音楽をタダにした男たち(1) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

THE ONE NEVER FORGET MIKIO FUJIOKA

★今日のベビメタ             

本日、3月17日は、過去BABYMETAL関連では大きなイベントのなかった日DEATH。

 

うう。

落選してしまった。FOXDAYの『Legernd-S-洗礼の儀』プレミア。

新宿はもちとん、他の映画館も「チケットをご用意できませんでした」とのこと。

3月31日のWOWOW20:00~の放映と、あとはBDの発売を待つことにしよう。

 

またスゴイ本に出合ってしまった。

スティーヴン・ウィット著、関美和訳『誰が音楽をタダにした?巨大産業をぶっ潰した男たち』(ハヤカワ文庫NF518)である。

現在、世界の音楽産業の売上を卸売りベースで形態別に分類すると、ネットを通じた配信がその多くを占めている。

IFPI Global Music Report 2017によると、音楽売上第1位53億1821万ドル(約5700億円)のアメリカでは、CDなどのパッケージ売上が18%、配信は70%を占める。

売上高トップ20の国のうち、パッケージ販売が配信を上回っているのは、日本(パッケージ73%、配信20%)、ドイツ(パッケージ52%、配信32%)、ベルギー(パッケージ37%、配信30%)の3か国しかない。ドイツ、ベルギーは、クラシックが大きな売り上げを占めるためか、「演奏権」の比率が高い。

ポップスが主流なのに未だにCD購買が売上げの多くを占める日本は「ガラパゴス」なのである。

少なくとも2000年代初頭までは、アルバムの世界売上が1000万枚を超えるアーティストが大勢いたのに、現在は数えるほどしかいない。

例えば、2003年のエヴァネッセンスのファーストアルバム『Fallen』は全世界で1500万枚を売り上げた。

しかし2017年に世界で最も売れたアルバムとしてIFPIが認定しているエド・シーランの『÷』(ディバイド)は、UKプラチナ(30万枚)×7=210万枚+USAプラチナ(100万枚)×2=200万枚+カナダプラチナ(8万枚)×4=32万枚+ドイツ(20万枚)×2=40万枚+フランスプラチナ(10万枚)×3=30万枚+オーストラリアプラチナ(7万枚)×5=35万枚+ニュージーランドプラチナ(1万5000枚)×5=4万5000枚+デンマークプラチナ(2万枚)×3=6万枚+スウェーデンプラチナ(4万枚)×2=8万枚…といった具合で、1000万枚には到底届かない。

一方、『÷』収録のシングル「Shape Of You」は、Spotifyでの「1日」のストリーミング回数が790万回に達し、史上最高となった。

つまり、CDパッケージを買って家のステレオで聴くのではなく、ネット配信サービスで楽曲を視聴し、アーティストのライブに足を運んで生演奏を聴くというのが、現在の音楽好きの行動パターンとなっているわけである。

これは、つい最近、この10年足らずの間に起こった世界音楽市場の大変化である。

そして、この大変化は、あらゆる歴史的事象と同じく、生身の人間が起こしたものであった。

『誰が音楽をタダにした?』は、その人物を特定し、歴史的事実を検証した第一級のノンフィクションであるとともに、それぞれの人物の生き様や動機や感情を生き生きと描いた文学作品となっている。

主人公は三人。mp3という音声圧縮技術を開発したドイツ人科学者。ノースカロライナ州シャーロットから1時間ほど西の巨大CDプレス工場で、リリース前のCDを盗み出し、mp3のファイルに変換してアップロードしていた黒人労働者。そして、売れないミュージシャンからスタートし、アトランティックレコードのプロデューサーとして、エミネムやジェイZといったラッパーを世に出し、ヒップホップ/ラップを、ロックを上回る若者の音楽ジャンルに育て上げ、ワーナー、ユニバーサル、ソニーの3大メジャーの社長を歴任し、キャリアの最後にYouTubeにVEVOチャンネルを設置して新しいビジネスモデルを作った超大物ユダヤ系プロデューサー。

