ハイブリッド・アイドル(2) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ

本日8月19日は、2012年、サマーソニックソニ2012@幕張メッセSide-Show Messeに最年少で出演した日。そして、2017年、BABYMETALがサマーソニック2017@大阪舞洲特設会場Ocean Stageにセカンドヘッドライナーとして出演する日DEATH。

 

サマソニ2017のSonic Stageオープニングアクトに出演するPasscodeのメジャーデビューアルバム「Zenith」は、全12曲中2曲が全編英語で、そのほかの曲も歌詞の1/3~半分くらいが英語である。

歌の半分が、南菜生、高嶋楓、大上陽奈子の3人が交互に歌うオートチューン(ロボ声)、残りが今田夢菜(ゆな)によるグロウル(デス声)で歌われるので、英語の発音以前に、歌詞カードがなければ聴き取れない。

YouTubeにアップされている「Zenith」リリースインタビューの映像を見ると、全員大阪弁なので、そのギャップ感は半端ないが、以前紹介したように、iTunesではなぜか南米ホンジュラスで総合1位、タイ、台湾、シンガポールといったアジアの国々でロック部門2位を獲得している。

インタビューによると、現在はそれほどではないが、少し前までメンバー全員英語の勉強に燃えていたそうだ。やはりBABYMETAL同様、海外で勝負することを明確に目標に置いているグループなのである。

音楽ナタリーのインタビューhttp://natalie.mu/music/pp/passcode02によると、プロデューサーの平地孝次氏はメンバーとほぼ同年代の23歳で、事務所代表の法橋昂広氏や、楽曲制作、デザインに当たるスタッフは、平地氏が組んでいたバンドの元メンバーとのこと。若い。

大上陽奈子は加入の話があった際「これ、あってますか?」と疑念を持ったらしい。メジャーデビューするまでは衣装、小道具、MVも彼らの手作りで、代表曲「Club Kids Never Die」はもともとバンドの持ち歌だったという。

大手事務所とは縁遠い、手作りローカルアイドルだったのだ。

メンバーは平地プロデューサーにタメ口をきいている。この関係性は、秋元康とAKB/坂グループ、川上アキラとMCZ、藤井ユーイチ“校長”と私立恵比寿中学、KOBAMETALとBABYMETALの関係性とは全く異なる。

無名の若者たち+ローカルアイドルが、アイドル戦国時代からアイドルの海外進出という時代状況に徒手空拳で立ち向かっているのである。

「フォロワーの足音」へのMetametaさんのコメントで、ベビメタとは音楽性が違うというご指摘もいただいたが、これはぼくも同じように感じている。

正直ぼくのような古いHRファンは、ロックはまずギターミュージックだと思っているから、曲の骨格となるリフはもちろん、間奏部分のアドリブで前面に出てピロピロやり、そこへボーカルがハイトーンでシャウトしないと気分が出ない。

Passcodeは、バンドベースとはいえ、リフのメロディをシンセサイザーが弾き、ギターはリードをほとんど取らず、バッキングのコード弾きで音に厚みをつけるために使われるEDM/エレクトロニコア(ピコリーモ)のアレンジ。4つ打ちのドンツクドンツクのリズムだから、ギター&2ビートが基本のBEBYMETALとは相当肌合いが違う。

世代的にKOBAMETALのように80-90年代メタルへの屈折した“オマージュ”はなく、「アイドルとラウドロックの融合」なのだからしようがない。

ただ、「Zenith」1曲目「Maze of mind」、2曲目「Bite the Bullet」、6曲目「Trace」、10曲目「Insanity」といったあたりは、ギターリフが前面に出ていて、「あれ?このイントロ、シンコペじゃね?」とか「YAVA!のブレイクじゃね?」という瞬間がある。

曲中で頻繁に転調、転拍するのは「いいね!」や「ウ・キ・ウ・キ★ミッドナイト」も同様で、YouTuber’s Reactionで「1つの曲の中にいくつもの曲がある!」と驚いていた。

それもそのはず、BABYMETALも一部取り入れているNuメタルとは、ユーロビート、DJ、ラップ、ヒップホップなどをメタルにミックスしたもので、それを日本ではメタルと言いたくない気分から、ラウドロックと名づけた経緯があるのだから。

もうひとつBABYMETALとPasscodeの違いを挙げれば、英語歌詞の位置づけだろう。

BABYMETALは、サマソニ動画こそ英語だったが、実はご存知の通り「The One-Eng.ver.」「From Dusk Till Dawn」を除いて、全曲日本語である。

