FOX遺伝子と普遍音楽文法(2) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
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★今日のベビメタ

本日2月2日は、2014年、完全櫻樂團2バンライブBABYMETAL×ChthoniC @台湾・台北が行われた日DEATH。

 

3和音、音階でいえばドミソからなるコードを表記する際、Key(=調)の基音(ドミナント)から何音目に当たるかをローマ数字で表す。こうすると移調しても、その調におけるコードの位置や役割がわかるからである。

例えば、Key=C(ハ長調)の場合、CをⅠ、Cの2音上のDをⅡ、3音上のEをⅢ、4音上のFをⅣ、5音上のGをⅤ、6音上のAをⅥ、7音上のBをⅦと表記する。

Key=A(イ長調)だと、AがⅠ、BがⅡ、C#がⅢ、DがⅣ、EがⅤ、F#がⅥ、G#がⅦとなる。

なぜ、#がつくのかというと、ドレミファソラシドという西洋音階は、ミとファの間、およびシとドの間が半音だからである。なお、C、D、E、F…という英字表記は絶対的な音の高さ(A=440Hz)を表すが、ドレミ…は、その調における相対的な音階を表すものとする。

ローマ数字にmが付くと、3和音(ドミソ)の2音目が半音下がった悲しい感じのマイナーコード(ドミ♭ソ)になる。

ローマ数字に7がつくと、3和音のドから数えて7音目(短7度=シ♭)が加わり、4音のセブンスコード(ドミソシ♭)になる。セブンスコードは、ちょっと不安定で、早く次のコードのⅠやⅣに進行(解決)したい感じになる。不安な感情を表すので、ブルースやロックでよく使われる。

「気を付け、礼、直れ」の時に使われるC→G→Cは、Ⅰ→Ⅴ→Ⅰと表記する。

Ⅰ(C)からⅤ(G)に進行すると、ちょっと下がって次に続く感じになり、Ⅴ(G)からⅠ(C)に戻ると、終止した感じになる。だからⅠ→Ⅴ→Ⅰは、「気を付け、礼、直れ」という「言葉」に聴こえる。セブンスが入ってⅠ(C)→Ⅴ7(G7)→Ⅰ(C)になると、もっとその感じが強くなる。

こんなふうに、コード=和音には、それ自身に人間の情緒に訴える何らかのイメージがあり、またコードの進行にも何らかの「物語性」のようなものがある。

それは誰に教わったのでもなく、前回書いたように、ヒトに生まれつき備わっている人類共通の「普遍音楽文法」なのである。

ブルースやロックンロールは、Ⅰ、Ⅳ、Ⅴ7の3コードの繰り返しである。

Key=Aとした場合、Ⅰ(A)を4小節→Ⅳ(D)を2小節→Ⅰ(A)を2小節→Ⅴ7(E7)を2小節→Ⅳ(D)を2小節→Ⅰ(A)を2小節→Ⅴ7(E7)を2小節→というサイクルを延々繰り返す。

Ⅰ(A)からⅣ(D)に進行すると、何か発展した感じになる。次の展開を待つ感じである。

だが、Ⅳ(D)からまたⅠ(A)に戻り、次にⅤ7(E7)に進んでⅣ(D)に行ってⅠ(A)に戻ると、終わりそうで発展しそうでしなくて、振出しに戻りまた続くという感じになる。このコード進行だけで「物語」になっているのである。

ブルースは元々、黒人労働者が自虐的に境遇を物語る弾き語りだから、このコード進行はまことに理に適っているわけだ。

悪魔のコード進行とも呼ばれるパッヘルベルの「カノン」のコード進行は、Ⅰ→Ⅴ→Ⅵm→Ⅲm→Ⅳ→Ⅰ→Ⅳ→Ⅴ7である。

Key=C(ハ長調)だと、C→G→Am→Em→F→C→F→G7となる。

単純な3コードではなく、Ⅵm→Ⅲmの進行が入るところが、なんとなく心の琴線に触れ、感動的な感じがする。

これには秘密がある。

まず、Ⅵm(Am)は、Ⅰ(C)における平行調マイナーコードである。Ⅰm(Cm)だとハ短調になってしまうが、Amならハ長調の音階で構成されるから、同じキーのまま、悲しい感じのコードになるのである。

Am→Dm→Am→Emは、C→F→C→Gと同じく、平行調マイナーの3コードであり、イメージとしては悲しい状態から、さらに悲しく発展し、悲しく戻り、それが続くという「悲しい物語」になる。

