キツネ祭BD(2) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

THE ONE NEVER FORGET MIKIO FUJIOKA

★今日のベビメタ

本日2月19日は、2016年、2ndアルバム「Metal Resistance」の曲目とアートワークが発表された日DEATH。

 

●2017年7月19日The Red Fox Festival@赤坂Blitz

―「紙芝居」より引用―

メタルレジスタンスの幕開けと共にキツネ様によって解き放たれた5つのメタルの魂は5匹のキツネたちへと憑依した。やがてその5匹のキツネたちはThe Chosen Fiveの元へと導かれるのであった。

「黒」「赤」「金」「銀」「白」。

この夏、日出づる国で5色の狐火が舞い踊るのだ。

諸君、首の準備は出来ているか?

もう一度聞く。首の準備は出来ているか?

MEGITSUNEだけの祭典”赤キツネ祭り“の幕開けだ!

―引用終わり―

 

歓声の周波数が昨日とぜんぜん違う!

「ウォー!」というようないつもの野太い怒号ではなく、男性アイドルのライブ会場のような「キャー!」という声。

「紙芝居」が始まった瞬間、「諸君、首の準備は出来ているか?」と聞かれた瞬間、「BABYMETAL DEATH」のイントロが始まった瞬間、紗幕の後ろに三人の影が映った瞬間、それぞれ会場に響き渡る悲鳴のような観客の大歓声は、日本全国から集まったメギツネさんたちによるものだ。

「BMD」に続く2曲目は「ヤバッ!」。

速いスカのリズムで「♪どれでも同じだとみんなそういうけれど…」「♪…なんかちょっとやっぱちょっとチガウ」と日常生活への違和感を表現するこの曲は、ポップといえばポップな曲調、等身大といえば等身大の歌詞だが、世間の常識や同調圧力への反発を秘めた「メタルの卵」のようなものだとぼくは思っている。「ヤバッ!」の振り付けはメチャメチャKawaiiが、そのヘンテコなダンスとクルクル変わる表情には、「普通」であることを拒否する鋭敏な感性が潜んでいるのだ。メギツネさんたちは、きっとそのことをわかっている。

神バンドソロ。藤岡神のソロは昨日の「黒キツネ祭り」とは全く違う。ふわりとした“アウト”なフレーズを繰り返し、後半のリディアンスケールのスリリングな上昇シークエンスへとつなげる。それを受けた大村神は、これまた昨日とは違うクラシカルな速弾きのフレーズで雰囲気を盛り上げる。BOHのソロもブルージーでキャッチーなスラップフレーズで、昨日とは全然違う。青山神のリズムも昨日とは微妙に違う。

「ハイ!ハイ!」と三人が入ってくると、始まったのは「CMIYC」ではなく、「あわだまフィーバー」。神バンドソロは、2017年1月のGuns ‘N Roses前座@京セラドーム大阪で初披露された「あわだまかくれんぼ」だったのだ。

「♪Oh―イェイ!」のところで、SU-が「歌って!」と叫ぶと、会場のメギツネさんたちの嬉しそうな顔が映る。三人もとても楽しそうだ。SU-は「Singin!」「もっと!」と笑顔で女の子たちを煽り、MOAはお茶目な百面相を見せ、YUIはニコニコ顔。

大男のメタルヘッズたちを力技でねじ伏せて来たBABYMETALは、ここではリラックスして同性だけのパーティを楽しんでいるといった雰囲気。

だが、次の曲で雰囲気は一変する。

暗転の後、静かなピアノのイントロが流れ、「♪幾千もの夜を超えて…」とSU-の歌声が響く。

「紅月-アカツキ-」である。

へヴィなリフが始まり、マントを翻して正面を向いたSU-の顔つきは、ゾクゾクするほどの「男前」である。正確なピッチと遠くまで届く視線で、メタル女戦士の世界観を歌い上げる。メギツネさんは、男性メイト同様、圧倒的SU-より年上の女性が多いはずだ。だが、目の前であの悲愴感あふれる雄姿を見せられたら、誰でもウットリしてしまう。宝塚の男役に少女たちが憧れる、あの感覚だな。中元すず香自身、ステージ上に降臨するSU-METALをカッコいいと思っているらしいのだから。

曲が終わり、「キャー!!!」という大歓声が収まらぬうち、「♪シッシッシシシ、シシシシ」というSE。会場はすかさず「よんよん!」と叫ぶ。YUI、MOAによる「4の歌」である。

