FOX遺伝子と普遍音楽文法(6) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

YOU ARE THE ONE. WE NEVER FORGET MIKIO FUJIOKA

★今日のベビメタ

本日2月6日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

 

「シッシッシシシ、シシシシ」とSEが流れると、「よんよん!」と叫んでしまう。

もうこれはぼくらメイトの体に染みついた性(さが)である。

手足を拘束され、椅子に縛りつけられて、「よんよん」と言ったら電気が流れるという拷問があったら、一発でOUTだろう。ま、そんな拷問ないけど。

でも、社長会長隣席の大事な会議の最中、あるいは全校集会で校長がスピーチしている最中に、どこからか「シッシッシシシ、シシシシ」と聴こえて来たら?絶対我慢できないよね。

2014年の初めての欧米ツアーで、「ギミチョコ!!!」「イジメ、ダメ、ゼッタイ」に次いで欧米人観客がハマったのがこの「4の歌」だった。

YUI、MOAが作詞作曲した、BABYMETAL唯一のオリジナルソングということもあるだろう。単独ライブでSU-ソロ「悪夢のロンド」→BBM「おねだり大作戦」→神バンドソロ「Catch Me If You Can」→SU-ソロ「紅月-アカツキ-」→BBM「4の歌」という流れは、SU-の歌唱力、神バンドの演奏力、そしてYUI、MOAのカワイさ、楽しさというBABYMETALの魅力の幅を観客に見せつける鉄板のセトリだった。

欧米のロックバンドのコンサートでは、観客がバンドと一緒に大合唱することがよくある。

アーティストのコールに応えて「Yeah!」とか「Wao!」とかレスポンスすることも、もちろん多い。

しかし、ファンがあらかじめ決められたお約束の符牒を叫ぶという「合いの手」文化は、日本のアイドル現場で作られたものだろう。

あるいは、トランペットと鐘太鼓で特定のメロディが奏でられた後に、「かっ飛ばせ―○○○!」と叫ぶ野球の応援から来たものかもしれない。

だがこれも、決して日本特有のものではなくて、人類共通の「普遍音楽文法」に属するものだとぼくは思うのだ。

4拍子2小節の最初の1234が「シッシッシシシ」で、それに続く「シシシシ」が次の小節の56である。78が抜けているのだ。

そこで聴衆はどうしても78を埋めたくなってしまう。

一人でもその「空拍」を埋めるのが「よんよん」であることを知っている観客がいれば、すぐに観客席全体に伝わり、「シッシッシシシ、シシシシ」「よんよん!」の声で満たされる。

観客は「よんよん!」と叫ぶことで楽曲に参加し、数百、数千、数万人の観客とリズムを共有する楽しさで会場が一体となる。その楽しさや喜びの感覚は、「合いの手文化」というより、太古から人類が共有してきたプリミティブな感覚ではないか。

バリ島に有名なケチャックダンス(kecak、モンキーダンスとも)という観光舞踏劇がある。

ダンスと言いながら数十人のパフォーマーは全員地面に座り込んでいる。

主旋律を4拍子で「シリリリ・プン・プン・プン」と歌う「タンブール」がリーダーで、その他はヒンズー神話の猿を真似て「チャ」と叫ぶのだが、4拍子に7回叫ぶ「プニャチャ」、4拍子に5回叫ぶ「チャク・リマ」、4拍子に6回叫ぶ「チャク・ナム」、それを16分の1後ろにずらして刻む「プニャンロット」というパートの役割があり、全体を聴くと、「ケチャケチャケチャケチャ…」という16ビートに聴こえる。そして、ある瞬間になると全員のリズムが一致し、「チャチャチャ」という区切りになる。それが延々続くから一種のトランス状態になっていく。

ケチャックダンスは、バリ伝統の民族音楽ではない。実は、ロシア系ドイツ人画家のウォルター・シュピースという人が、20世紀初頭にバリ島のウブドに住み着き、バリ人の芸術家とともに観光客用に作った楽曲である。

画家としてのシュピースは、ルソーのような素朴なタッチでバリ島の風景を描いたが、一つの画面の中に過去と現在と未来を書き込むというスタイルは現地人を畏怖させ、「神」の目を持つ画家として尊敬された。現在バリ土産になっているバティックのデザインも、シュピースのモチーフを使っていることが多い。

それはともかく、大勢の人間がリズムを共有し、それが一致したときの快感は、陶酔するような喜びを感じさせる。これも誰に教わったわけでもない、人類が生まれつき持っている「普遍音楽文法」の一つだと思う。

もうひとつのBABYMETALの合いの手パターンは、「ヘドバンギャー!!!」の「♪いーちご(ハイ!)のよーるを(ハイ!)わすれ(ハイ!)、しない(ハイ!)」のところである。これは、より典型的な日本のアイドルソングの合いの手パターンである。

