テクニカルギタリストの系譜(6) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

YOU ARE THE ONE. WE NEVER FORGET MIKIO FUJIOKA

★今日のベビメタ

本日1月27日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

 

80年代、精密コピーから離れ、オリジナリティを追究していく日本の楽器ブランドの中で、世界的な知名度を高めていったのが、アイバニーズとESPだった。

アイバニーズの名称は、明治時代に名古屋市で創業した星野書店の楽器部が輸入していたスペインのギター製作家サルバドール・イバニェス(Salvador Ibañez)の商標を、1936年~39年のスペイン内戦後に買い取ったことに由来する。

戦前から合資会社だった星野楽器は、1962年に子会社として多満製作所を設立、TAMAブランドのドラムセットとエレキギターの製造販売を開始。

1972年にアメリカのELGER CO.を買収して、海外での販売に重点を置き、高品質なギターブランドとして高く評価される。70年代の日本では、逆輸入ブランドとして「イバニーズ」と呼ばれていたが、80年代に海外での呼称を優先し、「アイバニーズ」と表記されるようになった。

1981年に改組して星野楽器株式会社、星野楽器製造株式会社、米国法人HOSINO INC.となり、メタル界にストラトキャスターを改良・発展させた、通称「スーパーストラト」への需要が高まると、スティーヴ・ヴァイのシグネチャーギターJEMとその市販型RGや、ジョー・サトリアーニのJS、ポール・ギルバートのPGMなど、アイバニーズのギターはテクニカル系ギタリストの御用達となった。

その後も世界初の量産7弦ギター、ドロップチューニングでもテンションが落ちずに重低音がしっかり出るエクストラロングスケールギター、8弦エクストラロングスケールギターなど、楽器としてのギターの可能性を広げる先進的な取り組みを行い、多くのプロギタリストにシグネチャーモデルを提供している。

なお、アイバニーズのJ.Customシリーズ、Prestigeシリーズ、アーティストシグニチャーなど、上位機種の製造にあたっているのは、フェンダージャパンとの関係が解消されたフジゲンである。

ESP(株式会社イーエスピー)は、ヤマハ、フジゲンでギターを設計していた椎野秀聰が、1975年に現社長の渋谷尚武らと設立したオーダーメイドギターショップからスタートした。

ショップには森園勝敏、石間秀機、高中正義、大村憲司、徳武弘文、土屋昌巳ら著名ギタリストが通ったという。

渋谷尚武が社長になると、1981年にはアメリカへ進出して、KramerなどアメリカのメーカーのOEM生産を行うかたわら、オリジナルブランドのギターも開発した。

同社を代表する機種HORIZONは「スーパーストラト」の完成形ともいえる。

藤岡幹大が使っていたE-Ⅱ HORIZON FR7の仕様を、オリジナルの54年型フェンダー・ストラトキャスターと比較するとこうなる。

(写真はぼくのフジゲン製フェンダージャパンストラトとFR7)

ボディ形状:ストラト・FR7ともダブルカッタウェイ

マシンヘッド形状:ストラト・FR7とも片側一列

弦数:ストラト→6弦、FR7→7弦

弦長:ストラト→ロングスケール21フレット、FR7→ロングスケール24フレット

指板:ストラト→メイプル、FR7→エボニー

ネックジョイント:ストラト→ボルトオン、FR7→スルーセットネック

ボディトップ:ストラト→フラットトップ、FR7→アーチトップ

ピックアップ:ストラト→シングルコイル×3、FR7→EMG×2

トレモロ:ストラト→シンクロナイズド、FR7→フロイドローズ

コントロール:ストラト3way、ボリューム1、トーン2、FR7→3way、ボリューム1、トーン1

ボディ形状は、ストラトキャスターの美しいダブルカッタウェイとほぼ同サイズ同デザインである。

0フレットからブリッジまでの弦長=スケールは、ストラトと同じロングスケール(約648mm(25 1/2インチ)だが、ストラトが21フレットまでなのに対して、FR7のフレットは24まである。

FR7はメタルの重低音プレイに対応した7弦仕様。BABYMETALの楽曲のほとんどが7弦を使う。なお、HORIZONには当然ながら6弦仕様もあり、一時期LEDA神が使っていた。

ネックとボディを別々に加工し、ボルトで固定することで大量生産に向いているフェンダーに対して、FR7は、ギブソンなどと同じくネックとボディをはめこみ、接着剤で固定するという手間のかかるセットネックでなめらかに仕上げられているので、ハイフレットのプレイがしやすい。かつネックのジョイント部がボディエンドまで貫通しているスルーネック構造なので、弦の振動がボディの隅々まで伝わり、音がより長くサステインするようにできている。

