タイムスリップBABYMETAL(1) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

THE ONE NEVER FORGET MIKIO FUJIOKA

★今日のベビメタ                                                                        本日3月12日は、2012年、Music on! TV「オリラジのツギクルッ」に出演した日DEATH。これが、BABYMETALの初TV出演でした。

 

もし、自分が今の意識を保ったまま、身体だけ子ども時代にタイムスリップしたらと考えることはないだろうか。今までの経験値や知識量を持った「見た目は子ども、頭脳は大人」(copyright©名探偵コナン)なら、その後の自分の身に起こることも、日本や世界で起こることもわかっているわけだから、きっと思い通りの人生が送れるに違いない。いいな。

だが、いくら経験値があるといっても、もう一回、来る日も来る日も教室で先生の授業を聞き、算数の問題をシコシコ解き、始業前マラソンをやり、図工でわけのわからないオブジェを作り、種からアサガオを育て、全校集会で態度が悪いと言って叱られ、部活でしごかれ、模試結果に一喜一憂し、入試を受けなければならないのはキツイなあ。

もし、BABYMETALがタイムスリップして、過去の世界に“降臨”したとしたら、どんな騒ぎになるだろうか。世界は彼女たちを受け入れられるのだろうか。

BABYMETALの三人と神バンド、照明・音響スタッフ、すなわち海外遠征用のチームベビメタを乗せた移動用バスと機材を満載したトラックのコンボイが、2018年ワールドツアー途中に、突然、過去の世界にタイムスリップしたという設定。

ベビメタロス期間のおなぐさみ、妄想ワールドの幕開けだ!

 

●2018年5月アメリカ・ノースカロライナ州シャーロット

「やっぱおれらみたいな仕事をしていると、機材は増えることはあっても減ることはないっしょ。だからハイラックスにしたわけさー。今納車待ち。1年車検なんだけど、青山君に1ナンバーのメリットを教わってさー、トータルで考えたらやっぱりお得だと思うよ。」

「デカくないすか」

「いやー、横幅は185センチだから、たいしたことないんだけど、長さが5メートル超えるのよ」

「トラック並みじゃないすか」

「いや、試乗してみたら、何回か切り返せば意外となんとかなりそうだと思って」

「そうなんすか。でもBOHさんバイクも好きっすよね。なんでまたクルマ選びは質実剛健なんすか」

「いやーホントはさー、デロリアンみたいのが好きなんだよ」

「デロリアンって、新しいのあるんすか」

「あるんだよ。1000万くらいするらしいんだけど、クルマにそんなにかけたくないじゃん」

2018年のワールドツアー、アメリカシリーズの専用移動バスの中。

ハイウェイサイドのドライブインで食事休憩が終わり、早飯のBOH神と、新たなギター神がバスに戻ってダベっていると、メカ好きのローディが割り込んできた。

「BOHさん。実は俺、デロリアン作れるんすよ」

「なんだそれ」

「ホントにタイムトラベルしちゃうやつ」

「おいおい。危ねえぞこいつ」

「いや、マジで。ファズ改良してたら、偶然タイムマシンできちゃったんすよ。ただ、すげえ電気食うんで、電源車を直結して電磁場作んないとダメなんすけど」

「バカ言え。ファズからどうやってタイムマシンができんだよ」

「んじゃ、ちょっとやってみますね」

「やるっておい」

音響担当スタッフは、隣に止めてある電源車に潜り込んだ。

そこへ、BABYMETALの三人がお腹をさすりながら帰ってきた。

「あー食った食った」

「MOAあんた食べ過ぎよ」

「やっぱ本場のアメリカンビーフは食いでがあるなあ」

「あたしシーフードがよかった」

「あんたたち、いくら食べたってあたしの背には届かないの。いいかげんわかんなさいよ」

そこへ最後に戻ってきたKOBAMETALが声をかけた。

「おい、みんな揃ってるか。SU-、YUI、MOA、下手、ベース、ドラム、上手、マニピュレーター、あとスタッフは点呼しないぞ。回りを見てくれ」

「ローディ君がいません」

「あ、なんか…電源車に行ってます」

「何やってんだ。電源車だって後からついてくるんだろ。かまわん、行け。ドライバー、カモンレッツゴー」

「いやいやちょっと…」

「OK, Here we go!」

巨大な体躯のドライバーが、派手なクラクションを鳴らして、ツアーバスをドライブインの駐車場から出そうとしたそのとき、薄紫色の光が辺りを包んだ。ドライバーは慌ててブレーキを踏んだが、焦げ臭いにおいと、タイヤの黒い跡を残して、ツアーバスと電源車は、忽然と消えてしまった。

