テクニカルギタリストの系譜(7) | 私、BABYMETALの味方です。

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★今日のベビメタ

本日1月28日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

 

ぼくの勝手な解釈でいえば、ジョー・サトリアーニとスティーヴ・ヴァイは、アメリカのジャズ系スタジオミュージシャンたちが始めたフュージョンの技術や理論と、タッピングやネオクラシカル系の速弾きを再統合したギタリストだった。

ロックギターの演奏技術や楽理的な探求は、もともとイギリスのプログレッシブロック、とりわけキング・クリムゾンのロバート・フリップ、U.K.のアラン・ホールズワースから始まったわけだが、イギリスには、それとは対極的にシンプルで直情的なパンクムーブメントが生まれ、その影響を受けて、ぶっ速いリフを特徴とする激しいスラッシュメタルが生まれた。

さらに同じくイギリスのブラック・サバスに発した悪魔崇拝的なエモーションとギタリストのトニー・アイオミが開発したダウンチューニングによる重低音の技法があり、それがデスメタル、ドゥームメタル、ブラックメタルへの流れとなった。

80年代後半~90年代にかけて、プログレッシブロックの伝統にスラッシュメタル、デスメタル、ネオクラシカルメタルを統合したのが、プログレッシブメタルというジャンルである。

代表的なバンドとしては、プログレッシブメタルという言葉を生み出したフェイツ・ウォーニングやジョン・ペトルーシ(G)を擁するドリーム・シアター、クイーンズライチなどが挙げられる。近年ではフランスのゴジラもこのジャンルに属するが、壮大な曲調でへヴィメタルっぽいギターが入っていれば、結成年代に関係なく、古くはユーライア・ヒープやカンサス、ラッシュさえも、今やプログレッシブメタルと呼ばれることがある。さすがに60年代~70年代前半結成のバンドは、ただのハードロック、プログレッシブロックでいいじゃん。

プログレッシブメタルに属するバンドの中で、ギタープレイの革新性という意味で、ぼくが勝手に重要だと思っているのが、スウェーデンのメシュガー(Meshuggah)。そこから派生した「ジェント(Djent)」というスタイルの創始者だからである。

メシュガーの結成は1987年。フロントマンは、8弦ギタリストのフレドリック・トーデンダル。バンド構成は、8弦ギター2人、5弦ベース1人、ボーカル1人、ドラムス1人の5人。元々高速のスラッシュメタルスタイルだったが、ボーカルはデスメタルのグロウルで、複雑な曲構成と変拍子を特徴とする。ウィキペディアの記述ではバンドの特徴として、

・7弦ギター(のちに8弦ギター)を用いた重低音リフ。

・アラン・ホールズワースの影響を受けた浮遊感のあるギターソロ。

・ポリリズム、シンコペーションを多用した複雑なリズム。

・5分間以上にわたりノイズを鳴らし続けたり、47分で一曲のアルバムを発表する、実験的な作風

などがあげられている。これはほぼ「ジェント」の定義と同じであり、影響を受けたペリフェリーや、超絶技巧の黒人ギタリスト、トシン・アバシを擁するアニマルズ・アズ・リーダーズなどのバンドを「ジェント」と呼ぶ。

ただし、「ジェント」が音楽スタイルないしジャンルであるとする見解には、これらのバンドのメンバー自身が反発する向きもある。

「ジェント」と「マスロック」の区別は、ボーカルの有無とギターの音がクリーンかディストーションかの違いだとされるらしいが、「マスロック」のバンドも曲によってはボーカルを入れることがあり、クランチ~ディストーションに近い音を出すこともあるから、両者の区別はつけがたい。現に、アニマルズ・アズ・リーダーズのトシン・アバシの超人的プレイはディストーションがかかっているが、前述したように「マスロック」の中心的存在として、CHONを前座に起用してジャンルをけん引している。

今まで挙げてきたギタリストを年代順に並べてみよう。

ジェフ・ベックは1944年生まれ。

プログレッシブロック期のキング・クリムゾンのロバート・フリップが1946年生まれ、U.K.のアラン・ホールズワースも1946年生まれ。

ブラック・サバスのトニー・アイオミは1949年生まれ。

メタル/フュージョン期のエディ・ヴァン・ヘイレンが1955年生まれ、ジョー・サトリアーニが1956年生まれ、スティーヴ・ヴァイが1960年生まれ、イングヴェイ・マルムスティーンが1963年生まれ。

プログレッシブメタル期のドリーム・シアターのジョン・ペトルーシは1967年生まれ、メシュガーのフレドリック・トーデンダルは1970年生まれ。

「ジェント」のアニマルズ・アズ・リーダーズのトシン・アバシは1983年生まれ。ペリフェリーのフロントマン、ミーシャ・マンソーは1984年生まれ。

「マスロック」とされるCHONのメンバーは生年月日を公表していないが、現在平均年齢24歳というから1994、5年の生まれだと思う。

つまり、5年~10年間隔で、各時代に前衛的/実験的/先進的という意味でプログレッシブなテクニカルギタリストが誕生してきたのである。

細かい相違によるジャンル分けは、「新しい音楽」として宣伝したい評論家もしくは業界のためにあるのであって、ミュージシャンから見ると、前の世代から次の世代へと、リレーのように演奏法や音楽性が受け継がれているだけである。それが「楽統」あるいは「系譜」ということだ。バンドやプレイヤーを理解するときには、影響を受けた前世代からの系譜を読んでいった方がいいと思う。

