな曲調の中で、MOAの声はSU-以上に高音域がクリアで、金属的なほどよく通る。YUIの声域はMOAよりやや低いが、高音を張ったときは、より軽やかな感じのよく通る声になる。

この幼く見える二人に煽られ、観客はヘドバンを始める。東京ドームは過去最長で、ヘドバン地獄となったし、巨大キツネ祭り、Legend-S-でも土下座ヘドバンが見られた。初見、ご新規さんには「なんじゃコリャ!?」の光景だが、これぞベビメタなのである。

●この曲のサビは「♪もう二度と戻らないわずかな時を(トイ!トイ!)この胸に刻むんだあ、いちごのよーるを」だが、曲の最後のリフレインでは、「♪もう二度と戻れないわずかな時を(トイ!トイ!)思い出に刻むんだあ、いちごのよーるを」に変わる。何度も書いたが、この「文学性」に気づいたことが、ぼくがベビメタにハマるきっかけとなった。

詩や小説は芸術作品であり、音楽は「楽」で、美術は「術」なのに、なぜ文「学」というのか。

学問とは、人間や社会や自然の「真理」を知ることで、学ぶ価値のある知識体系ということである。文学とは、人が書いた「言葉」の中に、「真理」を見つける学問である。

例えば、“やまとことば”だけで書かれた「新古今集」のような和歌と、当時の外来語だった漢語や俗語をふんだんに使う「梁塵秘抄」のような今様では、似たような題材を扱っていても、ニュアンスがまったく違う。そこに気づくことで、それを歌った庶民の生活感覚や思いが1000年の時を超えて生き生きと伝わってくる。

このように、使う単語や、句読点の位置、修飾語の用いられ方に敏感になることは、インターネットの文章を読んだり、新聞記事のフェイクに気づいたり、仕事や生活でコミュニケーションする際のリテラシーに非常に役立つ。その人が置かれている境遇や状況によって、「思い」が生まれ、それが「言葉」や「行間」に現れる。それを読み取ることは、人として生きる上で、とても大切なスキルではないか。だから「文学」は学問なのである。

「♪もう二度と戻らない」の「ら」は、この青春の瞬間はもう二度と来ないのだ、という誰にでも共通する達観、諦め、慨嘆を表している。

だが、最後の「♪もう二度と戻れない」の「れ」は、他ならぬこの私がいくらそう願っても時間を止めることは不可能なのだという「気づき」を示す。それによって、空想に遊んだ子ども時代に別れを告げ、厳しい現実社会を生きねばならぬこの少女の主体性が浮かび上がってくる。もう戻「れ」ないのだから、今この時を思いっきり楽しもう、そしてそれをしっかり「思い出」に刻み、新たな人生を切り拓いていこう。

「ら」を「れ」に変えることで「ヘドバンギャー!!!」は、青春の哀切さと成長の決意を込めた「旅立ちの歌」となったのである。

●2014年3月2日日本武道館「黒い夜」では、「イジメ、ダメ、ゼッタイ」でいったんセトリが終了し、アンコールとなり、最後に「ヘドバンギャー!!!」が演奏された。

曲の終わり、「♪(Dm)ジャガジャッ、ジャ、(C)ジャッ、ジャッ(Dm)ジャーーン」はいつまでも消えず、ドラムロールが続く。そして、「♪(ドラムス)…ドコドン、(B♭)ジャーーン、キュイーンピロピロ…」→「♪(ドラムス)…ドコドン、(C)ジャーーン、キューン、キュイーンピロピロピロ…」とコードが高まっていく。その間、三人は、ステージ中央の狭い円形装置の上にいるのだが、それが数メートルの高さまでどんどんせり上がっていく。円の縁には手すりも何もなく、危険極まりない。

最後は、「♪(ドラムス)…ドコドン、(Dm)ジャーン」と元のDmに戻り、SU-が銅鑼をジャーンと鳴らして終わる。

暗転後、「紙芝居」に続き、ステージ上方から六角形の装置が降りてくる。「Dooms Day-召喚の儀-」である。

「Scream and Dance、MOAMETAL」、「Scream and Dance、YUIMETAL」、「Vocal and Dance、SU-METAL」の順に名前が呼ばれ、ガウンを着た三人は、それぞれ棺桶の中に入っていく。すべての棺桶のふたが閉じられると、CGによって三つの棺桶は宙に浮かび、「Goodbye、 Japan…」というナレーションとともに飛び立っていく。スクリーンには「YUIMETAL & MOAMETAL聖誕祭in Europe」の文字。

つまり、「ヘドバンギャー!!!」は、生身のBABYMETAL自身にとって、国内での修行を終え、欧米メタル市場への進出という、美少女アイドルとしては前代未聞の挑戦、新たな旅立ちの過酷な運命を告げていたのだ。

メジャーデビューからわずか1年2か月、BABYMETALは史上最年少で日本武道館2日間をSOLD OUTした。しかし、それは2013年5月以降、神バンドとともに日本全国を転戦し、フェスに出演し、過酷なレッスンとライブを必死にこなしてきた成果である。

YUIちゃん転落という前日のアクシデントにもかかわらず「黒い夜」で告げられた欧米進出は、あまりにも無謀で残酷な運命のように思えた。高々とせり上がった狭い円形装置の上で、倒れこむ三人は生贄のようにさえ見えたのだ。

だがしかし。

その4か月後、BABYMETALは本場イギリスのメタルフェスSonisphere 2014 の大舞台で6万人のメタルヘッズをノックアウトし、アメリカではレディ・ガガを踊り狂わせることになる。ここから「世界のBABYMETAL」が始まったのだ。

その運命を告げる日本武道館「黒い夜」の「ヘドバンギャー!!!」。

好きすぎて本当にツライ。

(つづく)