この三人が、大衆音楽産業とインターネットが結合する歴史的瞬間に居合わせたことで、現在の音楽市場が形成されたのである。

まずはmp3。

これを発明したのは、ドイツ・バイエルン州が税金を投入して運営する「フラウンホーファー集積回路研究所」に所属する天才科学者、カールハインツ・ブランデンブルグという人だった。

ウィキペディアには、mp3という圧縮形式が、mp2の発展形態であるような記述が一部あるが、この本では、ブランデンブルグが全く独自にmp3規格を作り上げたようすが記述されている。

1990年代、オランダのフィリップス社が特許を持っていたCD規格があったが、ISO(国際標準規格)は、動画のデジタル規格を国際的に統一するため、ワーキンググループMPEG(動画専門家グループ)を設け、次世代の音声圧縮規格のコンテストを開いた。

ブランデンブルグのmp3は、フィリップス社が作ったmp2規格に「政治的に」敗れ、mp2の「非効率的な」アルゴリズムの一部を取り入れることで、国際規格として承認を受けた。

自然音をデジタル化するということは、人間の耳に聴こえる範囲の音を、1と0の信号に置き換えることであり、CD規格は、可聴帯以外の音をカットして、1秒間に140万ビットの信号に置き換えて自然音を記録している。

ブランデンブルグには、ディーター・ザイツァーという師がいたが、ザイツァーにもエバハルト・ツビッカーという師がいた。ツビッカーは、音響心理学という学問を作った人だった。人間の耳は、マイクのように自然音すべてを聞き取れるのではなく、人間の言語や、肉食大型動物の音声を選択的に聞き取るように進化した。

そのため、半音ずれた音は誰でも聞き取ることができるが、ピッチを近づけていくと一つの音のように聞こえてしまう。音と音の間に半秒の間があれば、誰でも2つの音だとわかるが、その間を数ミリ秒に縮めると区別できなくなる。低い音を高い音より大きくすると、高い音は聞こえなくなってしまう「マスキング効果」という現象も起こる。

つまり、人間が聴いているつもりの音は、耳ではなく、脳の中で再現されている「フィクション」なのだ。だから、その特性を生かし、データをごく少量に圧縮しても、人間の耳には「ハイファイ音楽」として聴こえる。

マイクで録音した音を聴いても、結局人間は、耳と脳で再現するから同じである。

ブランデンブルグの師ザイツァーは、電話回線を使って、音楽を配信する「デジタルジュークボックス」を作るというアイデアで特許を申請したが、当時のドイツのデジタル回線では、CD規格は、ファイルサイズが大きすぎて実用化できなかった。

師ザイツァーのアイデアを実現するため、CD規格の12分の1、12万8000ビットまで音声を圧縮することがブランデンブルグの目標となった。

どういう音域や音の連なりをカットし、ビットを配分するか。そのアルゴリズムが勝負だった。毎日様々なタイプの音楽や音声をエンコード/デコードして、最適値を見つける作業を繰り返した。そして、試行錯誤の末にmp3という規格が誕生した。

だが、DVDの音声ファイルなど、さまざまなISO=MPEG規格で、音質のいいmp3は、フィリップス社のmp2にことごとく敗れた。

それは、かつてアナログビデオ規格として、ベータがVHSに敗れたのと似ていた。

ブランデンブルグのチームは、音楽CDをmp3に変換するエンコーダーソフトを、当時広まり始めたインターネット上にアップロードした。当初は有料だったが、すぐにシェアウェア(任意の寄附)にしてしまった。

ネットユーザーは、音質のいいmp3を、その名前からmp2の改良版だと思い込んだ。そして、音楽CDをmp3ファイルに変換してアップロードするサイトが次々に誕生した。

音楽CDを無料でネットにアップする行為は、著作権法違反である。だが、泥棒が使うガラス切りを作って販売しても犯罪ではない。

ありとあらゆる音楽CD、音声CDのmp3データがネット上にあふれ、mp3は音声圧縮規格のデファクトスタンダードとなった。

mp3規格は、フラウンホーファー研究所の特許である。ある日Microsoftから、桁外れの金額が記された小切手が研究所の郵便箱に入っていた。全世界のWindows PCにmp3が音楽プレイヤーの標準規格として採用されたのである。

(つづく)