「カノン」では、Ⅰ(C)→Ⅴ(G)の後、通常のⅣ(F)→Ⅰ(C)に行かずに、Ⅵm(Am)→Ⅲm(Em)をはさむことで、悲しい平行調マイナーになって、それが続くかと思われるがその後、通常のⅣ(F)→Ⅰ(C)で明るく発展してから元に戻るというコード進行になり、さらにもう一度Ⅳ(F)を繰り返してからⅤ(G)に続くことで、「人生にはね」「悲しいことが続くよね」「だが希望はある」「希望はあるんだ。だからもう一度…」というドラマチックな「山あり谷ありの物語」が生まれるのである。

日本人はこのコード進行が大好きで、ヒット曲や名曲が多い。いくつか挙げてみよう。

●大阪で生まれた女(BORO、79年、Key=C)

「♪大阪で/生まれた/女や/さかい/東京には/よう/ついて/ゆかん」

●守ってあげたい(松任谷由実、81年、Key=G)

「♪So, you don’t/ have to/ worry,/ worry,/守っ/て/あげた/い」

●最後に愛は勝つ(KAN、90年、Key=D)

「♪心配/ないからね/君の/勇気が/誰かに/届く/明日は/きっとある」

●壊れかけのRadio(徳永英明、90年、Key=E)

「♪思春期に/少年から/大人に/変わる/道を探し/ていた/汚れもない/ままに」

●負けないで(ZARD、93年、Key=G)

「♪負けない/でも/う少/し最/後ま/で/走り抜け/て」

●言えないよ(郷ひろみ、94年、Key=B)

「♪言えない/よ/好きだなん/て誰/よりもき/みが近/すぎて/」

●Love is…」(河村隆一、97年、Key=E♭)

「♪You/ are my only,/ you/ are my treasure/ I’d give you my /whole thing/ even if you don’t/ want」

●ハナミズキ(一青窈、04年、Key=E)

「♪薄/紅/色の/かわ/いい君/のね/果てない夢/がちゃんと」

●恋するフォーチュンクッキー(AKB48、14年、Key=D)

「♪恋する/フォーチュンクッキー/未来は/そんな悪くない/よヘヘイ/ヘイ/、ヘヘイヘイ/」

もちろん、各曲ともこの部分の前後に別のメロディが差し込まれているし、この部分に代用コードを使ったり、sus4やm7などのコードを加えたりして、工夫を凝らした曲もある。

都市伝説として、パッヘルベル自身がそうだったように、この「カノン」のコード進行を使うと大ヒット曲に恵まれるが、その後その曲を超えるヒットが生まれない。これは一発屋のコード進行、「悪魔のコード進行」だというのがあるが、このアーティストのラインナップを見てもわかる通り、大御所も多い。

要するに、Ⅳm→Ⅲm→Ⅳ→Ⅰ→Ⅳ→Ⅴという「人生山あり谷あり続く」感が、日本人の心の琴線に触れるのだろう。

これの応用編ともいえるのが、Ⅳ→Ⅴ→Ⅲm→Ⅵmというコード進行である。

Key=C(ハ長調)ではF→G→Em→Amとなる。

●卒業写真」(荒井由実、75年、Key=C)

「♪人ご/みに/流され/て/」

●オリビアを聴きながら(杏理、78年、Key=G)

「♪/出会った頃は/こんな日が/」

●サボテンの花(チューリップ、78年、Key=G)

「♪絶え/間なく降り注/ぐこ/の雪の/ように」

●いとしのエリー(SAS、79年、Key=D)

「♪/笑ってもっと/BABY/素敵にIn your /sight」

●悲しい色やね(上田正樹、82年、Key=A)

「♪Hold me/ tight大/阪ベイブ/ルース/」

●世界で一番暑い夏(プリンセス・プリンセス、87年、Key=A)

「♪世界で/一番/大き/な太/陽」

などがそれである。

短いコード進行だが、Ⅳ→V→Ⅰと解決すべきものを、Ⅳ→Ⅴ→Ⅲm→Ⅵmと平行調マイナーコードに解決している。つまり発展から戻ってきたら悲しい結末だったという「物語」になるわけだ。

もちろんここで曲は終わらない。この先にも曲が続き、再び発展→終止していくことになる。日本人はこういうドラマ性を好むのである。

このコード進行は、これらの曲のメロディラインあるいはサビの一部であり、前後に特徴的なメロディがあって、曲の魅力を作っているから、ワンパターンというわけではない。

それにしても、J-POPはメジャー進行の中に平行調マイナーコードを入れ込むのが好きで、なおかつ循環していくコードが大好きみたいなのだ。

その原点といえるのが、「戦争を知らない子供たち」である。

今や「戦争を知らない子供たち」を知らない子どもたちが増えてしまったが、この曲こそ、70年代フォークの典型であり、メジャーコード進行にマイナーコードが入って循環するJ-POPの原点というべき曲だ。

