廣田あいかの「転校」(2) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ

本日9月10日は、過去BABYMETAL関連では、大きなイベントのなかった日DEATH。

 

以下は、ぼくのたんなる感想に過ぎないので、事実誤認や言い過ぎがあったらごめんなさい。

廣田あいかは、規格外のアイドルだった。

あの特異なアニメ声なのに、2013年8月8日に行われた「坂崎幸之助のお台場フォーク村」で見せた、ブルーノートを自在に操る歌唱力。

裏原宿のお店で購入するというユニークでカラフルなファッション。

料理をやらせても、写真を撮らせても、エビ中の中で右に出るものはおらず、「タモリ倶楽部」で見せる鉄道オタクとしての知識も相当なものである。

運試しでゲテモノ(アリの幼虫入りゼリー)に当たっても根性で食べるし、当意即妙なリアクションや受け答えもちゃんとできる。ライブにかける情熱やリーダーシップも抜群で、メンバーが互選する「頼りになるメンバー」のトップは廣田あいかだった。

エビ中の他のメンバーは、最年長の真山りかがちょっと内向的なアニメオタク、星名美怜は一人っ子のお嬢様タイプ、松野莉奈はモデルの仕事もあり大人っぽく見えるが感情の起伏が顔に出てしまうタイプ。

廣田と同学年の安本彩花はおっとりした内弁慶で、同じく歌のピッチと演技力に優れた柏木ひなたは「変顔」が得意な、箸が転げても笑ってしまうキャラクター。

最年少の小林歌穂は大柄な日本美人なのに子どもっぽさが抜けず、中山莉子にいたっては、キュウリと「鬼ごっこ」が大好きという天真爛漫さだった。そういう未成熟な子どもっぽさが「永遠の中学生」エビ中の魅力だった。

廣田あいかは、2010年の加入以来「ぁぃぁぃ」という愛称で、エビ中の顔だったが、ここ数年は自我が確立し、大人びてきて、転校を「何度も何度も」考えたというメッセージから察するに、子どもっぽく弾けまくる「設定」が苦しくなっていたのではないか。

スタダ制作の冠番組「エビ中グローバル化計画」、「エビ中++」では、他のメンバーに合わせて、才能の発露を抑え込んでいるようにさえ見えることがあった。

松野莉奈の早逝という事態に直面して「いつ、何が起きるかわからない」と思いつめ、7月の東京国際フォーラムでの号泣=浄化によって喪が明けたとき、私立恵比寿中学のフロントマンとしてずっと封印してきた自分の才能を思う存分発揮する「次のステップ」への渇望が生まれたのではないか。

だが問題はここからだ。

廣田あいかがやりたいことと、ファンが彼女に望むことがちゃんとマッチアップするかどうか。

「エビ中のぁぃぁぃ」を応援してきたファンは、「永遠の中学生」というコンセプトを、文字通り体現する中二病アイドル=廣田あいかだからこそ、推してきたのではないか。

プロのアーティストとして「設定」を生きるとは、「ホントの私はこうじゃない!」と思っても、ファンが望む限り、それを演じ続ける人生を選び取るということではないか。

自分が望んで始めたバンドなら、セルフイメージをもとにしたキャラクターを演じ続けることはさほど難しくないかもしれない。しかし、巨大な音楽産業に組み込まれて、独り歩きしたキャラクターを演じなければならなくなると、往々にしてそういう「ズレ」が生じ、苦しむアーティストも多い。

あまり深入りしたくないが、ニルヴァーナのカート・コバーンや、先日亡くなったリンキンパークのチェスター・ベニントンもその一例かもしれない。

廣田あいかが、スターダストの芸能三部3B Juniorに所属し、私立恵比寿中学に加入した経緯は、詳しくは知らない。だが、最新アルバム「エビクラシー」収録の「フォーエバー中坊」での廣田あいかの「♪エビ中やっててほんとによかったな、楽屋でアイドルちゃんとツーショット。ハイ!ハイ!」という歌声は、「永遠の中学生」というエビ中のコンセプトを、今こそ残されたメンバー全員で背負い、「設定」を生き続ける決意に満ちていると思った。

あれはたんなるぼくの思い込みだったのだろうか。

 

ぼくは24歳のとき、大学院に行って研究者になるのを諦め、大手学習塾の会社に入った。社長直属の開発担当だったのだが、入社の翌週、人手が足りないからと現場の教室運営に回った。バブルへ向かう頃で、教室には生徒があふれ、2000人教室の副室長だったぼくは、夏期講習会の前など、現金を段ボール箱に詰めて担ぎ、平気で学生講師たちと飲み歩いた。担当した中三生は500人で、翌年持ち上がりで、同じ敷地内にある高等部の責任者となってから、部下にも恵まれ、2年で高等部1000人の塾生が集まった。夕暮れの教室前は毎日Zeppみたいな感じだった。

だが、ぼくは「塾屋」で終わるのが嫌だった。それで結婚を機に、社長に直訴して、社内に進学情報センターなる部署を作り、PC98シリーズで合否情報データベースを組んだり、FAX一斉同報システムを使って、私学や他塾との情報共有ネットワークを作ったり、教育論を語るパソコン通信のサイトを立ち上げたりした。

