FOX遺伝子と普遍音楽文法(7) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

 ♰YOU ARE THE ONE. WE NEVER FORGET MIKIO FUJIOKA

★今日のベビメタ

本日2月7日は、2014年、TV朝日「ミュージックステーション」に初出演した日DEATH。一緒に出ていたAKB48のメンバーは笑ってキツネサインを掲げてくれたが、指原莉乃だけは笑ってなかった説も。

 

ギターという楽器は、1フレットで半音、音程が変わるようにできている。だから同じ弦で1オクターブ上の音は12フレット目である。

音は空気の振動だから、音の高さは周波数、つまり1秒間に何回振動するかという単位で表わせる。人間の耳に聴こえる範囲(可聴帯)はおおむね20hz~20000Hzである。

1オクターブ上がるというのは、元の音の2倍の周波数になるということで、半音上がるというのは、その12分の1だけ周波数が高くなるということである。

ヒトという種の脳は、なぜか元の音と、1オクターブの12分の4(3分の1)周波数の高い音と、12分の6(2分の1)周波数が高い音を合わせて聞くと「ドミソ」の和音に聴こえ、安定感や調和のとれた感じを受ける。

可聴帯は20hz~20000Hzなので、一番低いA=27.500HzをA0と表記し、1オクターブ上がるたびにAの後に1234…という数字をつけて絶対的な音の高さを表す。

この表記でいうと、A4=440Hz、C#5=554.365Hz、D#5=622.254Hzという、周波数としては中途半端な数字に見える音の集まりが、長調のA(相対音階ドミソ)という和音=コードである。

そして、Key=Aの相対音階ミ(C#5)が半音=1オクターブの12分の1だけ下がったC5=523.251Hz(ミ♭)という周波数になると、Amという和音=コードになり、なぜか悲しい気分になる。

不思議なことだが、それが、人類が生まれつき備えている「普遍音楽文法」なのだ。

ただし、このようなコードとかコード進行の話は、全部、基準音A4を440Hzにしようというお約束の元に、その2音上をC5、その1音上がD5、その1音上がE5、その半音上がF5というふうに音の名前が決まり、音の組み合わせによって、ⅠとかⅣとかⅤとかの和音=コードの役割が決まるというだけの話であって、基準音A4を半音下げにしようとか、一音下げにしようというお約束で演奏者全員が一致すればそれでも構わない。

しかし、自然界の音は、半音とか1音とかいうデジタルなものではなくアナログであり、可聴帯の20Hzから20000Hzまで、周波数で表わすなら、かつてのラジオのチューナーダイヤルのように、音は無限に存在している。

もし、調和のとれた和音の中に、同じチューニングになっていない、つまり基準音の1オクターブの12分の○○という倍数にならない音が入ってきたらどうなるか。

ヒトの耳には、調子っぱずれな雑音、不協和音に聴こえるのである。

しかし、BABYMETALは、そういう音さえも武器にしている。

「ギミチョコ!!!」のイントロと間奏部で聴けるシンセサイザーの「♪ピヨーン、ピピピピヨーオーンオーン」というあの音である。

SEが高まり「Give me Chocolate」という男の声に続いて、Eを基調の音にしながら、ギターとベースはシンコペーションでE→D#→Dという無調の下降リフを奏で、ドラムは激しく表拍8ビートを叩く。Kawaii三人のJapanese Girlたちは手や体をぐるぐる回したり、頭を指さす奇妙な踊りを始める。

そこへ調子っぱずれの「♪ピヨーン、ピピピピヨーオーン」というシンセサイザー音。明らかにチューニングがズレている。バックに「Grrrrrrrrr」というようなグロウルが重なると、演奏は、Eの単音だけになる。ギターはE→E#のリフを弾くが、和音ではない。

そして始まった「歌」は、MOA「♪あたたたたーたたーたたたズッキュン」、YUI「♪わたたたたーた、たーたたたドッキュン」「ズキュン、ドキュン、ズキュン、ドキュン、やだやだやだやだネバネバネバー」だった。

世界中の誰が見ても、「なんじゃこりゃ!?」だった。

伴奏はE単音。ドラムはバシバシバシバシという暴力的なほどのシンプルなリズム。ヘンテコな踊り。チューニングが合っていないシンセサイザー。「♪あたたたたーた…」というわけのわからないScream。人類共通の「普遍音楽文法」に、全然合ってない。

しかし次の瞬間、SU-が歌う「♪C!I!O!チョコレートチョコレートチョチョチョいいかな」は、E△7→Caug→C#m7→E△という、ジョン・レノン(ビートルズ!)の「スターティング・オーバー」を思わせる美しい半音上昇コードだった。シンセサイザーは、ちゃんとコードと上昇音を弾いている。夢のように美しい和音とメロディ。

人類共通の「普遍音楽文法」で、△(メジャー)は、ドミソドの高い方のドをシにした和音で、オシャレでムーディな都会の音を感じさせる。

aug(オーギュメント)は、ドミソのソを半音上げたドミソ#となる和音で、Ⅳに進行する前にちょっと間を持たせるような感じになる。60年代-70年代のアメリカンポップス(プレスリーとか)によく出てくる。

m7(マイナーセブンス)は、ただ悲しいだけのマイナーと違って、セブンスが入ることで都会の哀愁を感じさせる、これまたおシャレなコード。

暴力的で、わけのわからない破壊的な曲調が、一瞬にして都会的で洗練された響きに変わる。

MVでは、この部分だけ、照明が爽やかな青に変わっている。

「なんじゃこりゃ!?」と思った世界中のオーディエンスが、一気に安心して、気持ちよくなり、惹き込まれる。

そしてまたE単音の間奏部になり、Kawaii女の子たちは頭を指さして踊り、「♪あたたたたーた…ズッキュン」「♪わたたたたーた…ドッキュン」「まだまだまだまだネバネバネバ―」。