ボディ表面も、ストラトが平面なのに対して、FR7はレスポールのように美しいアーチドトップになっていて、ネック、ボディにはバインディングが施されている。

ノイズを拾いがちなシングルコイル×3のストラトに対して、FR7は9V乾電池が必要なアクティブピックアップEMGで、大音量でもクリアである。

コントロールはシンプルだが、ボリュームはストラト同様、ブリッジに置いた右手の小指が届くところにある。ボリューム自体の動きもストラトよりはるかに滑らかである。

ストラトのシンクロナイズドトレモロは、バネによってブリッジごと動くしくみで、当時としては画期的な機構だったが、激しく使うと弦とナット、ブリッジがズレて、チューニングが狂う。そのため、弦のエンドピンを切ってブリッジ部分で固定し、さらにチューニングした状態でナット部分でも固定し、弦のズレを極力少なくするフロイドローズが考案された。

絶対ではないが、シンクロナイズドより狂いにくく、ザグリを深くとれば、アームダウンだけでなく、アップもできるため、EVHなどメタル・ギタリスト御用達となった。FR7は、HORIZONのフロイドローズ仕様の7弦という意味だ。

要するに、ストラトの弱点をすべて補い、メタル系のあらゆるテクニカルなプレイに対応しているのがHORIZON FR7なのである。

HORIZONに限らず、ESPのギターはジャーニーのニール・ショーンのダブル・ネックギターを皮切りに、ジョージ・リンチ(ドッケン)、ジェイムズ・ヘットフィールド、カーク・ハメット(以上メタリカ)、トム・アラヤ、ジェフ・ハンネマン(以上スレイヤー)、キコ・ルーレイロ(アングラ)といったメタル系プレイヤーをエンドーザーとした。

日本でもESPは高崎晃(LOUDNESS)、SUGIZO(Luna Sea、X-Japan)、Tetsuya(L'Arc〜en〜Ciel)、Syu(Galneryus)といったメタル系、ヴィジュアル系のプレイヤーに愛用された。

そして、LEDA(DELUHI・UNDIVIDE)、大村孝佳(C4)、藤岡幹大(TRICKBOX)、ISAO(Cube-Ray)といった神バンドのギタリストに使われ、シグネチャーモデルもできている。

ESPが凄いのは、ギター製造を他社OEMに頼らず、ギターを0から作れる職人=ルシアーやミュージシャンを育てるところから始め、なおかつ海外とシームレスな経営をしたことである。

1983年に各種学校として日本ギター製作学院(1年制)を設立。翌年には日本創作音学院(2年制)、翌々年には日本ピアノ調律師養成学院(1年制)を設立し、1987年に学校法人格を取得、3校を統合して、学校法人イーエスピー学園専門学校ESPミュージカルアカデミーとする。

同年、高品質のアッセンブリーギターで知られるアメリカのシェクター・ギター・リサーチを傘下に収めるとともに、1995年には米カリフォルニア州ロサンゼルス・ハリウッドにある州認定の音楽大学Musicians Institute(以下MI)の経営権を取得した。

これによって、ポール・ギルバート(Mr.Big)、フランク・ギャンバレ、ジェニファー・バトゥン(マイケルジャクソンのバックバンドの女性ギタリスト)、チャド・スミス(レッチリ)、ジョン・フルシアンテ(元レッチリ) 、レイ・ルジアー(KORNのドラマー)など錚々たるミュージシャンを卒業生に持つMIがESP傘下となり、専門学校ESPミュージカルアカデミーとは別に、MIのカリキュラムを日本で展開する分校として、東京、大阪、仙台、福岡にMIジャパンを展開した。

日本の専門学校=学校教育法上の専修学校は、英語ではCollegeもしくはInstituteだが、日本では大学とは違い、卒業と同時に「専門士」の資格が取れる職業学校である。

だが正規の学校として認可されるには、文科省及び都道府県のこまごまとした設置基準(土地建物が自前であること、校舎の広さや施設、専任教員の数、学科のカリキュラム基準等)をクリアしなければならず、外国の大学のカリキュラムや教授法を自由に適用することはできない。

ESP学園とは別に、法人格のないMIジャパンを展開したのは、「専門士」の資格より即戦力のプロミュージシャンを目指す人には、規制のない「塾」でいいと考えたからだろう。