この合いの手も周波数が高い。海外も含めて、ベビオタと呼ばれる男性メイトさんの野太い声とは全く違って、女子会パーティのような雰囲気。

曲が終わると暗転。「♪きーつーねー、きーつーねー」のSEが流れる。「メギツネ」である。

これこそ、ここに集ったメギツネさんたちと一体化する曲だ。

「♪ソレ!ソレ!ソレ!ソレソレソレソレ!」と声を合わせて踊る会場。

間奏の煽りは、SU-の「ハローメギツネ!」で始まる。観客が「イェー!!!」と答えると、SU-はここから客席と対話するように「Welcome to The Red Fox Festival. Are you ready?」で観客の反応を確かめ、「それじゃダメ」というように「I can’t hear you.」と首を振り、もう一度「Are you ready?」と聞く。MOAは手で双眼鏡の形を作り、表情とジェスチャーで観客と会話している。YUIもニコニコ顔で観客に手を振っている。観客が声を振り絞って「イェー!!!」と叫ぶと、SU-は間髪を入れず、「1,2,123 Jump!」と叫び、再び熱狂の「♪ソレソレソレソレ」に入っていく。

もう、SU-は女子校の生徒たちの絶大な信頼を集めるカリスマ生徒会長みたいである。永遠の生徒会長。

続いて「ギミチョコ!!!」。昨日に続いて煽りなしの完璧な歌と踊り、演奏。

さらに「ド・キ・ド・キ☆モーニング」。イントロ、男性メイトが多い通常のライブなら、ヲタ風の「オイ!オイ!」の合いの手となるところ、メギツネさんたちは手拍子である。

SU-のラップは、コケティッシュで「紅月-アカツキ-」とは全く違う。それに応えるメギツネさんたちの合いの手「♪今何時!」も音域が高い。

終盤、三人がお立ち台に寝転ぶところで、一瞬、普段のライブと違ってグダーとリラックスした“女子校感”が発散した。男性ファンの前では「見せる」意識が強いが、今回は本当にアッケラカンという感じに見えた。ぼくは教育関係者なもので、過敏すぎるのかな。

だが、BABYMETALが女子にとってのカリスマであるという感覚は、次の「ヘドバンギャー!!」でより鮮明になる。

イントロが流れると大歓声。そう、この曲こそ、ここに集まったメギツネさんたちの心情をストレートに表した曲だといえる。

「♪さあ時は来た。もう迷わない。握りしめたの18切符…」という歌詞の通り、日本全国からBABYMETALを見るために集まった女性ファンたち。

友達が夢中になるような男性アイドルでなく、テレビにも出ず、ちょっと怖いへヴィメタルをやって海外で活躍するヘンテコな「アイドルとメタルの融合」BABYMETAL。それが大好きになってしまった。

周囲に理解してくれる人も少ない中、今年初めての女性限定ライブのチケット抽選に応募した。運よく当たって今日ここに来た。

「♪伝説の黒髪を華麗に乱し…」て、ヘドバンするのは、ここに集まったメギツネさん自身のことだ。「♪イチゴの夜を忘れはしない泣き虫な奴はここから…」のあと、「キ・エ・ロ!!!」の観客の声のボリュームが凄い!

だから、続くフィニッシュ曲「Road of Resistance」の意味も変わってくる。

男性ファンの多くは、単にBABYMETALが可愛くて頑張っているからファンになったのではないだろう。テレビで人気の“巨大勢力アイドル”ではなくて、BABYMETALファンであることに何がしかの意味づけをしている。時代遅れのメタルに正面から取り組む心意気とか、未成年の少女でありながら、世界で活躍するBABYMETALが、戦後のWar Guilt Information Programによって小さくされた日本人の誇りを取り戻す存在であることとか。

だが、メギツネさんたちにとっては、それに加えて、同性のBABYMETALは、男性社会の中で戦う女性のロールモデルなのではないか。

男性から見て、最近、仕事のできる女性が増えていると感じることが多い。

日本では、子どもを持つ家庭に占める専業主婦家庭と共働き家庭の比率は1997年に逆転し、現在は7割以上が共働き家庭になっている。男女雇用機会均等法の施行によって、女性は確実に労働市場の中で大きな比率を占めるようになった。普通に社内の管理職クラスや取引先の責任者が女性であることが多くなった。

しかし、結婚、出産、子育てという人生の節目節目で、まだまだ女性にはハンディキャップが多い。口に出して言うことは憚られても、「女は結婚して家庭に入り、子育てと家事に専念して夫を支える“内助の功”が理想」という古い観念は根強く残っている。女性が自分の信じる道を往くことは、何か「特別」であるかのように思われてしまう。

Only OneのBABYMEAL道を進むSU-、YUI、MOAは、そんな観念とは無縁だ。大人たちによって企画され、準備された「アイドルとメタルの融合」ではあっても、ステージの上で観客の喝采を勝ち取ってきたのは、生身の三人の「戦い」の成果なのだ。

だから「Metal Resistance」は、男性社会での生きにくさを知っているメギツネさんたちのアンセムなのである。

赤キツネ祭りでの「♪かかってこいやー」というSU-の雄叫びは、過酷な運命を引き受ける孤独な叫びではなく、そこに集ったメギツネさん全員の心の叫びになった。

(つづく)