「うわあ!」と思っていると、「♪C!I!O!チョコレートチョコレートチョチョチョいいよね」という夢のようなメロディとコード進行。その後は「♪パラッパッパッパー…」というオートチューンのテクノボイス。「♪too too late…」のところではきれいなEの長3和音になっている。

「普遍音楽文法」は人類の本能、世界共通。この曲では、オーディエンスが、音によって、その心理を手玉にとられているのだ。

Eの長3和音で文字通り和んだとたん、間奏部分。またしてもシンセサイザーが「♪ピヨーン、ピピピピヨーオーンオーン」という調子っぱずれな音を鳴らし、女の子たちはぐるぐる手や体を回し、ヘンテコなダンスを踊る。「Grrrrrrrrrr」というグロウルも高まってくる。

そこへE単音をバックにしたギターソロ。

MVは2013年のLegend1997@幕張で、この曲は骨バンドだったので、誰が弾いたのかはわからない。リディアンスケールの速弾きで、ちょっとエキゾチックな響き。後年のライブでは藤岡神が担当して、より“ジェント”な感じになる。広島では藤岡―大村のツインギターになった。

だが、MVでも、基本的なフレージングは同じで、ソロ最後の部分は、馬のいななきのようなエフェクト音を出すワーミー(Whammy)が使われていた。つまり作曲者、編曲者指定の「書きソロ」だということ。

ワーミーは、ぼくも愛用する米Digitech社のエフェクターで、ギターから出た音の音程をペダルの操作で電子的に変えるもの。ペダルの踏み込み量によって、音程はアナログ的に高くなっていく。「ギミチョコ!!!」のソロの最後、ギタリストは「きゅいーん、きゅいーん、きゅーうぃーん」と、わざと調子っぱずれな高音を響かせる。

要するに、暴力的なほどシンプルなE単音のバックとか、調子っぱずれのシンセサイザーとか、ヘンテコな踊りとか、「あたたたたーた」とか、ギターソロのワーミーとかは、すべて計算しつくされたものなのだ。

世界中に広がるYouTubeの視聴者は、ヒトである以上「普遍音楽文法」を生まれながらにして備えているから、それに全然合わないこの曲の破壊力をモロに感じてしまう。そこへ「♪C!I!O!チョコレートチョコレート…」の美しい響きを聴かせられると、一気に魂が持っていかれるのである。

しかも、MVでは、聖マリア像をバックに幕張メッセを埋め尽くした数万人の観客が熱狂する様子も映し出され、最後には「See you in the mosh’sh pit」のテロップ。

2014年以降、多数の欧米人によるリアクション動画がアップされているが、例外なくこの曲でBABYMETALに興味を引かれ、ライブがあったら行ってみたいという感想を抱いた。

「普遍音楽文法」を存分に活用し、欧米人の常識を、聖マリア像とともに破壊し、BABYMETALの魅力を訴求したのが、「ギミチョコ!!!」という曲なのである。

そして、2014年の欧米ツアーにおいて、この曲がライブで生演奏されると、あのMVが「マジ」だったことに欧米人は二度ビックリした。以降、「ギミチョコ!!!」はBABYMETALの代名詞となった。

 

この論考でこれまで述べてきた「普遍音楽文法」とは、ヒトという種が、生まれながらに、本能的に備えた音楽のリテラシーのことである。

BABYMETALの楽曲には、メタルとかメタルじゃないとかいう以前に、音楽の原点というべきエッセンスが多数含まれており、それが世界に通用した秘密だと、ぼくは思っている。

なぜなら、ノーム・チョムスキーのいう「普遍文法(UG)」と同じように、人類共通の「普遍音楽文法(UMG)」が存在するという事実こそ、欧米人もアフリカ人も、日本人も中国人も韓国人も朝鮮人もフィリピン人もインドネシア人もすべて、肌の色や言葉や文化や政治体制が違っても、ホモ・サピエンスというただひとつの種=THE ONEだという証拠だからである。

長調の和音には安らぎを感じ、短調の和音には悲しみを感じ、短調が長調に変われば絶望が希望に変わる感覚を抱き、調子っぱずれの不協和音には破壊のパワーを感じ、△やaugやm7には都会的な洗練を感じる。無意識のうちにそう感じてしまうのが人間なのである。

「音楽を通じて世界をひとつにする」というBABYMETALの目標は、遠いところにあるのではない。ライブ会場で観客が同じリズムを共有し、コード進行に感情を掻き立てられ、笑い、叫び、感動して泣くことが、「ひとつになる」ことなのである。

そして、生物の進化の中で、その「普遍音楽文法」を人類にもたらした遺伝子こそ、FOX遺伝子と名づけられるべきものなのだと思う。

キツネ様は、ぼくらの本能の中にいる。

(この項終わり)