FOX遺伝子と普遍音楽文法(5) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

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★今日のベビメタ

本日2月5日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

 

今日で藤岡神がメタル銀河へ旅立ってちょうど1ヶ月。時の流れは速いものですね。

さて、突然ですが、秋元康作詞、見岳章作曲の「川の流れのように」は、なぜ大ヒットし、美空ひばりの代表曲、日本の名曲とされるようになったのか。

大歌手美空ひばりの最後のシングルだからという理由ももちろんあるし、秋元康作詞という話題性もあるだろう。

だが、ぼくは、この曲が日本人の大好きなコード進行になっていて、トドメに“ビートルズコード”が使われているからだと思っている。

●「川の流れのように」(美空ひばり、Key=D)

「♪ああ(D)川の流れの(F#m)ようにゆる(Em)やかに(F#m)いくつも(Em)時代(E7)は過ぎ(A7)て、ああ(D)川の流れの(F#m)ようにとめ(Em)どなく(F#m)空が黄昏(Gm)に(A7sus4)染まるだ(D)け」

コードをローマ数字表記で表すと、前半がⅠ→Ⅲm→Ⅱm→Ⅲm→Ⅱm→Ⅱ7→Ⅴ、後半がⅠ→Ⅲm→Ⅱm→Ⅲm→Ⅳm→Ⅴ7sus4→Ⅰとなる。

まずこのサビ部分前半は、「戦争を知らない子供たち」のコード進行になっている。

Key=Cに移調してみると、C→Em→Dm→Em→Dm→D7→G7で、Em→Dmが逡巡するように2回繰り返されていることと、最後のG7に行く前にDmがD7に変わるところが異なるが、基本的には「♪(C)戦争が(Em)終わって(Dm)ぼくらは(G7)生まれた」のコード進行であることは間違いない。

つまり、「川の流れのように」のサビは、日本人の中高年が最も好む「山あり谷あり感」満載の「戦知ら」進行でできているのだ。

次に「♪いくつも時代は過ぎて」のところ。原曲キーではEm→E7から→Aに抜ける。

サビ前の「♪(G)地図さえ(F#m)ないそれもま(Em→E7)た人(A)生」にもある。

3和音(ドミソ)のミを半音下げるとドミ♭ソとなって、悲しい感じのマイナーコードになることは前に書いた。Ⅱmは、長調のⅣの代用にもなる平行調マイナーの「悲しい発展」部分を表すコードである。

この曲では、これをわざわざⅡm→Ⅱ7と長調化してからVに解決している。

「悲しい発展」だったのが、「明るい発展」に変わる。歌詞に即して言えば、「悲しい時代もあったけど、振り返ってみれば、懐かしいわね」という感じになる。

これはJ-POPにもよく出てくるクリシェで、さくら学院の曲にもある。

●My Gradiation Toss(さくら学院、Key=D)

「♪(D)君に贈るGradu(F#m)ation Toss、宝(C6)物を(B7)集め(Em)た、オルゴー(Gm)ルの中きらめ(D)くたび、いつ(Em)でも思(E7)い出せ(A)るみんなのこと」

SU-の卒業曲が美空ひばりの引退曲と同じKeyだというのがまずビックリだが、「♪いつでも思い出せる」のところが、「川の流れのように」の「いくつも時代は過ぎて」と同じである。「思い出せる」と思うことで、寂しさがほんの少し希望に変わる。そう考えると結構グッとくるでしょ。SU-の卒業はもう5年前だなあ。

次に、「川の流れのように」のサビ部分、「♪とめどなく空が黄昏に染まるだけ」のGm→A7sus4の進行について。

まずGm。Key=Dのこの曲でGはⅣに当たり、Ⅰ(D)に対して「明るく発展する感じ」を与える。さっきも述べたように、3和音(ドミソ)の2音目を半音下げると悲しいマイナーコードになるわけだが、本来のⅣをⅣmにするとちょっと陰影がかかったような、おしゃれな感じになる。

