FOX遺伝子と普遍音楽文法(4) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

YOU ARE THE ONE. WE NEVER FORGET MIKIO FUJIOKA

★今日のベビメタ

本日2月4日は2015年、1stアルバム「BABYMETAL」が、「第7回CDショップ大賞2015」にノミネートされた日DEATH。ちなみに1か月後の3月9日、見事受賞しました。

 

BABYMETALの楽曲の特徴のひとつに、下降進行と上昇進行の見事な組み合わせがある。

メジャーデビュー曲「イジメ、ダメ、ゼッタイ」はその典型である。

「♪(C#m)夢を見るこ(B)とそ(A)れさえも持て(G#)なくて(F#m)光と闇(E)のはざま(F#m)ひと(B)り」

この曲はKey=C#m=短調なので、平行調の長調Eがドになる。

このコード進行を相対音階で表すと、ラ→ソ→ファ→ミ→レ→ドというふうに、ラからどんどん下がっていって、最後のレ(F#m)→ソ(B)でちょっと戻る。

上昇進行が「上り詰めていく感じ」「駆け上がっていく感じ」を抱かせるのに対して、下降進行は「沈みこんでいく感じ」「深みにハマっていく感じ」を抱かせる。それが「普遍音楽文法」を先天的に備えた人類共通の感じ方である。

だから「イジメ、ダメ、ゼッタイ」冒頭のこの部分は、歌詞とよく合っているわけだ。

ここだけでなく、続く部分も歌詞とコード進行が見事にシンクロしている。

「♪自(A)信持(B)てずに、(G#7)隠れ続け(C#m)た、(F#m)昨(G#m)日(A)までの、自分サヨナラ(G#/G#/ G#/F#m/G#/A/G#)」

煩雑になるので、YUI、MOAの合いの手は省略ゴメンね。

前半は、ファ→ソ、ソ♯→ラと2つずつ上がり、後半は、レ→ミ→ファと一気に3つ上がって、メロディをなぞる「♪自分サヨナラ」につながる。

つまり、沈み切っていた気持ちが、最初は少しずつ、やがて力強く立ち上がっていく心理状態を見事に表現しているのである。だからYUI、MOAは「いえすたでー」「バイバーイ」と英語でScreamするのだ。

サビは、ご存知の通り、次のようになる。

「♪イジ(C#m)メ、イジ(F#m)メ、カッ(B)コわるい(E)よ、傷(A)ついて(G#m→F#m)傷つけて(E→D#/ Cdim)傷だらけになるの(G#7)さ、キツ(C#m)ネ、キツ(F#m)ネ、きっ(B)と飛べる(E)よ、苦(A)しみも(G#m→F#m)悲しみも(E→G#m7)すべて解き放(C#m)て君を(A)守(B)るから(C#m)」

D#は、7弦なら4フレットで出るが、ノーマルチューニングの6弦ギターだと5弦6f基音のD#か、4弦1f-3弦2f-2弦1f-1弦2fのCdimにする。

C#mを長調の平行調マイナーコード=Ⅵmとみると、ⅠはEになる。するとⅡがF#、ⅢがG#、ⅣがA、ⅤがB、ⅥがC#、ⅦがD#である。

このローマ数字表記でいうと、このパートの前半部分は、Ⅵm→Ⅱm→Ⅴ→Ⅰという、日本人好みの「山あり谷あり」進行になっていることがわかる。

もういちどE=ドとする相対音階で「♪傷ついて…」からの進行を見ていくと、ファ→ミ→レ→ド→シと下降していき、G#7でいったん受け止め、もう一度「山あり谷あり」を繰り返した後、「♪苦しみも…」からファ→ミ→レ→ドからすぐにG#7で受け止め、最後の「♪君を…」からではファ→ソ→ラと上昇してC#mに戻って終止する。下降と上昇がせめぎあっているのだ。