歌詞の中の英語は「♪ぱっつんぱっつん前髪ぱっつんCuty Style!」とか、「♪パーリナイッ」とか、「♪C!I!O!チョコレートチョコレート」とか、「♪あなたと私You and Me!」とか、日本語に紛れ込んだ日常語というか、KOBAMETALがイメージする女子高生用語の域を出ない。「C!I!O!」は「Check it out」(チェケラ)の略、「Put your Kitsune up!」はダイノジ大地がやる「Put your hands up」(プチョヘンザ)の応用で、チャラいヒップホップの言い方だというが、イギリス人には通じなかった。

したがって、BABYMETALは、アイドル文化だけでなく、日本語英語的な部分も含めて、日本のサブカルシーンを海外に輸出しているといえるのだが、Passcodeは運営陣が若いだけにそんな遊び心もなく、英語交じりの歌詞で、ストレートに現代社会の不安や、揺れ動く女子の破壊衝動や希望といった感情を訴えかけるシリアスさに特徴がある。考えようによってはBABYMETALよりよほど“Thrash”である。

例えば、1曲目「Maze of mind」では、

「♪(オートチューン)手探りで探した道標は今瓦礫に埋もれて全てが単純なら良いと思える非常な現状(グロウル)Hey, Life’s a maze got to check my way, see me getting lost in such a long maze, all day. No where to start to end this stray. Come and come, and going it to takes me」

てな具合。

派手で技巧的で無内容な末期HRやLAメタルに対して、ハードコア・パンクの影響を受けて、より単純な音楽性で、等身大の若者が社会への不満をストレートにぶつけていったのが、METALLICAを代表選手とするスラッシュメタルだった。

EDM/ピコリーモ/クラブシーンの色合いを強く持つラウド系アイドルPasscodeは、パンク、ハードコアの流れとはいえないが、アイドル全盛期にKawaiiことよりもシリアスな歌詞と激しい音楽性で勝負するという点で、“Thrash”といっていい。

ただ、海外進出を念頭に置いているとすれば、懸念されるのは、歌詞やグロウルのシリアスさが、シンセサウンドとオートチューン、機械のように踊る日本人アイドルという人工性にマッチするかどうかだ。

Perfumeやきゃりーぱみゅぱみゅは、未来としての日本=テクノオリエンタリズムの具象化とみられ、そのフューチャーアートっぽさが欧米人にウケた。

しかし、アメリカでは、T-ペイン、ブラック・アイド・ピーズ、カニエ・ウェストらヒップホップ系の黒人アーティストがオートチューンを使った楽曲でヒットを飛ばす一方、デス・キャブ・フォー・キューティーというロックバンドが、第51回グラミー賞授賞式の壇上でオートチューン使用に抗議するスピーチをし、ジェイ・Zは2009年に「オートチューンの死」という意味の楽曲「D.O.A. (Death of Autotune)」を発表したりして、「オートチューンは生身の人間が歌うことへの冒とくだ」と批判している。

つまり欧米では、シンセに乗って音声を加工するオートチューンは、YMO以来の日本人=ロボット=アンチヒューマンというイメージを想起させ、「本物の歌ではない」という風潮があるのだ。

BABYMETALが欧米人に受容されたのは、こういうイメージを排し、メタル美少女戦士というアニメヒロイン的な訴求をした上に、生演奏、生歌、生ダンスだったからだ。これがカラオケの骨バンドで、口パクだったら、いくらKawaiiメタルという触れ込みでも、誰も相手にしなかっただろう。

Passcodeも、メジャーデビュー後、新木場スタジオコーストでのライブ以降、生バンドを帯同している。その模様は、メジャー2ndシングル「Bite the Bullet」と、アルバム「Zenith」の初回限定版に付属しているDVDで見ることができるし、ダイジェストがYouTubeにアップされている。

それを見ると、BABYMETALの「CMIYC」のようにバンドがアドリブで前面に出ることはなく、ドラム、キーボード、ベース、ギターが、ひたすらBPMの速い楽曲とブラストビートを奏で続け、レーザー光が飛び交う薄暗いクラブのような雰囲気である。

パフォーマンス自体は、4人の女の子たちが統制のとれたダンスをしながら、アイドルらしく代わる代わる歌パートをとるのだが、それはオートチューンとグロウル。観客はときに「うりゃ!ホイ!」と合いの手を入れながら、クラウドサーフ、サークルモッシュを繰り返している。やはり相当ラウドだし、アイドルの域を超越した「なんじゃこりゃ?」感がある。

Passcodeという名前、未来人な衣装、ファンをハッカーと呼ぶ設定、オートチューンというフォーマットと、激しいライブ。

これが欧米の観客にもウケるかどうかは、正直わからない。Richardさんに新木場スタジオコーストのDVDを見せてみたが、ピンと来てない感じだった。20日のサマソニで見極めてみたいし、実は11月のTsutaya O-Eastの単独ライブのチケットも確保してある。