これがビートルズを思わせるのだ。

●Nowhere man(ザ・ビートルズ、Key=E)

「(E)He is a real (B)nowhere man (A)sitting in his (E)nowhere land (F#m7)Making all his (Am)nowhere plans for (E) nobody」

ローマ数字表記だと、Ⅰ→Ⅴ→Ⅳ→Ⅰ→Ⅱm→Ⅳm→Ⅰとなる。Key=EではⅣがAになるが、それをマイナー化しAmにして終止形のⅠ(E)に戻っている。

これが、孤独な変人Nowhere manの陰影を感じさせ、カッコよく、オシャレに響く。

実はさっきの「My Gradiation Toss」(さくら学院)にもある。

「♪オルゴー(Gm)ルの中」のところですね。Key=Dだから、Gは「発展」を表すⅣになるが、ここをあえてマイナー化して寂しさを表現しているわけだ。

その前の「♪宝(C6)物を(B7)集め(Em)た」のところはマイナー進行になっているから、よりいっそうひとり卒業する寂しさが強調される。よくできていますね。

さて、話を元に戻して「川の流れのように」のサビの最後、A7sus4。

これがまさに極めつけのザ・ビートルズコードである。

●A hard day’s night(ザ・ビートルズ、Key=G)

「♪(D7sus4)It’s been a (G)hard (C)day’s (G)night And I’ve been (F) working like a (G) dog」

イントロの「ジャーン」というコードがD7sus4ですね。

Ⅴのコードに減7度を加えてⅤ7にするのはブルースロックの定番だが、さらに完全4度を加えたのがⅤ7sus4というコード。このコードがじゃらーんと鳴っただけで、「あ、ビートルズ!」と思ってしまう。

「川の流れのように」では、サビの最後、「♪(F#m)空が黄昏に(Gm)」のあとの「♪(A7sus4)ジャッジャーン」がこのコードなのである。

不安定なコードなのだが、減7度を加えただけのV7がブルースロックっぽい「不良感」があるのに対して、完全4度を加えたⅤ7sus4はどことなく爽やかで、始まりであるとともに終わりでもあるような、時間が止まったような幻想的な響きを持っている。

これをV7sus4→Ⅴ7に進行してⅠや平行調マイナーのⅥmに解決するのが定番で、「イジメ、ダメ、ゼッタイ」(BABYMETAL)にもあるし、古くは「太陽がくれた季節」(青い三角定規)のイントロなんてのもある。だが、Ⅴ7sus4からいきなりⅠに解決するのがビートルズ!なのであります。

美空ひばりの「川の流れのように」は、「戦知ら」進行を基本に、ⅡmのⅡ7(長調)化、ビートルズっぽいⅣのⅣm(短調)化など、日本人が大好きなコード進行のてんこ盛り。

そして、「演歌」と目されることもある美空ひばりの楽曲のサビのキメ部分に、極めつけのビートルズコードであるⅤ7sus4を使ったのが、「川の流れのように」が国民的な名曲になった大きな「普遍音楽文法」的要因ではないかというのが、ぼくの見立てなのである。

さて、BABYMETALだ。

●KARATE(Key=G)

「♪ひたすら(C)セイヤソイヤ(G)戦うんだ拳(D)をもっと心(Em)ももっと

(C)全部全部研(G)ぎ澄ましてWoo(D)WooWoo(Em)」

「♪まだまだ(C)セイヤソイヤ(G)戦うんだ悲(D)しくなって立ち(Em)上がれなく(Am)なっ(Bm)て(C)も~間奏部(D7sus4)」

イントロのリフから「♪セイヤ、セ、セ、セ、セイヤ、ソイヤ、ソ、ソ、ソ、ソイヤ、押忍!(B)涙こらえても立ち向かってゆこうぜ(C→D)」までは、Key=GでⅢにあたるB。

