音楽をタダにした男たち(7) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
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★今日のベビメタ

本日、3月24日は、2016年、TSUTAYA O-EAST” でもウェンブリーアリーナ公演のライブ・ビューイングが実施されると発表された日DEATH。

 

ノースカロライナ州キングスマウンテンで、デル・グローバーが逮捕されてから1か月後の2007年10月、イギリスのファイル共有サイト、オインク・ピンクパレスの運営者アラン・エリスも逮捕された。

オインク・ピンクパレスは、ビットトレント技術を使って、世界中のユーザーが分有する楽曲の断片を瞬時に統合するサービスだった。ユーザーは10万人に上り、100万枚近いアルバムや映画ソフト、書籍のナレーションなどが無料でダウンロードできた。

ピンクパレス本体のサーバーに、違法コピーファイルが存在するわけではなく、統合用プログラムデータの保管に過ぎないので、違法性はないというのがサイト運営者の主張だったが、アーティストの弁護士は、そんな技術など関係なく、著作権法違反として、ピンクパレスに楽曲の削除要求をしていた。エリスは自分のサイトが合法であることにこだわっていたため、削除要求には丁寧に応じていた。

削除要求の中には「ハリー・ポッター」シリーズの作者J.K.ローリングの弁護士もいた。有能なローリングの弁護士は、サイトのIPアドレスから、サーバー業者を通じてアラン・エリスの住所を割り出し、国際レコード産業連盟に訴えた。そして、2007年10月23日早朝、自宅のドアをけ破って入ってきた警察官にエリスは逮捕され、10の口座に分けて預けられていたサイトへの寄付金―エリスはサイト運営費として留保し、自分のためには一切使っていなかった―も凍結されたのだった。

もっとも裁判では、検察官の無知により、エリスの罪は確定できなかった。だが、エリスは二度とインターネットに関わらず、現在は世間から隠れるように生活している。

こうして、フラウンホーファー研究所がmp3エンコーダーをネットへアップロードした1995年頃から2007年まで続いた、無料音楽ファイル共有サイトは壊滅した。

一方、2001年にスタートした有料音楽配信サイトiTunesは、ブランデンブルグのフラウンホーファー研究所からAAC規格の提供を受け、2003年にユニバーサル・ミュージック・グループのダグ・モリスと1曲99セントという価格で楽曲を提供する契約を交わして、iTunes Music Storeとなり、2015年からはApple Musicとなった。

2007年までは、質・量ともに無料音楽配信サイトの方がはるかに充実していたが、ナップスターやRNSやピンクパレスが壊滅した後は、新曲はすべて有料となり、ユーザーは音楽配信サイトを利用するしかなくなった。

現在、Apple Music のほかに、、Amazon Music Unlimited(米2008年~日2017年~)、Spotify(欧2008年~米2011年~日2016年~)、Google Play Music(米2011年~日2015年~)、AWA(日2015年~)などの音楽配信サービスがある。そのすべてが月額10ドルの定額制(日本では980円、各サイトとも加入特典や割引プランあり)で、契約を結んだ3大メジャーおよび独立系レーベル所属アーティストの楽曲が聞き放題になっている。BABYMETALはすべての音楽配信サイトに対応し、公式サイトからリンクしている。

よく考えてみると、2000年に平均的アメリカ人がCDに費やすお金は年間70ドルだったが、ひとつの音楽配信サービスに加入すると年間120ドルになる。かつてはお気に入りのアーティストのLPやCDを数枚買うだけだったが、音楽配信サービスに加入すれば、数千万曲が聴き放題だ。だが当然ジャケットや歌詞カードやリーフレットはついていない。

人気アーティストの動画は、MTVに加入しなくても、タダで楽しめる。

2007年の終わり、ダグ・モリスは孫の家を訪ね、孫がYouTubeで、自分が契約したアーティストである50セントのMVを見ている場面に出くわした。奇しくもデル・グローバーとモリスの孫のお気に入りは同じアーティストだった。YouTubeの画面には小さな窓があり、CMが流れていた。

翌日、モリスは重役会議でユニバーサルが保有するすべての音源とMVに著作権があることを訴え、弁護士を通じてYouTubeにアップされているすべての動画を調べ、動画内でユニバーサル所属アーティストの音源やMVを使用している場合にはプロ、アマ問わず使用料を請求すること、応じない場合には削除させることを命じた。

こうして数万本の動画がYouTubeから削除され、ユニバーサルが数十億ドルを稼ぐ一方、モリスは、過去40年間、4万5000本にわたる所属アーティストのMVライブラリを作らせ、視聴件数に応じた広告料金を設定した。これが2009年12月にスタートしたVEVOである。

これによって、YouTubeユーザーは、CM付きでプロショットの動画を無料で見られるようになり、ユニバーサルには、CD販売益より多くの収入が入ることになった。

70歳を超えたダグ・モリスは、インターネット時代に応じたレコード会社のビジネスモデルを構築してユニバーサルのCEOを辞した。

だが、引退はまだだった。すぐにスティーヴ・ジョブスがダグ・モリスを招聘して、新しい形態のビジネスモデルを始めることを提案した。アーティストと巨額の専属契約をせず、楽曲の印税率を高く設定する出来高制の新しい契約形態でアップルミュージックを始めるというのだ。だがジョブスの死期が近いことを感じ、アップルがジョブス亡き後音楽ビジネスに興味を失うことを恐れたモリスは丁重に断った。

そして、EMIがユニバーサルに統合された2012年、ダグ・モリスは、3大メジャーの三社目、ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)のCEOに就任した。

現職である。ちゃんとウィキペディアの「ソニー・ミュージックエンタテインメント(米国)」の社長のところに名前が書いてあるよ。

2015年、BABYMETALはアメリカでのレーベルとして、SME傘下のRALと契約した。

この40年間、数多くの新人を見出し大物に育て上げ、つい数年前にも、テイラー・スウィフトとジャスティン・ビーバーを発掘したダグ・モリスは、ワーナー・ブラザース、ユニバーサル・ミュージック・グループ、ソニー・ミュージックエンタテインメントという米3大メジャーのすべての社長になった唯一の人物であり、いわば世界音楽産業のレジェンド、神である。そのダグ・モリスが、ついにBABYMETALと結びついたのである。

かつて、アパラチアの鉱山町のレコードショップの注文票から無名の新人バンドを見出したように、ダグ・モリスが数字の上で、『Metal Resistance』のCDや配信の売れ行き、「KARATE」や「THE ONE」MVの視聴件数をしっかりチェックしているのは間違いない。

2016年のAPMAsで、メタルの神=ロブ・ハルフォードがBABYMETALと共演したのは、ジューダス・プリーストが、紆余曲折を経て、現在SME傘下のエピックに所属していることと関係ないはずもないのだ。

キツネ様のお導き、畏るべし。

(つづく)