なお、学校法人ESP学園の専門学校ESPミュージカルアカデミーは、2005年に開校した専門学校ESPエンタテインメント(大阪)と専門学校ESPパフォーマンスビレッジ(東京)と統合され、2018年4月から専門学校ESPエンタテインメント東京、同大阪となる。

ESP学園やMIジャパンの他にも多くの音楽系大学や専門学校があり、すでに大勢の日本人ギタールシアーや、体系的な音楽理論と技術を学んだ日本人ミュージシャンが巣立っている。

このように、楽器の世界では1980年代以降、現在に至るまで、日本人及び日本のメーカーは、すでに欧米の音楽業界で確固たる地位を占めている。これらのメーカーを頼りにしているアーティストが大勢いるのだ。

さらに70年代は海外留学しないとジャズ・ポップス系の音楽理論は学べなかったが、今や日本で最新の理論と演奏力を持つプロに教わることができるし、作編曲、プロデュース・マネージメント、レコーディングやPA、照明技術にいたるまで学ぶことができる。

電気製品や自動車など、製造業では日本は世界のトップクラスである。

音楽業界でも、楽器製造や音楽教育の面で、日本はすでに世界のトップクラスになっている。

アーティストや楽曲プロモーションだけが、アメリカの半分とはいえ世界第二位の市場規模に甘んじて、国内需要に特化し、「ガラパゴス化」していた。

いや、70年代にも「歌謡曲」の西城秀樹や沢田研二がヨーロッパでチャートインしたし、ピンクレディはアメリカ進出にチャレンジした。YMOがブレイクし、80年代には矢沢永吉がアメリカでアルバムをリリース、LOUDNESSとE.Z.Oがビルボード200にランクインした。90年代には松田聖子が全米デビューし、宇多田ヒカルがビルボード200にランクインした。日本人アーティストは、どの時代にも欧米市場へチャレンジしてきたのだ。

ファンは応援したが、国内メディアは、こうした「世界進出」には総じて冷淡だった。日本国内でのCDその他関連商品の売り上げや、テレビ視聴率に結びつかないなら、業界人には何のメリットもないからである。

世界進出する大物歌手より、バラエティ番組で愛嬌を振りまく、Kawaiくておバカで礼儀正しい「アイドル」の方がいい。

ロックバンドなら、音楽性はともかく、美形と奇矯な言動で視聴率を取れる日本語ロックのヴィジュアルバンドの方がいい。

歌と演奏は極力放送事故のないカラオケ口パクで。

スキャンダルがあっても、それはそれで視聴率が取れるし。

だがそれは、海外でも通用する卓越した音楽性、演奏・歌唱力のある日本人アーティスト、バンドを見たいというファンの要望ではなく、テレビ局の都合にすぎない。

その意味では、インターネットのFTTH化が進み、スマホが登場して日本のケータイが「ガラパゴス」であることが認知され、ファンが直接海外で活躍するアーティストの情報にアクセスできるようになった2010年以降に「Japanese Invasion」が本格化し、大規模ロックフェスやスタジアムライブに万単位のオーディエンスが集まるようになったのもうなずける。

要するに、メーカーもアーティストもファンも世界と地続きだったのに、日本のマスメディアと芸能界、業界人だけが、テレビの中に閉じこもっていたのだ。

そして今、テレビから解き放たれ、ボーダレスに「Japanese Invasion」の先頭を走っているのがBABYMETALである。

2014年11月のNYハマースタインボールルーム公演を見た評論家を驚愕させたのが、「バックバンドが恐ろしく上手い」ということだった。(ビルボード、ガーディアンなど)

実はこのとき、藤岡幹大は参加していない。ギターは大村孝佳、LEDA、ベースはBOH、ドラムス前田遊野というツアーメンバーだった。

だが、神バンドのギタリストはすべて、ロバート・フリップに始まり、ジェフ・ベック、アラン・ホールズワース、エディ・ヴァン・ヘイレンやメタル系の速弾きギタリストたち、そしてジョー・サトリアーニ、スティーヴ・ヴァイへと継承されてきた演奏技術と音楽理論を習得したテクニシャンである。その他のメンバーも、こうした歴史を踏まえたプレイヤーであり、その多くがMIや音楽学校の講師を務め、日本製の楽器を使っている。

これこそ、BABYMETALが、一方で「アイドルとメタルの融合」というサブカルチャー的コンセプト商品であるとともに、聴く者の心を激しく揺さぶり、世界につながるテクニカルな音楽としてのロック/ハードロック/プログレッシブロック/へヴィメタルの正統な継承者であることの証なのである。(つづく)