ハイブリッド・アイドル(3) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ

本日8月20日は、2012年、Sug Live Battle@渋谷wwwに出演し、Sug、たむらぱんと対バンし、2015年には、APOCRYPHA The Red Mass-Ⅱ@渋谷TSUTAYA O-EASTが行われた日。そして、2017年、BABYMETALがサマーソニック2017@幕張ZOZOマリンスタジアムのMarine Stageにセカンドヘッドライナーとして出演する日DEATH。

 

昨日、8月19日サマーソニック2017大阪@舞洲特設会場Ocean StageにBABYMETALが出演。

今日ぼくも見るので、厳しい規制にも拘らずアップされたぺリスコをもとに簡単に記します。

「紙芝居」は久しぶりの日本語。

「フードコートの片隅で、キツネが夜空に弧を描いた夏。」から始まり、BABYMETALの6年間のサマソニの歩みが語られる。

そして決め台詞は「諸君、首の準備はできているか。」

観客の大歓声の中、「もう一度聞く。諸君、首の準備はできているか・・・。」

これだけで、じんわり涙がにじんでくる。

セットリストは以下の通り。SU-の煽りは全部英語。YUI、MOAは日本語だった。

1.BABYMETAL DEATH

2.ギミチョコ!!

3.メギツネ

4.神バンドインプロヴィゼイション~Catch Me If You Can

ここでもう一度日本語の「紙芝居」が入り、以下怒涛のラインナップ。

5.Road of Resistance

6.KARATE

7.ヘドバンギャー!!!

8.イジメ、ダメ、ゼッタイ

S、S、17かな。

ほぼ同時刻の18:30からはWOWOWで「アミュフェス幕張2017」が放送された。さくら学院の出番は19:25過ぎ。フェスのステージでは、間にもう1曲「負けるな!青春ヒザコゾウ」が入っていたが、オンエアされたのは

1.School Days

2.夢に向かって

の定番2曲。アミューズ所属の錚々たるアーティストと同じステージに上るということで、山出愛子がセンター、岡田愛が上手、岡崎百々子が下手という布陣の今年度の在校生全員、気合が入りまくっているのがよくわかったし、ダンスのメンバー間の間隔、手足の角度、キレ、シンクロ率が素晴らしい。生歌のピッチも完璧。あらためて“アミューズクオリティ”を感じるとともに、大舞台ほど力を出せる、天性のアーティストの素質を感じた。山出愛子が生徒会長に就任した時、「歴代最高のさくら学院にします」と宣言したのは伊達じゃなかったですねえ。

大トリのPerfumeは流石。1曲目「Tokyo Girl」から見入ってしまう。レーザーショーと一体化したパフォーマンスは、シンクロ率とかオートチューン批判とかをはるかに超越した芸術の域。これぞ日本代表。

2曲目の「Spending All my time」でさくら学院登場。中盤で、高学年の6人がPerfumeと並んで同じ振付で踊る場面は、見事にクオリティをキープしていましたね。

さくら学院退場後、Perfumeの「FLASH」から、煽りを入れたフィニッシュ曲「チョコレートディスコ」への流れは、BABYMETALの「KARATE」から「ギミチョコ!!」への流れを思わせる。ホントは逆だけど。

全出演者がカーテンコールで歌った「それを強さと呼びたい」で、さくら学院が「♪I wanna call it your strength You never loose」という英語のコーラスをやったのも、Love & Peaceな感じでよかったねえ。

色々言われてたけど、ここにBABYMETALとサザンが出てたら、収拾がつかなかったかもしれませんね。

 

「ハイブリッド・アイドル」のつづき。

日本出身のアイドルが欧米で受け入れられるには、どういう条件が必要なのか?

そして、日本出身のアイドルがビルボードのチャートをにぎわす時代とは、どんな時代なのか?

その答えは“ハイブリッド”である。

デンマーク王国の人口は570万人で、公用語はデンマーク語。スウェーデン王国の人口は990万人で公用語はスウェーデン語。ノルウェー王国は人口520万人で公用語はノルウェー語。フィンランド共和国は人口550万人で公用語はフィンランド語。

少し古いが2008年の北欧の国々の公用語と人口である。ぼくの古い友人に、これら北欧4か国の言語をマスターした方がいるのだが、それぞれフランス語とスペイン語、フィリピン語とインドネシア語くらいの違いがあるのだという。

彼からその話を聞いたのはもう20年も前になるが、日本人がこれらの言語を習得するのは非常に難しく、英語で書かれた文法書や辞書でないと勉強できない。また、勉強したからと言って、それらの言語で書かれた出版物は少なく、現地で生活しない限りあまりメリットもない。じゃあ、なんで勉強したのかというと、「他にやっている日本人がいないから」とのことだった。己への挑戦というか、アマノジャク的動機だったのだ。