 

●1600年・京

京の町は戦の話で持ち切りだった。

太閤秀吉が亡くなって2年。

遺子秀頼君はまだ7歳だったが、淀君の信頼篤い石田三成ら文治派の官僚たちが、豊臣家を継承する集団指導体制を守り通していた。

秀吉の政治は、群雄割拠する領邦国主ともいうべき戦国大名たちを、圧倒的な戦力で足下に組み入れ、その支配に浴さない地侍を刀狩令によって武装解除するとともに、検地によって、租税基準となる石高を定め、併せて信長が領内で定めた楽市=商業流通のしくみを全国規模で展開する中央集権体制だった。

これによって、日本は応仁の乱以来およそ200年ぶりに統一国家となり、分国法で守られていた地方の特産物が京・大坂に集まるようになった。

農民出身の秀吉は、武家の棟梁である征夷大将軍が治める幕府という、いわば軍事政権ではなく、天皇を頂点とする公家の政治責任者、関白太政大臣=太閤という位を名乗ることによって、あらゆる大名の「上」に君臨しようとした。本当は秀吉の器量とその軍団の戦力に圧倒されて足下に入ったのだが、公家である太閤という「権威」によって体制に従ったと思いなせば、誇り高い武士である大名の面目も立つ。少なくとも秀吉はそう思っていた。

だから、武骨で血の規律に縛られた幕府政治とは違って、秀吉の治世には、日本史上最も長く続いた平安時代と同じように華やかな祝祭気分があった。長く続いた戦の季節の終わりを告げる聚楽第のお茶会を、京童は忘れていなかった。切支丹がもたらす異国の文物には目を見張った。みんな派手好きな秀吉が大好きだった。

二度にわたる朝鮮出兵も、兵糧を売りさばく商人にとっては稼ぎ時だった。だが、大名にとっては、無意味な負担であり、文治派と武断派の関係に深刻な亀裂をもたらした。太閤の死によって、ようやく無意味な外征は終結したが、それによってますます文治派と武断派の対立が表面化した。その中心にいたのが、かつて織田信長の「盟友」であり、本能寺の変後、小牧・長久手の戦いで、豊臣秀吉と一戦を交えた内府、徳川家康であった。

家康は、石田三成ら文治派の後ろ盾となっていた豊家恩顧の古参大名の切り崩しを行い、自陣に引き入れた。いつの時代も庶民は政局談義に夢中だ。せっかく朝鮮外征が終わって、京の町に賑やかさが戻ってきたのに、どうやらもうひと戦ありそうだ。福島様が内府様にお味方して野盗を集めている。治部様お味方の小早川様は兵糧を買い占めているらしい。一触即発の空気が、京全体を包んでいた。

その京の郊外、嵐山の近くで、旅芸人の一座が休んでいた。

座長は、出雲の阿国と呼ばれる女芸人だった。

彼女が本当に出雲出身なのか、念仏を広めるための勧進興行なのか、それもわからない。

ただ一つ言えることは、戦国の世が終わって、美貌の女芸人が華やかな京に出て興行を打てるほど平和な時代が来ていたということである。

「まだ?」

阿国は、座付き作者の達吉に文句を言っていた。

四条河原での興行は大盛況だった。京の賑わいは、国で想像していた以上だった。

阿国の踊りは、伝統的な能でも猿楽でもなく、阿国が生まれた地方の踊りやもう古くなってしまった念仏踊りなど、さまざまな踊りの技法をミックスし、そこに、セリフを入れて一幕の物語を表現する、荒々しくも新しい踊りのスタイルだった。衣装も奇抜だった。人々がバサラ、とか、数寄者、傾き者と呼ぶ、派手好きな武士のいで立ちを真似ていた。

