おそ松さん現象(2) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
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★今日のベビメタ

本日1月18日は、2014年、ニッポン放送主催Live Expo Tokyo 2014@国立代々木競技場体育館に出演した日DEATH。

 

若い世代は60年代後半の白黒テレビや、バブル期の状況を実体験したわけではない。

なぜ彼らがそこに親しみを感じるのだろうか。

一つの仮説を述べてみよう。

若い世代に歌謡曲をはじめ「昭和」が流行し始めるきっかけとなったのは、今から13年前、2005年封切の映画「ALWAYS三丁目の夕日」からではないか。

昭和33年(1958年)を舞台にしたこの映画が大ヒットしたことで、高度経済成長期のレトロなデザインの商品が見直され、リバイバルしたりした。だがこのころは、購買者の主力は子ども時代を懐かしむぼくら40代以上の大人たちだった。

不況の真っただ中だったから、駄菓子屋風居酒屋とか、レトロ家電とか、洋食とか、ラーメン博物館とか、70年代調ファッションとか、懐かしい「昭和」は心温まる感じがして、一定の顧客層を惹きつけたのだと思う。そして、自分の子ども時代のことを、子どもたちに語った。

ぼくにも覚えがあるが、幼い娘を、当時も残っていた地元の駄菓子屋へ連れて行ったりした。MOAが友だちと訪れた川越の駄菓子屋横丁や、日暮里の駄菓子問屋街へも行った。

当時はパソコンが家庭にも普及し、インターネットでホームページが閲覧できる環境にはなっていたが、まだ動画が見られるブロードバンドの普及率は低かった。

総務省の統計によれば、2002年のブロードバンド普及率はわずか29.6%で、2005年には65.0%だった。しかもADSLで、パソコンの性能も低く、遅かった。

信じがたいことだが、YouTubeの日本での視聴者が累計1000万人に達したと騒がれ、第11回ウェビー賞を受賞したのが2007年である。今では一本の動画で1000万回の視聴件数を超えるものが無数にある。

2010年、日本のブロードバンド普及率はようやく8割近くなる。さらに、同じブロードバンドでもDSLとFTTHの比率が逆転したのも2010年、スマートフォンやタブレットが普及するのも2010年からで、現在のように若い世代が、いつでもどこでも携帯端末でネット動画を見られる環境が生まれたのは、それ以降だ。

BABYMETALが結成された2010年は、その意味でもターニングポイントなのだ。

2011年の東日本大震災を経て、現在のようなネット動画環境が整ってきた頃、「ALWAYS三丁目の夕日」が封切られた当時に小中学生だった世代が学校を卒業し、社会に出てくる。

子どもの頃に、両親が懐かしそうに、まるで夢の時代だったかのように語っていた「昭和」が、社会人になってみると、至るところに残っていた。それが、カラオケで歌われる昭和歌謡曲であり、銭湯であり、純喫茶だった。

2009年に創刊された雑誌『昭和40年男』(クレスタパブリッシング、隔月刊)は、昭和の時代を彩ったアニメ「あしたのジョー」や、スーパーカーブーム、昭和の悪役レスラーなど、60年代~70年代のブームを再現する特集記事が売りだったが、創刊後数年で発行部数が伸び、2014年には公称12万部となった。

雑誌で特集されなくても、面白そうな「昭和」の事物は、調べようと思えばネットですぐに調べられるし、変な注釈抜きで、動画で疑似体験することもできる。そうして知った「昭和」は確かに味があり、キッチュで、Kawaiiものだった。

アーティストが、ネット時代にわざわざアナログLP盤としてリリースするのは、ターンテーブルのワウフラッターや、ピックアップのノイズの問題はあるにしても、原理上、音域帯がカットされているデジタル音源に対して、温かみや迫力や芸術性が感じられるメディアだからである。

しかし購買者の側が、ネットで聴けるにもかかわらず、わざわざLP盤を買って、ターンテーブルで聴くのは、オーディオマニア的心情からだけではない。チープな装置でもLP盤に価値を置くのは、「昭和」あるいは1960年代後半~1970年代の親世代の追体験がしたいためではないか。音質のさらに悪いカセットテープが売れているのは、こういう購買者の動機を裏付ける。

2013年には、2020年東京オリンピックの開催が決定した。

これは「ALWAYS三丁目の夕日」で描かれた1964年の東京オリンピックへ向かう時代状況にも似ているではないか。

2016年~2017年に「一発屋」としてブレイクした平野ノラやブルゾンちえみは、1986年~1991年のバブル期をカリカチュアしたギャグを持ちネタとしているが、それを笑うのは、バブル期を実体験したことのない若い世代である。

つまり、若い世代にとって「昭和」は、直接体験したわけではないが、親たちの世代から聞いた「まだ見ぬ夢の時代」あるいは「どこか懐かしい未来」なのではないか。

1966年~1967年に放送されていた赤塚不二夫原作の「おそ松くん」が、深夜アニメ「おそ松さん」(第1期2015年10月~2016年3月、第2期2017年10月~)としてリニューアルし、若い女性に大人気となっている現象も、同じところに根があるのだろう。

(つづく)