これら人口が少なく、独自の言語を持っている国では、その言語で出版しても、購買者が少なすぎて採算が取れない。外国の出版物をいちいち翻訳することなくそのまま輸入した方が安く済む。その国の言語で出版されるのは、本当に生活に必要なものや文化的価値のあるもの、確実に売れる大ベストセラーに限られる。これらの国々では、書店にならぶ本の大半が英語もしくはロシア語のものだそうだ。だから国民は母語で生活するが、英語やロシア語もごく普通に読み書きできる。言語的なハイブリッド生活をしているのだ。

東南アジアに行くと、日本はこれだけ近代化し経済的に発展しているのだから、日本人は当然英語が話せるのだろう、ましてぼくのような、大学を卒業した「教育関係者」=先生なら英語の読み書きは完璧なのだろうと思われることが多い。

しかしそれは大きな誤解というものである。

ぼくが外国人と平気でコミュニケーションできるのは、たまたまそういう環境で育ったからであり、英語だって実にお恥ずかしいものである。

日本は、明治時代、近代化にあたって、西洋で用いられている言葉をすべて日本語に翻訳した。学習者には、西洋の言語を学ばせるのではなく、翻訳された内容を学ばせた。これによって、他言語習得の手間をかけず、哲学、人文科学、自然科学のあらゆる高度な内容を効率的に学ぶことができるようになった。英語の読み書きができなくても、大学を卒業できる。これが日本の教育のもうひとつの特徴で、英語を学んだからではなく、英語を学ぶ必要がなかったから、日本は近代化を急速に成し遂げられたのだともいえる。

他のアジア諸国ではこうはいかない。自然科学をはじめ、大学レベルの高度な学問を学ぼうとすれば、テキストは全部英語だから、母語のほかに英語ができないと勉強を続けられない。これは学習者にとって重い足かせになる。

例えばフィリピンは、公用語がフィリピノ語(ルソン島のタガログ語を標準語化したもの)と英語だが、そのほかにローカルな言語が70ほどある。オーストロネシア語系だが、方言ではなく、文法や単語が異なる言語である。

南部ミンダナオ島に生まれれば、家庭で話されているのはヴィサヤ語。テレビでは英語交じりのフィリピノ語が流れている。小学校へ行けば、算数と理科の教科書は英語、国語と社会はフィリピノ語で書かれているが、友達の中にはセブアノ語で話す子もいる。市役所で何か手続きすればその書式は英語。つまり、同じものを幾通りもの言語で表現できなければ生活できないのだ。加えて海外へ出稼ぎに行くOFWたちは、さらに日本語や中国語やインドネシア語やアラビア語を学ぶ。言葉を覚えるのが精いっぱいで、知識や語彙や概念そのものを増やすことまで、脳が追いつかない。

だから、日本に生まれ、日本語だけで生活できることはとても幸せなことなのである。今でも書店に行けばあらゆる本が日本語で読めるし、商品もすべて日本語で表記されている。

だが、日本の人口がこのまま減少していけば、それが難しくなる可能性がある。

国立社会保障・人口問題研究所の平成29年推計の日本の将来人口(中位推計)は、2015年の1億2709 万人に対して、2040年に1億1092万人、2053年には9924万人、2065年には8808万人になるという。

さらに、2100年まで追っていくと、国連の人口問題研究所の2010年の推計では、3500万人、内閣府の2014年推計では6400万人と推計しており、かなり差があるが、いずれにしても日本人=日本語話者人口が減っていくのは間違いない。

一方、アジア各国の言語話者数は、どんどん増えていく。

日本の人口が1億人を切る2050年ごろのアジア各言語の話者人口推計は、北京語(中国14億1000万人)、ウルドゥ語(インド中8000万人+パキスタン3億3500万人)、マレー語(インドネシア2億8800万人+マレーシア3900万人)、ヒンディ語(インド中3億2000万人)、ベンガル語(インド中2億8000万人)、フィリピン語(フィリピン1億4600万人)、ベトナム語(1億1100万人)などとなる。

今だって、日本人の人口よりこれらの話者の方が多いし、冒頭にあげた北欧4か国のような事態になることは考えにくいにしても、どんどん人口が減っていけば、日本語表記の出版物や商品の採算がとりにくくなるのは事実だ。

この統計から予測しうる一つのシナリオは、より多くの話者人口=市場を持つ言語、すなわち英語や中国語、ウルドゥ語、マレー語などで書かれた出版物や商品が書店やスーパーにあふれるようになり、学校ではそれらの言語を読み書きすることが必修化されるかもしれないということだ。

だが、いやいやそんなはずはないという反論もありうる。

2番目のシナリオは、日本の人口が減っても、日本の商品や文化が、今後もっともっとアジア~世界各国に広がり、日本語で書かれたものはおしゃれで高品質な世界商品となるから、そうした文化の発信地である日本ではあえて他言語で表記する必要はないというシナリオである。フランスやイタリア的な立ち位置ですね。BABYMETALを見ていると、それも可能かもしれないと思えてくるが、どうなんでしょうか?