●戦争を知らない子供たち(杉田二郎、1970年、Key=C)

「(C)戦争が(Em)終わって(Dm)ぼくらが(G7)生まれた、(C)戦争を(Em)知らずに(Dm)ぼくらは(G7)育った、(C)大人に(Am)なって(Dm)歩き(G7)始める、(C)平和の(Am)歌を(F)口ずさみ(G7)ながら」

ローマ数字にすると、Ⅰ→Ⅲm→Ⅱm→Ⅴ7とⅠ→Ⅵm→Ⅳ/Ⅱm→Ⅴ7である。

1960年代、アメリカではボブ・ディランの「風に吹かれて」がヒットしていた。

●風に吹かれて(ボブ・ディラン、1963年、Key=D)

「(D)How many (G)roads must (A)a man walk (D)down、 (D)Before you(G)call him(D)a man(A)」

ローマ数字にすると、Ⅰ→Ⅳ→Ⅴ→Ⅰ、Ⅰ→Ⅳ→Ⅰ→Ⅴとなる。単純な3コードだ。

しかし日本人は、Ⅰ→ⅣのところをⅠ→Ⅵmに、Ⅳ→ⅤのところをⅡm→Ⅴにしたがるのである。

学校で一番最初に習うKey=C(ハ長調)では、ⅣがFになる。フォークギターでFは1フレットセーハが必要で押さえにくいから、Dmにしたという単純な事情によるものかもしれない。確かにⅠ(C)→Ⅳ(F)のところを、Ⅰ(C)→Ⅱm(Dm)に変えても、メロディに合うから、Ⅱm(Dm)は、Ⅳ(F)の代用コードになる。

だが、後半ではⅥm(Am)→Ⅱm(Dm)またはⅣ(F)に進行しているから、やはり平行調のマイナーコードで「山あり谷あり感」を好むという民族心理的要因なのかもしれない。

いずれにしても、その後の日本のヒット曲が、単純な3コードを嫌い、Ⅱm、Ⅵm、Ⅲmといった平行調マイナーコードを多用していることは事実なのだ。

実は、わがBABYMETALも、この「戦争を知らない子供たち」の後半のコード進行を使っている。

BABYMETALのデビュー曲「ド・キ・ド・キ☆モーニング」がそれである。

●ド・キ・ド・キ☆モーニング(BABYMETAL、2010年、Key=Am)

「♪(A)リンリン(F#m)リンッ(D)おはよう(E)Wake up(A)お・ね・(F#m)が・いチョ(D)待ってチョ(E)待って」のところだ。

Key=Aでのローマ数字表記は、Ⅰ→Ⅵm→Ⅳ→Ⅴとなる。

「ド・キ・ド・キ☆モーニング」は2拍ごとに裏拍でコードが変わり、「戦争を知らない子供たち」は4拍ごとにコードが変わるので印象が違うが、「♪大人になって歩き始める」「♪平和の歌を口ずさみながら」と全く同じコード進行なのだ。

だからこういうことがいえるのではないか。

一部のメタルファンとクールジャパン好きな欧米のオーディエンスは、Kawaii女の子たちがパンテラ風のへヴィなリフで歌い踊るという「なんじゃこりゃ?!」感からこの曲およびBABYMETALを好きになったと言われる。

しかし日本の、特に中高年は、へヴィなリフで、女の子たちがいきなりメロイックサインもどきをしてラップを歌い、「♪知らないフリはキライ!キライ!…」のところではAm→F→Dm→Eというデスメタル風=気味の悪いコード進行とロボットダンスをするところまでは、「なんじゃこりゃ?」「怖ッ!」と思ったはずなのだ。

ところが、ギターのブリッジメロディから転調後、一気に明るくなり、「♪リンリンリンッ…」のところが「戦争を知らない子供たち」で無意識に刷り込まれた循環コード進行だった。

しかも女の子たちはあの振り付けで可愛く踊る。それで、中高年は一発で安心し、好きになってしまったのではないか。

そして、刷り込まれたサブリミナルな指示によって、「戦争を知らない子供たち」を知らないBABYMETALの名前を覚え、世界を目指す彼女たちの活躍に、かつて夢見たLove & Peaceを感じてしまった。

「♪戦争を知らないBABYMETALさー」なんちて。

(つづく)