1981年生まれの藤岡幹大も、このロバート・フリップ、アラン・ホールズワース、ジェフ・ベックに始まり、フュージョンとシュレッドギター、プログレッシブロックとメタルの統合の系譜に属するギタリストだった。彼もまた同世代のギタリストと同様、「ジェント」や「マスロック」を意識していたと思う。フュージョンもできる、という安易な捉え方では済まないギターの求道者だった。

仮バンドの「仮音源-DEMO-」には「Djentleman」という曲がある。

これは、レコーディングに参加したISAO神の性格と音楽性をかけて、ジェントルマン=紳士と「Djent」を“融合”したタイトルである。

1977年生まれのISAO神は8弦ギターをメインにしており、藤岡幹大のミュート気味の重低音で複雑なリズムを刻む「ジェント」なバッキングに、変態的かつメロディアスなソロを展開してくれた。8弦ギターへのこだわりも、フレドリック・トーデンダルやトシン・アバシ同様、プログレッシブなロックギター表現の究極の可能性を追求するために違いない。

トシン・アバシは、超絶技巧ということでいえば、おそらく現在の世界チャンピオンだと思う。8弦ギターを駆使し、同僚の8弦ギターの使い手ハビエル・レイエス、ドラムのマット・ガーストカと繰り広げるインストゥルメンタルの演奏は、神業の一言。

「CAFO」での複雑なリズム、指板の上を縦横無尽に動き回る指から放たれる音の煌きは、息もつかせないだけでなく、限りなくメロディアスでロマンチックだ。

https://www.youtube.com/watch?v=NmfzWpp0hMc

これに日本で唯一対抗できるのが、藤岡幹大(7弦ギター)、BOH(6弦ベース)、前田遊野(D)のトリオ、BABYMETALのバックバンドである神バンドのメンバーから構成された仮バンドではなかったか。

トシン・アバシは、時にアコースティックギターも使い、クリーンなアルペジオも聴かせるが、基本はディストーションの利いた激しい音である。

藤岡幹大は、アコースティックギターこそ弾かなかったが、全メロディをハーモニクスで鳴らすロマンチックな表現もある。だが、やはり勝負に行くときはへヴィな音になる。

特に、8弦ギターの使い手ISAO神が絡んだ「Djentleman」は、アニマルズ・アズ・リーダーズの「CAFO」に匹敵するスリリングさを持っている。MVがないのが惜しい。

「ジェント」でも「マスロック」でも、ジャンル分けなんてどうでもいいが、アニマルズ・アズ・リーダーズも仮バンドも、長いプログレッシブロックの系譜の最先端に位置している。トシン・アバシらとともに、藤岡幹大は、プログレッシブロック、フュージョン、ジェフ・ベック流ストラト表現、EVH、ネオクラシカル、スラッシュメタル、デスメタル、プログレッシブメタル、ジェント、マスロックまで、すべての要素を表現の中に織り込んだテクニカルギタリストの究極の姿を示していた。

そういう凄いプレイヤーが、BABYMETALを支えていたのだ。

神バンドは世界的には無名でも、そういうバックグラウンドを持った日本人プレイヤーたちの集まりだった。

それが、「♪ぱっつんぱっつん前髪ぱっつんキューティスタイル!」とか「♪メーターたろうメーターたろう」とかを演奏してくれていたのだ。

「CMIYC」や「あわだまフィーバー」からの神バンドソロや、「Mischief of Metal Gods」、「紅月-アカツキ-」や「Amore-蒼星-」での速弾き、「イジメ、ダメ、ゼッタイ」や「Road of Resistance」のパワーチューン、「BABYMETAL DEATH」や「ギミチョコ!!!」での“アウト”なソロは、長いロックギターの系譜を踏まえて演奏されていたのだ。

LOUDPARK13で懐疑的なメタルファンを熱狂させ、2014年のレディガガが「バンドの音楽は本物」とツイートし、ソニスフィア2014で6万人のメタルヘッドをノックアウトし、11月のNY公演後に、欧米の評論家が「バックバンドが恐ろしく上手い」と驚嘆したのは、当たり前なのだ。

チームベビメタは、本気で「神の如きテクニックを持つBABYMETALのためのスペシャルな楽団」を集め、世界を獲りに行っていたのだ。

だから。

ギターの神、藤岡幹大がへヴィメタルギャラクシーに帰ってしまった今も、BABYMETALは前へ進まなければならない。

涙こぼれても、心折られても、顔をあげ、もう一度決意を新たにして、戦いの場に赴かねばならない。

それが、彼の遺志なのだから。

(つづく)