3番目の予測は、急速に進化するIT技術によって、商品や出版物がすべてIT化され、語の壁がなくなるというシナリオ。

以前も書いたが、A.I.技術のシンギュラリティとは、人間以上の能力を持ったロボットが人間を支配する時代が来るということではない。人間がA.I.と融合するということだ。あらゆる場所にITが埋め込まれるようになり、書物はデジタル化され、商品には記号だけが記される。人間の脳に埋め込まれたチップによって、網膜に映る文字、耳小骨に響く言語はすべて母語に翻訳される。したがって、他言語を習得する必要はなくなり、人々は母語のままでコミュニケーションできるようになるというもの。いわば人間自体のハイブリッド化だ。

これもちょっと気持ち悪いなあ。

2050年といえば、SU-、YUI、MOAの三人が、今のMETALLICAくらいの年齢になるころだ。決して遠い遠い未来の話ではない。

ぼくとしてはこのころまでに“クールジャパン”が進んで、人口が減ってもフランス、イタリア的な立ち位置になるという2番目のシナリオがいいなあ。

その兆しとしては、今年初めて実施されるサマーソニック上海がある。サマソニを主催するクリエイティブマンの清水直樹社長は、WOWOWプラストのサマソニ特集の際、アジアのほとんどすべての国からサマソニの現地開催を打診するオファーがあることを明かした。これまでは断ってきたが、今年ついに上海で初めて実現する。しかもその際、上海側からBABYMETALに“日本のバンドとしてはありえない”ような高額のオファーがあったことも本当のようだ。

今年はBABYMETALの出演が見送られたが、いずれはMETALLICA同様、世界的なメタルバンドとしてアジアツアーやアジアの大規模ロックフェスにも出演していくのだろう。

日本語で歌いつつ、英語で煽りやMCをするBABYMETALという立ち位置は、今のところ有効である。

今後30年間、中国がアジア全土を飲み込む大帝国になることがなければ、アジア各国の言語話者人口がどれだけ増えようとも、英語がもっとも効率的な世界言語であり続けるのは間違いない。

したがって、BABYMETALや、それに続く海外仕様アイドルは、英語を公用語として、欧米と日本を行き来する芸能活動を行うことになるだろう。そしてやがては欧米に移住し、公的には英語を話し、欧米人のようにふるまいつつ、私的には日本人のアイデンティティを維持し、日本語で生活をするという二階建ての生活スタイルを持つ「世界移民」となる…。

これが、複数の異なるものを融合するハイブリッド・アイドルの究極の姿だということだ。

もちろん、そんなふうに世界や日本の姿が変わり、BABYMETALが海外に移住しても、ぼく自身も含めて、多くのファンは、仕事や家庭に縛られ、自由に海外に行けるわけもない。

アーティストは、その表現された楽曲や作品に芸術的価値があるが、アイドルは存在そのものの魅力を売る商品である。

素人同然のプロデューサーとメンバーが、手探りで独自の様式を模索し、大きく成長していったももクロの成長物語や、私立恵比寿中学の頑張りは、見ているこちらが励まされるところに大きな魅力がある。

「アイドルとメタルの融合」BABYETALの場合は、その舞台が海外市場であり、コンセプト自体にハイブリッド性が内在していた。

彼女たちの挑戦を見ることで、ぼくらファンは日本人であることの誇りをもらい、彼女たちの姿にインスパイアされつつ、日々を送っている。

だが、欧米のファンで、BABYMETALが、アーティストとは少し立ち位置の違う「親目線で成長を応援する」アイドルでもあるという本質に気づいている人は少ない。ドハマりしている人でも、日本語でKawaii女の子が歌う新しいメタルバンドのスタイル、あるいはJ-POPとメタルを融合させたアーティストであることは理解しているだろうが、存在の魅力にこそ価値があるのだ、というカラクリはほとんど意識していないだろう。

地方のお祭りだった阿波踊りが、いまや東京のど真ん中で夏の風物詩となったように、あるいはドイツ移民のハンバーガー(Hamburger)がアメリカ文化を代表するファストフードになっていったように、「世界移民」のハイブリッド・アイドルは、いつか「世界文化」になっていくかもしれない。もっといえば、ローマ帝国では辺境の地、ユダヤで発生したキリスト教は、やがて帝国全域に広がり、国教となった。

歴史は繰り返される。

日本のアイドルは、やがて世界を席巻していくのだ。

その意味で、これからのアイドルがハイブリッド性を意識することはとても重要で、ゆいちゃんの海外移住の夢は、正しいのである。

(この項、終わり)