上司とぶつかって、入社9年目に会社を辞め、自分の会社を立ち上げた。

私立学校の募集コンサルティングや中学新設、パンフレット制作、入試関連記事の執筆・講演、学校情報DBソフトの開発・販売、学校専業のHPレンタルサーバー、私立学校の経営者交代(M&A)なども手掛けた。ある程度落ち着いてからは、海外の学生を日本に留学させるしくみづくりや日本語学校の新設などもやった。

こうして、紆余曲折の仕事人生を送って来たが、今は、キャリアを始めた大手学習塾を創業した老社長のもとでコンソーシアムを立ち上げ、来春を目途に、新たなコンセプトの塾を開業しようとしている。

日本では、塾は学校とは違う。マスコミでは悪役の「受験産業」であり、高学歴なのに不安定で労働条件の悪い「夜の仕事」である。仕事の相手は子どもとお母さんであり、政治や経済や産業を動かす男子一生の仕事ではない。キャバクラに行っても全然モテない…。

こういう自虐イメージから、塾を見限る人は少なくない。かつての同僚や講師、パソ通で知り合った塾長の中には、学校の教員や事務職になった人もいるし、不動産会社や証券会社に就職したり、飲食店を始めた人、ライターで食いつないでいる人もいる。大儲けした地方塾の塾長の中には、経営不振の私学を買収して理事長に収まった人もいる。

それでも、友人の中には、大手学習塾に残って、未だに授業を担当している人もいるし、塾生が減っても細々と地方で個人塾を続けている人もいる。

ぼくは、「塾屋で終わる」のがいやで、自惚れの才能と人に恵まれる運だけを頼りに、25年間、何とか生き延びてはきたが、結局、大して成功しなかった。

だが、コツコツと塾をやってきた人たちには、大げさではなく数千人の「教え子」がいる。毎日毎日、目の前の子どもや親と向き合い、入試という日本の公教育制度の根幹に巣くう魔物と戦ってきた勲章である。

入試が終われば、子どももお母さんも塾など見向きもしない。お金をとって受験指導する胡散臭い人間を、「先生、先生」と呼ぶのは、その時だけの関係に過ぎない。それでも、入試という、誰も助けてくれない初めての関門に挑む不安な子どもの気持ちを励まし、必要な知識と情報を与え、問題を解けるように訓練し、怠け心を叱り、志望校合格を勝ち取らせる。

それはたとえ一時の関係であっても、お客さん=生徒と保護者にとって、なくてはならない専門職なのだ。

ぼくは、コンサルタントとして多くの塾を見てきたが、長続きする塾の先生というのは、まずは「塾という仕事」に使命感を持ち、スキルを磨き続けるガッツを持っている。

不動産オーナーや他業種からの脱サラ組が、「学生に任せればよい」「パソコンが先生」とかいうFCシステムの口車に乗って片手間に儲けようとすると間違いなく失敗する。

ずぶの素人でも、「塾の先生」であることに誇りを持ち、入試や、教えることに真摯に向き合えば、子どもや親や地域から信頼を得ることができ、仕事として継続し、ちゃんと生計を立てていけるようになる。

ぼくは最後の仕事として、これまでの経験と知識を全部ぶち込み、市場が必要とするであろう新しいコンセプトの学習塾ブランドをつくる。老社長のもとで、動けなくなるまで「塾屋」で行こうと思う。

自分を試すために旅に出るのもよし、自分に与えられた場でしっかり咲くのもよし。

人生は一度きり。後悔しても仕方ない。

 

学校≠塾

伝統文化≠サブカルチャー

レスリング≠プロレス

アーティスト(J-POP、メタル)≠アイドル

似て非なるジャンルとして、そんな図式が厳然として存在する中、BABYMETALは右辺にありながら、図式そのものをぶち壊すエネルギーに満ち、輝いている。

廣田あいかが「永遠の中学生」を辞め、自分のやりたいことにチャレンジし、アイドルからアーティストへと脱皮しようとするのを、ぼくは応援したい。きゃりーぱみゅぱみゅのようなファッション系不思議ちゃんキャラでいくのか、きのこ帝国の佐藤千亜妃のようなワンマン・バンドを作るのかまったくわからないが、いずれにしても希代の才能だけに、彼女の挑戦を見守っていこうと思う。

だが、その一方で、残る6人のメンバーが「永遠の中学生」というコンセプトを体現し、プロのアイドルとして生き抜いていこうとするなら、それも断固応援していきたい。

そのカギは、現在末っ子の小学生キャラ、中山莉子だと思う。

その存在感、奇才ぶりは、冠番組での数々の脱力系企画や、ライブになった時のスイッチの入り方で実証済みだが、畏怖するほど尊敬していた廣田あいかの不在で、大化けする予感がする。精神的支柱となる真山りかと星名美怜、安本彩花と小林歌穂の「師弟コンビ」、安定感抜群の才人・柏木ひなたと個性ぞろいのエビ中だが、天才・中山莉子は廣田あいかに代わって「永遠の中学生」のフロントマンになれる器だと思う。あくまで個人の感想だけど。

ちなみに、「吉澤嘉代子とうつくしい人たち」収録の「ねえ中学生feat.私立恵比寿中学」や、「エビクラシー」の「制服Funk」などで聴けるエビ中のコーラスは、アイドルグループとしては目を瞠るほどメンバーの声の音域バランスがよく、天下一品だったと思う。

それが聴けなくなるのは、とても寂しい。

(この項終わり)