世界征服とは何か(5) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

YOU ARE THE ONE. WE NEVER FORGET MIKIO FUJIOKA

★今日のベビメタ

本日2月15日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

 

さて、ようやくBABYMETALである。回り道をしてごめんなさい。

BABYMETALが2013年1月の日テレ「ハッピーMusic」で、書初めとして披露した「世界征服」は、もちろん中三と中一のKawaiiアイドル(当時)の「新年の抱負」であり、ちっちゃかったYUIがKawaii Girl Japanで2012年度の目標として述べた「さくら学院で一番大きくなるくらい身長を伸ばす」と同様、誰も本気にしなかった。

しかし、「普遍音楽文法」で書いた通り、メジャーデビュー曲「イジメ、ダメ、ゼッタイ」は、ホモ・サピエンスが共通して生まれつき持つ音楽リテラシーが組み込まれた名曲だった。

実際にSONISPHERE 2014のフィニッシュでは、6万人のメタルヘッドが歌詞の意味もわからないままこの曲に熱狂し、ここから世界中を巻き込んだ「BABYMETAL現象」が始まった。

つまり、メジャーデビュー曲を作った時点で、少なくともプロデューサーKOBAMETALの中には「世界征服」の夢想ないし野望があったはずなのだ。

その「世界征服」とはいったい何なのか。MOAの「スーパー最愛ちゃん」と同じくらいふんわりした概念だが、本項の最後にそこを突き詰めてみたい。

音楽は「政治」ではないから、BABYMETALの「世界征服」が、なんらかの政治的な仕組み、例えば「絶滅危惧メタル国際保護条約」とか、「音楽ジャンル機会均等法」とかを作ることを目標としているわけではないだろう。(^^)/

だが、ヒトラーが「ドイツ民族の屈辱」をことさら強調したように、Legend“I”の「紙芝居」では「メディア・政治・ 経済を含むすべてを牛耳る巨大勢力“アイドル”によって、アイドルソング以外の音楽は禁じられ、メタルも例外ではなかった」とされ、廃棄されたフライングVやマーシャルアンプやドラムセットが大写しになり、メタルファン=「メタル民族」の受難が強調されていた。

そして、「メタル民族」の苦境をはね返す「救世主」として、メタルの神キツネ様によって召喚されたのが、アイドル界のダークヒロイン=BABYMETALであり、長期戦に突入したメタルレジスタンスを戦い抜くために、BABYMETALに力を与える「爆音を奏でる最強のメタル楽団」として降臨したのが神バンドだった。

2014年、初の欧米ツアーの「紙芝居」(英語版)では、「日出ずる国でMetal Resistanceが勃発した。三人の少女が選ばれ、BABYMETALと名づけられた。キツネ様は彼女たちに、へヴィメタルで世界を再び一つにするという使命を与えた。」とされた。

「メタル民族」の苦境に現れた三人の少女、救世主BABYMETALが、へヴィメタルで世界を再び一つにする…。

ヒトラーを持ち出すまでもなく、月光仮面、黄金バット、バットマン、スーパーマンなど、古今東西、あらゆる物語の「ヒーロー登場!」のドラマツルギーを忠実に再現している。というか、ヒトラーこそ、こういう演劇じみた演出を現実にやってしまったわけだ。

へヴィメタルという音楽ジャンルの退潮に悔しい思いをしていたメタルヘッド=「メタル民族」にしてみれば、涙が出るほどありがたいお話である。ただし、BABYMETALがJ-POPにありがちなギミックではなく、正統なメタルバンドであれば。

だから、欧米進出からしばらく、BABYMETALはメタルか否かの大論争が巻き起こったのである。

神バンドの演奏力、SU-METALの歌唱力とロック・クイーンとしてのカリスマ性、YUI、MOAの独創的かつ過酷なまでのメタルダンス・パフォーマンス。ライブを見ればBABYMETALがよくあるJ-POP、ギミックでないことは一目瞭然だった。

セカンドアルバム『Metal Resistance』は坂本九以来53年ぶりに米ビルボード39位にランクインし、イギリスでは日本人歴代最高となる15位を獲得した。

多くのメタルアーティストや業界人がBABYMETALを認め、メタルゴッド、ロブ・ハルフォードは「ここに未来がある」と称賛し、METALLICAは日本人バンドとしては初めてBABYMETALをアジアツアーの前座に起用した。レッドホットチリペッパーズは、2016年の全英ツアー、2017年の米東海岸ツアーの二度にわたってBABYMETALを帯同した。

ニューメタルのパイオニアKORNは2017年、STONE SOURらとともに米西海岸を巡るヘッドライナーワゴンツアーの一員としてBABYMETALを起用した。

こうして、BABYMETALが「メタルの救世主」であることは、ほぼメタル界の了解事項になったといってよい。

テレビに出ないとすぐに消えたと思い込む日本のアイドルファンとは違って、世界のロックファンはBABYMETALといえば、日本を代表するユニークなメタルバンドだと認知している。

来日したフーファイターズのデイヴ・グロールが日テレ「ZIP」のインタビュアーに、サマソニで注目するアーティストを聴かれて「BABYMETAL」と答えたのを驚かれ、逆に驚いて「ベビメタは、世界中誰でも知ってるだろ」と発言した通りである。

ただし、BABYMETALを「メタルの救世主」という場合の「メタル」とは、スラッシュメタル、メロスピまたはパワーメタル、ネオクラシカルメタル、デスメタル、ブラックメタル、ドゥームメタル、プログレッシブメタル、シンフォニックメタルといった、既存のバンドが築き上げ、評論家が定義してきた何がしかの「ジャンル」に固定されているわけではない。