普通の4拍子8ビートないし16ビートで進んできた楽曲が、サビもしくはサビ前で、「ドンッドドンッパッ」のリズムに変わる。「パッ」のところに、「ハイ!」という合の手を入れるわけだ。

さくら学院の曲では、「ベリシュビッツ」の「♪さあ手を掲げ、歩き出したら、昨日の自分にバイバーイ」のところ、「See You…」では「♪たとえ、離れたって」のところ。

歴史的に、何というアイドルの、何という曲が、このパターンの始まりなのかはわからない。

1970年代初頭の郷ひろみ「男の子女の子」の「♪君たち女の子(Go!Go!」とか、西城秀樹「やめろといわれても(ヒデキ!)の頃は、4拍子2小節の1234でメロディが歌われ、5678のところは休符になっていて、そこに合いの手が入るようになっていた。

「ドンッドドンッ」は、4拍子1小節の123で、「パッ」のところが4になるが、メロディはそのまま歌われているから、休符に合いの手が入るわけではない。さらに、123のところに「オーオッ⤴」というコールが入ることもあるから、70年代風の単純な合いの手ではない。おそらく80年代のアイドルブームの中で形成されたのだと推測する。

「ヘドバンギャー!!!」の場合、「♪伝説の黒髪を華麗に乱し」のところは、4拍子4小節の最初の2小節12345678と次の1小節1234にメロディがあり、そのあとの1小節5678が休符になっていて、ここに「(ウン)トイ!(ウン)トイ!」が入る。

これは70年代の歌謡曲パターンだ。

つまりインディーズデビューのメタル曲なのに、「ヘドバンギャー!!!」は70年代風と80年代風のアイドルソングの合いの手パターンを2つ盛り込んでいるのである。

もっとも、「♪いーちごのよーるを」では、YUI、MOAは万歳ジャンプをし、ファンもキツネサインの両手を掲げつつ「ハイ!」と叫ぶだけだから、ヲタっぽさはかなり抜けている。

2ndアルバム「Metal Resistance」でも、楽曲のミクスチャー要素としての合いの手はちゃんと盛り込まれている。

「GJ!」は三々七拍子。日本人にはなじみ深いリズムだが、楽譜上では123(休)567(休)1234567(休)となる。この(休)に「ハイ!」という合の手を入れるのは、アイドルソングにはないし、もちろん欧米の楽曲にもない。

BBMの曲で、アルバム発売時のコメントでは「Sis. Anger」と並んで、「ブラックベビーメタルがブラックメタルに挑戦」と言われていた。歌詞の内容はブラックなのだろうが、もちろん本家の北欧ブラックメタルにもこんなリズムはない。

イントロだけでなく、曲中の「Wall of Death!」とか「One more time!」とかの合いの手も、2小節目の(休)のタイミングで入るようになっている。

このタイミングで合いの手を入れることは、二人だけで激しく踊りながら歌うYUI、MOAを応援するという感じで、やはり曲に参加するという楽しさを味わわせる。

「META!メタ太郎」は2拍子の行進曲。

日本人には「水戸黄門」主題歌のリズムである。東京ドーム以降、「♪君に聴こえているか心の声~」のバックで「♪Woo Woo Woo WoWo Woo Woo Woo」とシンガロングするようになったが、実は「♪めーたー太郎、めーたー太郎」のところで、声ではなく、2拍子のリズムに合わせて敬礼のようなフリをする一体感こそ、この曲の本質的な魅力ではないか。

巨大キツネ祭り@SSAの2階席から見た時、3万人の観客が一糸乱れずこのフリをしている様子は、壮観の一言に尽きた。

Legend-S-@広島グリーンアリーナでは、黒い衣装を着て、あのペンダントを首に下げ、頭には黒いマスクをした7000人が、やはり一糸乱れずこのフリをしていた。

観客は、この曲でBABYMETALとともに行進するのである。

SU-を先頭に、鼓笛隊のようにドラムを叩くフリをするYUI、MOAに続いて、未知なるOnly Oneの道を往くBABYMETALとともに。

マーチがかかれば、どうしたって足を前後に動かして行進してしまう。これもまた人類共通の「普遍音楽文法」である。疲れ切った兵隊を行軍させるために使われたのが2拍子の行進曲なのだから。

BABYMETALは、欧米に進出するにあたって、日本のアイドル文化である「合いの手」を堂々と持ち込んだが、実はその淵源は人類共通のプリミティブな感覚だった。

だから欧米人も、ライブ会場が同じリズムを共有して一体化する楽しさに、たちまちBABYMETALの虜になったのである。

(つづく)