これで一番が終わり、間奏部。ここのギターソロの最後も、注意して聴くと下降してからダブルストップで上昇するという流れになっている。

二番も下降と上昇がせめぎ合うコード進行が同じように繰り返され、ブレイク。

三人が指を合わせるシーンでは、ゆっくりとAm→B→Cm#→G#mと上昇コードが奏でられ、Am→G#m→F#m→E→D#/Cdimと下降する。ドラマチックに何かが始まる予感。

G#→A→G#で、ギターソロになるとYUI、MOAの偽闘が始まる。このツインギターソロの速弾きも上昇と下降を繰り返す。二人のギタリストとYUI、MOAの動きがシンクロしているし、フィニッシュもちゃんと下降してから上昇して終わる。見事に曲のモチーフを表現しているのだ。

続くBメロは、

「♪いと(C#m)しくて、せつ(F#m)なくて、ここ(B)ろ強く(E)て、これ(A)以上もう(F#m→E)君の泣き(D#/ Cdim)顔は見たく(G#7)ない」

「山あり谷あり」進行のⅥm→Ⅱm→Ⅴ→Ⅰで、揺れ動く感情を表現し、Ⅳ→Ⅱm→Ⅶ→Ⅲ7という下降進行のどん底=不安なCdimの絶望の果てに、立ち上がり決意する瞬間を表現している。

そして、3回目のサビ。

「♪イジメ(ダメ!)イジメ(ダメ!)・・・と繰り返し、最後の部分が、一番、二番と違って、「♪君を(A)守(B)るから(C#sus4→C#)」と長調に転じる。

下降と上昇のせめぎ合いは上昇が勝利し、最後に長調化するのである。その瞬間、曲調が希望に満ち溢れる。

そして、C#から半音下がって、「♪イジ(C)メ、ダ(D)メ、ゼッタ(Em)イ(Bm)、イジ(C)メ、ダ(D)メ、フォーエ(G)バー」という明るい上昇進行に入る。

これがもう一度繰り返され、最後の最後は「♪イジ(C)メ、ダ(D)メ、ダー(E)メー」とEへの転調をともなう1音上がりの上昇コードでシメる。

特筆すべきことに、この最後のEは、C#mで始まったこの曲の、平行調のⅠなのだ。

短調の下降進行で始まった悲しいこの曲は、下降と上昇のせめぎあいの果て、YUIとMOAの偽闘の果て、ギターソロの下降と上昇の果てに、ついに上昇が勝利し、希望に満ちた、同じ調の明るい長調になって終わるのだ。

ソニスフィア2014で6万人のメタルヘッドをノックアウトしたのは、神バンドの演奏力、SU-の歌唱力、YUI、MOAのダンス力が欧米人の度肝を抜いたからだ。それは間違いない。

だが、フィニッシュ曲の「イジメ、ダメ、ゼッタイ」、BABYMETALのメジャーデビュー曲であり、2015年までの代表曲が、楽曲としていかに見事に構成された名曲であるかということも、メイトさんにはぜひ知っておいていただきたいと思う。

イギリス人のメタルヘッドは日本語などわからない。ヒントはスクリーンに映し出されたSchool Girlらしい「No more bullying forever」というメッセージと、悲しげな「♩ルルルー、ルルルー」というSU-のハミングだけだった。

だが、欧米人たちもきっと、下降していくコード進行に「悲惨な状況や辛い気持ち」を感じ、上昇していくコード進行には「力強い希望」を感じたに違いない。そして、せめぎあいの果てに下降が上昇に転じ、悲しい短調が、誰も気づかないうちに、同じ調の明るい長調になっているという構造を持つこのパワーメタルのフィニッシュには、BABYMETALと一緒になって大勝利!!!したかのような感情を抱いたに違いないのだ。

それが「普遍音楽文法」の威力なのだ。人類共通の文法に沿ったコード進行やリズムで構成すれば、言葉がわからなくても感情がダイレクトに伝わるのだ。

これがソニスフィアの奇跡、音楽が国境を超えた瞬間のもうひとつの謎解きである。

(つづく)