強いてあげればニューメタルの手法で、ヒップホップやラップやJ-POPも含めて、様々な要素が混在したミクスチャーである。

しかも楽曲の作編曲はプロが行い、フロントマンであるBABYMETALが歌とダンスを担当し、卓越した技量を持つ神バンドが演奏を担当する。バンド形式の自作自演でないことにより、才能が枯渇することなく、長期にわたって多様な楽曲を生み出せる。

誤解を恐れずに言えば、「アイドルとメタルの融合」たるBABYMETALの「メタル」とは、楽曲の構成要素の一つに過ぎない。

だから「世界征服」とともにBABYMETALが掲げる「メタルの復権」とは、過去の典型的なジャンルとしてのへヴィメタルが、再び人気になるということではなくて、へヴィなギターのリフやソロ、裏拍の激しいドラムス、朗々と歌い上げるヴォーカルといった、音楽としてのへヴィメタルを構成する要素の凄みが見直され、新しい楽曲やバンドの欠かせない要素として組み込まれるようになるということだと思う。言い換えれば、「メタルの復権」とは、メタル要素が組み込まれた新しいタイプの楽曲やバンドが生まれ、また既存のアーティストもメタル要素を取り入れるようになるということだ。

今、日本の街中で流れる曲に、メタル要素は含まれているか。

洋楽の総合ヒットチャートをにぎわすアーティストはメタルを意識しているか。

ぼくにはそうは思えない。

確かに日本ではベテランへヴィメタルバンドの再始動が相次いでいるし、日本のガールズバンドやラウド系アイドルの海外進出も盛んになってきた。

だが、まだまだメタル曲やメタルバンドが世界的な大ヒットを飛ばしたという話は聞かないし、コーヒーショップに流れる洋楽は、お洒落にソフィスティケートされたヒップホップやジャズっぽいバラード、アコースティックやシングルコイルのアルペジオ主体のネオオルタナっぽいロックが圧倒的に多い。

いや、そもそも、今は、マスメディア時代のようにジャンルを超えた「世界的大ヒット」など望める時代ではない。

インターネットを媒介とした契約チャンネルや、ダウンロード、オンデマンドを主流とする現代の音楽市場では、ジャンルが細分化され、リスナーは好みの音楽ジャンルしか聴かなくなっている。

それこそがジャンルとしてのへヴィメタルの市場規模がシュリンクした要因ではないのか。

アーティストとリスナーが、各ジャンルに引きこもった状況では、ジャンルオリエンテッドな音楽しか作られなくなり、新しい要素をミックスした新しい音楽、ジャンルを超えた大ヒットは生まれない。

これは、音楽全体の危機だ。

そこに現れたBABYMETALは、ニューメタルの手法を駆使して、日本のアイドルと欧米のメタルを融合した。神バンドのギタリストは、ハードロック~プログレハード~フュージョン~プログレメタル~ジェント~マスロックの系譜をたどってきたテクニシャンだった。

メタル以外のジャンルのアーティストも、そもそも様々なロックの進化をたどってきたメタル要素をミックスすれば、新しい音楽を生み出せるのではないか。

ロドリーゴ・イ・ガブリエーラというメキシコ出身の男女アコギデュオがいる。

ファーストアルバム『BABYMETAL』が、米ビルボードのワールドアルバム部門で1位となったとき、アンチの誰かが、同時期にランクインしていたロドリーゴ・イ・ガブリエーラの名前を出して「わけのわからない南米のギターデュオが入っているんだから、ワールドアルバム部門なんて大したことはない」などと書いていて、ぼくは「アホか」と思ったくらい、この二人の演奏は超絶的である。

彼らの音楽は、ナイロン弦のエレガットを使った情熱的なスパニッシュチューンだが、もともと二人は地元でスラッシュメタルバンドを組んでいた。その暴力的なほどのリズム感、グルーヴは、確かにメタルを感じさせる。日本でのデビューアルバム『Rodrigo y Gabriela(邦題:激情ギターラ)』(2006年)には、レッドツェッペリンの「天国への階段」やメタリカの「オライオン」のカバーが収録されている。

マーティ・フリードマンは、2014年のソロアルバム『インフェルノ』のゲストに彼らを招き、「メタル魂」を引き出した演奏を繰り広げている。

ロドリーゴ・イ・ガブリエーラは一つの例だが、ジャンルが異なっても、そこにテクニカルでドラマチックな「メタル要素」を加味することで、新しい音楽が生まれる。

それが「メタルの救世主」BABYMETALが標榜する「世界征服」の意味ではないか。

ヒトラーは「民族」と「国」を混同し、ドイツ民族が最優秀なのだから他民族を根絶してしまえという「思想」を「政治」目標と混同した。

それがヒトラーの「世界征服」の意味だった。

だとすれば、BABYMETALの「世界征服」を考えるとき、「ジャンル」と「音楽」を混同してはいけないし、へヴィメタルが最高なのだから他ジャンルを根絶してしまえなどという「メタル思想」を実現することが「ショービズ」での目標だなどと考えてはいけない。

「音楽」にはさまざまな「ジャンル」があっていいのだ。「メタルが一番」と思っててもいいが、「ショービズ」では共存しなければならない。

そして「政治」の目的が、みんなが平和で繁栄できる仕組みを作ることであるように、「ショービズ」の目的は、世界中の誰もが心を動かされ、感動できる音楽を生み出すことだ。

そのために「メタルの救世主」BABYMETALが貢献できることはまだまだある。

それが、BABYMETALの究極の目的、「世界征服」「メタルで世界を一つにする」の意味である。

道のりは遠い。

(この項終わり)