「ねえ、まだ?」

阿国は繰り返した。

阿国の天性の美貌と天才的な踊りの才を見出したのは達吉だった。孤児で、旅芸人に育てられた達吉は、役者としては大成しなかったが、記憶力がよく、琵琶法師のように弾き語りができた。

一座の興行で、ある日本海側の寒村に立ち寄ったとき、まだ幼かった阿国が、村はずれの田んぼの端で一人、寂しそうに歌い踊っているのを見た。

阿国もまた孤児だった。戦に巻き込まれ、父親が死に、母親が略奪されて、孤児になる子は多かった。達吉は初めて、自分以外の人間に己の生を賭けたいと思った。

こうして、達吉は阿国を連れ出して諸国を巡業して回るようになった。達吉が琵琶を弾き語り、阿国がそれを踊りにした。ストーリーは縁起物だったり、能の演目だったり、平家物語だったりしたが、美貌の阿国が演じ、奇妙な節をつけて歌うことで、そこには人の心を動かす何かが生まれた。出雲の阿国という名は、各地で評判を呼び、京へ行くということが二人の目標となった。四条河原での野天興行は評判を呼び、ついには常設の小屋を掛けてやろうというスポンサーが現れた。

はじめのひと月ほどは巡業の演目をこなせばよかった。2月目にはエキストラを雇い入れ、ドラマ仕立てにして、なんとか興行をもたせた。

だが、3月目に入ると、もうネタが尽きてしまった。巡業ならば、ネタが切れれば次の場所にいけばいいが、常設小屋で同じネタばかりやっていては、飽きられる。

達吉は、気分を変えて、新作のアイデアを練ると興行主に偽って、阿国を連れて郊外へやってきた。そのまま逃げるつもりだった。

「まだ、できないの?」

三度目に阿国が尋ねた時だった。

二人の目の前に、紫色の光がまばゆく輝いたかと思うと、だしぬけにアメリカ製のツアーバスと電源車が現れた。

「な、何これ」

「なんだこれは」

二人がしばらく腰を抜かしていると、ツアーバスの扉がシューッという音と共に開いた。

中から顔を出したのは、KOBAMETALだった。

「あれ、どこだ、ここ?」

「て、天狗」

「うわっ、人がいる。天狗とか言ってるぞ」

続いてMOAが顔を出した。

「失礼ね、天狗じゃないわよ、スーパーMOAちゃんよ」

「どうなってるの、これ」

続いてSU-とYUIが顔を出した。

「いや、これは天女様か弁天様か」

達吉がうろたえていると、阿国が目を輝かせて進み出た。

「もし、あなた方は、いずこより参らせられたか」

SU-が答えた。

「2018年のアメリカにいたんだけど、なぜかここに来ちゃったんです。ここはどこ?日本?」阿国が答える。

「ここは京よ。慶長4年の」

「慶長?」

「慶長といえば、桃山時代だな。慶長小判って知ってるだろ」

KOBAMETALが博識で解説した。

「あなた方のお名前を聞かせて」

SU-が聞くと、阿国が答えた。

「阿国。旅芸人の出雲の阿国といいます」

「俺は座付き戯作の達吉」

「出雲阿国!?」

「あの出雲阿国か」

驚く一行に阿国が尋ねる。

「で、あなた方は日の本の方なのですか?」

「はい。SU-METALデス」

「YUIMETALデス」

「MOAMETALデス」

「私たち、BABYMETALデス」

「ベビ…?」

「メタルの赤ちゃんっていう意味なの」

「赤ちゃん…ややこ、ね」

「日出ずる国にキツネ様によって召喚されたアイドル界のダークヒロイン…」

「おお!稲荷様のお使いか。道理で不思議な光で輝いておると思った」

この時代、キツネ様のお使いといえば、どんな不思議な現象でも了解され得た。だから達吉もあっさり合点したのだ。

(つづく)