Passcodeのメジャー所属レーベルはユニヴァーサルで、すでに海外配信もされているから、欧米でのライブツアーは十分に射程距離に入っているだろう。メンバーの年齢も自由に動ける成人だから、すぐにでもBABYMETALに続いて欧米に衝撃を与えるジャパメタアイドルユニットになる可能性はあると思う。

 

話は違うが、私立恵比寿中学も、本格的な海外展開ではないにしろ、欧米ツアーを計画している気がする。

ずっとずっとエビ中を見てこられたmmrclvzさんのコメントを読んで、認識不足を痛感させられた。「バカみたいに遊ぶ」、「社会的な常識に縛られない創造性」、「自我を超えたあるがままの自分の肯定」、ぼくなりの解釈でいえば大人の中にある「中学生=思春期衝動」を解放するというエビ中のラディカルなコンセプトは、松野莉奈がいなくなる以前から、エビ中のメンバーは体現しており、今回のことで永遠の中坊という「設定」を生きる「社会的役割を演じる大人」になったのではないとのご意見には、前言を撤回して激しく同意したい。

ただ、いまいちそのコンセプトに乗り切れなかったぼくのようなアウト・オブ・ファミリーも、YouTubeにアップされた4月22日八王子オリンパスホールの「なないろ」ファンカムには涙してしまったし、車の中で「エビクラシー」の「フォーエバー中坊」を聴きながら嗚咽してしまったのは事実である。

なぜエビ中が海外進出するのではないかと思ったかというと、今年4月~5月にオンエアされたBSフジ「Star☆Vegas」#1~4で、彼女たちがラスベガスに行った映像を見て、彼女たちが一回り大きく成長し、新たな目標を見つけたのではないかと感じたからだ。

エビ中運営スタッフは、一段落ついた4月初旬、残された7人のメンバーを米国ネバダ州ラスベガスに連れていく。「エビ中++」で松野莉奈が切望していたハワイではなく、ラスベガス。

本場のショーを見せ、路上パフォーマーと交流させ、ラスベガスのショープロデューサーにも面会させ、一人ひとりオーディションよろしくア・カペラで歌わせる。そしてその都度メンバーに「感想」を語らせる。

こうして7人にエンターテイナーとしての新たな目標を自ら発見させたのだ。前へ進むために学びの機会を与える…この藤井ユーイチ“校長”はじめ運営陣のエビ中メンバーへの愛情に、ぼくはまず感動してしまった。

プロデューサーとアイドルユニットのメンバーの関係とはこういうものだろう。

そして最終日。ペデストリアンデッキのような場所で、デビュー曲「仮契約のシンデレラ」を披露させる。道行くラスベガスの人々は、少しだけ足を止めて聞き入るが、曲が終わるとすぐに立ち去ってしまう。

今年のエビ中がユニフォームにしている濃紺、長そでロングスカートのセーラー服は、見ようによっては喪服に見える。「仮契約…」は、ミュージカル仕立てのコミカルな曲だが、日本語は全然通じないし、せっかくのダンスもロングスカートに隠れて体の線が見えない。そして曲の最後には全員倒れてしまうという振付なので、聴衆もどう反応していいかわからなかったのだろう。

場所を変え、大通りの歩道で、もう一度路上ライブに挑戦。曲は「頑張ってる途中」。すると今度は曲の終了後に、観客が写真撮影を求めるなど、やや盛り上がった。

BABYMETALを見慣れてしまうと、アイドルの定番である細切れの歌唱パートや大人数のダンスについていくのが大変なのだが、エビ中の曲は、ロックンロールやファンクに相当するノリのいい楽曲が多く、メンバーの生歌、特に柏木ひなたと廣田あいかの歌はピッチが正確で、よく通る声質を持っている。ダンスはここ数年シンクロ率が高くなり、このラスベガス・ロケ以降はさらにキレが増したように思う。

スタダの先輩ももいろクローバーZは昨年、アメリカ横断ツアーを敢行した。

すでに横浜アリーナやSSAといった大会場を埋めてきた私立恵比寿中学だから、無理することはないかもしれないが、大人が方向性さえ示せば、魂に火がついた少女たちは信じられないほどのスピードで成長し、いくつもの関門を突破していくだろう。

人口が減少し、日本の市場が縮小していくのは目に見えている。特定階層や年齢層をターゲットにした小さなビジネスモデルは、局地的に成功するかもしれないが、マスを相手にした大きな市場を求めるなら、ハイクオリティなプロダクトを武器に海外へ進出していかざるを得ない。

こうして、ロックバンドだけでなく、アイドルも海外へ進出する時代が到来する。

BABYMETALはその先駆けであり、間違いなく後世から見て歴史的ターニングポイントとみなされる存在だと思う。

今後、日本出身のアイドルが欧米で受け入れられるには、どういう条件が必要なのか?

そして、日本出身のアイドルがビルボードのチャートをにぎわす時代とは、どんな時代なのか?