というかほとんど単音で、メロディとリフだけが際立つ。

通常、Ⅲは平行調マイナーの3コード、ⅢmまたはⅢ7←Ⅵm→Ⅱmにおける「下がって悲しく続く」感じを担当する。

しかし、この曲ではⅥmに解決するのではなく、イスラム化したスペイン風のエキゾチックなアラビック・スケールで歌われるメロディの受け皿として使われている。

それが、Ⅳ(C)→Ⅴ(D)で助走をつけると、Ⅳ→Ⅰ→Ⅴ→Ⅵmという明るい循環進行になる。最後の終止部は平行調マイナーコードのⅥmなので、「頑張っても、まだつらい境遇に留まっている」という感じになっている。

一番、二番が繰り返され、ブレイクで三人が倒れ込み、ギターがクリーントーンになってアルペジオが奏でられる。この時のコードがD7sus4なのである。

2016年のアメリカ東海岸ツアーあたりでは、ここでSU-が「How you feeling tonight?」と問いかけ、「♪Wooooh、Woo、Woo、Woo、Woooooh…」とアドリブのハミングを入れていた。

2017年のレッチリ帯同NBAスタジアムツアーでは、ハミングの前に「Take your phone out!」「Turn on your camera light!」「Wao, it’s beautiful…」と、幻想的なフォーンライト煽りをやった。

アルペジオなので気づきにくいが、その構成音はD7sus4、すなわちKey=GにおけるビートルズコードV7sus4、美空ひばりの「川の流れのように」のサビのキメコードが、遠くに聴こえる「♪Woo woo woo」のバックにずっと流れているのだ。正確にはコーラスのメロディに合わせてD→Emのベース音も聴こえるが、雰囲気はD7sus4が強い。

さっき書いたようにこのコードは、不良っぽいV7とは違って、不安定だがどことなく爽やかで、未知の世界を旅するBABYMETALにはよく似合う。

だが、三人は戦いに疲れ果て、倒れ込んでいる。

V7sus4が静かに流れ、時間が止まっている。

ルートはⅤだから、「Ⅰ起立→Ⅴ気を付け→Ⅰ礼」と同じく、早く「次」に行きたい。

だが、焦らすようにそれをずっと続けることによって、観客の中に「次に行きたい感じ」がだんだん貯まってくる。そのエネルギーがBABYMETALを応援する気持ちとなって客席からメラメラと湧き上がってくる。立ち上がれ、BABYMETAL。顔を上げ、前へ進め。

その気持ちに応えるように、SU-がYUIとMOAを助け起こす。

三人は立ち上がり、肩を組み、「♪Woo Woo」と拳をあげて歩き始める。

バックの演奏が高まり、ドラムの鼓動が気持ちに火をつける。

そこでSU-が叫ぶのだ。「Everybody, Jump!」

「♪ひたすらセイヤソイヤ戦うんだ 拳をもっと心ももっと 全部全部研ぎ澄ましてWoo Woo Woo…」

もう観客は、ジャンプせずにはいられない。BABYMETALに声援を送らずにはいられない。

調子っぱずれのようなへヴィなギターのリフ、セイヤソイヤのKARATEダンスと、「押忍!」の掛け声。Bをバックに歌われるアラビック・スケールのメロディ。

こういうエキゾチックなスタートから、一転して明るい「♪ひたすらセイヤソイヤ」のメロディだけだったら、凡庸な曲に終わっていたかもしれない。

だが、間奏部の寸劇のバックに、ビートルズがキャリアと曲の始まりに使い、美空ひばりがキャリアと曲の終わりに使ったⅤ7sus4が使われることによって、BABYMETALの「KARATE」は、始まりと終わりを同時に感じさせるような、幻想的な「Metal Resistance」の一幕を表現し、永遠の輝きを放つ曲となったのだ。

(つづく)